第九話 ロサンゼルス空襲
飛龍から飛び立っていった第一次攻撃隊は上空で整列すると、そのままの状態でゆうに灯りの形がはっきりと見えそうな時、それぞれの機体が攻撃前の最終確認をする。
編隊長機[攻撃隊、状況ヲ知ラセ]
艦爆隊長機[コチラ艦爆隊、各機所定ノ位置ニテ待機。各機ニ損傷オヨビ不具合認メズ]
艦攻隊長機[艦攻隊、全機万全。爆弾ニモ不具合ハナシ、投下準備ヨロシ]
編隊長機[了解。攻撃隊ハソノママ所定位置ニテ待機、ワレノ合図アリ次第スグニ攻撃セヨ。各機状況知ラセ]
二番機[コチラ二番、問題ナシ。攻撃隊ノ援護ハ可能]
四番機[四番機、機体ノ旋回良クナイ。シカシ、戦闘ニ際シテノ問題ハ認メズ]
三番機[三番。機体状況ハ良好、戦闘ハ可能]
五番機[コチラ五番機。全テ良好、作戦ノ支障ヲキタサナイ]
六番機[六番。準備完了!]
編隊長機[攻撃隊ヨリコチラ護衛隊、全機戦闘ニ支障ナシ。直チニ攻撃体制ニ移行可能、ソチラハイカガナモノカ?]
艦爆隊長機[コチラ艦爆隊、全機戦闘ニ支障ミトメズ。目標ハ確認デキルカ?]
編隊長機[視界良好。ダイブ下方ガヨク見エルヨウニナッテキタ、モウ攻撃シテモイイ頃ダロウ]
艦爆隊長機[シカシ、敵モ呑気ナモノダ。我々ガ上空ヲ飛ンデイルノニ、迎撃機ノ一機モ来ナイトハ]
編隊長機[油断スルナ。既ニ見ツカッテイルヤモシレン]
その時だった。攻撃隊の護衛についていたある一機の零戦から
「攻撃開始」
の合図である信号弾の一筋の閃光が光る。それを確認したそれぞれの隊長機は翼を左右に振ると、一気に下方へと緩降下していった。
彼らを出迎える街の明かりはこの世のモノとは思えないほどに美しく輝き、搭乗員達は自らのする事に武者震いが止まらなかった。
その頃、飛龍の艦内では、先に回収した東機関の職員が無線室で悪戦苦闘していた。
山口「どうだ、直りそうか?」
アジア人「全然繋がりません。この艦に無線がある部屋はここだけです?」
加来「そうだが、それがどうしたのです?」
アジア人「・・・じゃあ繋がっている無線は全部使えないのですか?」
加来「ええ。全部ダメですが・・・」
乗員「司令!報告です」
山口「どうした?」
乗員「はい!艦橋より緊急報告!攻撃隊からの信号弾発射を確認!攻撃を開始した模様です!」
加来「司令!」
山口「・・・ああ。状況は?」
乗員「信号弾の発射後、全機が緩降下で突入していきました。今の所、敵機の発見はありません」
加来「短波無線は使えるか?」
アジア人「一応は使えるが、海軍の無線はイマイチ信用ならん。もしかしたら敵に傍受されて、位置を悟られるかもしれんぞ」
加来「そうなる前に徹底的に叩けば問題はない。それに、どのみちここから向こうまでそれほど遠くない、だから直接連絡しても支障はないだろう」
アジア人「・・・だと言いがな」
加来「なら結構。すぐに通信「飛行場、燃料施設ヲ見ツケ次第、優先的ニ破壊セヨ」よろしいですかな司令?」
山口「構わん。だがせめて暗号だけはかけて貰いたい」
アジア人「了解」
山口「それと一つ付け足してくれ「諸君ラノ健闘ヲ祈ル」とな」
山口は遠くの街を攻撃する攻撃隊を思いながら、彼らの無事を祈った。
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その頃ロングビーチのある港では、そんな事が起きてるとは梅雨知らずの米兵達が、ある「貨物」を慎重に降ろしていた。
自動車のエンジンとクラクションが響く街の様子を見ていたロバート・オッペンハイマーは、一緒にやって来たジョン・フォイ・ノイマンらを始めとした研究者達や陸軍の将校と共に、ゆっくりとその様子を見つめている。
オッペンハイマー「積荷の荷下ろしはどうだ?」
歩兵1「はい!もう少しで機材の荷下ろしは完了、その後は直ぐに例のブツを下します!」
