ギルド「花札」
雲一つない青い空、本物と変わらない眩しい太陽が、暑さを地面に照り付ける。
ゲート内の季節は夏。
現実世界とは違い、容赦なく夏の暑さがフィールド内を覆う。
アカウント作成者が初めにどり着くSTARTエリアにほど近い、「ノック・WORLD」モーセ噴水広場
『旧約聖書』「出エジプト記」モーセの逸話をモチーフにしたこの広場は、10㎞に及ぶ通路の両側に巨大な人工滝が流れ、端から5km先の通路中間点には円形の噴水が設置されていた。滝の音に負けないほどに水しぶきを上に上げ、重力に従って勢いよく落下する。
スタートエリアから出発したばかりの初心者が、大きな水音を響かせるこの広場に立ち寄り、しばらくその美しさに滞在することで有名だった。
また避暑地としてもこの広場は活用されており、現在は中級層レベルのプレイヤーも訪れている。
その円形噴水の縁に腰かけ、胡坐を組んで瞑想をしている青年がいた。
茶髪の長い髪を一括りに結い、青緑色の雪解け羽織を身につけている。
初心者プレイヤーは青年を嬉々とした眼差しで眺め、惚れ惚れしている一方で、少年の正体を察知した何人かの中級者レベルのプレイヤーは数歩引いて、その様子を見ていた。
「あれ、花札ギルドの隊長じゃないか?」
夏の日差しに目を細め、円形噴水の数メートル先で立ち止まる。
話しかけられた連れは目を細目にして、判読スキルを発動した。
名:拓一郎
職業①:武士
職業②:和菓子職人
ギルド名:非公開
属性:_
(以下、読取不可能)
「花札?確かゲートLIVERの『橘ひかり』が所属している強豪ギルドだろ?『情報収集・ゲリラ戦』が得意な。和風ギルドとはいえ、なぜあいつが花札の隊長だとわかるんだ?俺にはプロフィールのギルド名が非公開表示されているように見える。そもそも、その隊長さまがいくら夏の真っ盛りと言っても、こんな初心者エリアに足を運ぶとは思えん」
額の汗をぬぐいながら、判読スキルを解除し、改めて彼をみる。
どうやら彼は数人の初心者に話しかけられているようだ。
チュートリアルタウンの方向を指さし、何やら笑いながら説明をしている。
最後には、噴水の水で花を作り出し少女たちを笑顔で見送った。
その様子を眺め、あれって本当に水だよな?とお互いにに無言で問いあう。
「俺もわからん。ほら、羽織紐に花札の飾りがついているだろう。あれが4枚ついていて、尚且つ、背景が金色だと、12月分ある花札隊の一隊長なんだよ。あの山が描かれた模様、何という名前だったか」
「水を自在に操る剣士..聞いたことがある、花札『坊主』隊隊長は水属性の中でも指折りの存在でそれに因んで『海坊主隊』と呼ばれているとか‥」
その後、青年は様子を見ていた別の初心者に話しかけられ、今度は10個の水で出来た球体をお手玉技のようにして披露し、歓声を集めてる。
それは次第に大型ショーに発展し、その水しぶきによってモーセ広場には数々の虹が掛けられた。気が付けば、円形噴水広場は人で溢れ、これまで様子を見ていた中級者も輪の中に加わり、拍手を送っている。
「ああそうか、思い出したぜ。花札ギルド海坊主隊隊長の拓一郎だ。」




