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守る華・守られる花  作者: ミシル
第三章 サザンクロス

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107/113

107.秘密の関係

「ボス、おはようございます」


「おはよう」


優しい笑みを浮かべて答えるボスに、思わず胸が温かくなる。

ボスの後を追って部屋に入ると、ガラス張りが白くなり、空気が少しだけ親密なものに変わった。


「ボス、今日の予定ですが――」

そう切り出そうとした瞬間、背中がぐっと引き寄せられる。


「……ボス?」

「誰か来たら困ります。特に田中さんに見られたら」


「大丈夫だ。鍵は閉めた」


いつの間にか、ボスの手にはリモコンキーが握られていた。


「もう……」と口では言いながらも、私の手は自然とボスの腰に回っていた。

「……ほんの少しだけですよ」

「はーい」


ボスの匂い、鼓動、体温――すべてが心を落ち着かせていく。

この時間がずっと続けばいいと思ってしまうほどに。


「あ、そうだ。これ」


抱擁から離れると、ボスはネクタイを差し出した。

「毎日、頼む」


「えっ、毎日ですか!?」

「……嫌か?」


その声音に弱い。

私は小さく横に首を振り、ネクタイを受け取った。

指先に伝わる布の感触に、彼の存在を重ねる。


「……はい、できました」


顔を上げた瞬間、唇を塞がれる。

不意打ちのキス。

だけど、抗う気持ちはどこにもなく、私はただ素直にその温もりを受け入れた。


「……ボス、これが狙いでしたね?」


ふっと鼻で笑うボス。

「で、今日の予定は?」


「ったく……都合が悪くなるとすぐ仕事モードに切り替えるんだから。今日の予定は――」


予定を伝え終えると、ボスは何気ない口調で言った。

「今夜、一緒に食事しような」


「はい」

思わず笑顔になって返事をし、部屋を出ようとドアの前に立つ。


「神崎」


背後から名前を呼ばれ、振り返るとボスが歩み寄ってくる。

ぐっと耳元に顔を寄せ、低い声で囁いた。


「言ってなかったな。俺も、神崎のことが好きだ」


その言葉に胸が熱くなる。

体を戻したボスを見上げ、私は少し照れながらも背伸びして、彼の頬にそっとキスを落とした。


赤くなった顔を隠すように慌てて部屋を出ようと、ドアを開けようとして――ゴンッ。

鍵がかかっているのを忘れて、おでこをぶつけてしまった。


「いたた……」


「本当に、おでこぶつけるのが好きだよな」

呆れながらも笑うボスが、鍵を開けてくれる。


自分のデスクに戻り、思わずガラス越しにボスの部屋を見やった。

いつの間にかガラスは透明に戻され、彼の姿が見える。


――今の私は、きっと世界一幸せだ。



定時を過ぎ、オフィスの灯りが次々と消えていく。

私はカフェエリアの椅子に腰かけ、ボスが出てくるのを静かに待っていた。


「神崎」


振り向けば、ボスが立っている。

「待たせたな」

「全然。お仕事、もう終わったんですか?」

「あぁ。で、何食べたい?」


「え?なんでもいいんですか?」

「もちろんだ」


少し考えて、私はにやりと笑う。

「じゃあ……ラーメンで!」

「ラーメン?本当にそれでいいのか?」

「ラーメンが一番おいしいんです。しかもボスの大好きな餃子もありますし」


「そういえば、最初に一緒に食べたのもラーメンだったな」

「そうですね。じゃあ記念日は毎年ラーメンで決まりですね」