ノイマン「いいか。機材は慎重に下ろせ、衝撃で少しのズレがあったりしては、マトモに使えん」
歩兵1「分かっています。しかしノイマン博士、コイツは一体・・・」
ノイマン「軍事機密だ。それ以上は言えん」
歩兵1「了解です」
歩兵2「しかし遅いですな、もうそろそろ着いてもいい頃なのに・・・」
オッペンハイマー「確か第二次輸送船団か。最近は日本の潜水艦がこの海域で目撃されている、無事だといいのだが・・・」
伝令「緊急電!ロサンゼルス空港のレーダーに反応あり!正体不明機多数が、ロサンゼルス市内に向けて接近!恐らく敵機かと思われます!」
ノイマン「馬鹿なことを言うな!空母打撃群が来たのなら海軍が相手する筈だ、それにここは補給すらままならない場所、仮に日本軍機だとしてもここに来ることすら到底・・・」
伝令「しかし現にここに来ています!ここにいてはいつ攻撃が来るか・・・」
歩兵1「敵機接近!間違いありません、日本海軍機です!数十一、真っ直ぐ突っ込んでくる!」
オッペンハイマー「積み出し中止!関係者は至急退避!」
歩兵2「しかし、確かアレ一台を作るには莫大なコストがかかるのでしょう?ここで失ってはどうするので・・・」
オッペンハイマー「言ってる場合か!命の方が格段に・・・」
歩兵1「敵機一機接近!零戦だ!」
その瞬間、敵機の胴体と主翼から、閃光と共に多数の弾丸が雨霰と降り注いできた。オッペンハイマーはノイマンを咄嗟に掴んで倒すと、たまたま死角に入って難を逃れるが、数人の歩兵が銃弾に当たって倒れる。
オッペンハイマー「ノイマン!無事か?」
ノイマン「お前のお陰で膝を擦りむいた。だが、それよりも早いこと避難しなければ、ここにいてはいつか殺される」
オッペンハイマー「分かってるよ。とにかく早くここから・・・」
将校「博士!ご無事ですか?!」
ノイマン「無事に見えるか?ともかくここにいては危険だ、この近くに防空壕はあるか?」
将校「確かにありますが、あの機材を中に入れるにはスペースが全く・・・」
ノイマン「こうなる以上、機材を失うのはやむおえん。あなたはそう言いたいだろう、オッペンハイマー博士?」
オッペンハイマー「物分かりがいいな。それに、機材ならまだ政府に頼めば何とかなる、大統領もノイマンのような天才を失うのは億劫だろう」
ノイマン「それはどうも・・・」
伝令「司令!ロサンゼルス空港より入電!侵入した日本機が格納庫を襲撃して炎上中!迎撃機の発進は困難を極めるとあります!」
将校「対空砲はどうした?!」
伝令「それが、市街地に敵機が墜落するリスクが大きく、億劫な対応になっていて・・・」
ノイマン「完全にしてやられてるか!畜生!我々に指揮の才能さえあれば、ここで的確な指示を飛ばせると言うのに・・・」
オッペンハイマー「無いものはないだろう。とにかく、今は自分たちの命を最優先にしておけ。だが、奴らどうやって東海岸近海に・・・」
歩兵1「博士!輸送船のレーダーが新たな機影を捕捉!方角は変わらず!恐らく第二次攻撃隊である可能性大!数は十二!」
将校「君!沿岸部でも内陸でも何でもいい!とにかく迎撃機を寄越すように要請しろ、対空砲は撃っても構わん!博士は早く防空壕に退避を!」
オッペンハイマー「分かっている。ノイマン、とにかく急ぐぞ」
ノイマン「はい!」
そう言うと、二人は護衛と共に急いで防空壕へと走って行った。そしてふと空を見上げると、まるで入れ替わるように日本機は撤退していった。
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しばらくして、帰還した第一次攻撃隊と入れ替わるように襲来した第二次攻撃隊は、敵からの熱烈な砲火を浴びながら、徹底的にロサンゼルス市街地を破壊していった。
同じ頃、山口と加来は、拝借したボートでアメリカへと旅立つ東機関の職員の見送りをしつつ、各部門の班長達から艦内や乗員達の状況を詳しく聞いていた。
