第76話 村から町へ
セディルナ村に魔獣ルーファスが来てから一か月が経過した。
「お前さ、完全に居着いてるじゃねーか」
「はい! アレファスさん! 温泉最高っす!」
「最高じゃねーよ。ったく。おい、レーシェ!」
レーシェは畑でシルヴァとハーブの手入れをしている。
声をかけると、ばつの悪そうな表情を浮かべていた。
「な、何よ」
「こいつらの姫だろ!」
「わ、私に言わないでよ」
レーシェは月の姫の生まれ変わりということが判明した。
もちろん、レーシェ自身に記憶はない。
ただ、容姿とその魂は月の姫そのものらしい。
「姫、トウモロコシを収穫しました」
「伐採した材木はどこに置けばいいですか?」
「私は魚を釣ってきました!」
そして、姫たるレーシェがいることで、セディルナ村に次々と魔獣が集まってきた。
ルーファスを含め、セディルナ村には四柱の新しい魔獣が滞在している。
◇◇◇
獅子のレオール 男 一千万歳
象のエレトゥス 男 六百万歳
狼のルーファス 男 五百万歳
雪豹のファンシア 女 三百万歳
◇◇◇
魔獣たちは人と変わらぬ姿をしている。
レオールは勇敢な騎士という風体で、エレトゥスは巨体を誇り、ファンシアはしなやかな体躯だ。
この三柱はとても真面目に働いている。
ふざけたルーファスとは大違いだった。
「アレファスちゃん。村を拡張しましょう」
畑に水を撒いているアクアスが、いつものように妖艶な笑みを浮かべていた。
「拡張?」
「狭くなってきたでしょう?」
「確かにな」
「もうこの際だから、レーシェちゃんたちも一緒に住んでもいいんじゃない?」
レーシェがチラチラと俺の様子をうかがっている。
俺としても別に追い出したいわけじゃない。
ただ、魔獣たちはレーシェを慕ってきているわけだから、レーシェを中心に国を作った方が魔獣たちにとっては幸せだと思っている。
俺はレーシェに視線を向けた。
「レーシェはどうしたいんだ?」
「私は……、できればここに住ませて欲しい……です」
「そうか。そうだな。魔竜たちがいいと言えばいいか」
結局、魔竜たちも異論はないということで、魔獣の居住が決まった。
もちろんレーシェたちが自分たちの国を作るのであれば、いつ出ていっても構わない。
「おい、レオール。魔獣ってもっといるのか?」
獅子の魔獣レオール。
身長はテラムより二回りも大きい。
「はい。世界各地におります」
レオールは、現在生存している魔獣の中で最高齢だそうだ。
魔獣は魔竜と違い、あまり交流しないという。
まあ兄弟である魔竜とは考え方が違うのだろう。
「他の魔獣たちがこの地に来る可能性もあるんだな」
「はい。魔獣同士交流することは少ないですが、姫がおりますので集まってくる可能性はあるかと思います」
「分かったよ。じゃあ、村に魔獣の区画を作るか」
「ありがとうございます」
俺は魔獣たちに対し、本格的に作業を教えた。
まずは建築からだ。
レオールは建築技術をすぐに会得した。
もう図面を引いている。
エレトゥスは見た目通り、力が尋常ではなかった。
大量の木材を容易に運搬するので、建築作業が捗るなんてものではない。
ファンシアは高所での移動が恐ろしく速い。
次々と屋根や壁を組み立てていく。
ルーファスは脳筋とでも言うのか、建築作業は苦手なようだが狩りは得意だ。
眷族どもと一緒に、森で大量の食材を調達してくる。
「なあ、テラム。ここは一応お前の領地だろ? 開拓していっていいのか?」
「うむ。我が領地は広大だし、これくらいなら全く構わんぞ。それに旨い飯が食えるからな。わははは」
セディルナ村は大きく発展していった。
村の中心に新しいレストラン兼集会場が建てられ、その周囲に温泉などの娯楽施設が並ぶ。
フェルムの工房などの工業地帯も整備され、資材や食材の巨大倉庫も建築した。
住宅地も新たに整備している。
俺とシルヴァ、レーシェとフェルム以外は、みんな一柱一軒だ。
家の外観はそれぞれが好きなようにデザインしている。
テラムの自宅だけ信じられないほどダサいのは言うまでもない。
農業地は当初の数十倍の規模だ。
俺が一人で開拓していた頃とは比較にならない。
野菜などの畑、米の水田、果樹園と多岐に渡る。
何よりアクアスとテラムのおかげで、地形を容易に変えられる。
アクアスは湖から川を通し、水路を張り巡らせていた。
さらにはマレムたちの権能で、小さな海も作っている。
俺は村を見渡した。
「こりゃもう村って規模じゃないな」
「そうね。ここまで大きくなるとは思わなかったわね。ふふふ」
俺の隣でシルヴァが美しい笑みを浮かべていた。
テラムが俺の肩に手を置く。
「おい、アレファス。ここを町にするぞ」
「町? セディルナ町ってことか?」
「うむ、そうだ。村から町へ発展だ。わははは」
テラムの言いたいことは分かる。
町と名乗っても何かが変わるわけではないが、気分的に大きくしたい。
「まあいいだろう。今日からセディルナ町だ」
「見ろ、シルヴァ! ここまで大きくなったぞ!」
「はい、テラム様。ついに町ですね。ふふふ」
俺とテラムとシルヴァで作り始めた小さな集落は、ついに町まで発展した。
***
「ここだね……」
「ったく、遠いんだよ」
俺が畑作業をしていると、突然二人の男子が姿を見せた。
十代半ばくらいの男子とはいえ、この地に来るということは人間ではない。
「ん? 魔獣か? おい、レオール! また新しい魔獣が来たぞ!」
「はい! すぐ行きます!」
建築作業中のレオールを呼ぶと駆け寄ってきた。
真面目な男だ。
「ア、アレファスさん。こちらの二柱は……」
「どうした?」
二人の男子を見た途端、レオールが額に脂汗を浮かべた。




