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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第一章

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第14話 魔人たちの狩り

 翌日の早朝、俺たちは狩りへ出発した。


 俺とテラムはいつもの服装だが、シルヴァは黒のローブで魔女らしい出で立ちだ。

 さらに杖も持っている。


「凄い杖だな」

「ええ、神樹から作った杖なのよ」

「神樹?」

「あの森で、最も古いと言われている木から作ったのよ。テラム様に許可をいただいて、少しだけ採らせていただいたの」


 杖はシルヴァの三つ編みのようにねじれており、先端には真紅の丸い石が埋め込まれている。

 老木なのだが、くすんだ銀色は神々しささえ感じるほどだ。


 杖を眺めていると、なぜかテラムが自慢げな表情を浮かべていた。


「その木は樹齢一万年だ」

「い、一万年だって?」

「私の影響で、木々の寿命も伸びるのだよ。わははは」

「本当にデタラメなやつだな。ったく……」


 テラムに呆れつつ、俺はシルヴァの杖を見つめた。

 一万年と言われると、その神々しさにも納得がいく。


「で、シルヴァは、魔法で狩りをするのか?」

「魔法を使った狩りは難しいのよ。周囲への影響が大きいから。それに、魔法によっては肉質に影響が出て、味が劣化してしまうわ」


 シルヴァが俺の肩に手を乗せた。


「だから、今日はあなたのサポートよ。狩りの腕を見せてね。ふふ」


 今日の俺は短弓を持ってきている。

 やはり狩りと言えば弓だろう。


 森に入りしばらく進むと、シルヴァが立ち止まった。


「黒牙猪よ。でもまだかなりの距離があるわ。近づきましょう」


 視力が良い俺でも、黒牙猪なんて見えない距離だ。

 この距離では気配すら感じない。


「よく見えるな」

「魔法で拡大してるもの」

「そんな魔法もあるのか。そりゃ便利だな。俺も魔法を使いたいよ。はは」


 もう少し近づいたところで、俺も認識できた。

 確かに黒牙猪だ。


「アレファス。黒牙猪は嗅覚が鋭いわ。近づきすぎると逃げるから注意してね」

「いや、この距離ならもういけるぞ」

「いけるって? 何が?」

「狩れるってことさ」

「え? 嘘でしょう? アレファスの弓は短弓よ。長弓でも無理な距離よ?」

「俺の弓は特別だからな」

「特別? ちょっと見せて?」


 シルヴァが俺の弓を手に取るが、すぐに落としてしまった。


「ごめんなさい!」

「いや、気にするな」


 俺は片手で拾い上げ、もう一度シルヴァに手渡した。

 今度は両腕で、弓をしっかりと持つシルヴァ。


「な、何よこれ。重いなんてものじゃないわ。弦も全く動かない。これ弓なの?」

「まあな。クレイモアを作ってくれた鍛冶師が、ついでにって特別な鋼で弓を作ってくれたんだ。俺は普通の弓だと折っちまうから」

「鋼の弓……。あのね。弓というのは重すぎると逆に威力が落ちるのよ。弓は軽くて、しなる素材じゃないとダメなのよ?」


 テラムが興味深そうに俺の弓を見つめている。

 その視線に気づいたシルヴァが、「どうぞ」と笑いながらテラムに弓を手渡した。


「こ、これは……。私でも引けないぞ?」


 魔人化のテラムでは引けないようだ。

 もちろん、魔竜の姿なら引けるだろう。

 いや、こんな弓なんて簡単に壊してしまうはずだ。


「コツがいるんだよ」

「コツ?」


 シルヴァが興味深そうに見つめているので、俺は弦を引いてみせた。


「ほらな?」

「す、凄い……。でもコツって何?」

「力だ」

「はい?」

「力いっぱい引くんだよ」


 シルヴァの美しい顔から、一切の表情が消えた。

 そして、肩をすくめる。


「はあ、真剣に聞いた私がバカだったわ」

「な、なんだよ!」

「力なんてコツとは言わないでしょう? これだから、はあ……」

「これだから? なんだってんだよ!」

「そういうのを脳筋っていうのよ」

「な、なんだと!」

「もっとスピードとかタイミングとか、コツさえ掴めば私でもできるかと思ったのに、力ですって?」


 呆れ返っているシルヴァに向かって言い返そうと言葉を考えていると、テラムが俺の肩を軽く触れた。


「おいおい、貴様たちが大声を上げるから黒牙猪が逃げたぞ?」

「ちっ」


 俺は走り去る黒牙猪に一瞬だけ身体を向け、即座に矢を射った。


「なっ!」


 テラムが声を上げたが、俺は無視してシルヴァを睨み返す。


「力もコツだろーが!」

「違うわよ。力なんてコツとは言わないわ」

「じゃあ何だよ!」

「言葉通りよ。力づくって言うの。もしくは無理やりとかバカ力っていうのかしら」


 シルヴァと言い合いしていると、テラムが両手を身体の前に出して、俺たちの間に割って入ってきた。


「き、君たち、そこら辺で。な? ほら、黒牙猪が狩れたぞ。この距離で凄いじゃないか」


 仲裁のつもりだろう。

 テラムが焦った表情で黒牙猪を指差す。


「立派な黒牙猪が狩れたんだ。喜ぼうじゃないか。わは、わははは」


 額から脂汗をかきながらも、無理やり笑い声を上げるテラムだった。


 ――


 俺たちは黒牙猪に近づいた。

 かなりの大物だ。

 俺の身長よりも遥かに大きい。

 体長は三メルテもある。


「ねえ、矢が貫通してるわよ……」

「そ、それはすまん。やりすぎた……」


 黒牙猪の胸部に穴が空いていた。


「あなたの弓だと、せっかくの素材が減ってしまうわね。これから弓での狩りは禁止よ」

「はあ? じゃあ、どうすんだよ!」

「石でも投げたらどう?」

「人間は道具を使うから人間なんだよ!」

「あなたは人間じゃないわ。魔人よ?」


 俺が昨日テラムに言った言葉を、シルヴァに言われてしまった。


「くっ……」


 俺はシルヴァに何も言い返せない。


「強すぎるのも困ったものね。いいわ、私が狩るわよ」


 俺の弓に呆れ返ったシルヴァは、自ら魔法で狩りをすると言い出した。


「おいおい、魔法を使うと味が落ちるんじゃないのか?」

「素材を減らしてしまうあなたの弓よりはマシよ」

「な、なんだと!」


 シルヴァが杖をかざすと、羽ばたく鳥が突然落下した。


「な、何をした?」

「鳥の周囲だけ真空にしたのよ。苦しませちゃうから、本当はあまり使いたくない魔法だけど……」

「し、真空って……。そんなの反則だろう。お前も……」

「何?」

「い、いや、なんでもないけど……」

「けど?」

「なんでもありません!」


 俺のことをとやかく言うが、シルヴァの魔法も大概だ。

 恐ろしいなんてものじゃない。

 やはりシルヴァは怒らせないようにしよう。


 結局この日は黒牙猪、大角鹿、巻角羊、大鴨、白斑雉を狩猟した。

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