「そんなカップル、聞いたことねぇぞ」

「安上がりでしょ?私って」


二人で笑い合う。

そのとき、ボスが自然に手を差し出した。


「会社の中では……」と、思わず声をひそめる。

「大丈夫だ。もう誰もいない」


その言葉に、私は迷わず手を重ねた。

温もりが指先から伝わり、胸の奥がじんわりと満たされていく。


「ボス、ごちそうさまでした」

ラーメンを食べ終えて、ふたりで近くの公園を歩いていた。


「なんか他人行儀だな」

「え、そうですか?」

ボスが軽くうなずく。


「会社以外では敬語はやめろ」

「いいんですか?ボ…」

「それも禁止。ボスはやめろ」


少し照れたように目をそらす彼が、なんだか可愛く見えた。

私は思いきって彼の前に立ち、にっこり笑って呼んでみる。


「蓮」


その瞬間、彼の口から返ってきた声。

「守華」

懐かしいような、胸に響く愛おしい声だった。

ほんの一瞬、彼の姿に蘭明の面影が重なったけれど――今ここにいるのは、私が愛する蓮。


蓮は私の手を握り、そのまま自分のコートのポケットに入れ、歩き出す。

「社員には、俺らが付き合ってること言ってもいいんじゃないか?」

「ダメです!特に田中さんと琴音には」

「田中は分かるけど…琴音もダメなのか?」

「はい。ふたりとも面白がって言いふらすに決まってます」


蓮は肩をすくめる。

「俺はむしろ広めてほしいけどな」

「絶対ダメです。蓮を狙ってる女性の視線が恐ろしいことになります」


その言葉に、私は足を止めた。振り返った蓮の唇を、指でつまんでアヒル口にする。

「もし言いふらしたら、この唇ちょん切りますからね」

ぐいっとつねって離すと――


「っいったー!」

蓮が唇を押さえた。


私が笑って逃げ出すと、蓮はすぐに追いかけてきた。


その後も、私と蓮は何事もなく、いつも通りの日々を過ごしていた。

仕事とプライベートはきちんと分けているつもり。

それでも――朝、ネクタイを締め終えた蓮は必ず私にキスをしてくる。


さらに時折、うっかり“神崎”ではなく“守華”と呼んでしまうこともあったが、今のところはなんとか誤魔化せていた。


――ただ、この女だけには通じなかった。


「ねーねー、最近のボス、異常なくらい機嫌よくない?」

「そう?私はいつも通り冷たい口調でしか話されないけど。琴音の思い違いじゃない?」

「いいや、私の勘は当たるんだから!」


確かに、恋愛ごとに関して言えば、琴音の勘は驚くほどよく当たる。


「それにさ、ボスのバッグに香り袋ついてるんだよね。もしかして…莉子さんと復縁した?」

「私は聞いてないけど」

「じゃあ違うのか…まさか、新しい彼女?」

「それも聞いてない」


「秘書の守華なら彼女ができたらすぐに聞くはずだよね。…じゃあ、一体誰からもらったんだろう?」


琴音の一言、一言が、私の心臓をじわじわと締めつけてくる。


考え込む琴音。その横で、私は平静を装いながらコーヒーを口に運ぶ。


――そのとき。


「あっ!!」


突然の大声に、思わずカップを落としそうになる。

琴音の鋭い視線が私を射抜いた。


「ねぇ…まさかだけど――」


ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ……

胸の鼓動が早鐘のように鳴り響いた。


思わず唾をのみ込む。


「守華が…彼女?」

「ちが――」「守華!」


声のする方へ、私と琴音の視線が同時に向く。

そこには、当然のように立っている蓮の姿があった。


「あっ、根本もいたのか」


“もいたのかじゃないわよ!”

