天の使い~vol.Ⅶ~
腕を引き上げようとした、紫野の腕を払うように緑は立ち上がった。
「あ、兄貴?」
紫野はすぐに緑の異変に気がついた。
そこにいるのは、明らかにいつもの緑ではなかったのだ。
どこがどう違うとかいう次元ではなく、もはや別人だった。
「おいおい、隙だらけだぜ!」
天使の一人が空から急降下しながら剣を構えた。
標的は、緑だ。
「く、くそっ!」
その攻撃から緑を逃がすには既に遅かった。
紫野は自らの体でその刃を受け止めようと、緑の前に立ちはだかった。
「――どいていろ。」
背後から聞こえた声に、紫野は全身が震えるような異様なオーラを感じとった。
「――兄貴!」
紫野が振り返ると、そこに緑の姿はなかった。
慌てて天使の方に視線を戻した時、その天使は既に真っ二つに割れて絶命していた。
殺ったのは、緑だ。
「兄貴……なんなんだ、その姿は?」
紫野が驚くのも無理はなかった。
これまで普通の少年だった緑は、全身に鎧を纏い、頭には鋭く尖った動物の角を模したような金色の長物がついた兜を被っていた。
そして、振り返った緑の顔は黒い鬼のような面具で被われていた。
それにこれまでの直毘刀のように不確かな刀ではなく、彼が握っていたのは紛れもない本物の日本刀であった。
「貴様!何をしやがった!」
これまで一瞬時が止まったような空気が、天使によって破られた。
すぐに緑へ向かい猛スピードで突進していく天使。
しかし、緑は恐ろしい程に冷静な態度を見せていた。
動きに無駄が一切なく、まるでスローモーションのように刀を一振りした。
その動きはとても華麗で美しかった。
「おのれ、人間ごときが図にのりおって!」
背後から別の天使が襲いかかってきたのを見抜いていたように、緑は振り返り様に刀を振り下ろした。
「そ、そんな――。」
天使は縦に真っ二つに裂かれて絶命した。
「こんな馬鹿なことが……この圧倒的力は、まるで……。引き上げだ。」
天使たちは突然、撤退の判断を下した。
それを緑たちは、ただ見送ることしかしなかった、ただ一人を除いては。
「あの小僧の力、あれは人の力ではない。あれは、あの力は――!」
ドンッ!!
いきなりの爆発音に固まって飛んでいた、天使たちは散り散りになった。
「な、なんだいったい?」
天使の二名が、その爆発で地上に落下していくのが見えた。
残る四体の天使は、辺りを警戒した。
「ワハハッ!どうだ私の執念は。」
声のした方向にいたのは、白だった。
彼のボロボロになったロボット兵が担いでいたのは、ロケットランチャーだ。
「おのれ、死に損ないが。」
残りの天使が動こうとした時であった。
背後からの呻き声に天使の一人が振り返ると、さらに天使二体が、落下していく様が見てとれた。
「次は何だ!?」
そこに居たのは、さっきまで地上にいたはずの、エリオットとマチルダだった。
エリオットのガラスの階段でここまで追ってきていたのだ。
「白博士、ご無事で何より。彼らが貴方に意識を注いでいたので、すぐさま追ってきたのですよ。」
「そちらこそ、素晴らしいカバーに感謝する。」
その間に生き残った二体の天使は逃亡に成功していた。
エリオットたちもそれ以上、追う選択をせずに見送った。




