第4話
勢い良くクレーターを飛び出たものの、敵の十字砲火に晒されて上手く前に進めなかった。
優は直感的に砂浜に伏せると、匍匐前進でビーチの突破を試みた。
優の他にもビーチを突破しようと駆ける兵士は居たが、敵の機関銃による銃撃や迫撃砲による砲撃に晒され粉々に粉砕される様を目の当たりにした。
それでも優は匍匐前進を止めず、時間を掛けて的場薫少尉の元へ辿り着いた。最早、奇跡と言えた。
「クソ、鉄条網だ! 電気を流してやがるな」
少尉はビーチの端に設置された鉄条網に進軍を妨げられていた。
有刺鉄線を用いた鉄条網で、更には電撃を流していることで普通に触れたら感電死してしまう代物だった。
「工兵は!?」
「うちの工兵は戦死した! 自分達でやるしか無い!」
やるしか無いと言っても、このトラップをどうやって突破するつもりなのか。
優が疑問に思っている内に、少尉はグレネードポーチからアップル型の『M67』フラググレネードを取り出して安全ピンを引き抜いた。
「爆破する! 少し下がれ!」
そう告げるや否や、少尉はグレネードを鉄条網の中に放り投げた。
刹那、爆発。
衝撃により鉄条網の一部が吹き飛ばされ、通り道が出来た。
「鉄条網を越えたらバンカーまで突き進め! 行くぞ!」
「でも機関銃に蜂の巣にされるぞ!」
「制圧してやる!」
指示を下した少尉は、短機関銃を両手で保持して駆け出した。
少尉は狙撃のプロフェッショナルだ。それをすっかり忘れていた。
鉄条網を抜けた少尉は、短機関銃を構えると、塹壕で機関銃を撃ち放っているゴブリンの頭部を吹き飛ばした。距離にして五十メートルも無いが、アイアンサイトでの狙撃は流石と言わざるを得ない。
「行くぞ!」
優は少尉に続いて駆け出した。
塹壕までは十字砲火に晒されても、塹壕に入ってしまえばその心配も無くなる。つまり、塹壕まで如何に早く辿り着くかが勝負だった。
その点では『ガンスリンガー』である一ノ瀬優には勝算があった。
強化された脚力をもってすれば、五十メートルの距離など造作も無かった。
「各バンカーを制圧するぞ!」
塹壕に侵入を果たせた少尉と優は、今もビーチを進軍している味方を蜂の巣にしている機関銃を黙らせるべく、塹壕内を走った。
それにしても、敵ながら良く出来た塹壕である。
トーチカは鋼鉄とコンクリートで固められており砲撃などものともせず、塹壕も深く掘り下げられており複雑に道が枝分かれしていた。そのお陰で何度も迷って、トーチカの制圧に時間が掛かってしまった。そして何より、機関銃や砲台の配置が巧妙であった。全てがビーチを隈無く狙えるよう配置されており、改めてここまでこれた事が奇跡だと感じた。
さて、岬にまで上がった二人は、残った塹壕とトーチカの制圧に着手していた。
最初のトーチカに侵入した時の話である。
トーチカの鉄扉を少しだけ開いた少尉は、グレネードを先に放り投げ扉を閉じた。その一瞬後、トーチカの中で爆発が起こり、化け物のものであろう悲鳴が轟いた。
直ぐ様、鉄扉を開けた少尉は『MP7A1』短機関銃をフルオート射撃に切り替え、内部を瞬く間に掃討してしまった。優の出番は全く無かったのだ。
成る程、狙撃以外にも近接戦闘にも慣れている事が分かる出来事だった。
この事が優を奮起した。
負けてられないと言わんばかりに、次のバンカーを攻める時は先頭に立ち突入を敢行した。
幸い、敵はビーチの友軍を銃撃する事に夢中となっていたので、優が突入しても気付かなかった。
優は先ず銃座に着くオークへ『6.8mm対不死人弾』を撃ち放ち射殺すると、異変に気付いたゴブリンへ向け素早く銃口をスライドさせトリガーを弾いた。そうしている内に反対側のドアから敵兵が入って来たので、構わずトリガーを弾きっぱなしにして掃射を掛けた。
「へっ、楽勝だぜ」
取り敢えず目に見える敵を全て掃討した優は、マガジンを変えながら少尉の方を向いた。
「俺も、まあまあだろ?」
少尉はにこりと笑うと、「いや、予想以上だ」と褒めてくれた。
これに気を良くした優が、次のトーチカへ移動しようと今のトーチカを出た刹那、「伍長、伏せろ!」と怒声を浴びせかけられ体当たりされた。
何事が起こったのか、理解するには時間を要した。
倒れ込む優を他所に、的場少尉は何処かへ短機関銃の銃口を向け銃撃していた。
「伍長! あぁ、そんな…………」
それも束の間の事で、的場少尉は優の元へ駆け寄ると脚部を見ながら絶望的な表情を浮かべた。
何が起こったのかと視線を自分の腹へ向ける。すると、そこは迷彩色で彩られている筈なのに、どういう分けか真っ赤に染まっていた。
この時、初めて理解した。
優は撃たれたのだ。