わさ子と節約(高い確率で挫折)ついでに5連休
「ヒィッ」
わさ子は9月のカレンダーを見て小さく悲鳴を上げた。そこには謎の5連休が発生していた。
昔はなかった『シルバーウィーク』とかいうやつである。
わさ子は非正規雇用である。
休日が増えると勤務日が減る。
つまり、給料が減るのである。
慌てて日数を数えたところ、締日までの出勤日数は17日。いつもより3日分給料が減ることになる。
マイナスニ万円くらいか。
わさ子は考えた。いや、これは別に珍しいことではない。年末年始や5月の連休にも毎年起きることなのだ。連休があった次の月の給料は、安くなる。普通に暮らしてしまうと赤字になるのである。
「節約するぞ〜!」
わさ子は決意した。いつも同じ決意をしてあっという間に挫折することになるのだが、頭が悪いので、昔の失敗は全く覚えていなかった。
とりあえず使う金を減らさなくてはいけない。
減らせるとしたら食費だ。
わさ子は肉食である。貧乏なくせに「肉か魚を食べないと食事した気がしない」と言う。しかし、この物価高で食費は上がっているし、しかもこの連休による収入減である。
スーパーに行き、6個入りの卵と、小さな豆腐の3個パックを買った。両方買っても肉より安い。たまねぎも買った。
前にも同じことをして、結局食べずに賞味期限が切れて無駄にしたことがあったのだが、記憶力の悪いわさ子は覚えていないし、懲りてもいない。こんどこそ大丈夫だろうと思っている。
次の朝。
ベッドでだる〜く目を覚ましたわさ子。
今朝は豆腐で味噌汁を作る予定だった。しかし、
野菜切るの、めんどい。
肉が食べたい。
誘惑にさっそく負けた。冷凍庫からうどんと豚肉を取り出し、めんつゆで煮込んで朝ごはんにしてしまったのである。
やっぱり朝はタンパク質を摂らないとね。
どこかで聞きかじった健康情報を都合よく出しながら、めんつゆ味の豚肉をむさぼったのだった。
そして仕事に行き、その日の夕方。
節約のために、買い食いしないで帰ろう。
いつも引っかかるコンビニのホットスナックを避けるため、まっすぐ家に帰るわさ子。
こんどこそ豆腐と、卵を消費しなくては。
そう思っていた。家に帰るまでは。
また、うどんが食いたい。
肉も食いたい。
ホットスナックを回避した分、肉を求めるレベルが上がってしまったのだった。しばし悩んだ末、わさ子はまた冷凍庫からうどん(最後の1個)と豚肉(これも最後の1個)を取り出し、めんつゆで煮込んで、申し訳程度にわかめを足し、朝とはちょっと違ううどんを夕食にしたのだった。
次の日。
朝はめんどくさいので冷凍ピラフで間に合わせてしまったが、
「今日こそ豆腐と卵を消費するぞ!」
という意欲に燃えていた。朝のうちは。
低気圧の接近により、外はどんよりと暗い。帰りは雨になりそうだ。こういう日はさっさと帰ってこよう。
しかし、その日の夕方、わさ子がしたことは、近所のセブンイレブンで揚げ鶏を買うことだった。
昨日我慢して食べなかったから、反動が来たのだ。
いいもん。タンパク質がとれるから。
やわな自分に言い訳しながら揚げ鶏を食らい、テレビで全国の大雨情報を見て怖いなあと思いながら、さあ、夕食だ。豆腐の味噌汁を作るぞ。
しかし、めんどくさい。
わさ子は何かないかと戸棚をあさった。
チキンラーメンを発見してしまった。
しばしの逡巡ののち、わさ子はチキンラーメンを開封し、お湯を沸かし、卵を投入した。
部屋にあの独特の匂いが広がる。
うまい。やっぱチキンラーメンはうまい。
好きなものを堪能した後、今日も料理せず、豆腐を使わなかったことから目を背けるように、
卵を1個消費したからいいもん。
と自分に言い訳しながら眠ったのだった。
今の時点で、豆腐3個、卵5個、たまねぎが残っている……。
次の日は金曜日だった。金曜日は、わさ子は近所のスーパーに行くことに決めている。週末くらい好きなものを食べたいと思っているのだ。いっつも好きな肉ばっか食べてるくせに。
まず休憩コーナーに行き、紙コップでコーヒーが飲める自販機に行く。わさ子はこの自販機が大好きである。前にいたおじいちゃんが使い方知らなかったので教えてあげて、一日一善を果たしたと勝手に満足しながら自分のコーヒーを買う。
さっさと飲んでから売り場に行き、土日の朝のためのキウイ(最近安い)を買う。貧困のわさ子が買えるフルーツはキウイとバナナだけである。
それから、来週の朝用の冷凍ピラフをかごに入れる。今日の夕飯は魚がいいと思っていたが、もちろんわさ子は料理したくないので、お刺身コーナーに直行する。びんちょうまぐろが298円だ、買おう。
それから「野菜も食べなきゃね」とコールスローを手に取ってレジに行こうとしたその時、
今日はささみフライがある!