心の中で叫びつつ、私は蓮を思いきりにらみつける。


琴音は「やっぱり」という顔をして、私と蓮を交互に指さした。

「え…もしかして、お邪魔だった?」

「いえ!ボス!そんなことはありません!」


慌てて否定した琴音は蓮の腕をぐいっと引っ張り、わざと私の隣に座らせる。


「ボス。守華と付き合ってるんですよね?」

「……あー」

「“あー”じゃないです!」


「守華が根本に話したんじゃないのか?」

「……」


琴音が自信たっぷりに笑みを浮かべる。

「私が当てたんです。だって、ボスの態度が明らかに前と違うし。今まで“神崎”って呼んでたのに、たまに“守華”って呼んでますよね?」


その笑顔は鋭い洞察に裏打ちされた勝ち誇りの表情。

――さすが、恋愛の勘だけは百発百中だ。


「安心して、守華。みんなには黙っておくから」

「怪しい…」


「ボスに誓って、絶対しゃべりません」

琴音はそう言いながら、口元にチャックをかける仕草をしてみせた。


琴音を信じるしかなかった。

――蓮に誓ってくれたんだから、大丈夫。


そう思っているうちに、二月はあっという間に過ぎていった。

そして今日は、私の誕生日。二十三歳になった。


出社してきた蓮を、いつものようにボス部屋の前で待つ。

「おはようございます。ボス」

「おはよう」


視線が合って、自然と笑顔になる。

変わらない朝――それだけで幸せだった。


部屋に入り、ネクタイを締めてあげる。

その流れで蓮が唇を重ねてきて、胸が温かく満たされる。

今日も一日、頑張れる――そう思えた。


「今日の予定ですが、十時半よりReとの第二弾コラボで伊藤社長が来社されます」


伊藤社長。莉子さん。

第一弾が大好評だったから、すぐに第二弾が始まるのは当然。

それは分かっている。仕事だから。


――でも。

相手は蓮がかつて本気で愛した人。

今は私が彼女でも、心配になるのは仕方ない。


そこで言葉に詰まった私に、蓮が気づいた。

後ろから、そっと抱きしめられる。


「不安か? 不安なら、莉子とのコラボは断ってもいい」


「それはダメ。仕事なんだから最後までやり遂げて。私は蓮を信じてるから、大丈夫」


「本当は不安なくせに。守華の気持ちは、すぐにわかる」


少し強く抱きしめる腕から抜け出して、振り返る私。


蓮はまっすぐに言った。

「安心しろ。莉子と二人きりにはならない。今回は田中を中心に動かす。俺が莉子と会うときは、必ず秘書の守華も一緒だ」


私の不安を先回りして、ちゃんと考えてくれている。

その言葉に胸が熱くなった。


10時25分、莉子さんは社員を三人ほど引き連れて会社に現れた。


会社の入り口で待つ蓮、田中さん、そして私。

「伊藤社長、今回もよろしくお願いします」

蓮がきちんとした声で挨拶していた。


すると、莉子さんが蓮に耳打ちする声が聞こえた。

「いきなり他人行儀なのね」


元の位置に戻った莉子さんは、少し微笑みながらも改めて言った。

「どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらへどうぞ」

田中さんがミーティングルームへ案内する。


蓮と田中さんが先頭を歩き、莉子さんとその社員たちが続く。

莉子さんが私の横を通り過ぎる瞬間、針で突かれたような視線を浴びている気がした。


その後ろを歩くReの社員たちが小声で話している。

「中村社長がうちの社長の彼氏なんでしょ?」

「そうみたいね」

「美男美女だわ」


――今の彼女は私なんですけど!

と、後ろから叫びたくなる衝動を必死にこらえる。


コーヒーを入れ、全員にそっと置いていく。

その後、私は蓮の隣に座り、ミーティング資料をパソコンに入力する。



「今回は俺ではなく、田中を中心に進めてもらう」

「蓮じゃないの?」

「あー、俺は別の連携案件を進めないといけないからな。伊藤社長も田中とは先輩後輩の関係だし、問題はないはずだ」

「そうね、わかったわ」


莉子さんの表情が、少し寂しそうに見えた。目で追っていると、それがよくわかる。


今回は顔合わせ程度の内容だったため、軽く話し合いをした後、うちの会社から参加する社員3人を紹介し、Reの社員も紹介されて終了。


会社の出口までお見送り。

社内はそれぞれの仕事に集中していた。


「では、内容を詰めたら田中から連絡させます」

「こちらも提案策を考えてみます」


蓮と莉子さんが見つめ合うのが、私の目にもはっきりと映る。

私はボスの斜め後ろに立ち、ただ黙ってその様子を見守るしかなかった。


すると、莉子さんが蓮の手を差し出してきた。

「第二弾コラボの成功を願っての握手よ」


本当はその握手すら嫌だけど、仕事だ。蓮もそれを理解しているのか、静かに応じた。


――それで終わるはずだったのに……


「ねー、蓮、今日の夜、コラボの話しながらごはん食べない?」


「ラブラブですね」


後ろからReの社員が口を挟む。


「今日は予定があるから無理だ」

「残念。じゃあ明日は?」


しつこいな……と思いながら視線を送ると、さっきより蓮との距離が近くなっている!?

