第六話・優しい魔法と、カンナの再来。
——腹部にかかる圧力で目が覚めた。
ぼんやりと霞む視界の中、その影は僕に覆い被さってくる。 そこには敵意も悪意もなく、暖かくて、真っ白で、心地良ささえあった。
「モコ……」
柔らかい吐息が僕の耳元をくすぐる。
「サーン……?」
彼女は上半身を起こすと、僕の身体の上で上着を脱いだ。暗い部屋に侵入した月明かりが彼女の白く艶やかな肢体を浮かび上がらせる。
「まだ酔ってるの」
「私は酔ってなどいません」
透明感のある声というのだろうか。その明瞭で透き通った声音は、彼女が正気である事を認識させるのに充分過ぎるほど澄んでいた。
「まずいよサーン、服を着るんだ」
「私にここまでさせて……女に恥をかかせるおつもりですかっ」
「君が勝手にやっているんじゃないか」
彼女は握りしめた拳を僕の胸に落とし、その間に顔を埋めた。
滑らかな黒髪が顔にかかる。
甘美な芳香が鼻腔に届く。
「あの日から、片時もあなたの事を忘れた事はありません。あなたは私に……呪いをかけたのです」
こんな詩的な表現をするような女性だったかな。 魔法をかけられた、の方が良いのではないか。 でも魔法だと、本当に精神に干渉する魔法があるからあまりロマンチックじゃないかもな。
あ、脇腹に傷痕がある。あの日の迷宮でやられたのだろうか? まだ寝起きだから、なんだか脳みそがぬるま湯に浸かってるみたいだ。頭が冴えたら消してあげよう。
無駄な思考が脳内を駆け巡っていた。
この突飛な状況と「呪い」というワードから、僕は逃がれようとしてるんだな、とすぐに気付いた。
「私……私ね、本当は悔しかったの……。 あなたの魔法の才能が、羨ましくて羨ましくって仕方なかったの……。 わ、私……バカでっ、頑張っても、何も出来なくてっ、……だからっ……」
顔を両手で覆っている。
震える声。 喉をしゃくり上がらせて、懸命に声を絞り出してるみたいだった。
「もういいんだよサーン。 僕はイジメられていた事なんて……君のことだってすっかり忘れていたくらいなんだ」
僕はまた嘘をついた。
「今日だけでいいわ……。 もう二度とワガママは言わない……。 私にかけた呪いを解いて、モコ……」
彼女の頬を伝う涙が、突然降り出した雨みたいに、僕の胸を濡らしていた。
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ベッドの上のサーンは、昔とは比べ物にならないほど妖艶で美しかった。
呼吸を乱してぐったりしている彼女を見やる。脇腹の傷痕をそっと指でなぞり消し去ると、彼女は息を漏らし、全身をビクッと震わせた。
……左眼の奥が痛い。 その痛みを誤魔化すように強く瞼を閉じて、額に拳を打ち付ける。
しばらくして痛みが治まると僕は、隣で寝息を立てている彼女の顔をずっと眺めていた。
はっきり言って、彼女の本心はわからない。 何を考え、今までどんな暮らしをしてきたか。 それを証明するものなど、ここにはない。 僕たちは15年もの長い年月を、ほんの僅かな会話を踏み台にして、ひょい、と飛び越えただけだ。
また頭がぼうっとして、眠気が襲ってくる。 彼女の微かな息づかいが子守唄のように、僕を再び夢の中へ誘った。
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迷宮の入り口。
サーンに見守られながら。
フータと決闘をしている。
絶対に負ける訳にはいかない。
勝って、サーンを奪い去って。
世界中を旅して回るんだ。
いつか王都のギルドに入って。
沢山のお金を稼いで。
彼女に優雅な暮らしをさせてあげたい。
どんな魔法を放っても。
フータには当たらない。
腕に魔力を込めて殴る。
