22 握手 -Awkward handshake-
「お、なんだ手慣れてるじゃないか〜。」
「ええ、皿洗いは得意なんです。」
蛇遣いは、助けてもらったお礼と、朝食をご馳走になったお礼を兼ねてキッチンで皿洗いをしていた。
隣では美雪が洗い上がった皿を拭き、
目の前のカウンター席では、制服から私服に着替えた梨人がキッチンを覗き込んでいた。
「梨人、体調不良って連絡しておいたから。大丈夫よ。」
高校へ欠席の連絡を終えた玄恵が、カウンターに戻ってきた。
「あ、ありがとう……。」
梨人は、仮病を使って欠席することに少し罪悪感を感じていた。
キッチンでは、蛇遣いと美雪の共同作業により着々と作業が進んでいく。
「あ、そういえば。」
食後のコーヒーを片手に玄恵が口を開いた。
「どうした?」
「──?」
キッチンの美雪と蛇遣いが手を止める。
「私、あなたの名前聞いてなかった。」
「あ、俺も知らない。」
「僕も。」
三人の視線が一気に蛇遣いへと集中した。
泡だらけの手元がおろつく。
(……どうするか)
本名を教えるか悩んでいる間にも、三人からは穴が空く程の視線を受けていた。
(まぁ、俺は外人で通用するよな?ボスは──どうにかするだろ。)
雑な判断の末、蛇遣いは泡だらけの手を横に下ろして姿勢を正した。
「あー、改めまして。俺は、コルク・シャロウィンっていいます。名前から分かる通り、ここの人間ではありません。仕事は……ここより離れた場所で酒場を営んでいます。」
(言いにくい……。)
蛇遣いの頭の中は、言っても大丈夫なこと、言ってはならないことでごちゃごちゃしていた。
うっかり「隠れ家で〜」「巡影で〜」などと口を滑らせたら──想像するだけで恐ろしい。
人間界で、上空都市・中空都市が認知されていないことくらい知っている。
次に予想される、「どこの国?」という質問に蛇遣いは内心、怯えていた。
(聞くな、どこの国だなんて、聞くなよ……?)
「え〜!すごい!よっちゃん、酒場だって!!」
「酒場かぁ、いいなあ。いつか連れて行ってもらおうか。」
「居酒屋みたいな感じかな?」
「いや、もっと洒落てるんじゃないか?」
蛇遣いの心配は外れ、酒が好きな玄恵と美雪は酒場の話で盛り上がっていた。
(とりあえず、上手く誤魔化せたみたいだな。)
安心した蛇遣いは残りの皿を片付けようと水道の蛇口に手をかけると、目の前の梨人と目が合った。
「──コルクさんっていうんだね。」
「さんはいらないって。コルクでいいよ。」
「じゃあ、コルク。これからよろしくね。」
梨人は、細い腕をキッチンの方へと伸ばした。
「ああ。梨人、よろしくな。」
カウンター越しに差し出された手を、蛇遣いは大きな両手で優しく包み込んだ。
巡影帝国では、表しきれない感謝や、歓迎の意を伝える際には、両手で相手の手を包み込むという作法が浸透していた。
礼儀に重きを置く点は、人間界も、空の上も同じであった。
「あ!わりぃ……。泡、つけちまった。」
蛇遣いから離された梨人の手は、食器用洗剤の泡で塗れていた。
「あは、大丈夫。手、洗ってくるね。」
梨人は洗面所へと駆けていった。
(あ〜……またやっちまった。)
蛇遣いには、気持ちが先走ってしまう癖があった。
悪気がなくとも、たまにこうして些細なミスをしてしまう。
梨人は笑ってくれてはいたが──。
嫌がらせのような挨拶をしてしまったかな、と蛇遣いは眉尻を下げ小さく反省していた。
その様子を見ていた、待夜夫妻。
不器用な彼の可愛さから、二人は笑いを堪えるのに必死だった。
ハンド鮭




