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第30話:帰還

 ──────地球世界


 扉の向こうに手を伸ばしたリュウファは風の声を聞いた。

 時空を渡る風が、遠い昔に奪われてしまった自分をよく知る人物の声を伝えてきた。

(なんで・・・)

 伝わってきたのは、時空の狭間から・・・それは迷い子となっていた『たける』を送り出し、悠久まで持つといわれた能力で守っていた扉を開放するという声。

 彼の記憶の中で、すべてを引き連れて死に、そして転生を果たした闇王の声。

「今のも、理の声?」

 洸野の耳にも届いたのか、彼は不思議そうに隣にいる良弘に問い掛ける。

 しかし同じく声を聞き取った彼は少し首を傾げている。

「少し、違う気がしますが・・・」

 声は全く一緒だったが、雰囲気が違う。もっと重厚感のある、何百年も何千年もそれ以上に生きていた人間の声に聞こえた。

「それよりも、洸野君、準備を・・・後1分後、庭の白木蓮の下に、穴が開きます」

 洸野はその言葉に、肯き、魔法陣から手を離した。

 開け放した窓から外に出るとベランダから外の庭へと繋がっている階段を駆け下りた。白木蓮は、理の好きな花で花の盛りにはよく二人で花見をした。ベランダから人工池へと抜ける道の途中にあるそこへ彼は一直線に向かう。

 洸野がその場に着いたのは丁度1分を経過した時だった。

 闇の中に浮かぶ白い花、その花の下に空間の歪が不気味に存在していた。洸野は力任せにその空間へと手を突っ込むと手に当たったものを引っ張り出した。


ぐぽり・・・


 無気味な音ともに見慣れた紫がかった黒髪が洸野の前に現れた。

 間違いない。本物の威だ。意識を失いぐったりとしているが、間違うはずがない。

「威っ!威!!」

 洸野は叫びながら、その身体を穴の中からもっと引きずり出そうと力を入れる。しかし穴から伸びてきた無数の腕が彼を邪魔しようと・・・洸野まで引き込もうと彼の腕や身体に巻きついてきた。

「放せっ!返せっ!」

 引きずり込もうとする手は黒さを増し、引き裂かれた空間を更に広げて洸野へと襲い掛かる。

 それをなんとか避けながらも、洸野は威の身体を引きずり出すことに成功した。

 獲物を取られた手は、更に伸びて、容赦なく二人に巻きついてくる。洸野は意識のない威の身体を庇うように抱きしめながら、引きずり込もうとする力に必死に耐えた。

「洸野くん、そのまま威を捕まえててくださいね」

 後を追いかけてきた良弘が静かにそう告げた。

 洸野は良弘の言葉に、威を抱きしめる力を強くする。

 良弘は紅い夕闇の中、辺りを青く染め上げる炎を身体から発し、空間の歪へと的確にそれをぶつけた。

 一瞬にして燃え上がる無数の手。手。手。炎は洸野の身体にも当たるが、彼には怪我一つ負わせない。ただ高温の熱だけがそこに存在していると感じるだけだ。

 良弘は更に手を生やそうとしている歪の中まで炎で焼くと、開いている穴を力任せに閉じた。その隙間からはみ出してこようとする手はことごとく、蒼い炎に焼かれ、辺りには臭気が満ちた。

「うわ、力任せの技・・・」

 最後に追いついてきたリュウファが良弘の行動を見て、小さく呟いた。

 どうやら彼から見てもとんでもない行動らしい。

「そのまま、閉じておいてね。その空間を閉じるから」

 少年の言葉に良弘は無言で肯く。

 リュウファは青緑色の光を出しながら、風を呼ぶと良弘の手によって強制的に閉じられているその穴を封鎖していく。

 最後に出てきた手を、良弘は容赦のない炎で焼き落とすと、そこには元の静寂が戻ってきた。

「大丈夫、ですか?」

 良弘に問われて、洸野は呆然としながら「はい」と答えた。

 彼はその答えに良弘は「そうですか」と静かに微笑むと、洸野の腕の中で意識を失っている息子の身体を軽々と抱き上げた。

「もうすぐみのるさんが屋敷につきます。

 今の騒ぎで由宇香ゆうかも目を覚ましたようですね。威が目を覚ましたら、リビングでこれからのことを話し合いましょう」

 洸野はその申し出に小さく肯くと、良弘の後について歩き始めた。

第29話の字数が多くなったので切りましたが、二つの話を足して帰還となります。

リュウファが時空の狭間から聞こえる闇王の声を懐かしいと言ったのは彼が理の前世からの知り合いだったことの証明です。

物語は後、最終部分を残すだけとなってきました。

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