手応えはない。
まるで煙を相手にしているみたいだ。
——魔力が切れた。
朝日に照らされ目覚めると、そこにサーンの姿はなかった。 その後、朝食の配膳をしに来た彼女と顔を合わせた時に挨拶を交わしたが、すぐに顔を伏せてそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「レイラルド様、ジルギース様。 本当にありがとうございました。 お気をつけてお帰りくださいませ」
宿の主人と奥様、そしてサーンに見送られ、僕らは宿を後にする。
「なんだ暗い顔して。 昨晩はどうだったんだ? モコ」
隣を歩く相棒が、人差し指に止まった蝶々を愛でるように眺めている。
「……なにが?」
「サーンとよろしくやったんだろ?」
「……もしかして聞こえた?」
「いや。アイツなら行くだろうし、お前なら断れねぇと思っただけさ。 大方、『女に恥をかかせるのですかぁ!?』とでも言われたんだろ」
「言われたかな? そんな事」
「言われてたじゃねぇか」
「聞いてたんじゃないか」
蝶々がひらひらと身を翻して風に乗る。
「……まぁ最初だけな、気になっちまってよ。 しかし帰りはやけにアッサリしたもんだったなぁ。 随分おとなしかったじゃねぇか。 『私も連れてって』 なんて騒がなかったか?」
「そんなワガママは言わないよ」
「へぇ。 絶対に言い出すと思ったんだけどな」
僕は結局、サーンに真実を話さなかった。
昨晩……ずっと胸に秘めていたものを晒すのが、怖くて怖くて仕方なくなってしまったのだ。
とても醜く、胸の中で腐敗を続けていた薄汚いもの。それをサーンに見せる勇気が、僕にはなかった。
「モコ」
「……ん? 」
「お前は……この国を守って、何千、何万もの命を救った。その事についてどう思ってる」
「……もちろん、僕の誇りだよ」
「……今は前を向いたらどうだ。 引っかかってるもんがあるなら、そのままにしときゃいい。 それが外れるタイミングってのは必ず来るさ。 ……お前なら」
僕は、返事をしなかった。
街に着くまでの間、僕たちは王都へ戻ってからの仕事について話をした。
現在僕は、国内の魔法学校で優秀な成績を治めた魔導師達を王都に召集し、門下生として受け入れ、その指導に当たっている。
大戦が終わってからというもの、後進の育成が主だった仕事になっていた。
——魔法の技術。 僕が感覚で覚えた様々な魔法や、対人戦闘での立ち回りを言語、体系化し、噛み砕いて他人に教える。その難しさに頭を抱えながらも、非常に張り合いのある日々を過ごせていると思う。
今日も15時から、門下生に出した課題魔法の試験を見る事になっていた。
相棒はといえば、隣国で行われる式典に招待されているらしく、さっきから随分と上機嫌だ。
「どうして君を招待するんだろうね?」
「式典なんて建前さ。 今あちらさんの軍部で派閥争いが激化してる。 完全に内部分裂していて、過激派が内政にまで首を突っ込み始めたらしい。 俺の知恵と人脈を利用したい方お偉方が大勢いるのさ」
「忙しいね。 君はそういうゴタゴタに首を突っ込むのが本当に好きだな」
「本当に好きだとそういう話が向こうから寄ってくるんだよな。 ここまで生きてきて、それが良くわかった」
昨日カンナと出くわした市を抜け、街の中心部に入った。目当ての薬草とこの地方でしか採れない果実、山菜を購入し、その紙袋を相棒に預ける。
「片腕の俺に持たせるのかよ」
「君の片腕を空けておくより、僕の両腕が空いていた方が対応力が高い」
今日も大勢の人々で賑わっている。
昨日の酒場の一件で僕たちの噂が広まっていたら最悪だと思っていたが、どうやら大丈夫みたいだ。もちろんあの時の居合わせた人達には他言無用だと念を押しておいたので、そう簡単には漏れないとは思っていたけど。