余計なことに気づいてしまった。このコーナーには、ささみフライがあるときとないときがある。見つけたら買おうと思っていたのだ。
わさ子は迷った。タンパク質としてはもうびんちょうまぐろがある。ここで肉を追加する必要はない。しかし、この出会いを見逃していいものか。
結局、わさ子は一番グラム数が少なくて安いささみフライをかごに入れた。そして、タンパク質と脂質過多な夕食を食べたのであった。
これじゃあ、節約になってないよ……。
さすがのわさ子も反省し、悲しく床についたのだった。今日も豆腐とたまねぎは手つかずのままだ。
次の日は土曜日だった。
いいかげん豆腐を使わなくては。
ちっちゃい使命感で目覚めたわさ子。冷蔵庫から豆腐と卵を取り出した。そして、戸棚をあさり、昔衝動買いして忘れていたオートミールと乾燥野菜を取り出した。オートミールを使うと、米より早く簡単におかゆができる。
まずオートミールを25グラム量る。料理苦手なくせに、昔お菓子作りにあこがれ(て挫折し)たせいで、キッチンスケールは持っているのである。
鍋に水を入れ、ほんだしと乾燥野菜を入れて煮立たせる。めんどくさいから箸で小さく切った豆腐を入れ、あったまったらオートミールを投入。なんとなく火が通ったら火を止めて、溶き卵を投入してよく混ぜる。
これで、わさ子風豆腐卵おかゆが出来上がった。
なんて健康に良さそうな朝ごはんだろう。卵と豆腐で栄養が取れる。野菜も(乾燥だけど)入っているし、オートミールで食物繊維も取れる。
しかし、味が薄い。
もっと塩とかなんか、入れるべきだったか。
味気ない自作おかゆを平らげて、栄養は取れたはずなのになにか物足りなさを感じるわさ子。
わかっている。足りないものは。
肉と脂だ。
あのこってりした旨味に慣れすぎたのだ。
たぶんお惣菜とかホットスナックで。
少しだけ日頃の行いを反省するわさ子。
しかし、それで行いを正すかというと、そうでもないのもわさ子である。
「土曜日だから出かけなきゃね」
と、よくわからない理由で外出した。といっても、わさ子は貧困なので休日に使えるお金などない。
リサイクルショップに向かい、アクセサリーや服を見て回った。
ユニクロのシャツがあった。
しかも、わさ子サイズ(大きめ)である!
