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ゲート・イン・ゲーム    作者: 牧野薪
5/9

朝食

『おはようございます。XXXX年8月5日月曜日8時00分。本日の聖花地区の天気は晴。起床の時間です。ピピピピピピ。』


機械的な声のアナウンスに寝ぼけ半分に朝が来たのだと認識する。

今日の天気は快晴だそうだが、明るい光は瞼の裏に差し込まない。


いつもとは違う環境に、学校に入学して以来の寮部屋から、夏休みの間だけ兄の屋敷に居候していることを改めて優菜は実感した。

普段の暮らしとは大きくかけ離れている屋敷での生活は、あまり変わりすぎて未だに夢見心地で、中々馴染むことができないでいた。


うっすら目を開けると、半透明のwindow画面には先ほどのアナウンス内容と共に、可愛いお日様のイラストが映し出されていた。その先には、天蓋ベットの天井の布地が見える。

優菜は、眠たさと戦いつつ体を半分に起した。

夏休みのこの頃、本来であれば枕に翻りまた二度寝を始めるところだが、そういう訳にはいかない。


はじめて『ノック・WOKLD』にゲートログインする日。

すでに5年前から「ノック・プレイヤー」である友人の巧とゲート内で会う約束をしている。

なんでも、本人は中でSAMURAIの恰好をしているという。優菜は楽しみだった。


天蓋のカーテンを開け、裸足のままスリッパをはき、個室に備え付けられているシャワー室に向かう。大理石のひんやりとした床に足を付け、大きな円形の鏡を前に歯を磨いた。


白と銀を基調とした水場は、太陽光と照明の光に反射して眩しく輝いている一方で、鏡の前の自分はとても眠そうだと思った。


シャワーを浴び終わり、お屋敷の人が持ってきてくれた白のワンピースに着替える。

後ろを振り返れば、スカートの裾が軽やかに揺れた。

時計を見ると、9時00分。屋敷の朝食専用の部屋にテレポートで向かう。


フッと青い光が円形に広がると、上に数メートル上がり、目的地が現れた途端、ゆっくりと地面に着地した。


朝食会場は長い天井に沿うように大きな窓が壁一面に備え付けられ、細かいレースのカーテンが掛けられている。中央には白縁で青い布地のテーブルがあり、椅子は1つだ。


「おはようございます。優菜さま。やはり今日もお似合いです。お洋服の選びようがあるというものですわ。本日、零様は急ぎの用向きがありまして、早朝立たれましたが、優菜様と一緒に朝食が取れないことを寂しがって御出ででした。」


正面を見るとメイド姿の女性が朝食のセッティングをしている。

優菜は椅子に腰かけ、女性を見上げた。


「おはようございます。ありがとう、ニーナさん。今までこんな格好したことなかったから、なんだか少し恥ずかしいです。これはニーナさんが?」


「いいえ。それは零さまがご用意したものです。新しく繕いましたお洋服の内、零さまと私で半々にデザインを選びました。」


「そう。兄さんが...。後でお礼に行かないと。ニーナさんも私のためにありがとう。」


「いいえ。私は優菜様のお世話ができて嬉しいのです。零様も仰せですが、夏休みだけとは言わず、ずっとこのお屋敷に居てくださればよろしいのに。」


優菜は夏休みが明けてから、学園が用意した他校混同の新寮に入居する予定になっていた。

空調調節器が故障する事自体、全くめずらしい現代、修理に加えて調査を行う必要があり、それも長期に渡るそうだ。しかし、この中途半端な季節に空いている寮部屋は少なく、他校合同寮には台所付きの空き部屋があるとのことで、学園が紹介してくれた。


「ありがとうございます。ですが、私は青五家の人間ではありませんし、皆さんにお世話になっている身ですから。わあ!美味しそう。」


白いプレートの上には、香ばしく焼きあがったフレンチトースト、色とりどりのフルーツ、真っ白なクリーム、凹凸のある硝子瓶にメープルシロップが入っていた。



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「ふう。美味しかった。この紅茶もすごく香りが良いです。」


朝食のフレンチトーストは、私が今まで味わった中で一番美味しく、幸せなひと時だった。

紅茶も花の香りが奥深く身に染みわたる。


こんなに良い朝を迎えられて、気持ちも心も軽やかだった。

しかし、何かを忘れている気がする。


「ええ。そちらは東国で有名な農園の茶葉で、零様もお気に入りなのです。お口に合いましたら、後でお部屋にお持ちいたしましょうか。」


「そこまでしてくれるのは悪いわ。次のお茶の時まで楽しみにとっておきます。」


「ふふ。そんなに遠慮なさらずとも良いのですよ。とはいえ、零様も青五家に来たばかりの頃はお嬢様と同じことを仰せでした。今となっては注文ばかりですが、私共としましては、零様が信頼し頼って下さることが何より嬉しいのです。」


「当時の兄を知っているのですか?」


その時、壁に掛けられた振り子仕掛けの時計がゴーンとなった。

時間は丁度10時になったころ間だ。

10時_・・・。


「ああああああ!たくみ!」


しまった。約束が!!


「ニーナさんご馳走様。朝食とても美味しかったわ。私、もう部屋に戻りますね。」


「ええ。いってらっしゃいませ、優菜様。」



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