【03-05】聖女の道は果てしなく・・・・・近い
荘厳な神殿の入り口を潜った時、とっても不可思議な事が起こる。
その光景は、のちに『聖女降臨』という言葉で表されたほどだった。
なおこの『聖女降臨』は、(記録が残っている歴史の中で)今日この日まで一度もそういった事は起こった事がなく、神話の世界のみの話だったみたいだ。
・・・・・・世界中のどの記録を漁っても。
神話には、こう記されている。
神々の寵愛を一身に受けし少女。
世界が混沌に堕ちるその時代に、神々の意志を受けてこの世界に降臨する。
その少女は、神々の名代であり、神々に守護されし聖なる存在。
大地に暮らす人々は、この少女の事を聖女と称し、その存在を敬い、その存在に畏怖し、その存在を心の支えとして混沌なる存在に立ち向かう。
聖女なる存在は、神々の力をその身に有し、混沌と穢れにより疲弊した大地に住まう者たちの、精神に蔓延る穢れと混沌を祓う聖力を有する。
聖女顕現する時、大地を汚す混沌を祓う存在も同時にこの世に顕現する。
この者、聖なる神の力を有し、不浄なる穢れの根本を祓う力を有し、武でもって穢れと混沌を祓う存在なり。
この者、聖なる力を有する武を持つ存在なりて、勇者と称しその力でもって世界に平和と安寧をもたらす存在なり。
閑話休題。
私。ヒナタちゃん・ユウト君・ナツキ君の順で橋を渡り、最後にレイナさんが橋を渡った時、その不可思議な事・・・・というか、周辺が荘厳な風景に変化したのだ。
それは、たまたま門の近くにいた者すべてに目撃されており、これまた偶然なのか、レイナさんが1人で橋の中ほどまで進んだ(レイナさんの周囲、直径5mくらいの範囲には誰もいなかった)時に起こったモノだから言い訳のしようがない。
その変化に、最初に橋を渡った私たちも、当然後ろを振り向き・・・・・そして再び停止する。
数瞬後には再起動するが、何故か『レイナさんの行く道を塞いではダメ』だと直感で感じ、荘厳に聳える神殿と門との延長戦になる中心部分から退避し、橋の中央に向けて跪きたくなる衝動に駆られる。
時の声か神の声か何かは知らないが、そんな声に支えられて何とか跪く事はなかった。その代わり私たちは、その声に導かれるように、レイナさんを中心に護衛するかのように前後2人ずつに展開して歩き出す。
そんな声が聞こえないだろう他の面々は一様に、通路に向けて跪いている。中には、土下座までかましている人もいるが、この辺りは何かの耐性があるかどうかの違いなんだろうか?
それが、門から大聖堂?までの参道沿いすべてで、一種の花道に沿って続いていたのだから恐ろしい。
のちに、この光景に参加した人々が、口路揃えてこう言っていたのを何処かで聞いた。
『レイナさんの行く手を遮ってはならない。神に導かれ、神の隣に座ろうとするレイナさんの行く先を』
・・・・・・・と。
一番近くにいた私たちでさえもそう思ったのだ。見ず知らずの他人が、・・・・そう思い、そう何かに訴えかけられて、自らの意思とは関係なくそう実行したとしても、・・・・・何の不思議には思わない。
その『聖女降臨』とまで呼ばれるようになった変化は、周囲の人たちだけでは収まらなかった。
まずは行く先の花道を浄化するかのように、七色に光り輝く美しい鳥たちが十数羽舞い降りてきて、参道上を低空飛行していく。・・・・・七色の羽根を振りまきながら。
その羽根が参道上に舞い降りると、羽根は光を放ち深紅の絨毯へとその姿を変えていく。
深紅の絨毯を歩くレイナさんと、護衛するかのように囲んで歩く私たち4人にも、その変化は訪れていく。
神殿の門を潜った瞬間、街歩き用に購入し、今現在着用している皆お揃いのセーラー服(ただの布でできた防御力皆無なヤツ)が、いつの間にかドレスアーマーのような感じのセーラー服へと変わっていたのだ。
ちなみに基本デザインは、名古屋襟型の半袖セーラー服となっている。
真っ白な生地に黒い襟、深紅のスカーフを襟に通している。襟と袖口には、3本の白線が入っている。スカートは定番のプリーツスカートで、丈は膝下10㎝前後と少々長め。足元はとっても軽い鈍銀色のブーツ型の金属製の靴になっている。
真っ白な生地かと思っていたそれは、何かの金属糸で織られているらしく、光を反射して白くて鈍い光を周囲に振りまいている。金属でできている割に、とっても軽くできていたので最初は気づかなかったほどだ。
両腕にもまた、履いている金属製ブーツと同じ素材でできた肘まで覆うアームガードを填め、腰には豪華絢爛だけど実用的な長剣をさしている。
なお何故か全員真っ黒な長髪になっており、高い位置でポニテに結わえられ、その毛先は地面にすれるほどに長い。なお、結わえられている髪の毛には、豪華な飾り紐のある金属でできた髪留めになっている。
それにしても、何でセーラー服?
