第29話:闇王
威が飛び込んだ先には暗い闇しかなかった。
地球世界とは違う・・・だが何か覚えのある空気。
暗闇に目を凝らしてみても、闇が深すぎて何も見えない。自分が発しているはずの光すら闇に侵食されていってるのがわかる。
(ここは・・・・?)
威が思うのと同時に威の足元だけがぼんやりと明るくなった。
その明かりをつかって回りの様子を見てみる。
ヨーロッパの神殿のようなつくりの部屋だ。部屋の奥の壁には巨大な玉座・・・そこには誰かが座っているようだった。
「ここを、通るものが現れるとはな」
静かな、落ち着きが有り耳障りのいい静かな声が自分に話し掛けてくる。
「この闇の中でも光そ放つとは・・・光の者?」
その声は答えなど求めていないようだ。巨大な足が玉座の所で動いているのが見える。
「闇から光を生むもの・・・射朧か?」
自分のもう一つの記憶の中にある名前を呼ぶ者に彼は鋭い視線を送る。
「あんたこそ、誰だ?」
「私の名前は闇流、闇を統べき者だ」
男は威の問いに迷いもなく答える。それがまるで普通のことのように。
「どうして、この道を通るのだ?」
闇の中でその顔は見えないが、彼は本当に不思議そうに急に現れた威を観察している。
もっと見たくて目を凝らすと、威の身体が更に光った。今度は見えなかった顎のラインまでが見えるようになった。
「道を探しているんだ・・・地球に続く道を」
威の答えに男は手を顎に当て、考える仕草を作る。
こういう仕草を威はよく見ていた。イリューズと呼ばれていたときも、今も・・・。
「・・・何かの干渉を受けたというわけか」
考えていた彼の口が忌々しそうに低く呟く。
干渉が何なのかは分からないが、それは威にとってあまり喜ばしいことではないのだろう。
それに、ここはどうやら地球世界ではないようだ。
「ここはどこだ?」
威が問うと、彼は静かに答える。
「・・・ここは時空の狭間、此処は過去であり、未来でもある。そしてお前が求める時間へも通じる分岐点のような場所」
周りを見ると、威の生み出した光により無数の扉が照らし出されていた。その何れもが硬く扉を閉ざしている。
「私は過去の亡霊。思いだけがこの場所に残り、最後の要たる扉を彼らに奪われないようにしている」
よくよく見てみると、玉座に腰掛ける彼の身体は微妙に透けていた。思いだけになってもずっと守りつづけている彼が、少し悲しかった。
彼は自分の存在理由を告げるとすぅっと手を上げ、ある扉を指差した。
「その扉がお前が望む扉だ。その向こうからお前を呼んでいる声がする。どれも私も知っている声に似ている。この声がしている限り、扉は『地球世界』に向けて開かれる。
私もわずかながら力を貸そう」
カチャリ・・・
ドアの方から音がした。それはその扉の鍵を彼が開けた音だった。
途端に、自分を呼ぶ様々な声が扉から零れだす。
お礼を言おうと振り返ると、先ほどまで見えていた足が色を失い、透明になりかけていた。
「この扉を私が開く時、私は役目を終える・・・」
その言葉どおりに扉を示していた指も薄く消えかけていた。
「助けてくれて、ありがとう・・・最後にあなたの顔を見たい」
威は感謝の意をこめて深く礼をした後、闇に隠されて見えない彼の顔を再度見上げた。
威の申し出に彼の口元が静かに笑みを作る。その表情は記憶の一番近い場所にある『彼』の顔と重なった。
「扉が開くとき、光が私の顔を照らすだろう・・・その時、見えるはずだ」
威はその言葉に「わかった」と肯くと示された扉へと向かう。
扉は両開きの立派な扉で、ノブにまできちんと意匠が凝らされていた。彼はそのノブを握り、静かに扉を開く。
差し込む光の束、威は彼の顔を見るために振り向いた。
(え・・・・・?)
見上げた顔は静かに笑っていた。
黒い長い髪、漆黒の瞳、すっきりと通った鼻梁、眉目秀麗という言葉が当てはまる美しい容姿・・・少し大人びているが、その顔は先ほど分かれた義兄と酷似していた。
光が、彼の笑顔を消していく。
扉は威の身体を吸い込むと、真っ白い空間へと彼を引き摺り落とした。
座っていたのは理の前世で『地球の闇の王』の姿です。
能力と願いだけが地球世界へのゲートを守る空間を作り、守っていました。同じ顔、同じ声、年齢は闇王というぐらいですから並以上の年齢・・・大体死亡したときで1000歳は越えていると思われます。服装は神様っぽいのを想像してください。




