教義
「久しぶりじゃのう。ナギよ」
私に微笑みを向けている老父は紛れもなく、ジャック長老だ。
「生きていらしたのですね……」
私は、握っていたマテバを下ろした。
「お前が教会を飛び出して、軍人になり、戦争が始まったあと、教会は空爆にあい、そのまま解散になってしまったが、ワシはこうして生きておる。まだまだやらねばならないことがあってな。こうしてお前に会いにきたのも、そのためにお前に力を借りるためじゃ」
長老は、皺だらけのごつごつした手で私の手をとり、茶色い瞳でじっと私の目を見つめた。
どんな頼み事かは大体予想がつく。
「長老は、ジットウイルスについてご存知なのですね」
「ああ、戦中、お前に投与されたことも、そっちのお嬢ちゃんのことも、すべて知っておる」
長老は、ベッドに腰を掛けて、鉢植えを抱えているレイナに微笑みかけた。
「でも、どうしてそのことをあなたが……」
「お前には言っていなかったな。ドグマのことを」
長老は、私の手をそっと放すと、その手を杖をついている手の上にそっとのせ、再び口を開いた。
「ドグマは、数千年前から続いている全ての宗教、資源、科学技術、国家を裏方から統率する組織で、設立以来全世界の均衡を保っていた。お前が育った教会の上層組織でもあった。教会が解散になった後、ワシは先代から委員長を引き継いだのじゃ。そのドグマの代表として、全世界にとってのジットウイルスの脅威を知ったのじゃよ」
「それで、私はどう協力すればいいのでしょうか?」
「おお、そうじゃったな。力を借りたいというのは、この男のSMPからの脱出を手伝ってやってほしいのじゃ」
長老は、上等そうなコートの内ポケットから一枚の写真らしき紙を取り出すと、私に手渡し、呟いた。
「ドグマは、全世界の教義でなければいかん」




