page 20 : プレゼンと色男マニア
──待夜家、食卓。
リビングで死んだように眠る男性一名とキッチンに立つ恵を除き、全員が席に着く。
上半身裸の状態で恵と紘に見つかってしまった蛇遣いはというと──
今度は借りた「NAZE-OREGA」Tシャツをしっかりと身につけ、キッチン前のカウンター席にちょこんと座っていた。
「今日は、これで良いかしら?」
恵は、朝食に簡単なものを用意した。
納豆、インスタント味噌汁、トマトジュースそれに、昨晩作り置いたゆで卵。
「充分だよ。さ、食べながら話そうか」
美雪は、全員にゆで卵を取り分けた。
「あなたも、一緒に食べながら話しましょう?」
不審者ではないと分かった途端、恵は先と比べて気持ち、蛇遣いに好意的だ。
「ああ……はい。ありがとうございます」
食卓には席が足りなかったため、蛇遣いはカウンター席にひとり腰掛け、こちらを振り返る。
丁寧にお礼を言うと、恵に向けてニコリと微笑んだ。
蛇遣いの笑顔を初めて見た、待夜家一同──
(ま、眩しい……)
(破壊力……)
(うん、悪くない)
一同の心は一瞬にして、笑顔の似合う蛇遣いに絆されてしまった。
──彼は、伊達に酒場を経営している訳ではない。
緊張気味とはいえ、蛇遣いにとって「もてなしスマイル」は、大の得意分野だった。
「いっただっきまーす!」
梨人にトマトジュースを注いでもらった紘は、蛇遣いのスマイルに目もくれず元気に手を合わせた。
「いただきます」
紘に続き、それぞれが食事前の挨拶を済ませ朝食に手をつけ始めた。
梨人が納豆を混ぜようとすると、向かい側の美雪が何やら目で合図を送っている。
(あ、そうだ。僕から話さなきゃ)
梨人は、箸を置くと真剣な面持ちになった。
「えっと……母さん。昨日の夜のことを話したいんだけど。いいかな」
恵は箸を置き、聞く姿勢に入る。
この家の中で、何も知らないのは恵と紘の、二人。
梨人とは10歳、歳の離れている紘──
彼女は、食事へ夢中になるともう、聞く耳を持たない。
コップいっぱいに注がれたトマトジュースを一瞬で飲み干し、おかわりしようとしたところを美雪に「飲み過ぎ」と注意されていた。
梨人が今、話すべき相手は──恵。
この場は、恵一人に対するプレゼンのようなものだった。
梨人は、順を追って丁寧に流れを説明していく。
もちろん──単位の違う金銭と、喋る蛇のことは省略で。
無事、助けた経緯を説明し終えた梨人は、美雪にバトンタッチした。
恵は「そうなのね」と相槌を打ちながら、真剣に話を聞いている。
カウンター席の蛇遣いも箸を止め、話に耳を傾けていた。
(なるほど……?俺とボスは路地裏で倒れていたところを、この子とおじさまに助けられたのか)
真剣に聞き耳を立てる蛇遣いの横に、紘がやってきた。
いつもなら食事中に席を立つなと注意しているところだが……美雪の話を遮りたくない梨人は、何も見なかったことにした。
「お、どした?」
蛇遣いは、紘に優しい笑顔を向ける。
風貌からは、想像がつかないが──どうやら気さくなタイプのようだ。
「これ、剥いて〜?」
紘が、ゆで卵を蛇遣いに差し出す。
「なんだ、剥けないのか?しょうがねえなぁ。」
キリッとした眉を上げながら、大きな手でテキパキと茶色い殻を剥いていく。
しょうがねえなと言った割には、満更でもなさそうだ。
彼は、頼られることに弱かった。
紘はというと──自分のために剥かれているゆで卵ではなく、蛇遣いに釘付けだった。
たまに目が合うと、蛇遣いはニッと口角を上げる。
紘は、とても嬉しそうだ。
(僕が居るのに、わざとあっちに行ったな。色男マニアめ……)
梨人は紘への皮肉を心に溢しながら、茶碗のご飯は溢さず口の中へとかきこんだ。




