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刹那の見切り

「━━━【刹那の見切り】、というのを聞いたことありますか?」

「刹那の……見切り?」

神奈月から発せられたその単語。

絋人は初耳であり少しキョトンとした顔を浮かべてしまう。

その表情で神奈月は察したようで。

「……なるほど、カゲさんはそこまでは伝えてないのか」

「えっ?」

何か気になることを呟いたが神奈月は切り替えて続ける。

「さっき僕が言いましたよね?視覚に頼っている、と。達人の動きや魔力で強化された人間の動きは眼で見ようとしたら追い付きません。空気の流れや足音、魔力の動きなど複合的な要素を反射的に関知して身体が動くようにしないといけません。考えるだけではなく五感を全て活用することでその域に至れるでしょう」

言っている意味はよく理解できる。

だが理解から習得には隔絶した差がある。

そんな絋人を見かねた神奈月がさらに続ける。

「一度、リセットしましょう」

「リセット?」

「思い出してください。これはあくまでも模擬戦。絶対に僕が君を殺すことはあり得ないし、後遺症が残るようなダメージを与えるわけがありません。だから安心して何も考えず直感に頼って僕と対峙しなさい。それができたら君はさらに上のレベルに到達できます」

「……!分かりました」

そう言うと絋人は狐月を下ろし所謂構えというものを止めた。

そして再度深く息を吐き加速世界も解除する。

それを確認すると神奈月は正面から正中に木刀を振り下ろす。

絋人はそれを回避せず敢えてモロに受け止めた。

「……ッ!!」

そのまま神奈月は絋人に対して木刀を打ち続ける。

端から見れば行きすぎた指導、体罰のような映り方もするだろう。

実際客席からは困惑混じりのざわめきが出ている。

それは引率の東も同様。

(何を考えている月島。模擬戦で木刀を使用とはいえ相手は剣聖だぞ)

勿論全力で振るってはいない。

だがそれでも普通の騎士でも十分すぎるダメージは必至。

しかし絋人の眼は死んでいない。

今までとは別次元の何かを『視る』ように観察しているようだった。

先程神奈月に言われた五感を全て活用すると言うことは一朝一夕で理解し習得できるものではない。

故に絋人の考えとしてはこうだ。

(頭で理解できないなら、身体が━━本能が理解すればいい)

しばらく一方的に打たれ続けると言う構図が続く。


「月島のヤツ何を考えている?いくら模擬戦とは言え無茶が過ぎる」

「多分剣聖からアドバイスがあったみたいだけど……確かにあれだけ一方的に打たれるのは」

「流石に絋人も無策じゃないと思うわよ。……だから焔?そんな顔しない。あいつがそんな柔な人間だと思う?」

刀士達と違って焔だけはこの一方的な展開にある種ショックを受けて少し顔を俯かせていた。

その目元には僅かにだが光るものが溢れそうになっている。

そんな様子を心配し奏は慰めにはいる。

「……そんなこと、思わない」

「なら、ちゃんと応援する。それで帰ってきたら笑顔で出迎える。分かった?」

「う、うん……そうだね」

袖で目元を拭うとしっかりと絋人のことを見守る。


神奈月の攻撃を一方的に打たれ続けて数分。

当初は動作の起こりすら感知できずいいように攻撃をくらい続けていた。

しばらくすると、一つの変化が生じる。

(……?加速してないけど、追える?いや、これは……予測できている?)

突如として今まで全くと言って良いくらい追えていなかった神奈月の攻撃がどこかゆっくりに感じ始めた。

それは打たれていくなかで徐々に遅く感じれるようになった。

次はその太刀筋を追ってみる。

するとその一撃は絋人が思い描いた部分を通過した。

次の太刀もイメージ通りに通過する。

ならばとその通り道に刀を構える。

その結果として━━━神奈月の一撃を受け止めた。



━━━バァァァァァァァァンッ!!!