しかも、まだ握手したままだ。


――このままじゃまずい。


咄嗟に私は蓮と莉子さんの間に入り込み、握手していた手を優しく引き離す。


「伊藤社長、失礼ですが、コラボの仕事については私は口を挟めません。でも、今のボスの彼女は私です。仕事と関係のないことを理由に近づくのはやめてもらえますか?」


オフィス内が一瞬で静まり返る。全社員の視線が私に注がれた。


「えーーーーーーーーーーーーーー!?」


田中さんをはじめ、社員たちが揃って驚きの声を上げる。

莉子さんよりも、うちの社員のほうが衝撃を受けているのがわかる。

もしかすると、莉子さんは薄々気づいていたのかもしれない。


「あー、俺からは言ってないからな。約束は破ってないぞ」


ボスの手が私の頭の上にそっと置かれ、私を覗き込むように見つめる。


「伊藤社長、そういうことです。仕事以外では会えません」


何も言わずに、莉子さんはそのまま帰っていった。


社員たちのほうに向き直したボスは、静かに言う。


「みんなもわかってくれ。俺と神崎は付き合っている。ただ、今まで通り仕事とプライベートはちゃんと分けている」


「確かに気づかなかった」

「それに社内恋愛が禁止だなんて規則もない」

「なるほど……」


みんなが納得の声を上げる。

同時に、どこからともなく「おめでとう!」「あのバレンタインカップルが現実に!」と囁きや歓声が飛び交う。


私は蓮を見上げる。

蓮は優しい目で微笑んでくれていた――。


仕事を終え、蓮の車に乗り込む。

私のリクエストでお好み焼きを食べて、そのあと海へと連れてきてもらった。


階段に並んで座り、潮風に頬を撫でられる。


「誕生日にお好み焼きって。普通は高級レストランとかでディナーじゃないのか?」

「ううん!蓮と一緒にお好み焼き作ってみたかったの。高級レストランなんてもったいないよ」

「本当にラーメンとかお好み焼きとか、変わってるな」

「そうかな?」


私が微笑むと、蓮も少し笑って、視線を海に向けた。


「海に連れてきてくれてありがとう。でも…やっぱり寒いね」

「そうだな。じゃあ――」


気づけば蓮が背後に回り、コートごと私を後ろから包み込んでくれる。


「あったかい」

「だろ。俺の気持ちが入ってるからな」


冗談めいた声に思わず笑う。

そのとき、私の首元にひんやりとした感触が触れた。


「え…これ、私に?」


胸元に輝いたのは、星のような花――サザンクロスをかたどったネックレス。

中央には、3月の誕生石・アクアマリンが淡く光を宿している。


「守華、誕生日おめでとう。ありきたりなネックレスのプレゼントになっちゃったけど」

「すごく嬉しい…蓮が選んでくれたの?」

「ああ。少しはサプライズになったか?今回は何もサプライズできなかったからな」


「ふふっ」思わず笑みがこぼれる。


「ありがとう。もう絶対、外さないからね」


私はそっと蓮の胸に身を寄せ、耳を当てる。


「海の波の音も好きなんだけどね、一番好きなのは……大好きな人の心臓の音を聞くこと」

「心臓の音?」

「うん。ちゃんと生きてるんだなって安心するから」


――陽月国で、何度も命の危険にさらされた。

私も、蘭明も。


だからこそ今、こうして鼓動を感じるだけで、胸の奥から温かさがあふれてくる。


見上げれば、夜空には無数の星。

波は寄せては返し、静かに足元をさらう。


彼の胸に寄り添ったまま、波と星と鼓動が溶け合うようなひとときを、ただ大切に抱きしめていた。


「守華、今日の行動は嬉しかった」


「えっ?」


「俺は暴露してないからな。守華が自分で言ったんだからな」


――あぁ、付き合ってることを公にしてしまった件ね。


私は蓮の顔を振り返る。


「だって…莉子さん、蓮の手を離さなかったし。このままキスするんじゃないかって思ったんだもん」

「そうか?」

「そうよ!しかも蓮だって、手を離さなかったじゃない」

「あれはわざとだ。守華が焼きもち焼くかなって思って」


「なにそれ…焼くに決まってるでしょ!これで満足!?」


「なんかこんな光景、夢で見たような・・・」


「夢で?」


「あんまり覚えてないけど、まぁ、何にしろモテる男は大変なんだよ」


ムッとした私は、蓮の唇を指でつまみ、アヒル口にしてやる。


「もう一度言ってみなさい。今度こそ、ちょん切るわよ」


蓮は笑いながら私の手を外し、

「それ、守華の口癖だな。『ちょん切ってやる』って」


ふんっと笑って、挑発するように目を細めた。

「ちょん切ってみろよ」


……待って、このやり取り。

蘭明とも、同じようなことを交わした記憶がよみがえる。


思考が止まった私の唇を、今度は蓮がつまみ返し、アヒル口にしてくる。


「今日は俺がちょん切ってやる番だな」


そう言った直後、止まっていた私の唇に、彼の唇が重なった。


明日は会社が休み。だからそのまま、蓮のマンションに来た。


先にシャワーを借りて、いまは蓮の大きめのTシャツを着ている。

明日、自分のマンションに寄って何着か服を持ってくる予定だ。まるで半同棲みたいで、胸がふわっと温かくなる。


――でも。

さっきのやり取りはなんだったんだろう。


現代でも同じようなことを繰り返している。

以前だって、蓮は蘭明と同じ言葉を口にした。


「涙は幸せになるために流すんだ。だから、いっぱい泣いたほうが幸せになれるかもな」


……偶然、なのだろうか。


蘭明は蘭明、蓮は蓮。そう割り切って、重ねないようにしてきた。

けれど、こうも状況が重なると――心の奥で「まさか」と考えてしまう。


気のせいだよね?


そんなふうに考え込んでいたら、頭の上にタオルがのせられた。


「何ボーッとしてんだよ」


振り向けば、濡れた髪をタオルで拭きながら立つ蓮がいた。

髪から滴る水滴。ラフに着たTシャツとハーフパンツ。

いつものスーツ姿とは違う彼に、胸がどきんと跳ねる。


「あ、ちょっと考えごとを……」


「考えごと?」


「……うん」


そう答える声が少し震えているのを自分でもわかってしまう。


そうだ。さっきの出来事に気を取られてたけれど――私は今、蓮のマンションに来ていて、このまま泊まるってことだよね。


その「先のこと」なんて、全然考えてなかった。


意識した瞬間、頬に熱が走り、顔が一気に赤くなっていくのを感じた。


「守華、どうしたんだ? 顔が赤いぞ」


「いや、なんでもないよ。……ねえ、蓮、水が飲みたい」


「冷蔵庫にあるから、勝手に飲めばいい」


言われるままに冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出し、振り返るとすぐ後ろに蓮が立っていた。背中が冷蔵庫に押しつけられ、逃げ場を失う。