乗員1「司令!カッターの積み下ろしが完了しました!」
山口「ご苦労。見た目は大丈夫そうか?」
アジア人「変装していますから大丈夫ですよ。それよりも、そっちも厳しいのに食料を分けてくれて本当に感謝します」
主計長「もちろんです。貴方は艦長達に協力していただいた、我々主計課からの些細なお礼ですよ」
加来「飯の方は大丈夫そうか、主計長?」
主計長「あの距離です。きっと充分すぎるぐらいですよ、所でこの後はどうやって向こうに?」
アジア人「頑張って漕いで行きます。それにこの辺りは民間船の行き来が盛んですから、何とか捕まえてみますよ」
主計長「それなら何とか・・・」
アジア人「じゃあ私はこれで」
山口「ああ、少し待ってくれ」
アジア人「何です?」
山口「少し言い方が悪いかもしれんが。どうして我々にこうも優しく接してくれた?そっちの仕事上、態度によっては命に関わるかもしれんのだぞ?」
アジア人「・・・「久しぶりに会う同胞の顔を少しでも拝みたかった」と言うのではダメですか?」
山口「つくづく、変なやつだな。どれだけ会っていなかった?」
アジア人「かれこれ数ヶ月、いや半年は経っているかもしれません。しかも、向こうで日本人は大多数が収容所送りになっているのもあって、こう顔を見るのはあなた方が初めてだ」
加来「我々の同胞が収容所送りになってるのは聞いた事ある。確か司令はアメリカに渡った事がありましたな?」
山口「ああ。大使館付武官で何度か行ったことがある、アメリカの現状についてもある程度は知っているつもりだ」
アジア人「そうだったのですか。でしたら少し話したい事が・・・」
戦闘班長「艦長!無線室より報告!敵燃料施設を発見したとの報告があがりました!また、一部が市街地や工場などを中心に機銃掃射を加えていますが、やめさせますか?」
山口「放っておけ。アメリカとは戦争状態だ、空襲されても文句は言えんだろう。それよりも、第一次攻撃隊の損害はどのようになっている?」
戦闘班長「はい!人員については負傷者六のみ。機体の損害は中破二機のみ、どちらも艦爆です。ですが、損傷の程度から修理は十分に可能!」
山口「ご苦労。修理できるやつはすぐに修理させてくれ、念のために第三次攻撃隊の発進も視野に入れておいてくれ」
戦闘班長「了解です!」
山口「頼んだぞ。さて、今のうちに貴方はこの船を降りた方がいいかもしれん。今なら向こう側に注意が向いてるはずです」
アジア人「では、そうすることに致しましょう」
加来「いつかまた、会えますかな?」
アジア人「私は裏の軍人です、二度と会うことはないでしょう。でも、この恩義は一生忘れないようにしましょう」
山口「助かる」
加来「総員帽振れ!敵本土にて戦う同胞に、心からの敬意を示せ!」
加来がそう言うと、その場にいた全員が帽子を掲げて見送る。それを見た職員は静かに頷くと、手慣れた手つきで縄を使って降りてボートに乗り込む。
そして船を漕ごうとしたその瞬間、遥か向こう岸から大きな破裂音と突風が襲いかかってくる。その場にいた全員が遠くを見ると、遠くの空が赤黒く染まっていた。
加来「どうやら、燃料施設を破壊した様ですな」
山口「それにしては、大きすぎる気もするがな。大丈夫そうか?!」
アジア人「ええ!何とか!」
乗員1「第二次攻撃隊を確認しました!着艦体制に入りつつあります!」
加来「第一次攻撃隊の収容はどうだ?」
乗員2「先程、艦爆と艦攻の収容を完了しました!戦闘機隊も間も無く終わるかと思われます!」
加来「了解した。・・・ですが、きっと敵も打って出てくるでしょうな」
山口「ああ、ここには長居できん。だが、攻撃帰りとは言え、アイツらの航続距離的にそれほど遠くにも行けんだろうな」
加来「ここは機体を捨てる以外の選択肢は無さそうですか?」
山口「だな。急いで通信を・・・」
乗員2「報告します!本艦より六時方向から、またあの霧が!」
