【00-01】禁呪魔法
何処かにある、とある異世界『エンド=レキナス』。
その世界において、人族が暮らす大陸『サウザンド大陸』にある宗教国家『セント=へレンズ大聖国』にて、緊迫したとある会議が開かれていた。
「聖王、魔族の攻勢はまずます過激になり、つい先日、人族側の最前線の1つとなっていたメープリア王国王都が陥落し、その結果メープリア王国は滅亡しました。」
間者から送られてきた報告書を、緊迫の面持ちで読み上げる宰相閣下。
「そうか、とうとうサウザンド大陸最北端のメープリア王国が滅亡したか。これで、エルフ族・人族・ドワーフ族・獣人族すべての支配大陸に、魔族が進行してしまったのか・・・・・。」
聖王の呟きに、参加者は皆沈黙をして、自分の考えを必死で纏めようとする。なお、この会議では、どんな発言を行っても、それが国家のためになるのならば許されるという不文律が存在している。
ちなみにこの宗教国家『セント=へレンズ大聖国』は、人族が暮らすサウザンド大陸の中央部に聳える、標高3000mを超える『アソウ=ヘレナス火山』のカルデラの中に存在している。
火山といっても、前回の噴火からすでに100年ほど経過しており、新たな噴火の傾向は今のところ確認されていない。また周囲は、アソウ=ヘレナス火山の外輪山に囲まれた天然の要害で護られており、人族国家の中で最も攻められ難く、守りの強固な国家でもある。
なお、外輪山の峰を国境として、外側には10を超える国家に取り囲まれている。
「聖王、ここは1000年前に禁呪とされた”あの魔法”を、復活させてみたらどうでしょうか?」
会議に参加していた大臣の1人が、沈黙を破るようにこう提案する。
「あの魔法は、神々から止められているわけではないが、魔法発動は双方の世界に甚大な影響を及ぼすからな。・・・・慎重にならざるを得ん。
前回の発動時は、記録を見る限り、無作為に20ほどの国家が、国民のすべての命を引き換えに滅んだとおいう。対象となった世界については、どうなったかは判明しておらん。・・・・・その際、半分ほどの国家が魔族側だった事もあり、それ以降の戦争が楽になったという記録も存在しているがな。しかし、再び魔法を発動した際は、都合よくそういった状況を作れるのかは・・・・・、非常に望み薄な賭けになるがな。
枢機卿は、それでも、その無謀な賭けに出てみようと仰るのかな?」
先ほどの発言をした枢機卿に対し、宰相閣下がこう質問で返す。この意見に対し、賛成派と反対派に別れ会議が白熱していく。
会議は深夜を超え、幾度かの休憩を挟んだ後に、『決定は、この会議に参加している者が取る』という誓約を神の前で行ったうえで、全会一致で採決された。
会議から100日後。
いくつかの事前準備を終え、内輪山の頂上にある奥の院の大聖堂で、全会一致で議決された禁呪魔法『勇者パーティ召喚魔法』の発動が行われる事になった。
そう・・・・・・。
この世界の運命を、見ず知らずの異世界人に託すことになったのだ。
禁書が集められている聖国大図書館地下禁書庫から出された、この『勇者パーティ召喚魔法』だけに書かれている魔導書。
魔導書に書かれている事柄をすべて執り行うために、すでに50日以上がかかっている。
今日は、異界の門を開くのに都合のいい、『全天皆既日食』が起こる日でもある。なおこの『全天皆既日食』とは、この世界を回る4つの月が同時に日食を起こす日であり、天文学者の計算では、1200年に1度あるかどうかの日食である。なお、3つ同時の皆既日食が500年、2つ同時が200~300年周期である事も、現在の天文学での計算で判明している。なお、この現象の事を、『部分的全天皆既日食』と呼ばれている。
ちなみに、単体での日食自体(部分日食・皆既日食・金環日食を含む)は毎年起こっているが、徽宗周期が異なる4つ皆既日食は1200年に1度となるみたいだ。
なぜ、全天皆既日食の日に、勇者パーティ召喚魔法を発動させるのか。
それは、この日が世界中で一番魔力が満ち溢れている日であるからで、大規模魔法を発動させるのには都合がいい日でもあるのだ。文献から読み解き、専門家の意見を聞いた結果、1000年前のあの大惨事は、大規模魔法に使用する魔力を、強制的に集めるために起こった出来事であると結論付けられている。
