三人目のお嬢様
あれから、葉室家の執事を再度勤めて、千代子の能力値上昇と、街中での使用人候補や家庭教師候補など人脈を広げる方向で終章を迎えた。
飛鳥お嬢様は、やはり酷い最期を遂げた。
続けて植草家の執事を勤め、千代子を女中頭にすることで円滑に資産管理が可能になった。
朋子お嬢様も更正させて、無事に終章を迎えたが、やはり飛鳥お嬢様は酷い最期を遂げる。
「さて、いよいよ難しいだ」
東郷家。
「君が新しい執事かね?」
「はい、よろしく願います」
強面の軍人、それが新しい旦那様、東郷兵六海軍中佐だ。
「自分は軍務で留守が多い。妻と娘を紹介しよう」
旦那様に連れられて屋敷の奥へ。
「妻の玲子と、娘の小百合だ」
寝台の上で上体を起こした小柄な少女と、その寝台の横に腰掛ける表情の乏しい女性。
「二人に紹介しよう、新しい執事と女中頭だ」
「伊集院令人と申します」
「伊集院千代子です」
二人揃って一礼する。
病弱な薄幸の美少女とか、古典的過ぎるだろ。あれか、白血病で、窓の外の葉が全部散ったら臨終とか言い出すのか?
「では自分は軍務があるので、後は任せる」
旦那様は一方的に告げると、部屋から出て行った。残された我々は、奥方様に今後を相談しようと声を掛ける。
「奥様、お嬢様の病状は?」
「ええ、先日来、激しく咳込みまして。高熱は下がったのですがお医者様からは静養するようにと言われております」
咳と高熱?
インフルエンザか?
何かの漫画だと、結核の治療に抗生剤を開発するなんて話もあったな。そそるぜ、これは。
とにもかくにも、まずは執事の慧眼!
東郷 小百合 十歳(病気)
身長129.2cm 体重30.0kg
B48.3cm W25.9cm H44.8cm
筋 力 5
体 力 5
知 力 16
敏捷性 5
気 品 13
色 気 6
モラル 25
信頼度 5
攻撃力 5
防御力 5
芸術性 14
礼 法 20
予想通りの病気状態だな。
けどこれ、体力を上げれば一億パーセント治るんじゃね?
今回は楽勝だな。
執事室に入り、資産状況を確認する。
「旦那様、男爵だったのか」
葉室家、東郷家は華族なので学費免除を受けているから、家計への圧迫はない。お嬢様の通う学校の費用がとんでもない額なのは平民の植草家で目の当たりにしている。
次に使用人の配置転換だ。
「あれ? 使用人がいない?」
旦那様の軍人としての収入と、政府の補助金を合わせれば二人ぐらいはいてもおかしくないんだが。
どうやら、俺と千代子で全てを担うしかないようだ。
明日の行動予定を立てるか、って持ち物欄に新着がある。
「懐中時計か」
千代子からの贈り物だ。行動予定を今までの大まかな午前、午後、夜の区分ではなく、一時間ごとに組めるようになった。ただ外出先の距離に応じて若干の制限も加わったようだ。
「けどこれで、いろいろな習い事をぶち込めるぜ」
俺は嬉々として行動予定を組んだ。
「おはようございます、奥様、お嬢様」
病弱のお嬢様の部屋には、奥様が看病で詰めている。
朝食はお粥か。もっと栄養のある食事が良いな。
参鶏湯とか?
いやいや、百兆パーセントねーわ。
高麗人参、六百グラムで庶民の一ヶ月の給料の三割もするんだぜ?
更に鶏一羽を合わせたら四割超える。そんな高級料理で治る見込みも薄いからな。
お嬢様には軽い運動で体力向上に励んで貰わないと。
食事を終えたら軽く運動させて、勉学させて、昼食を挟んでまた勉学。学校通うよりも充実させてやるぜ。
そんな日常が続いたある日の夜。
「令人さん、大変です」
千代子が血相を変えて駆けて来た。
何があった?
「お嬢様が……、お嬢様が!」
お嬢様が、どうした?
千代子、何故、続きを言わないんだ?
確認するのももどかしく、俺の体は勝手にお嬢様の部屋へと走っていた。
「伊集院さん、早くお医者様を」
こんな時でもこの奥様は顔色一つ変えない。
そうだ、落ち着いて行動するんだ。まずは医者を呼んで来よう。
「里野先生ですね、すぐに呼んで参ります」
先日、往診に来た医者の診療所なら把握済みだ。
とにかく急ぐしかない。
「医者を連れて来ました」
「そんなに急かすな」
無理矢理、引っ張るようにして連れて来た里野医師は、お嬢様の容態を診察する。
「ふむ、今夜が峠だな」
里野医師は千代子に何か指示を与えている。
俺も何か手伝えることはないだろうか?
そう考えていると、呼び鈴が鳴った。こんな夜更けに何だろう?
嫌な予感を押さえ切れずに玄関に行くと、郵便局員がいた。
「電報です」
「ご苦労様です」
至急電報とは珍しい。俺は内容を確認しないまま、お嬢様の部屋に戻った。
「奥様、電報が届きました」
そのまま何も考えずに渡すと、奥様は唇を震わせたかと思った後、崩れ落ちるように倒れてしまった。
「奥様!」
気を失っている。その手に握られた紙片を取り、内容を確認した。
「謹ミテ護国ノ英霊ニ対シ敬弔ノ意ヲ表ス」
これは?
「執事さん、奥様は気を失っているだけだろう。そこの長椅子に横にしておきなさい」
里野医師の指示に従って奥様を長椅子の上に移動させる。
これ、何が起きているんだ?
里野医師はお嬢様に行っていた処置を止めて、首を横に振っていた。それから長椅子の奥様の様子を診る。
「執事さん、申し訳ないがお嬢様は手遅れだ。安静にして精のつくものを食べさせていれば、回復が見込めたんだがな」
里野医師の言葉が耳に入って来ない。お嬢様が手遅れ?
目の前が暗転すると、俺は現実世界に戻って来ていた。
「……また強制終了か」
助けられたはずの命を、また助けられなかった。今度こそ助けてみせる。だが今の精神状態では無理だ。
俺は頭部端末と手袋を外して、本体の電源を落とした。
声の想定
伊集院 令人 小林祐介さん
伊集院 千代子 今井麻美さん
東郷 兵六 玄田哲章さん
東郷 玲子 林原めぐみさん
東郷 小百合 堀江由衣さん
里野医師 緒方賢一さん
※参鶏湯は昭和に入ってから、我が国に紹介されています。