「あー!! モコ、みーつっけたっ!」
大丈夫ではなかった。
前方で腰に手を当てて、仁王立ちしているのはカンナだ。 僕は紙袋で視界を遮られている相棒の身体を、強引に反転させる。
「あー! そこにいるのはもしかしてぇ! 王国最強のだいまど……」
一瞬で駆け寄ってカンナの口を塞ぐ。
路地裏に引きずり込んで、置いてあった木箱の上に座らせた。 彼女はニコニコしながら僕を見上げている。……なんて奴だ、咄嗟に魔法で吹っ飛ばしてしまう所だった。
「昨日は……本当にありがとうございましたっ。 足もこのとーり! 蘇った気分!」
相棒が「なんだってんだよ……!」とボヤきながら路地裏に入ってくる。
「あぁっ! やっぱりフータ様だったんだぁ! お久し振りですぅ!」
カンナに勢いよく抱きつかれた相棒は、キョトンとした表情を僕に向けた。
「……なんだ、昨日の見窄らしい女か? 今日は随分と小綺麗な格好をしてるな」
相棒はカンナの胸元を凝視していた。おそらく彼は、あの日のパーティメンバーだという事にまだ気付いていないのだろう。
「フータ様っ! お疲れでしょう? エールでも飲みたいのではっ?」
「俺はアルコールが嫌いだ。 思考がヌメッとするからな」
それを聞くと、彼女は突然笑い始めた。
相棒の、腕がない方の肩をバンバン叩いて「まったまたぁ〜」と、ただでさえ高い声を裏返す。
「実はですねぇ〜、私の彼が酒場を経営しておりましてぇ。 ……お二人に是非、使って頂きたいと! 貸切でございます! いかがでしょう!」
「あぁ、お前もしかして……魔法が下手糞だったあの女か」
「……フータ様ぁ、『あの女』はないんじゃないですかぁ? 昔の女に向かって! あ、もちろん忙しいでしょうし、無理にとは言いませんよぉ。 でもぉ、積もる話もあるじゃないですかぁ。 ね!モコ!」
僕はその提案に乗る事にした。 それを伝えると相棒は快く返事をしたけど、さっきからカンナの胸しか見ていない。 完全に彼女の巨乳に呑まれているようだ。
……僕としては、なにか運命じみたものを感じていた。 この僅かな一時でサーンとカンナに再会する……これは果たして偶然なのだろうか?
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そこはとても綺麗で小洒落た店だった。
通りに面する大窓にはカーテンが引かれている。ランタンがいくつか置かれていて、目に優しい照度だ。
カンナに紹介された男はとても驚いた様子で挨拶をしてくる。 僕と相棒は、彼と順番に握手を交わし、テーブル席に腰を下ろした。
「まさか……本当にお連れしてくるとは……驚いた。 カンナの虚言だと思っていました」
「その割には準備万端じゃねぇか」
相棒が笑いながらミルクとエールを要求すると、「はいっ、すぐにお持ちします」という声がカウンターから届く。
カンナが飲み物を運んできて僕らの前に置き、彼女も自分のエールを持って席に着いた。
「15年振りの再会にかんぱ〜い」
3人でグラスを合わせる。
「ねぇモコぉ、あんた本当に強かったんだねぇ。 あの時は悪魔かなんかに取り憑かれたんかと思ったよ」
「あ、あの時は……手荒い真似をして悪かった」
「ほんっとだよぉ! 帰るの大変だったんだからあの時ぃ! でもさぁ、なんであんなことしたの? モコ。 まさか本当に取り憑かれてたとか? 」
「え?」
相棒がゲラゲラと笑い始める。 カンナは呆気にとられていたが、彼女とサーンの、あの事件に対する認識のギャップが可笑しいのだろう。 僕はむしろ気が楽だった。
「あんなに楽しいパーティだったのにぃ。 あーあ。 私も連れてってくれれば今頃こんなクソ田舎でダラダラ過ごしてないのになぁ」