「蓮も飲む?」

平静を装って尋ねると、蓮は短く「飲む」と答え、私の手からボトルを奪い取った。


蓮は一口水を含むと、無造作にカウンターへ置き、そのまま私の唇へと水を流し込んできた。

冷たさと熱さが同時に喉を通り抜ける。


「守華も、水が欲しかったんだろ?」

意地悪そうに囁く蓮の声。


「濡れた髪に、俺の大きいTシャツ……ずるいな。そんな姿見せられたら、愛おしくて、誰にも渡したくなくなる。俺だけのものにしたい」


「私は蓮だけのものだよ……。それに、濡れた髪の蓮だってずるい。私だけのものにしたい」


気づけば腕が蓮の首に絡んでいた。自分から口づけを落とす。

吐息が混じり、唇が離れるたびに渇望が募っていく。


――蓮が欲しい。

私だけの蓮を。


次の瞬間、強い腕に抱き上げられ、世界がふわりと浮いた。

そのまま寝室へと運ばれていく。


強く抱きしめられたまま、ベッドにそっと降ろされる。

シーツの柔らかさよりも、覆いかぶさる蓮の熱のほうが鮮明に伝わってくる。


「……守華」

名前を呼ぶ声は、低くて震えていて、胸の奥を甘く痺れさせた。


触れるたびに熱が伝わり、唇が重なっては離れ、また求め合う。

言葉はいらなかった。視線と吐息だけで、想いは溢れていく。


蓮の手が髪をなぞり、頬を包み、まるで大切なものを確かめるように触れてくる。

私も同じように蓮の背に腕をまわし、その存在を確かめた。


重なる鼓動。溶け合う吐息。

時間の感覚さえ、夜の闇に溶けていく。


カーテンの隙間からこぼれる月明かりが、蓮の横顔を淡く照らしていた。

その光景に、胸の奥で確信する。


――私はもう、完全に蓮のものだ。

そして蓮もまた、私だけの人。


やがて二人の影は夜に溶け、窓の外では波が静かに寄せては返していた。

その音が、永遠を約束するように聞こえた。


カーテンの隙間から、淡い朝の光が差し込んでいた。

目を開けると、すぐ隣には穏やかな寝息を立てる蓮。

長いまつ毛、端正な横顔――胸の奥がきゅんとする。


そっとおでこにキスを落とし、布団から抜け出そうとしたその瞬間。

ベッドの上から伸びてきた手が、私の手首を掴んだ。


「……どこに行くんだ?」

振り向くと、もう蓮の瞳が私を見つめていた。


「起こしちゃった?ごめんね」


引き寄せられ、そのまま蓮の胸の上に重なってしまう。

強く抱きしめられ、鼓動が重なった。


「蓮……?」


次の瞬間、体勢を入れ替えられ、私の上に蓮が覆いかぶさる。

柔らかいキスが唇に触れ、やがて首筋へと降りてきた。


「もう、蓮ったら……!」

慌てて両肩を押し返すと、彼は悪戯っぽく笑う。


「なーんだ、朝から楽しいことしたかったのに」


そう言って、再び強く抱きしめられる。


幸せが胸いっぱいに広がって――

こんな日々がずっと続くなんて、贅沢すぎると疑ってしまうほどだった。


準備を整えて、私のマンションへ向かった。

蓮の広々とした部屋とは正反対の、六畳にロフトが付いただけの小さな空間。


ドアを開けて入った途端、蓮が口にしたのは――

「やっぱり、この部屋もシンプルなんだな」


「シンプルが好きなのよ。それに、ほとんど寝に帰ってくるだけだし。今、準備するから座ってて」


そう言ったのに、彼は素直に座ることなく部屋を眺め回していた。


「物色しても何も出てこないわよ」

「いや、守華がどんなものを好きなのか、ちょっと見たいだけ」


ふと、彼の視線がリビングの棚で止まった。

そこには、母と父、そして小さな頃の私が並んで写る写真。


「これ……お母さんだよな」


実家で母の写真を見たことがあるから、すぐに気づいたのだろう。

「そうよ。どうしたの?」


「……綺麗な人だな」

「ふふっ、そんな綺麗な人の娘を彼女にできて、嬉しいでしょ?」

「……そうだな」


私は軽やかにロフトへ上がっていく。

そのとき、背後から蓮の低い声が聞こえた。


「やっぱりどこかで会ったことあるような……初めて見る感じがしないんだよな」


「えっ?何か言った?」

ロフトの上から覗き込むと、蓮は小さく首を振って笑ってみせた。


今日は、Reとの第二弾コラボに向けた二回目の打ち合わせ。

前を歩く蓮と田中さんの背中を追いながら、私は会議室へと向かっていた。


グレーのスーツに包まれた180cmを超える体躯。

後ろ姿だけで、思わず見惚れてしまう――それが私のボス、蓮だ。


「にしても、ボス。よかったな」

田中さんがふいに笑みを浮かべる。


「何がだ?」

「神崎と一緒になれて」


蓮は無言のまま、前だけを見据えて歩いていた。


「知ってるか、神崎」

田中さんが振り返り、意味ありげな視線をこちらに向ける。

「こいつ、実はずっと神崎のこと気にしてたんだぜ」


「……そうなんですか?」

思わず問い返す私。


すると蓮が田中さんを横目で鋭く睨んだ。

「余計なことを言うな」――そんな無言の圧。


田中さんは肩をすくめて笑い、

「ボスが怖いから、詳しくは本人に聞けよ」

とだけ残した。


――いつから、私を?

聞きたいのに、きっと蓮の口からは教えてもらえない。

胸の奥に素朴な疑問だけが残った。


会議室に通されると、ほどなくして莉子さんとReのスタッフ数名が入ってきた。


「神崎さんも来ていたのね」

視線を絡めながら、莉子さんが微笑む。


「はい」


その一言に隠された棘を、私は敏感に感じ取る。

――やっぱり、敵対視してるよね.....