と、大きな衝突音が舞台から響く。

(ッ!思ったより早いですね)

神奈月は驚きつつも次々と太刀を振るう。

これまで全く反応できていなかったラッシュを仕掛けてみる。

フェイントも含めてちゃんと崩しにもかかる。

だが絋人はその全てを見切り、受け止めきって見せた。

その様子を見て神奈月は満足そうな顔を見せ手を止める。

そのまま木刀を下ろすと絋人に声をかける。

「素晴らしいですよ」

すると絋人は一瞬ハッとした表情を浮かべる。

「……ッ!?今の感覚は……?」

「━━━()()()()、良くできました。それが、【刹那の見切り】です」

「あの感覚が……」

「とは言え今のはまだまだ入り口にすぎない。【刹那の見切り】のその先が存在しますがそれはまた別の機会に。今はまず君がその領域に一つ足を踏み入れたことを称賛しましょう」

「ありがとうございます、剣聖」

そう言う絋人の狐月を握る手はカタカタと少し震えている。

「では今のを踏まえてあと3分程度打ち合いましょうか。忘れないうちに反復しそれでこの模擬戦は終わりです」

「分かりました、よろしくお願いします」

すると絋人は一瞬で先ほどの感覚に入る。

手の震えも一瞬で解消する。

(━━先程入ったばかりとはいえ、一度解除してから再没入までが早い)

そんなことを考えていると再び絋人から攻め出す。

特別な技は使っていないが先程までと比べて洗礼された剣で神奈月を攻撃する。

(さっきまでと違う。当てられるかは別として最低限動きが追える)

攻撃をしながら神奈月からの反撃にも反応は出来るようになり一方的な展開では無くなった。

だが、刹那の見切りが使えるようになったからと言っていきなり神奈月に勝てるわけじゃない。

依然として遥か格上である。

その上これは神奈月も習得済みの技術である。

ならば対処法もよく分かっているはずであり、ついさっき習得した絋人とでは解像度は異なる。

となればなにか一つオリジナルを混ぜる必要がある。

自分に使えて神奈月に使えないもの。

(……出来るか?いや、試すなら今しかない)

一つさらに覚悟を決めると、再び絋人の身体を群青の魔力が覆い出す。

その瞬間、神奈月は眼を見開くが遅かった。

意識の外側に離脱すると絋人が襲撃する。



━━━【加速世界】+【刹那の見切り】



これは世界最強である神奈月邦彦も習得しておらず、知らない技だ。

最初の比にならない精度と速度で神奈月を襲撃する。

縦横無尽のヒット&アウェイというスタンスは崩さず翻弄していく。

するとたった一撃だが、神奈月をかすめ彼の綺麗な金髪が数本宙を舞った。

「━━━ッ!?」

その瞬間神奈月の眼つきが変わった。

足を肩幅まで開きやや広目のスタンスを取る。

今までの余裕は少し無くなり神奈月は明確に敵意に近いものを絋人に向けていく。

(ッ!?この雰囲気、何か変わったぞ)

その変化を感知し更に集中を高める。

その予感は的中する。

神奈月からのカウンターの速度がこれまでより遥かに速くなっていた。

タイミング、位置、速度。

今までは言ってしまえば当たり障りのない場所を狙っていたが、ちゃんと実戦なら致命傷になる場所を選んできた。

明らかにギアを上げられたが、その事実は絋人を喜ばせる。

(俺を相手にちょっと本気になってくれてる!)

それに相乗するように絋人のパフォーマンス自体もグングンと上がっていく。

事実、ギアの上がった神奈月の動きに遅れること無くついていってる。

払うだけじゃなく突きなども用いてちゃんと絋人を倒そうと立ち回っている。



「━━━剣聖に攻撃を掠めた!?」

一瞬の出来事だったが刀士には絋人の一撃が神奈月を掠めて髪が数本散るのが見えた。

数分前とはまるで異なる光景に凛達も驚きなどが隠せない。

「凄い……剣聖の攻撃を防ぎ、攻撃も掠めギアの上がった攻撃も難なく凌いでいる」

「……いや、難なくと言うのは語弊があるな。剣聖の動きが月島のポテンシャルをどんどんと引き出している。ギリギリではあるがその中で月島はあり得ない速度で成長をしている」

「絋人って師匠がお父さんだけだったし彼より強い騎士って言うのが周りに居なかったのよ。だから異なる流派の異なる強者と戦うことで真綿のように経験値を吸収しているんでしょうね」

