国内ロケ
国内ロケ
私は今まで我が社の出した年賀状よりインパクトのある年賀状を見た事が無い。それは黒1色の太字の年賀状である。私は敢えて官製はがきにこだわった。近年多くの年賀状がカラフルになり、写真を構図良く取り入れた現在に於いても変わらない。尤も、バブルが崩壊した煽りで、会社も個人も自己破産をした後、未だに復活の目途が立っていない現在、年賀状を出すのもままならない状態が続いている。
当時は違った。私は毎年、今年は何々をすると年賀状に書き、そしてそれを実行した。それは出来るだけ実現し難い物、意外な物、およそ仕事とは無縁な物程インパクトが有る。私はその法則を知ってから、年賀状に何を書くかより、来年は何を予告して、実行するかに知恵を絞った。
1990年のそれは映画を作るであった。内容がエスカレートするのに合わせ、黒1色の文字はますます太く力強くなり、年賀状の枚数も増え、3500枚に至った。
次いで宛先を絞ってロケの案内を出し、映画に出ませんかと呼びかけた。レストランを借り切り、65名の取引先や友人のエキストラを加えて撮影は進行した。
桜のシーン時は鉛筆書きのコピー台本で有ったが、その後の撮影には製本されたシナリオが使われた。その他の細々としたシーンも同様に、取引先や友人達を巻き込んで撮影した。
季節の変わるシーンを残して国内シーンを撮り終え、5月1日からはいよいよ中国ロケだ。15名のスタッフ、15名のキャスト、5名のロケ地交渉メンバーは渡航の手配を終えた。勿論沢山の機材の借り入れや、消耗部品等の買い込みも済ませた。
ところが、渡航1週間前になって、中国より「撮影許可は降りていない、延期せよ」のファックスが届いたのである。今更キャンセルは不可能だ。
「なあ~んや、1難去って又1難や」
キャンセルしても、しなくても3500万円也。