中古でサイズが合うものが見つかるのは珍しい。そして、貧困すぎるわさ子にとっては、ユニクロもGUも高価である。普通にはなかなか買えない。
値段を見ると、500円だった。
これはいい。わさ子はニヤけながらレジに直行した。会社にも着ていけるシンプルな襟付きシャツを格安で手に入れることができた。今日は運がいい。
帰りにドラッグストアの自販機コーナーで休憩した。何度でも言うが、わさ子は紙コップで飲める自販機に弱い。
帰りに昼ごはんの唐揚げを買って、大好きな肉と油を確保。割引シールが貼ってある蒸しパンもかごに入れて3時のおやつも確保した。
たまねぎを消費せねば……。
と思いながら歩いていたわさ子の目に、餃子の皮とひき肉が飛び込んできた。
そうだ!あれを作ろう。
両方かごに入れ、急いでレジに向かった。
家に帰ったわさ子は、まず、古いファイルから、
「ペリメニ」
と書かれたレシピを取り出した。これはわさ子が20代の頃に雑誌から切り抜いたレシピで、ロシア風の水餃子である。たしか加藤登紀子さんの記事にあったものだと思うが、わさ子の乏しい記憶力では確かなことは言えない。中のあんにたまねぎとひき肉、塩コショウしか使わないのでシンプルで作りやすかったのである。本当は皮も小麦粉から作るのだが、ズボラなわさ子はいつも餃子の皮で間に合わせている。
たまねぎ半分をみじん切りし、ひき肉200グラムと混ぜ合わせ、塩コショウしてよく練り混ぜる。お好みでショウガなどを入れてもいいかもしれない。
それを餃子の皮で包む。わさ子は料理が嫌いだが、なぜか餃子を包むのは好きである。たぶん単調作業だからであろう。
30個できたので、10個は今日食べて、残りは10個ずつジップロックに入れて冷凍しておく。これで、平日2日分の夕飯が確保できた。餃子は節約メニューなのである。「自分で作らなくても、出来合いの買ったほうが安くない?」と思ったあなた、わさ子にそんな高度な算数を期待してはいけない。
なべに湯をわかし、テキトーに醤油やみりんなどを投入し、餃子と、余ったあんを丸めたものを投入して8分くらい煮た。皮がゆですぎてワンタンのようにグダグダになった状態がわさ子は好きである。
もうちょっと味付けしたほうがよかったかな。
しかし、旨い。さすが肉と脂だ。
ひき肉の脂がスープに溶け出して旨味がでている。この汁でうどんかラーメンを煮込んでもいいかもしれない。
今日はちゃんと料理したぞ!
わさ子は満足感と一緒に眠りについた。
次の日曜日。休みなのに5時に起きて、朝から慎ましくまた卵豆腐オートミールおかゆを食べ、録画しておいた「吉田と粗品と」などをダラダラと見る。わさ子はこの2人のトークが好きなのである。自分にはわからないおっさんの世界を垣間見せてくれるから(たまに下ネタがきつくて引くこともあるけど)。
唯一の楽しみと言ってもいいテレビで、スーパーが開店するまでの時間をつぶす。
朝時間があっても役に立つことは何もしないわさ子。
早起きの意味がない。
スーパーに行き、1週間分のミニトマト(毎日ちょっとずつ食べる)と、お昼ご飯を買い求める。びんちょうまぐろの刺し身が298円なので買う。おにぎりを見て、そういえばそろそろご飯を炊かないとな、と思い出す。もちろんキャベツ太郎も買う。半分残っているたまねぎを消費するため、豚肉の小さいパック(150円くらい)も買う。
昼はびんちょうまぐろとおにぎりを買う。キャベツ太郎も勢いで食べてしまう。
午後。
やることが、ない。
貧困で趣味のないわさ子は、休日にやることがないのである。
外に出たい。
しかし、出たらまた買い物をしてしまうのは目に見えている。
しばらくテレビの画面を見ながら迷ったのち、わさ子は外に出た。そして、さっき行ったのとは違う店に行き、チップスターを買ってしまったのだった。
ああ、またやってしまった。
わさ子の食費が減らない原因はこれである。
家でやることがない→暇すぎて出かける→お菓子か、ホットスナックを買ってしまう。
買ってしまったチップスターは仕方なくむさぼり食うとして、このままではまずい。やることを見つけなければ!と、わさ子は至って真面目に考えているのだが、答えは見つからないし、食べ過ぎて太るし、今のところいいことは何も起きていない。
せめて夕飯は真面目に作ろう。
ご飯を炊いて、今食べる分だけよそってあとは冷凍した。それからたまねぎを切って焼き、一旦取り出して豚肉を焼き、火が通ったらたまねぎを戻して、みりん、しょうゆ、細かく切った梅干しで味付けする。
これは近所のスーパーで拾ったレシピで、料理が絶望的に苦手なわさ子にもなぜか作れたメニューである。たまねぎがおいしくなってご飯に合う。
今日は失敗したなぁ。
でも料理したからいいことにしよう。
わさ子は都合よく自分を慰めて眠る……はずだったが、昼間どか食いしたチップスターのせいで胃がむかむかして、この日はなかなか寝付けなかったのだった。
こんなふうに、節約しながらも欲望に脱線して過ごしているうちに、肝心の連休がやってきた。しかも5日も休みである。会社のリッチな正社員たちは、やれ旅行だ、ジュエリーやブランドもののショッピング計画だのの話題で数日前から盛り上がっていたが、貧困のわさ子に旅行に行く金などない。地元の水族館の入場料すらわさ子には高すぎる(4千円を超える……)。家族がいないので帰る実家もない。
だから、連休もテレビを見ながらだらだらポテチや揚げパン(健康に悪いのはわかっているがやめられない)をかじって過ごすのがいいところだ。
もっとましな人間に生まれていたらなあ。
会社でバリバリ稼いでいる正社員たちや、スーパーで見かける「ちゃんとした親子連れ」を見るたびにわさ子は思う。どうしてこんな人生になったんだろう?どうして普通の人みたいに生活費をちゃんと稼いだり、人と関わって家族を作ったりできなかったんだろう?しかし、そんな問いをいくら考えても、答えなんて出てこない。結局これが自分なのだ。仕方ない。
節約はしたいが、5連休に一度も出かけないのはさすがに悲しい。行ったことのない店に行ってみたい。そう思いながらも、気力がないのでゴロゴロしていたら既に二日目が終わりそうである。
明日は出かけるぞ〜!!
