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エリオットの真意

エリオットは瞬時に、その手に黄金の槍を握っていた。

その槍の矛先を神ネメシスの喉元へと突き刺した――かに見えたが、驚くことに神ネメシスには、その矛先を僅か人指し指一本で受け止めていた。


「いい一撃だ。」


神ネメシスは、そう言って微かにその指に力を込めた様に見えた。

するとエリオットの金色に輝く槍が音も立てずに木っ端微塵に散り、風に吹かれて飛んでいってしまった。


「君の術中にはまったみたいで癪だが、願いは叶えよう。」


ネメシスはその手でエリオットの顔を軽く掴んだ。

その瞬間エリオットは全身の力が一気に抜けたように腕をダラリと落とした。


「緑君――バーンとレミに元気でやれって伝えてくれないか。」


緑にはそれがエリオットが二人の子供に向けた別れの言葉のように聞こえた。


「な、何を言っているんですか、エリオットさん。そんなの自分で――。」


「後は託したよ、緑君。」


緑の声を遮るように言葉を発したエリオットの体が空気に溶けるように消えていく。

それはほんの僅かな時間だった。


そしてそれがエリオットの最後の時だと悟った緑は、声を上げた。


「うわぁぁあ!」


その雄叫びと共に、緑は一瞬で刀を手にし鎧を纏った。

そしてすぐにその刃をネメシスへと振り下ろした。


しかし、その一振りには手応えを全く感じなかった。

緑が斬ったのは空だった。

先ほどまでそこに座っていたはずのネメシスの姿がない。

緑は辺りを警戒したが、その姿はどこにも見当たらない。


「恐ろしいまでの一振りだ。君は――そうか黄金の世代の力を牽いた者の突然変異か。つまり私の力に近し者。」


その声は上方からだ。

緑はすぐに空を見上げた。


その視線の先にあったのは、さっきまでの老人の男性ではなかった。


「君は少し勘違いをしているようだ。彼の――エリオットと言ったかな、エリオットの望みは『死』だった。そしてそれを叶えることが出来るのは私だけだった。それだけのことだ。」



そこに居るのは紛れもなく神ネメシスだ。

その圧倒的オーラは間違えようもない。

しかし外見は大きく変貌を遂げていた。


年の頃を見ても先ほどまでの老人ではなく、どうみても二十代半ばくらいの若者に見えた。

神はシルバーの長髪で怪しく輝きを放っていた。

宙に浮くように佇んでいるネメシスの背中からは片側三本ずつの真っ白な美しい翼が生えていた。

その姿は神々しく、まさに神といった印象を受ける。


「そんな馬鹿なこと信じられるはずがない。」


緑も少しだけ、エリオットの真意に気がついていたのかもしれない。だけど、自分に言い聞かせ、そして自分を奮い立たせて、そのネメシスに一撃を加えようと跳ね上がった。


「その勇気は、称賛に値する。だが――。」


ネメシスは片手を前に出した。

何の変哲もない、ただ片手を広げて前に出しただけだ。

だが、緑には異変があった。

纏っていた鎧が氷のように溶けだし、持っていた刀は紙切れのように千切れて風に舞った。


そして緑は叩きつけられるように地面へと投げ出されたのだった。


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