Ⅵ
紛争地域の民衆への祈りとお告げを任されたガブリエルにも疲労感が隠せなくなっていた。
「休憩をいれるか・・・。」
少し離れた場所に位置する山々の中腹に広がる草原がある。
ガブリエルは人の姿に変わると、ごろんと横になって空を見上げた。
ここはまだ戦闘区域になっておらず、何事も起こってないと錯覚させられそうな程、自然の鼓動しか聞こえない。
「・・・」
このラグーン国の指導者は、どうも国益を搾取しているらしい。
主な企業や工場は指導者の縁者が牛耳っている。
おかげで、貧富の差が拡大し貧しい者には教育も受けられずにいた。
指導者への怒りが、今回の開放運動につながっているのだろうか?
ガブリエルは目を閉じた。
「旅の人、起きて。」
羊飼いの少年に起こされてガブリエルは目を開けた。ここは?
「ねぇ、旅の人、こんなところに寝てたら泥棒に大事なものを盗まれちゃうよ?」
「あぁ。君が起こしてくれたのか。ありがとう・・・。」
どうやら、少しのつもりが、かなりうたた寝をしてしまったようで、もう日が暮れかけている。
「あぁ。喉が渇いたな・・・」
そう、ぼそりと呟くと、ガブリエルの前に水筒が差し出された。
「飲みなよ。喉渇いたんでしょ。」
少年はニコリと笑った。
「ありがとう。」
ガブリエルは一口水を飲んで、喉の渇きを潤した。
「君、名前はなんていうんだ?」
「僕の名はラサンだよ。」
「ラサン、助かった。貴重な水をありがとう。」
「どういたしまして。」
二人は互いに手を振ると、それぞれの方向へ歩き出した。
ガブリエルは思いがけず人の優しさに触れ、この国にも救いがあるなと思った。
その頃。
大天使は人へ姿を変えると、スーツを着こなし、とある企業の最高経営責任者が座る椅子に腰掛けて書類に目を通していた。
ノックと共に、秘書らしき女性がトレイにカップを載せて入ってきた。
「紅茶をお持ちいたしました。」
大天使は書類から目を離し、秘書にニッコリ微笑みながら
「ありがとう。」
と言った。
秘書は、その笑顔にドギマギした。退室しながら、
“あら?CEOは、こんなにイケメンで若かったかしら?”
等と思ったが、パタリと扉が締まるとそんな疑問は綺麗に忘れてしまった。
その様子にクスリと大天使は笑いながら、紅茶の入ったカップを手にし一口飲んで、クルリと椅子を回転させた。
目の前は、青空が広がっている。ここは地上56階。
「天にも届きそうだなぁ。」
ぼんやりとしている様に見えるが、実は頭の中はフル回転だ。その横顔はだんだん憂いを帯びてきた。
あちらこちらで情報を収集するうちに今回の紛争の事は、大まかだが全体が見えてきた。
この席に座る男の腹黒さには、どうしたものかと憤りを覚える。
この企業のCEOリューン・ゴラド代表。
○△地方で新たに採取できる事がわかった貴重な金属に目をつけた人物だ。
だが、政治的に言えば国交はなく、どちらかと言えば仲はよくない。
当然流通もない。だが○△地方で採れる貴重な金属は、莫大な儲けを産む。
幸いなことに、ラグーン国ではあの貴重な金属を採掘するだけの技術はない。
このリューンは、お預けの餌の前で、尾を振るだけではないのだ。
今国内に不安定な○△地方があるラグーン国に内乱を起こし、彼とパイプがつながった人物に新たに政局を作り変えてもらおうという魂胆だ。
当然、その道のプロを雇って民衆を煽っている。
表向きは、今の指導者の収賄で流す。実際、その通りであるし、あの指導者は私腹を肥やし過ぎた。
大天使も、今の指導者がいいとは思っていない。
だが、裏の事情を知ると民衆の流血は許せないのだ。
いつも弱い者から被害に遭う。
最初は、武装勢力それと彼らにそそのかされた一部の民衆対軍との衝突だった。
だが、ラグーン国の主な街では戦いが激化し奪略や無差別発砲、爆弾テロで民衆は恐怖の中にいる。
毎日、たくさんの血が流れ、大人も子供も何人も死んでいく。
さらにリューンが雇ったプロの組織は、子供たちを誘拐し兵士として使役する事態も起きていた。
「さて、どう解決策を練るかな・・・。」
肘掛に、肩肘をついて大天使は思案に暮れた。
カイは裏路地へ隠れると、そっと辺りを見渡した。
軍の拠点の斜め前の場所である。車の台数、見張りの数、周りの建物の下調べをしていた。
近いうちにここをやると、リーダーから聞かされ今は偵察中だ。
カイはまだ子供だ。だが、この仕事はずいぶん前からやっている。
もちろん、銃撃戦にも参加する。今までも容赦なく撃ち殺してきた。
大人も子供も男も女も関係なかった。
冷徹。残忍。どの言葉でも彼を表現するのでは生ぬるい気がした。
彼は一通り調べ終わると、闇を待ってアジトへ帰っていった。
後で修正するかもしれない第6話のお届けです。




