お姉さん大活躍
安静にして精の付く食事か。
ぼんやりと今後の方針を考えながら、帰宅した。
大正執事物語、攻略情報も何もない不思議なゲームだ。これだけ現実的なゲームなら、普通は攻略情報が何かしらあるものだが。
「しゃーねー、お嬢様の為に頑張りますか」
俺は頭部端末と手袋を装着して、寝台に横たわった。
「接続開始」
俺の意識はゲーム世界、擬似的大正時代へと没入した。
行動予定で、まずは食事から見直そう。
現在、千代子が調理できるのは
お姉さんの特製オムライス
焼き魚
煮魚
味噌汁
お粥
金平牛蒡
え?
これだけ?
手帳には二十品目ぐらいの空きがあるのに?
「これは驚いた。つか、現代で食べているカレーとか唐揚げがないとは」
大正時代、どんだけだよ。
確か、千代子は調理法が分かれば、何でも作れるって言ってたよな?
これは探すしかない。
「お嬢様の為に、新しい料理の開発をすっか」
そそるぜ、これは。ラーメンとか、最高だろ。
行動予定に千代子と相談を設定して、お嬢様は休養でいいだろう。今回は病気が治るまで絶対安静だ。
「令人さん、私に相談ですか?」
台所で割烹着を着た千代子が出迎える。ヒヨコの前掛けじゃねーのかよ。
「お嬢様に精の付く食事を用意できないか?」
「材料があれば、いろいろ試せますよ。お姉さんが、説明しますね」
新しい料理の開発には食材と、調理器具を組み合わせる必要があった。
例えば、卵焼きなら、鶏卵とフライパンを組み合わせることで調理可能だ。
鶏卵?
誰がそんな高級食材を用意した?
「これはお姉さんからの贈り物です」
卵焼きがいつの間にかオムライスに変貌している。
「ほら令人さん、召し上がれ。それともお姉さんが食べさせましょうか?」
な、なんつーイベントだ。これ、葉室家や植草家で起きていたら、他の使用人から生温かい目で見られるヤツじゃねーか。
「もう子供ではありませんから、一人で食べます」
「……お姉さん、つまんない」
拗ねるな、千代子。
可愛いけど、拗ねるな。
オムライスの味は凄い美味い。
だが病人食にはならない。もっと淡白な味付けで栄養のある食べ物が必要だ。
「淡白な味付けの病人食になりそうな献立を考えよう」
「それでしたら、汁物は如何でしょうか?」
うん、その考えは悪くない。
「出汁で豆腐を煮るというのはどうだ?」
いわゆる湯豆腐だ。これに葱や生姜などの香味野菜を合わせれば、食も進むだろう。
「では、お昼ご飯は、そのようにしますね」
千代子が微笑む。懐中時計で時刻を確認すると、既に十時を回っていた。
「それでは頼んだぞ」
大正時代の炊事は大変だ。いつまでも千代子一人では回し切れないだろう。これまでの積み重ねで広げた人脈を使い、使用人を増やそう。千代子の補助ができる女中一人と、力仕事ができる下男一人がいれば、負担を減らせるはずだ。
資産状況と照らし合わせて、相応の人物を雇い入れた。
それから数日後、お嬢様はついに病気を克服した。
「お母様、もう大丈夫です」
「ああ、良かった」
病気は治ったようだが、様子が少しおかしい。
ここは迷わず、執事の慧眼!
東郷 小百合 十歳(弱気)
身長129.2cm 体重30.8kg
B48.3cm W26.0cm H44.8cm
筋 力 5
体 力 8
知 力 16
敏捷性 5
気 品 12
色 気 6
モラル 30
信頼度 25
攻撃力 6
防御力 6
芸術性 14
礼 法 23
病気が治ったと思ったら、弱気って難しいのどんだけだよ。
このまましばらく学校は休ませて、自宅療養させるのが良さそうだな。
つーわけで、食事内容は魚料理を主体にして、午前中は軽い運動、午後は行儀作法、夕方からは家庭教師による勉学。これで様子を見よう。
「おはようございます、お嬢様。ご気分は如何でしょうか?」
「おはようございます、執事さん。最近は調子いいわ」
にこやかに微笑むお嬢様の表情からは、病気の再発は考えられない。明日ぐらいから通学させても良さそうだ。
「それはようございました。さあ、朝食のお時間です」
お嬢様を先導して食堂に向かう。
普段は軍務で留守の多い旦那様も今朝は在宅している。久々の一家団欒だ。
「小百合、体の調子はどうだ?」
「はい、お父様。もうすっかり良くなりました」
お嬢様の回復に旦那様も満足している様子だ。
旦那様を送り出して、千代子と新献立を開発しようとした俺を、お嬢様が呼び止めた。
「執事さん、お願いがあるの」
「お嬢様、何なりと仰って下さい」
何これ?
こんなイベントあるの?
「お父様に、肉じゃがを召し上がって頂きたいの。できる?」
「肉じゃがでございますか。それでは千代子と相談してみましょう」
肉じゃがって、そう言えば千代子の献立表にも入ってなかったな。
和食の代表みたいな料理なのに、千代子の初期献立に入っていないというのは不思議だな。
とにかく、大正時代は不思議が多過ぎる。
「令人さん、今日はどのようなご用ですの?」
「お嬢様から肉じゃがを所望された」
「肉じゃが、ですか?」
千代子は肉じゃががどのような料理なのか知らないようだ。
肉じゃがは、牛肉、馬鈴薯、玉葱、人参を、醤油味で煮込む料理だ。
牛肉……、この時代の牛肉は超高級食材で、普通の赤身肉が現代の霜降り和牛に匹敵する値段だ。
だ、だから、千代子の献立表になかったのか。
不安要素の残る料理だが、果たして大丈夫だろうか?
そんな俺の不安を払拭するように、千代子は微笑んでいた。
「お姉さん、頑張るからね」
声の想定
伊集院 令人 小林祐介さん
伊集院 千代子 今井麻美さん
東郷 小百合 堀江由衣さん
東郷 兵六 玄田哲章さん