お互いに固めてきた案を順に出し合い、意見を交わす。

私はただ、それを淡々と記録していくだけ。


Re化粧品とサザンクロスの花のコラボ――前回は大好評だった。

正直なところ、今回の出来映えも、少しだけ楽しみにしている自分がいた。


発表は秋。


通常、コラボ商品なら1~2年前から準備が始まるのが常だ。

だが、第1弾をすでに出しているから今回は、少し手を加えるだけで間に合う計画だという。


第二弾コラボを急きょ持ち出したのは、莉子さん。

きっと――

彼女は蓮と会う口実が欲しくて、この提案をしてきたのだろう。


女の勘としては、わかる。

好きな人に会うためには、何か理由を見つけるものだ。


でもね、莉子さん――蓮は渡さない。

あなたは蓮を傷つけた。

だからそれだけは譲れない。


さすが田中さん。

普段はおちゃらけているけれど、仕事となればしっかりと結果を出す人だった。

ボスの右腕として、着実に会議の内容が固まり、すぐにサンプル作りに移れる段階まで進んだ。


「今日はここまでにして、ちょうどお昼だし、みんなでランチでもどう?」

莉子さんが蓮に向かって提案する。


私はパソコンのフタを閉じてバッグにしまった。

聞こえているけれど、聞こえないふりをする。


「このあと、すぐに予定が入ってる。俺と神崎は行けないから、代わりに田中と行ってきてくれ」

「分かった。じゃあ、会社で」

「あー」

「じゃあ、莉子、行こうか」

田中さんが莉子さんに声をかけ、二人は出て行った。

しかし、莉子さんの視線はずっと蓮から離れない。


「さて、俺らも行こう。一度、会社に戻るぞ」

「はい、ボス」

仕事中はきちんと「ボス」と呼ぶ。


会社前に出ると、ベンチに座る見覚えのある後ろ姿が目に入った。

「悠真?」

私が声をかけると、蓮が立ち止まり、その方向を見る。

瞬間、蓮の顔が一気に険しくなる。


私はそっと蓮の袖を引き、振り向かせる。

蓮が私の方を向いてくれたから何も言わずに微笑んだ。

たぶん、私の気持ちは伝わっただろう。


私はそのまま悠真の方へ歩いていく。

少し距離を置いて、蓮も後ろからついてくるのが見えた。


「悠真!」

「守華」


いつものように悠真が腕を広げ、ハグを求める。

「うっ、うん」


だが、後ろで蓮が咳払いをしたのに気づき、私は咄嗟に悠真から離れた。


「中村社長もいたんですね」


蓮の不機嫌そうな顔は一目で分かる。


「悠真、実はさ…私、ボスと付き合い始めたの。だから、これからは普通のハグは無しにしてほしい」


「えっ!?」

悠真の目が大きく見開かれた。


「本当に?忘れられない人がいたんじゃないの?」

悠真には軽く蘭明の話もしてあった。


「そうだったんだけど…今はボスの方が上回ったっていうか、守ってあげたいって思える人がボスなんだ」


「そっか…よかったな!」

悠真は少しテンションが下がったようで、その表情から驚きと戸惑いが見て取れた。


「今日はどうしたの?」

「あ、いや…ホワイトデーだったから、お返しにランチでも奢ろうと思ったけど…今はやめとくわ。じゃあ、会社に戻るわ」


そう言うと悠真は背を向けて歩き出す。

後ろを振り向くと、蓮はすでに歩き始めていて、私は急いで追いかけた。


ちょうどエレベーターが到着し、私と蓮だけが乗り込む。


静まり返る中、

「怒ってるの?悠真は女友達みたいなもんだよ」


その瞬間、蓮にエレベーターの壁に押し付けられる。

「蓮…?」


「守華がそう思ってても、あっちは守華のこと好きだろ」


思わず笑ってしまう。

「悠真が私を?ないない!絶対ないから」


「なんでそう断言できるんだ?」


「んー、100%ないもん。もう悠真とは挨拶のハグもしないし、蓮が彼氏だって伝えたし、私が大好きなのは蓮だけだから、機嫌直して」


軽く蓮の服を握って揺さぶる。


「ったく。じゃあ、反省してるのを行動で示せ」


「え…?」

蓮の真剣な視線に、急に恥ずかしさが込み上げる。

もうすぐ10階に着いてしまう。


___チュッ


目の前の蓮の唇に、そっと自分の唇を重ねた。