そして、なんで全員ポニテで、超が付くほどのロングヘアーなの?
そんな疑問が一瞬頭の中をよぎったが、すぐさま『君たちのそれは私の趣味だからね!ちなみに私は、技能と能力を司るウワハル神だよ!』というこの世界の神様の1柱から、ありがたいお言葉を頂いた。
・・・・・・そうなんだ。
・・・・これ。ウワハル神様の趣味なんだね。
そういえば、創造神ウブタマトコタチ神様の趣味が、『女の子と女装する男の娘を愛でる事』で、技能と能力を司る神であるウワハル神様の趣味が、『男女問わずにセーラー服を着用させる事』なんだ。何かこの世界の魔身神とは、とってもいいお友達になれそうな気がするよ。他の神々もきっと、特殊な趣味をこよなく愛しているんだろうね。
そんな事を考えていたら、神々から賛同のお言葉を頂いた。なお、『俺はまっとうな趣味を持っていて、特殊な趣味は趣味は持っていないからな。そんな所身持ちは女神だけだ!』という、一部の神々からのお言葉を頂いてもいるが・・・・・。
本当かどうかは、私にはわからない。何処かの神様にでもであったら、一度聞いてみようかと思っている。
ここまでのお話は、ほんの1秒ほどの間の出来事として記録しておく事にする。
神々の趣味は、今はどうでもいいとして。
ドレスアーマーのようなセーラー服を着こんだ私たち4人とは違い、中心にいるレイナさんは、透けるように薄い絹衣を幾重にも重ねた十二単みたいな服に変化している。
緋色の袴を履き、漆塗りの光沢あるとても高価な見た目の木靴を履いて深紅の絨毯が敷かれた参道上をゆっくりと歩いていく。薄い絹衣でできた十二単は、真っ白な生地に金糸と銀糸で複雑な刺繍刺されており、長いドレーンのように長い後ろ身頃は、深紅の絨毯上を引きずる事無く少し宙に浮いた状態で存在している。
複雑に結わえられた長髪は、色とりどりの宝玉で飾り付けられており、結わえられて少しは短くなっているにもかかわらず、その毛先はレイナさんの身長よりも1割程度長くなっている。そんな複雑に結わえられた髪の毛には、豪華な簪と一体化したティアラは燦然と輝いている。
そして何よりも、レイナさんを含めた私たち5人に手には、豪華な深紅の房が垂れ下がる巨大な扇子が、閉じた状態で両手でしっかりと握られている。
この扇子には、どういった柄が描かれているのは知らないが、きっととんでもないモノが描かれているんだと直感で感じ取っている。
それにしても・・・・・。
私たちの髪の毛って、こんなに長くなかったんだけどなあ~~~~。
一番長い髪の毛は私だったけど、それでも腰から膝の間だったし、ヒナタちゃんに至ってはショートヘアーで首よりも上だ。レイナさんは肩甲骨を少し超えたくらいの長さだったしね。最近神のをばしているユウト君とナツキ君は、やっと首が隠れるくらいまで長くなってきただけだった。
それが今の状態は、結っている髪の毛を解けば、全員が地面をする長さになってしまっている。
これが、この服装の時だけなのか、そうでない時もこうなのかは今ははっきりしないけど・・・・。後者だった場合は、髪の毛のお手入れ大変だな~~~~と思ってしまった。
なお、髪の毛を切るという選択肢は、私の中では存在していない。他の4人も、そんな事は考えていないだろうと思っている。
きっとこの服装になった際の髪型は、この髪型でこの長さで固定だろうし、たとえ切ったとしても、瞬間的にこの長さに伸びてしまうのだ。そうなると、髪の毛の長さが元に戻らなかった場合は、切るだけ無駄というモノである。どうせ全員、私くらいまで伸ばす予定だったしね。
そんな髪型・衣裳でもって、深紅の絨毯が敷かれた参道上をゆっくりと歩き、神殿内に繋がる大きな扉の前まで来る。