「的場、月島の父親ってそこまで強いのか?」

「そりゃ……そうでしょう。だってご両親元十二神将だから」

「「「「!?」」」」

4人は驚きの顔を見せる。

それを見て奏は察する。

「え、知らなかったの?」

「両親が元騎士としか。月島は隠していたのか?」

「あー、多分それは絋人の性格的に伝えなくて良い情報だと思って言わなかったのかも。騎士ってことが伝われば良いって思ったんじゃない?」

「……なるほどな。元十二神将の両親に鍛えられ、実戦経験も豊富。強くなるのも当然か」

「それにしてもあの成長速度は私も知らなかった。実際今の剣聖の出力が分からないけど、一見して互角に打ち合っているのはハッキリ言って異常だね」

5人の中では驚きを越えて畏怖の感情が一番強い。



絋人と神奈月の打ち合いは激しさを増していく。

(この精度でヒット&アウェイを継続できる胆力。とても学生のそれではない)

絋人の急成長を称賛しつつ攻防を繰り返す。

(さて、ならばどこまでついてこれますかね?)

その中でも神奈月は絋人がギリギリついてこれるラインを見極めて水準を上げていく。

それにしっかり応えるように絋人の動きは洗礼されていき徐々に課題を克服していく。

まず一つ分かりやすい所で言えば先に神奈月が指摘した軟打と強打でリズムや間が違うと言う点だがそこが明確に分かりにくくなってきていた。

それが故に神奈月は更なる注意を求められることになる。

いくら世界最強である【剣聖】神奈月邦彦と言えど、まともに絋人の攻撃でも受ければ十分ダメージになりうる。

(素晴らしい、これ程の勢いで成長し階段を登る者が今までいただろうか)

その感想は一人の騎士として、また指導をするものとして最高峰の喜びにすら感じていた。

この日何度目か口許を綻ばせると更に上げていく。

一方の絋人もどうように口許を綻ばせると上がっていくギアに食らいついていく。



当初は3分程度と神奈月も言っていたが、時間を忘れた二人はそこから10分程度打ち合いを演じる。

絋人の加速世界は10分間も連続使用は出来ないがそれを解除しても尚この次元の上がった打ち合いに応じることが出来ていた。

着実に自力が底上げされているのを感じながら尚、一矢報いるチャンスを伺う。

そして絋人も無策ではない。

(いくら魔力で強化されていても木刀は木刀。そろそろ限界だろ)

唯一チャンスがあるとすれば神奈月が持つその得物が壊れたその瞬間。

そこを狙うため絋人は木刀の同じ箇所を集中して強打を放っていた。

全打撃をそこに狙わないのは、神奈月に勘づかれにくくする為。

神奈月はと言うとその狙いには何となく察しはついていた。

だがあえてそのまま泳がせている。

理由として自身が施す魔力強化に自信があるのと、このスクランブルの中で狙いどおりの場所を的確に撃ち抜けるのか、というのを試すため。

現状で言えば絋人の攻撃は刹那の見切り以降精度が上がり的確に撃ち抜けていた。

そしてその瞬間は唐突に訪れる。

絋人は一撃強打を放つとそのまま敢えてヒット&アウェーを止めて鍔迫り合いに持ち込む。

「……この短時間でここまで登り詰めるとは、恐れ入りました」

「まだですよ。もうひとつ、頑張らせて貰います」

覚悟を宣言すると再び絋人は後方に距離を取る。

もう小細工はいらない。

ただひたすらに攻め続けた一点に向かい強い一撃を放つ。

絋人の一撃を神奈月は変わらず受け止める。

これまで以上の衝撃を木刀を通じて感じとる。

その時だった。


━━━……ミシ……と木刀から音がなる。

「!?」

思わず神奈月は驚いた表情を浮かべる。

そのまま絋人の一撃は木刀を粉砕しその刃が神奈月に差し迫った。

(━━貰った!!)