そのタイミングでエレベーターのドアが開く。

蓮は何事もなかったかのように体勢を変え、ドアを出るときに耳元で囁いた。


「お仕置きは夜だからな」


一気に顔が熱くなり、思わず赤くなる私。

蓮はにやりと笑い、余裕の表情でエレベーターを出ていった。


「こんにちは!」


会社に一度戻り、午後からの打ち合わせ資料を持って、すぐにまた蓮と出かけた。

打ち合わせの前に、蓮の実家に寄るためだ。


「待ってたわ」

「おふくろ、今日は仕事の合間に連れてきたから、すぐに帰るからな」

「えー、そうなの?守華ちゃん、あがって」


お昼時で、家にはお母さんだけがいた。


「守華ちゃん、聞いたわよ。蓮と付き合ったって」

私は少し照れながらも答える。

「はい、お付き合いさせていただいてます」


「私、本当に嬉しいわ。これで守華ちゃんも家族の一員ね」

「気が早えーよ」

蓮が素早く突っ込む。

「そうだけど、もし蓮が酷いことしたら、いつでも言ってよ!私が呼び出して説教してあげるから」

「はい!」

二人で笑い合う。


「今日はね、これを渡そうと思って」

お母さんが差し出したのは、ラッピングされた小さな箱。

「ほら、バレンタインもらったじゃない?そのお返しで」

「お返しなんて、よかったのに」

「気に入るか分からないけど」

「開けてみてもいいですか?」

「もちろんよ」


ラッピングを外すと、白い箱が現れる。

箱の蓋を開けると、中には花が挟まれたガラスのジュエリーボックスがあった。


「わぁ、綺麗…!」

「お花が好きだって聞いたから、花を挟んでみたの。気に入ってくれるかしら?」

「もちろんです!すごく素敵です、ありがとうございます」


箱の中は、リングやネックレス、ブレスレットを収納できるようになっていた。


紅茶をご馳走になりながら、話しているとあっという間に時間が過ぎる。

「そろそろ次の打ち合わせ場所に向かわないとね」

私たちは笑顔のまま、外に出た。


今日も仕事を終えて、帰宅したのは22時過ぎだった。

もちろん、向かうのは蓮のマンション。


「はぁ…疲れた」

私はそのままソファに腰を下ろす。


すると、背後から蓮の手が私をそっと包み込み、目の前には赤い一輪の薔薇が差し出されていた。


思わず振り向くと、蓮がにこりと笑っている。

「俺からのホワイトデー」

「嬉しい…」

言いながら、私はその薔薇を受け取った。


蓮が私の隣に腰を下ろす。

「ボリュームある方がよかったか?」

「んん、一本でいいよ。蓮のことだから、花言葉で一本にしたんでしょ?」

「ああ、俺には守華しかいないから」


少し恥ずかしくなるけれど、嬉しさがあふれて、そのまま蓮に抱きついた。


「おっ、じゃあ昼のお仕置きしないとな」

「えっ!?帰ってきたばかりなのに…。しかも、今すごく感動してたのに」

「そんなの関係ないさ」


蓮は言うと同時に私の唇に自分の唇を重ねる。

舌が優しく口の中に入り、思わず吐息が漏れる。


手に持っていた薔薇はテーブルにそっと置かれ、蓮の顔はそのまま私の胸元へと降りていった。




桜が満開に近づくこの頃、去年と同じホテルの部屋で入社式が始まろうとしていた。


「ただいまより、株式会社サザンクロス入社式を行います」


司会進行は、社長秘書の私。


――この1時間前。

会場の準備をしている間、私は蓮と一緒に会場の端から様子を眺めていた。


「司会進行なんて緊張するな…」

「守華なら大丈夫だろ。あんな大人数の前で堂々と踊ったこともあるんだから」

「それとこれとは違うわよ」


「去年も思ったんだけど、なんでボスは面接しないの?」

私の入社のときも社長面接はなかった。今年も同じで、最終面接は田中さんが担当していた。

緊張しすぎて、最終面接が田中さんだったことすら覚えていなかったけれど。


「だって、俺より田中の方が社員と接する時間長いだろ?俺が面接するより、田中に判断してもらった方がいい」

「あ〜なるほどね」


「でも、履歴書くらいはちゃんと目を通してるけどな」

「え、じゃあ私の履歴書もちゃんと見てたの?」

