再会 side スイ
どういうことなんでしょう?
私たちが会いに来た人というのは主人の師匠だったはずです。
そのためにルムの実を食べ、この街まで(実際は途中までだが)全力疾走しました。
私は目の前の光景に言葉が出ません。
一人の女性がフリッツに後方から腰をつかんで後方に反り投げ、ブリッジの体勢で固めています。
所謂、ジャーマンスープレックスの体勢ですね。
ゴードンさんが言ってた「油断するな」とはこのことなのでしょうか
「じじょっ、いぎなぐぃ、な、お」(※訳、師匠、いきなり何を)
「周囲にはいつも気を配っておきなさいって私はさんざん言ってたでしょう?」
「げはい、っだくかんじ、がったでずげど!」(※訳、気配は全く感じなかったですけど!)
「あら、気付かれたら奇襲にならないじゃない。当然でしょ」
なぜ、会話が通じているのでしょう?
それはともかく、私も全く気配を感じられなかったです。
歩いているときに急に横から「ぐえっ」と、カエルが潰れたような音がして、振り返ると既にこの状態でした。
地面にひびが入ってますよ!
一体何者ですか、この人は。
「ど、あえず、ぁなじで…」(※訳、とりあえず、離して…)
「あら」
女性はフリッツの腰から手を放すと、上体を起こして立ち上がった。
そして「ぶわっ」と乱れていた黒くて長い髪を片手で払う。
さっきの体勢ではわからなかったが、この女性はとても背が高いです。
175㎝の主人と少ししか変わりません。
「主人、もしかしてこの人が…」
「そう、アヤメ・サクラノ先生。俺の師匠だ」
「よろしくね、私のことはアヤメって呼んで頂戴。それにしても「先生」なんて、学生時代そんな素直に言ったことなんてなかったのに。いい子になって~♪」
「撫でないでください/// 俺もあの時から成長してるんですよ師匠。だから師匠って呼んだ瞬間,にやにやしながら頭を撫でないでくださいってば///」
あの主人が顔を真っ赤にして照れています。
普段からは想像もつきません。
「アヤメさん、いろいろ聞きたいんですが主人はどんな生徒だったんですか」
「まあ、そうね。一言にまとめると、ツンd…」
「とりあえず小屋の中に入りましょう、師匠!」
ああ~、主人が大声で叫んだので聞こえませんでした。
気になるじゃないですか。主人の馬鹿。
あとでこっそりアヤメさんに聞いておきましょう。
「これが2年のときの文化祭での女装姿、こっちは教室の机で寝てるときの写真ね」
「んっーー、んー」←椅子に縛られて口はテープでふさがれている
結局、アヤメさんの主人弄りは小屋の中に入っても止まることはありませんでした。
主人は目じりに涙を浮かべています。
もうライフは0でしょうね。
それにしても、こんな恥ずかしい写真を大量に撮られているなんて。
ホントに学生時代は何があったのでしょう。
「よし、感動の再会はここまでにしましょうか」
「・・・・」←椅子でぐったりとしている
「はははは…」
ええ、もう何もツッコみませんよ。
アヤメさんがどういう人かはこの数十分で大体わかりましたし。
主人の目もほとんど死んでますよ。
生きて、ますよね?
「それで、うちの弟子の要件は何か知ってますか、精霊さん」
もう何も驚きません。
久しぶりの弟子にジャーマンスープレックスかまして、その弟子を恥ずかしさで悶えさせたり、椅子に縛ってその続きを聞かせるような人ですから。
「それは、」
「俺から言いますよ」
死にかけていた主人が息を吹き返しました。
死んでなくてよかったです。
それから主人は自分の「傷」のことについて話し始めました。
「つまりその傷についての情報が欲しいと。でも、実際に症状を診ないと何とも言えないわね。次にその症状がくるのは?」
「明日の晩です。三日に一回なので」
「じゃあ最低でも二日はここに滞在しなさい。話したいこともたくさんありますし」
アヤメさんはにっこりとほほ笑みます。
やっぱり彼女も弟子である私の主人と久しぶりに会えてうれしいみたいです。
「じゃあ、二階を片づけてくるからゆっくりしていて頂戴。」
アヤメさんが階段の途中で振り返って言いました。
主人の部屋は二階になるみたいです。
主人は立ち上がってキッチンの方に歩いて行きました。
「コーヒーと紅茶か… スイはどっちがいい?」
「コーヒーでお願いします」
主人は慣れた手つきでコーヒーを淹れます。
その手際からこの小屋にどれだけ長い間いたのかがわかります。
コーヒーが出来上がり、両手で二つのカップを持ってきました。
「スイは何も入れないんだよな」
覚えていてくれていたようですね。
嬉しいです。
まあ、いつもブラックで飲んでましたから。
そういえば、ときどき上からものすごい音が聞こえるんですが、アヤメさんは何をしてるんでしょうか?
でも、主人も気にしていないようですし、私も気にしないようにします。
主人も椅子に座り、私たちがコーヒーを飲み始めようかというときでした。
「すいませんアヤメさん。少し遅くなってしまいました」
急にドアが開いて、外から女性が一人勢いよく入ってきました。