「カンナ。 君は今、サーンやリンコとは……?」
「え。 ぜーんぜん知らないよ。 元々仲良かった訳じゃないしねぇ……私たちフータ様の取り合いして楽しんでただけだもん。あの迷宮の帰りだって全く助け合いとかしなかったし…… ふふっ、ほんとウケる」
「おい、嘘だろ……? 僕は君たちが3人で帰る前提で……」
「モコのお情け魔法がなかったら確実にあそこで死んでたねぇ」
カンナの恋人が平らな皿に乗った薄切りの肉を運んで来た。肉よりも付け合わせの野菜の方が美味しそうだ。
「本当にカンナはお二人と仲が良いのですね……なんだか、失礼がないかとヒヤヒヤしてしまいますよ」
「ダンナ、こりゃなんの肉だ?」
相棒が食い気味に尋ねる。
「あ、えっと……あー……ピグミージラフの横隔膜を燻製にしたものですね。 特製のたれに付けると抜群ですよ」
「へぇ、初めて見るな。どこから仕入れるんだ? この辺で迷宮潜ってる奴らか?」
「えーっと……まぁそんなところですね。 自分は元冒険者なので自ら狩りにも行くんです、はい」
相棒が口に入れた肉をそのまま出して皿に戻したので、後頭部をひっぱたいた。
「クセが強いからミルクには合わないかも」と言ってカンナが摘む。
「話戻すけど……大体さぁ、私が目を覚ました時、既にリンちゃんは居なかったからね。サーンは訳のわかんない事をブツブツ言いながら号泣してて、私を無視してどんどん進んで行っちゃうし」
僕は唖然としてしまった。
あの日の迷宮で、彼女たちの帰路がそんな展開になっていたなんて。サーンの口ぶりからは全く想像がつかなかった事実だ。
「でもモコさぁ。 いくら私たちが嫌いだったとしても……あれは酷いよねぇ? フータ様に睡眠薬盛ってぇ、攫ってぇ、女の子3人迷宮に置き去りにして逃げちゃうんだもん。 ……同性愛者だったんだよね? モコちゃんは。 私たちがフータ様に抱かれてるの、悔しかった? 」
この人……多分、素で言っている。 悪意ゼロの無邪気な目が、様々な感情を超越して恐かった。 隣では相棒が下を向いて笑いを堪えているようだ。
「ねぇフータ様、モコ。 あの迷宮での置き去り事件やぁ、同性愛者って事は黙っててあげるからさ。 形だけでいいから私の事をお嫁さんにしてよ。私ね、王都で暮らしたいんだぁ」
カウンターにいる彼に聞こえないくらいの小さな声で、カンナがとんでもない提案をぶつけてきた。
「そんなんで脅してるつもりか? そんな事を吹聴すればお前は一瞬で投獄だ。 誰が片田舎の巨にゅ……バカ女の言うことを信じるって言うんだよ」
相棒は皿に乗っていた生野菜を手に取って、カンナの眼前で円を描くように回している。 彼女はタイミングを見計らってパクッと口に咥えると、手を使わずに口内へ引き込んだ。
「ですよねぇ〜……。 いいなぁ、英雄様ともなると、過去の罪はぜーんぶ無かったことに出来ちゃうんだねぇ」
こういう人は、無邪気に、無自覚に、芯を食ったセリフをぽろっと吐くものだ。
「そもそも時効だろ。 もう二度と言葉を発するなよ。 お前は乳に栄養が偏りすぎたんだ、もう手遅れさ」
「……あれぇ!? フータ様、ちょっと私に厳しくないです!?」
心に刺さった棘が痛かったが、2人はテンポよく言葉の応酬を続けていた。彼らは意外と相性がいいのかもしれない。カンナは僕やフータを恨んだりしている様子はなかった。旦那も良い人そうだし……今現在が幸せであることが、彼女をここまで朗らかにしているのだろうか。
「あれ? 食べ物持ってこないな……ん? ていうか、カウンターにいない! ちょっと見てきますね」
「カンナいいよ、もう行くから」
カンナはカウンターに入って行くと、奥にある扉を開けて中に入っていった。 僕と相棒のグラスも空になっていたので、手持ち無沙汰になる。