と思いながらわさ子は眠りにつく。
次の朝。
めんどくさ〜い。
朝からやる気も気力もなく、ベッドでうだうだするわさ子。
しかし、連休も3日目。
今日こそは出かけなくてはいけない。
わさ子には行きたいところがあった。
カラオケである。早朝から開いていることはネットで確認済みだ。
なんとかベッドから這い出し、またオートミール豆腐卵でおかゆを作って朝食にした後、わさ子は着替えて外に出ていった。
そして、カラオケが入っているビルの前に着いた。
雰囲気、暗。
古いビルの入り口特有のうさんくささ感が漂い、人の気配もない。入っても大丈夫なのだろうかと悩みながら、わさ子が入り口でウロウロしていると、いかにもカジュアルな服装の「一晩泊まってました」感を出しているお兄ちゃんたちがぞろぞろと出てきた。
怖くなったわさ子は逃げ出した。
そして、帰り道でセブンイレブンに寄ってしまい、またポテチと揚げ鶏を買って食費を押し上げてしまったのだった。
旅行どころか、カラオケに入る勇気もない。
どうして自分はこんなにダメ人間なのだろう?
落ち込みながら買ってきたものをむさぼり食ってテレビを観た後、わさ子はまた出かけた。近所のドラッグストアにも、紙コップでコーヒーが飲める自販機があるのだ。しかも広い休憩スペースもある。
コーヒーが入った紙コップをそーっと運びながら空いている席についた。他の席では、学生と社会人らしきおじさんが、資格などの分厚いテキストを開いて勉強していた。
いいなあ、勉強できて。うらやましい。
わさ子は遠い目で彼らを見ながら安いコーヒーをすすった。彼らみたいに勉強できる人間だったら、もっとましな人生を送れたかもしれないのに。
悲しい気持ちで紙コップを捨ててから、かごを持って店内を見て回る。
サーモン寿司 398円。
わさ子はそれを見た瞬間にすかさず手に取った。最近は、某大手スーパーでもサーモン寿司は高くなっていて700円くらいするのに、まさかドラッグストアでこんなに安く売っているとは!
今日はついてるぞー!
さっきまで己の頭の悪さに絶望していたことは完全に忘れ、ささやかな幸運に酔いしれるわさ子であった。
次の日。連休残り2日。
今日……こそ、出かけ……出かける……。
わさ子はまた、ベッドでめんどくささと戦っていた。5連休もあったのに、行った場所はドラッグストアだけなんて悲しすぎる。
とりあえず、昨日挫折したカラオケにリベンジしよう……と思いながら寝たわさ子だったが、
ガー、
ドンドンドン。
夜中、窓の外から工事の音が響いてきて目覚めた。
そういえば、夜中にガス管の工事しますってお知らせの紙が来ていたような……。
わさ子は起き上がった。きっと世の中の人は、
「連休中はどうせみんな旅行してるから、今なら夜中に工事しても大丈夫だろう」
と考えるのだろう。しかし、わさ子のように貧困で家族もいない者は、自分の部屋以外に行くところがないのである。
世の中は豊かな人の理論で動いている。
わさ子は、同じ建物に住んでいるおじいさんのことを思い出した。夏の暑い日になると必ず、建物の玄関に出て涼もうとしているおじいさんがいるのである。なぜなら、この建物は古くてボロいので、家賃が安い代わりにエアコンがないからである。
あのおじいさんもきっと今日眠れないだろう。
かわいそうに。
どうせ今日は眠れない。わさ子はスマホでMVを見て気を紛らわせることにした。最近CANDY TUNEにハマっているのだが、若い女の子が七人で歌ってる曲をいくら聞いても、おばさん一人のわさ子ではカラオケでは歌えそうにない。そういえば、最近の若い人はカラオケで歌わないと聞いたことがある。わさ子の若い頃はマイクの奪い合いが普通だったのに。
そういや最近カラオケで歌える曲聴いてないなあ。