閉ざされていた扉は、誰の手も借りる事無く自動で開き、私たちを建物内へと誘っていく。
するとまた、不思議な光景が顕現していく。
開かれた扉の先は、真っ白な大理石でできた床が広がっているだけだったのが、先頭を歩くユウト君とナツキ君がその1歩を踏み入れた瞬間に、行先を指し示すかのように深紅の絨毯が敷かれていく。私たちは、その絨毯の上をゆっくりと歩いていくだけだ。
そしてそのまま、深紅の絨毯が敷かれていく先を目指し歩いていくと、神々の神像が祀られている祭壇の前まで進んでいった。当然、椅子に腰かけて神官の説法を聞いていた参拝者や、何かの説法をしていた神官すべてが、花道に向かい合って膝まづくか土下座をしている。
神々の姿を象った神像の前まで来た私たちは、頭の中に響いてくる神様の声に従い、粛々と何かの儀式を行っていく私たち5人。何の儀式をしているのかは理解できていないが、この状況下だときっとレイナさんを主としたとても重要な儀式なんだろうとあたりを付ける。
だって、どう考えても、レイナさんがこの儀式の主人公だよね?
そうして、神様の指示に従いながら、いろいろとやる事約30分。
最後にレイナさんを中心に、前後左右に展開した私たち4人。
5人全員そろって、手に持っていた扇子を平行にして頭の高さで掲げそのまま跪く。そして土下座をする感じで深くお辞儀をしてから立ち上がり、再び同じ動作をもう一度繰り返す。
その後は、レイナさんの周囲を時計回りに回りながら、神様に教えられて通りに神楽を舞う私達4人。私たち4人が、神楽を舞っていたのは20分ほどだ。その20分間の間、中心にいるレイナさんは、手に持る扇子を平行にして頭の高さで掲げ、そのままの状態で神像を背にして立っているのみだった。
神楽を舞い終えた私たち4人は、レイナさんに向いて跪き、閉じた扇子を平行にして頭の高さで掲げている。私たち4人に取り囲まれた形のレイナさんは、そのまま何事もなく1人で神楽を舞い始める。
レイナさんが神楽を舞う30分間ほどの間、私達4人の姿勢は跪いたままの姿勢となる。
ちなみに神楽を舞うための音楽は、何処からともなく聞こえてくるのがまた不思議なところである。
そして、私たち5人が神楽を舞い終えると、再び5人全員そろって、手に持っていた扇子を平行にして頭の高さで掲げそのまま跪く。そして土下座をする感じで深くお辞儀をしてから立ち上がり、再び同じ動作をもう一度繰り返す。
そして再び土下座姿勢をとった瞬間、次の様なありがたいお言葉が、ここにいる全員の耳に届いた。
『汝、レイナ=ハクホウインよ。
汝を我々神々の代弁者たる聖女に任命する。』
この瞬間レイナさんは、世界に認められし偉大なる『聖女様』に任命されたのだった。
なおこの光景は、神様の声に従って一生懸命儀式を行い、そして神楽を舞っていた私たち5人は知らなかったが、神殿に詰め掛けていた者全員の目にしっかりと焼き付けられていたのだ。実は、跪いたり土下座したりしていたのは、私たち5人が祭壇に上るまでの状況であり、それ以降は、私たちの一挙手一投足を見逃さないというばかりに、しっかりと儀式を見守る体勢になっていたのだ。
そしてこの光景は、『聖女降臨』という名のもとに、世界中へと拡散していく事になる。その知らせに一番混乱したのが、宗教国家『セント=へレンズ大聖国』である事は間違いのない事実であろう。
この国こそ、世界最大の宗教を牛耳り、神殿素騎士のトップであるのだから。そして最も、聖女と呼ばれる少女を欲している国家でもあるのだから。
そんな事なぞ露知らず。神殿において大それた事をしでかした私たちは、そのまま神殿関係者に拉致られて、お話し合いをする事になってしまったのだった。
今日は、帰れるのかな?
そんなどうでもいい事を考えながら・・・・・・。