「カンナは……僕を同性愛者だと思ってたんだな」
「お前を虐めてた自覚もなければ追放にも触れず、ボコされた恨みも持ってない。 サイコパスの匂いが鼻先をくすぐってくるな」
ガシャン、と食器が割れる音がした。
男性の怒号とカンナであろう女性の声が響く。そして、カウンターの奥の扉が開かれた。
「お前ら本当に仲がいいんだな……動くなよ! 動いたらこの女を殺すからな」
さっきまで朗らかだった店主の男が、カンナの首元にナイフを突きつけていた。 少し間をおいて、後ろの扉から無骨な男達が雪崩れ込んでくる。見るからに血の気が多そうな顔ぶれだった。
「魔法を使うそぶりを少しでも見せたらこいつの首を掻っ捌く。こんな日が来るとは思わなかった……この馬鹿女を飼ってた甲斐があったよ……」
「それで全員か?」
相棒が軽い口調でそう訊ねると、男は「は?」と素っ頓狂な声を上げた。
「うーん、悪いが脅しになんかならねぇぞ。そんな事しても」
「えぇっ!? フータ様ぁ! そんな殺生なぁ! 」
カンナが絶叫する。
「英雄様が田舎で健気に生きている一般人を見殺しにするのか? まずは金を置いていけ! それと本題は……国王に要求がある。 お前らが進言すれば無視する訳にはいかないだろう、俺たちの要求を伝えるんだ」
「ふふっ」
「何がおかしいんだ!フータ=ジルギース!」
「本題は金の方なんじゃねぇの? ……まぁ要求は伝えてやるよ。どんな要求なんだよ? 」
「クアトールの国境で駄々をこねてる民兵の完全武力制圧だ! 今の王政はやり方がぬる過ぎる……! 甘っちょろいことを言っているからいつまでも平民の暮らしが良くならない!」
「おう、わかった。 国王のおっさんに伝えとくわ。 しかし世界最高峰の魔導師を相手にたった9人で脅しかけるたぁ見上げた根性だな」
『魔法を使うそぶりを見せたら殺す』
この脅し文句だけで、戦いを知らない者だとわかる。 見たところ彼の仲間は8名、中には腕に自信のある冒険者もいるだろう。
「“闇の王子と月の姫”」
「あぁ!? なんだって!? もう勝手に喋るなぁ!」
8名の頭上に黒い渦が出現する。
誰一人それに気付く者はいなかった。
全員が一斉に押し潰され、床に這いつくばる。
男たちの低い呻き声が聞こえた。
戦場で多勢を相手にする時、敵をふるいにかける為に使っていた重力魔法。
実力のある者は即座に気付き、負荷がかかる前に打ち消す。 機転を利かせて自らの魔法で相殺する者もいるし、強靭な肉体を持っていれば自力で立ち上がり、跳ね除けることも出来る。
その反応を見て敵の戦闘スタイルにある程度の予測を立てられるのも有効な点だ。
そして、彼らのように一定のレベルに達していない者だけが、成す術もなく重力に拘束されてしまう。
ノーモーション、ノータイムで発動出来るように付与効果を微調整した広範囲重力魔法。
「安心してほしいんだ。 ウチの王国騎士団は間違いなく世界最強で、だからこそ戦争を制した。 この王国は他所よりよっぽどバランスが取れていて、世の中はちゃんといい方向に向かってる。 でも、表に出ない色んな思惑が複雑に絡み合っているから、全てを紐解くにはとても時間がかかるんだ。 だから……」
「流石ですフータ様ぁ! 怖かったぁん!」
カンナは何もしてないフータに抱きついて大騒ぎしている。 その場にいる全員が怪訝な表情を浮かべた。
「俺は喋ってただけだ。 やったのはモコだよ」
「あ、そうなのです? まぁどっちでもいいですぅ! 」
少し気になる事があったので、相棒とイチャイチャしているカンナに先程の魔法をかけてみる。
頭上で魔法が発動した瞬間、彼女は魔法陣を展開して即座にそれを打ち消した。
「……あっやべっ! 消しちった!」