「もちろん。その時点で田中には採用するよう言っていた」

「えっ!?そうなの?なんでなんで?」

「なんでかは俺も分からないけど、なんかピンときたんだよな」


「どんな理由よ、もう」

「案の定、俺の目に狂いはなかったな。秘書を務めあげ、企画を成功させ、それに俺の女になった」


嫌らしく笑う蓮に、私は思わず苦笑する。

「それは、私の才能ね」

「SPにならなくてよかったよ」と、また笑い出す。


「もう!じゃあ今年の新入社員も履歴書だけで採用した人いるの?」

「いや、守華だけだ」

「やっぱり、私とボスは運命かもね」

私はニコニコ笑う。


「ん?待って!私のこと分かってたんでしょ?あのとき部署や名前、なんで聞いたの?」

「あれは、あえて聞いただけだ」

「何それ」

「守華が予想外の行動してきたからな。まさかいきなり抱きつかれるとは」

「ちょ、その話もうやめてよ」


「どうする?今年も俺に誰か抱きついてきたら」

意地悪そうに言う蓮。

「そのときは…」

「なんだよ」

「秘密ー」


そう言って、私は笑いながら走り、セッティング中の社員の元へ向かい手伝いを始めた。


今年は10人の新人が入社した。


私も先輩になるんだな…って、秘書に誰か入るわけじゃないから、結局今年も私一人だけど。


去年の私はあっち側に座って、蓮が蘭明だと思って…なんだか変な気分だった。

それが、今や蓮は私の彼氏。胸がドキドキして、自然と呼吸も少し速くなる。


「それではここで、株式会社サザンクロス 代表取締役社長 中村 蓮れんより、ご挨拶を申し上げます。皆さま、どうぞご清聴ください」


壇上に歩いていく蓮。やっぱり予想通り…


「やばー、かっこよすぎる」

「彼女いるのかな?」

「社長がイケメンってやばくない?」


去年と同じように、新入社員の女子たちの声が飛び交う。

私は蓮を見つめながら、胸がぎゅっと締めつけられるような高鳴りを感じていた。


「新入社員のみなさん、おめでとう。私はこのサザンクロスの社長、中村 蓮だ。君たちの1つ先輩になる去年入社の社員たちは、この1年間で素晴らしい活躍を見せてくれた。我が社はベテランだろうが新人だろうが、やる気と発想力があれば誰でも企画の中心になれる。ここに座っている10名の新入社員のみなさんの力を楽しみにしている。それと…私のことは社長ではなく、“ボス”と呼んでくれ」


やっぱり「ボスと呼べ」は欠かさないんだね。社長って堅苦しいのが嫌らしい。

蓮のその自信に満ちた笑顔を見て、私は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。


拍手しようとしたそのとき、蓮がマイクに向かってさらに話し出す。


「あと、この会社は社内恋愛は自由だ。ただし、仕事とプライベートはきちんと分けろ」


何を言い出すんだろう…と思った瞬間、自然と笑みがこぼれる。


「俺を狙おうとしている新入社員の女子、覚えておけ。俺には彼女がいる」


えーーーー!?

心臓が飛び出しそうなくらいドキドキする。

焦る私の視線を周りにやると、田中さんや琴音、ほかの社員は笑っている。

新入社員の女子たちはショックで固まっていた。


「その彼女は…」


私に指をさす蓮。


「そこで司会進行をしている、秘書の神崎だ」


みんなの視線が私に集中する。

顔は平静を装って笑っていたけど、心臓がバクバクして、思わず手が少し震える。

蓮の視線が私を見つめるたびに、胸の奥が甘く熱くなる。


「いいか、神崎を狙おうと思ってた新入社員の男子!その気持ちはここで捨てろ。俺の女だからな。以上!」


「「おーーーーーー!」」


社員たちと新入社員の男子たちの歓声が上がる。

蓮が私の前を通り過ぎるとき、耳元で小声で


「何言ってるのよ」

「これで俺に抱きつこうとする女はいないだろ」


「ったく…」


でも、心の奥ではすごく嬉しくて、胸の高鳴りがまだ止まらなかった。

蓮を見つめる視線が、自然と笑顔になっているのも自分で分かる。



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