Ⅸ
大天使は、リューンの企業のオフィスにいた。
彼は、またもクールに背広を着こなし、他のビジネスマンに紛れ込れデスクに堂々と座っている。
彼は顔も上げず目はPCの数字を追う。
どこかに在るはずなのだ。資金の流れは、多分この企業のどこかにある。
だが、PC上では、なんらおかしなものは見当たらない。
「・・・」
上手く隠した様だ。
雇われのテロ集団が、○△地方で活動するためには大きな資金がいるはずだ。
リューン個人からの金の流れはなかった。
ならば、この企業もしくはグループ会社のどこから流れていると思われる。
出処を突き止め経済的な補給路をまず断つ。そこでの活動がデメリットになれば彼らの動きは制限され、さらには○△地方からの移動を余儀なくさせられるだろう。
「仕方がない。少々危険だが、今度は受け取る側から払う側へと遡って洗っていくか。」
大天使は、ジャケットを脱いでネクタイを緩めると、さっそうと出口へと向かった。
片翼のミカエルは、地上の報告をしに天界へと来ていた。
「やぁ!片翼くん。」
片翼のミカエルは、呼ばれて振り返ると泉の光で浄化し回復した天使だった。
「この前は、大変お世話になったね。君の勇敢な行動のおかげで、僕はこんなに元気になったよ。ありがとう!」
とても嬉しそうに両手を握って握手をした。
「元気になられて、何よりですね。」
片翼のミカエルもにっこりと微笑んだ。
言ってはなんだが、半分腐りかけたような姿からの回復なだけに、未だに自分の目が信じられない。
「あの泉の雫は素晴らしいね。本当に奇跡の様だ。聞いた所によると、地上を楽園に変える程の力を持っているとも言われているそうだよ。」
「地上を・・・楽園に?」
「そうだよ。数滴たらせば、枯れた草木も蘇り、汚染された空気も水も、この世のすべての病も無くなる程のすごい浄化作用があるそうだ。」
「あの泉の雫数滴で、そんな事ができるんですか?」
「あぁ、半分朽ちかけた僕を蘇らせた!あれだけの効果があるからね。気になって調べてみたんだ。」
「でも重要機密なんじゃないんですか?」
「その通りだよ!でもねー・・・・・・・・」
彼の話はまだまだ続く。
片翼のミカエルは、お口が少々軽く、そして長くなっている天使に戸惑いつつも、なぜ上官の四大天使達が手を出さないのか不思議でならなかった。
片翼のミカエルは、天のゲートへ来ていた。
地上を一心に見つめている。
「お前がここに来るなんて、珍しいな。」
ゲートキーパーは、片翼のミカエルに声をかけた。
「翼が・・・金色の翼が時々痛むんだ。」
視線の先には、マイクがいた。
ゲートキーパーは葉巻の煙を揺らめかせながら、片翼のミカエルの隣に立った。
「マイクは、ものすごく自分に失望している・・・。翼が教えてくれるんだ。」
「・・・・。で、お前は何を考えている?」
ふーっと煙を吐き出しながら、ゲートキーパーには大方のことは察しがついていた。
「この翼は、長く持たないかもしれない。」
「だから?」
「だから、僕は、ひ・・・ー」片翼のミカエルが言おうとした時だった。
「光の泉の雫はだめだぞ。」
先に、ゲートキーパーが言った。
鋭く片翼のミカエルを睨む。決意の顔で、片翼のミカエルはその睨みを受け止めた。
「出来る事があるのなら、全力でそれを成し得たいんだ。」
「聞かなかったか?人に対して使うなと。」
「・・・。聞いた。」
「じゃぁ、なぜ?」
「僕は片翼だ。誕生してマイクに翼をもらうまで、空を飛べなかった。天使なのにね。」
片翼のミカエルは、空を見上げた。
「毎日毎日天宮の床掃除ばかりしていた。その頃の僕はただの“役たたず”だった。なぜ僕がいるのか、その意味さえ解らない日々で、正直苦しかったよ。」
寂しげな顔は、怯えているようにも見えた。
「そうか?床の掃除だって立派な仕事だ。それにお前、片翼であることで他の天使より劣るとでも思ってたんじゃないだろうな?」
ゲートキーパーは、片翼のミカエルから目を離さずに言った。
「・・・。思ってた。マイクに会うまではね。」
片翼のミカエルの顔が優しくなった。
「他の天使はみな完璧だ。大抵の事は一人で出来る。僕の事等、理解は難しかっただろうね。
だが、マイクは、不完全ならー・・・足りないならは補い合えばいいと教えてくれたんだ。
寂しい時は慰めを、疲れた心には癒しを。人が人を想う心が奇跡を呼んだ。」
今度は、片翼のミカエルがゲートキーパーを見据えた。
「1滴とまでは言わない。数千倍に薄めてでもいい。この世界をちょっとでも幸せにしたいんだ!・・・・僕の・・・最後の恩返し・・・飛べなくなったら、何も出来なくなってしまうから。」
ゲートキーパーは何も言えなくなっていた。
片翼のミカエルの意志は固そうだ。
ゲートキーパーは大きなため息をつき、頭をボリボリ掻きながら言った。
「あー。俺に話したという事は、光の泉の雫を使おうとしない四大天使への挑戦状なのか?
どの道、光の泉への扉が開けば警報が鳴るけどな。」
片翼のミカエルは天を仰いで笑いながら言った。
「そうだな、それに神には、この心がバレてるんだから、隠してもしょうがないよ。」
だが、最後の言葉は真顔で言った。
「だから、神にジャッジを委ねるよ。」