そのまま神奈月に一太刀を浴びせる━━ハズだった。


「━━お見事です、絋人くん」


絋人の攻撃より速く身を翻す神奈月。

その手にはこれまで持っていなかった日本刀型のデバイスが握られている。

「これは、ご褒美です。死なないでくださいね?」

神のごとく威光を孕んだ一太刀が逆に差し迫る。


━━━【神の太刀】


神奈月が最強たる所以である一撃だ。

確かに攻撃は受け止めたが威力を全く殺せず後方の壁に叩きつけられた。


ズドオオオオオンと凄まじい音が響いたところで神奈月は再度デバイスをしまう。

ゆっくり絋人の元に歩き手を差しのべる。

「以上です。お疲れ様でした絋人くん」

半分放心状態も神奈月の手を取り礼を告げる。

「あ、ありがとうございました」

すると客席の方からは拍手が響く。

それは神奈月の神の太刀を披露したこと、そしてそこまでを引き出した絋人に対しての称賛だ。



「凄いな月島のヤツ。まさか剣聖からデバイスを引き出させるとは。それに……最後の一撃はもしかして」

「うん、【神の太刀】だね」

「客席からも何が起きたか分からなかった。誰か見えたか?」

威光を孕んだ事もあり外野からも勿論まともに観察することは困難であった。

だがそんな中控え目に焔が手を挙げる。

「見えたってほどじゃないけど、剣聖の攻撃の瞬間は分かったかも」

「本当か火神!?」

「う、うん。私の見えた範囲では剣聖の攻撃は異質な魔力の強化があったと思う。それが【神の太刀】って言われる攻撃の仕組みのひとつだと思う。純粋に剣の腕も確かだからどこまで技術でどこまで能力なのかは分からないけどね?」

「焔って昔からそういう観察眼が鋭いのよ。で、結構良いところまで考察できてるから大筋は間違いじゃないと思うわ。ただ戦うのが嫌いだからそう言う技術とか知識とかは最低限しか習得してないのが勿体無いのよね」

「余計なことまで言わなくて良いよ奏ちゃん」

「火神、良かったらさっき言ったことを月島に伝えてくれ。きっとアイツの助けになる」

「……!うん、そうするね」



客席にいた面々は再度舞台に招集される。

まずは凛達から絋人に労いの言葉を掛ける。

「お疲れ様月島くん。途中ちょっと心配したんだからね」

「よく剣聖の攻撃をあれだけ受け続けたな。正直俺なら耐えられない」

「フィジカルには自信あるってのと剣聖がちゃんと死なない且つ成長に繋がるレベルで打ち込んでくれたお陰だな」

そう言う絋人の顔など見るとやはりと言うべきか青あざなども数ヶ所出来ている様子。

痛々しさすら感じる姿に焔は一瞬表情を陰らすが、奏との話を思いだし笑顔で声をかける。

「お疲れ様絋人くん。凄くカッコ良かったよ」

「ありがとう焔。何とか勝手に定めたデバイスを抜かせるって所までは行けたんだけどなぁ。流石に壁が厚すぎたと思うよ。最後も全く見えなかったし」

「それについてだが、火神が後で話があると言っていた」

「何か分かったのか?」

「分かったって言うのも烏滸がましいけど、後で伝えるね?」

焔にやや積極性が見られ出したことを後方から見守るチームお節介(小夜子&奏)はウンウンと頷く。



その後見学会は会議室での座学も行われつつがなく終了した。

何とも濃く長いようであっという間の時間であった。

特に絋人からすれば直に世界最強を肌で感じることが出来たこの上ない体験だったと言える。

送迎のバスを待つ間に絋人から焔に声をかける。

「焔、さっきの話帰ってから電話して聞いても良いか?多分もう時間ないし」

「で、電話!?……大丈夫だよ。待ってるね?」

「8時くらいに掛けたら差し支えないか?」

「絋人、良さそうなタイミング私から連絡するよ。乙女にはね、色々準備ってのがあるから」

「?まぁ分かった。奏から連絡貰え次第電話するしよろしくな」

「分かったよ。じゃあまたね?」

「うん、またな」

最後は短くやり取りし絋人は第三学園の方に戻っていった。

見送る焔の頭にポンと手を置き奏は満足そうな顔を見せる。

「まぁ焔にしては及第点じゃない?帰りのバスでどんな風に伝えるか一緒に考えてあげるよ」

「ありがとう奏ちゃん」


生徒がバスに乗り込む前に神奈月が出てきてメッセージを残す。

『皆さん本日はお疲れ様でした。今日見聞きした事は皆さんの糧となるでしょう。この内何名かは太陽剣舞祭を目指すと聞いています。毎年僕も注目している大会なのでそこで勇姿が見れることを期待しています』

「!?」

勇姿が見れることを、という発言のタイミングで神奈月は明らかに絋人の事を見ていた。

すぐに踵を返し表情は伺い知れぬ。

それに気付いた絋人は一瞬驚くも神奈月に期待されているという確信に至る。

まずはそろそろ始まる学内予選を勝ち上がらねば。

改めて絋人は決意を固める。

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