とわさ子は思った。わさ子が歌える曲といえば、涙そうそうと、木村カエラの『どこ』くらいだ。あれ名曲なのにあまり知られてない気がする。しかし、世の中はわさ子の好みなどどうでもいいのである。
工事の音は朝まで続き、わさ子は朝食のあと、眠気覚ましのためコーヒーを飲んだ。最近コーヒー高いから買うのやめようかと思うのだが、やはりどうしてもコーヒーが欲しい朝がある。だから食費が減らない。
連休中だが今日は燃えるゴミの日である。わさ子はゴミを出しに行き、ついでにセブンイレブンまで散歩してまたポテチを買ってしまう。セブンのポテチがおいしすぎるから悪いのだと都合のいいことを考えながら帰り、
もう、出かけるのめんどい。暑いし。
と思う。
「連休だから出かけなきゃ」と思い込んでこの3日間あがいてきたが、よく考えたら休日は休むためにあるのだし、連休中に街の中心やショッピングモールなんぞに行った日には、混みすぎていてたまったもんじゃない。
いいもん。もう残り2日はダラダラするもん。
下手に外出したらお金使っちゃうし。
そう決めたわさ子は、テレビを見ながらダラダラすることに徹することにした。
しかし、暇だ。
趣味がないのでやることがない。
ポテチを食べ尽くし、テレビも一通り録画を消化した頃、わさ子は着替えて外に出た。そして、いつものスーパーの休憩所に行き、いつもの自販機のコーヒーを買って、空いてる席に座った。
休憩所は、親子連れや、一人でくつろぎに来ているおばあさんなどで席がほぼ埋まっている。長時間の使用を禁止する張り紙があるためか、勉強してる人はいない。
わさ子は考える。5日休みがあっても、自分は普段の行動範囲を超えられない。旅行に行ける正社員たちがうらやましいと思っていたが、その原因はお金だけではなさそうだ。
そもそも、どこかに行きたいという気が、
わさ子には、ない。
やりたいことも、ない。
行動力というか、気力がない。
たぶん行動力のある人や、本当に旅行が好きな人は、貧乏でもバックパック一つで旅に出てしまうのだろう。わさ子の中にはそういうことをさせるような欲望というか、渇望がないのである。
結局、いつも通り暮らしたいだけかあ。
悲しいが自分の性質に納得したわさ子。コーヒーを飲んでから売り場に行き、セールで安くなっていたネギトロ丼(410円)だけを買って帰った。そして、残りの一日は家から出ずに過ごすことにした。食べるものはまだ家にあるし。
そんな感じで過ごした一ヶ月。
果たして、食費はどうなったかというと、
「あんまり減ってない……」
わさ子は家計簿アプリを見ながらしょんぼりしていた。野放図に弁当を買って高騰した先月に比べれば、確かに食費は下がっていた。しかし、期待したほどではない。わさ子の収入にしては、かなり高い額になっている。
「あんなに自炊してたのに……」
確かに今月のわさ子は自炊していた。しかし、食費を押し上げたのはそこではない。
①仕事帰りにコンビニでポテチや揚げ鶏を買ってる。
②休みの日に暇になると出かけてお菓子を買ってる。
③趣味がないので時間が潰せない
④やたらにコーヒーの自販機を使ってる。
(「カフェに入るより安い」という言い訳とともに)。
要するに、
「暇→出かける→コンビニなどで金使っちゃう」
が原因である。
しかし、買い食いと自販機のコーヒーしか楽しみがないわさ子の人生で、それらを抑えることなど可能なのであろうか?そんなことをして精神を病まないだろうか。
なんかやることを見つけなければ。
わさ子は今日も決意する。
「来月こそ節約するぞ〜!!」
そして、一行目に戻り、人生はループしていくのである。きっとまたすぐに、セブンイレブンに買い食いに行ってしまうであろう。いつものように自販機のコーヒーを飲むだろう。そして、来月末も同じこと言ってるであろう。
ま、いいのだ。
だって、わさ子だし。




