天の使い~vol.Ⅵ~
マチルダと紫野は天使三体に対して、一歩も怯まずに互角の戦いを展開していた。
一方のエリオットは一人、劣勢に立たされている。
緑は天使たちの標的にはまだ、なっておらずただ傍観しているだけだった。
そんな自分が情けなった緑は、悔しさが込み上げてきた。
自分がまともに戦えさえすれば、きっとこの局面は自分たちが有利になると理解しているからに他ならないからだ。
「くっ!」
「紫野!」
マチルダの声に緑はすぐさま反応した。
天使の一撃に紫野は大きく吹き飛ばされてしまっていた。
「出来損ないの異端の人間では、我らと対等に戦うことなど不可能だ。そこで死ね!」
天使は紫野に向けて追撃の手を緩めなかった。
とどめを刺そうと紫野の元へと向かっている。
しかし、緑は動けなかった。
その一瞬の判断が出来なかったのである。
「終わりだ!」
天使の刃が紫野に届こうとするまさにその時だった。
「――なに!?」
天使の剣が貫いたのは、紫野ではなくマチルダだった。
彼女は紫野の前に立ちはだかり、その刃を自身で受け止めたのだ。
「マ、マチルダ様!」
「この子は殺させないわ。紫野は私の大事な仲間だもの。」
「ハハハッ!馬鹿な奴だ。こんな出来損ないを庇うなんて愚かとしか言いようがない。お前はまだ我らと、まともに戦うことが出来ただろうに。まあ、いいさ。お前が死ねば我らの勝利がぐっと近ずくからな。さらばだ!」
天使は再びマチルダに剣を突き立てた。
マチルダはその剣の刃を素手で受け止めた。
「ふん、悪あがきか。大人しく心臓を突かれて逝け!」
更に天使はマチルダの心臓目掛けて剣を突いた。
「――!?」
カキン!と金属音のぶつかり合う音が辺りに響き渡った。
天使の剣を食い止めたのは、エリオットの槍であった。
「これ以上、仲間はやらせない。」
それを見ていた他の天使たちは、すぐさま一斉に動き出した。
エリオットへと襲いかかる天使たちをエリオットは一人で迎え撃つ。
しかし、やはり多勢に無勢。
エリオットも体のあちこちを傷つけられていく。
「これは、まずいな。」
エリオットは何とか天使たちの猛攻を防ぎつつ、ちらりと後方うを見た。
「紫野君。君は緑君を連れて逃げろ。今、まともに動けるのは君だけだ。」
エリオットは、それを口にするのを躊躇っていた。
今、ここでそれを言ってしまえば天使たちに筒抜けになるからである。
だが、言わずにはいられなかった。
そこまで彼も追い詰められていたということだ。
「で、でもマチルダ様が。」
「……いいのよ紫野。貴方が無事なら私は構わないわ。エリオット様と共にこいつらは私たちが止めておくわ。もちろん、少しの間だけだけど。」
マチルダも深傷を負っている。
おそらくは本当に一瞬の隙を作るのが精一杯だろう。
それを察した紫野は、その瞳に涙を浮かべながらも彼女の覚悟を汲み取った。
「兄貴、動けるな。」
そして、紫野は緑の腕を掴み、力強く腕を引き上げて立ち上がらせた。