加来「こんな時に限ってか!第二次攻撃隊は何機ぐらいいる?!」
乗員2「確か十二機はあるかと・・・」
山口「・・・やむおえん。第二次攻撃隊には不時着を指示!助けれる奴だけを収容させる」
加来「だとしたら、あの職員が巻き込まれてしまいます!退避を指示させて・・・」
その時、霧は一瞬のうちに飛龍と第二次攻撃隊を飲み込み始めると、まるで弾き出される様に職員の乗ったボートが物凄い勢いですぐそばの海に押し出される。
唖然としている職員が再び飛龍のいた筈の海を見てみると、そこには「幽霊船」のように佇む一隻の輸送艦が、炎の光で赤黒く輝いているだけであった。
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朝になり、アメリカ合衆国大統領であるフランクリン・デラノ・ルーズベルトは、ワシントンD.C.のホワイトハウスで一人頭を抱えていた。
そんな彼を副大統領であるヘンリー・アガード・ウォレスがコーヒーを片手に執務室へと入ってくる。
ウォレス「大統領、どうかなさいましたか?」
ルーズベルト「ウォレスか。
ウォレス「それは一体なんです?」
ルーズベルト「これか?これはロサンゼルス・タイムズのの原稿だ、少しこれで悩んでいてな」
ウォレス「ロサンゼルス・タイムズ?どうしてそんな地方の新聞を?」
ルーズベルト「読んでみろ」
ウォレス「では失敬。ええと?「日本軍機動部隊の攻撃か?!ロサンゼルスが謎の空襲を受ける!」とありますが・・・」
ルーズベルト「よく落ち着いていられるな。そこは流石と言ったところか」
ウォレス「止まるも何も、貴方とあろうものが何をおっしゃっているのですか?第一そんな情報、とてもじゃないですが信じられません!」
ルーズベルト「君の気持ちも重々わかる。だが、この情報がロバート・オッペンハイマー博士からの電報だとしたら、君は信じるかね?」
ウォレス「オッペンハイマー博士ですか?電報は一体どこから?」
ルーズベルト「ロサンゼルスの陸軍からホワイトハウスへの直接通信だ。今はロスアラモス基地に向かっているとのことらしい」
ウォレス「ロスアラモスと言いますと、例のマンハッタン計画ですな。・・・もしかして、博士はそれに巻き込まれたとでも言うのですか?!」
ルーズベルト「そのまさかだ。実は、君が来る前にスティムソン陸軍大臣とも話はつけてある、恐らく情報は本物である可能性は高い」
ウォレス「だとすると、計画の進行に支障でもあるのですか?」
ルーズベルト「その点は問題ない。エンリコ・フェルミ博士を始めとする大半の参加者は、既にロスアラモスに着いている。オッペンハイマー博士と一緒にいたノイマン博士も、膝を擦りむいた程度だ。ただ、運んでいた機器類に多少の損失があったようだがな」
ウォレス「喪失と言いますと、確か第二次輸送船団もいまだに到達しておられないのでしょう?日本潜水艦の襲撃があるとは言え、この攻撃は少々異常では?」
ルーズベルト「そこなのだよ問題は。私は海軍にいた事があるからある程度解るが、これは明らかに艦隊規模での攻撃以外にあり得ん」
ウォレス「しかし一体何を企んでるのでしょう?それに、どうしてこの近海にいるのに対潜網に一度も掛からずに・・・」
補佐官「副大統領、緊急での記者会見の予定が入っておられます。至急登壇の用意を」
ウォレス「分かった。では大統領、私はこの辺りで失礼します」
ルーズベルト「いやご苦労。だが、少し私を一人にさせてはくれんか?」
ウォレスは静かに頷くと、大統領補佐官と共にそのまま部屋を出て行った。
一人残されたルーズベルトは、その手に握られた電報用紙と「マンハッタン計画」と書かれている計画書を強く握り締めながら
「忌まわしいジャップどもめ。必ずや、貴様らに正義の鉄槌を喰らわせてやる!」
と静かに唸るのであった。