双方ともに被害甚大なこの禁呪魔法を発動するにあたり、『なるべく被害を最小限に抑える』目的を達成するために選ばれた日が、今日『全天皆既日食』が起こる日だったのだ。
ちなみに、1000年前にこの魔法を発動して起こった大被害は、時の王がこの全天皆既日食もしくは、部分的全天皆既日食を利用しなかったために起こった出来事であると、現在の研究結果から証明されている。
周期的に全天皆既日食が期待できなかったが、部分的全天皆既日食を利用して被害を最小限に食い止める努力すらしなかったと、過去この魔法を発動した日付けまで遡って証明されたわけだ。
閑話休題。
山頂の大聖堂に集まる、聖王以下会議に参加した面々と、・・・・その家族一同。
時刻は日の出前。
全天皆既日食が始まった時間と同時に、勇者パーティを招く異界の門が開かれるように調節する。そのため、儀式の開始時刻が日の出となった為、参加者全員が昨日の内に山頂の大聖堂に集まっているのだ。
日の出とともに始まった儀式は、3時間後の全天皆既日食が起こった時間に、ちょうど重なるように儀式自体が終了し召喚魔法が発動された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ところ変わってここは、すべての正解を管理する神々が住まう神界。
「あれまあ、ボクの管理する世界が、勇者召喚魔法を使用しているわ。全天皆既日食を利用したみたいだから、前回の時よりも被害は少なくなりそうだけども・・・・・。」
「ほんとだわ。あの魔法は、双方にとって甚大な被害が出るから、すべての世界で、1000年前に禁呪にしたはずだけどね。それでも使わないといけないほどの何か・・・・。ああ。魔王復活による魔族の大侵攻かぁ~~~~。
本当に、他力本願はいけないよね。」
「そうだ、そうだ。」
そう言いながら、ウンウンと唸る『エンド=レキナス』を管理している世界神。その世界神につられ、その様子を観察する神々。
「使用した方の被害はどうでもいいとして、対象となった世界は・・・・。ああ、またあの世界のあの島国か。何でいつもいつも、同じところから召喚されるのかな?
世界の7不思議の1つだよ。本当に・・・・・。」
とうとう、神々の管理するすべての世界の7不思議に指定されてしまった召喚魔法である。
とある世界のとある島国。それも15~25歳までの若い世代を、なぜかいつも狙い撃ちする召喚魔法だ。神々すらも、もはやどうにもできないといった感じである。
「勇者云々はともかく・・・・、巻き込まれる連中が、ただ死に絶えていくのは忍びないね。ここはそうだね、勇者が召喚される世界に、一緒に飛ばしてしまおうか。」
「それはいい考えだが、あの世界は力がすべてだ。勇者パーティとして召喚される連中は、召喚魔法の恩恵で何かしらの力を貰えるが、巻き込まれた連中はそうではない。ここは我らが神々が加護を与えて潜在能力を底上げしてしまおう。」
「そうなると、死ぬ瞬間にかの世界に転移させてしまう方が都合がいいな。その過程で加護を与えてぜんざい能力を引き出してやろう。
そうした方が、与える力を馴染ませるのにも都合がいい。勇者連中は、巻き込む立場だからな。自己鍛錬で潜在能力を引き上げてもらうか。」
そんな話に落ち着いた神界。
そして、召喚魔法が発動し、とある学園を中心に、半径1㎞程が漆黒の闇に飲み込まれる。その瞬間、巻き込まれてしまった者たちを、一斉に『エンド=レキナス』に転移させ、加護を与えていく神々。
この時神々の予定では、適当な安全地帯へと転移させる予定だったが、魔法の術式に神々が介入した事で、予定地点から大幅にずれ、この世界全体の何処かに転移する事になってしまった。
しかし、そこは神々。
何とか暴走する術式を制御し、勇者パーティは召喚した国へ、巻き込まれた連中は、100人程度に固めて人族が支配している大陸各地へと転移させていく。
こうして、ここ『エンド=レキナス』において、新たな歴史の1ページが始まるのだった。