第3話
大体、明日くらいで完結させるつもりですので、気楽に読んで下さい。
作戦決行当日。
一ノ瀬優は水陸両用兵員輸送車に乗り、波に揺られていた。
先に別の大隊が上陸し活路を開いてくれるらしいので、優の仕事はその後始末であろうと思っていた。それに歩兵大隊の上陸前に、空軍と海軍がビーチへ爆撃ないし砲撃を雨のように浴びせてくれているのだ。ビーチの攻略は数時間もあれば片付くだろう、と楽観的になっていた。
しかし、上陸直前になった頃、的場薫少尉から聞かされた事実に優は凍り付く事となる。
「一ノ瀬伍長、先に言っておくが、我々は陽動の為に名前も知らないビーチに攻め込むのだぞ」
「は? それは、どういう?」
「簡単な話が、敵の注意をビーチの方へ釘付けにしている間に、ヨーロッパ解放軍の本隊が浸透戦術ないし電撃戦で塹壕を突破するんだよ」
「いや、しかし、隊長の話では我々が側面から攻撃し裏を取るという…………」
「その話しを信じてたのか。まぁ、君はここに来てまだ日が浅い。仕方無いと言えば仕方無いか」
どういう意味か問い質そうとした刹那、凄まじい爆発音と衝撃が輸送車を襲った。
「言っておくが我々は“捨て石”だ! “消耗品”なんだよ! その証拠に、我々は今から難攻不落の要塞に乗り込むのだからな!」
的場少尉が爆音に負けない程の大声で、絶望的な真実を述べた。
次いで起こったのが機関銃による銃撃の嵐だった。弾丸が装甲を叩く音が車内に鳴り響く。
「報告! 先に上陸した大隊は壊滅状態にあり!」
「そんな馬鹿な! 敵の防衛設備は砲撃と爆撃で破壊されてるはずじゃ…………!」
「こっちの支援なんざお粗末なもんさ! さぁ、上陸だ! 総員、戦闘準備!」
的場少尉の号令に、優は『6.8mmMASADA』突撃銃のセーフティを外した。
直後、後部ハッチが開き、順次兵士が降車していく。
「行くぞ、伍長!」
的場少尉は『MP7A1』短機関銃を構えると、優の肩を叩いて先立って輸送車を出た。優も覚悟を決め、ハッチを蹴りビーチへ足を踏み入れた。
瞬間、優はこの世の地獄を見た。
今までも地獄と表現するには十分過ぎる光景を目の当たりにしてきたが、これは一段と違っていた。
阿鼻叫喚の嵐が、ビーチを支配していた。正に地獄絵図である。
先に上陸した兵士は、要塞化した敵の機関銃に蜂の巣にされ、更にはビーチに放たれたゾンビやグールに食い物にされていた。
先の大隊は、誰一人としてビーチを突破出来ずに死亡したようだった。
「立ち止まるな! こっちだ!」
的場少尉の言葉に正気に戻った優は、爆撃により出来たクレーターの中に飛び込んだ。
そこには少尉と、負傷した味方が何人か居るだけだった。少尉は負傷者の手当てをしていた。
「何なんだよ、これは!? こんなの、作戦と呼べるのかよ!?」
優は疑問を少尉にぶつけるが、返ってきたのは「気持ちは分かるが、“捨て石”とはこういうものだ」という言葉だけだった。
ふとクレーターの外を見ると、勇敢にもビーチを突破しようと試みる兵士が、機関銃の掃射によって薙ぎ払われていく様子を目の当たりにしてしまった。
人がまるでゴミのように死んでいく。消費されていく。ここはさながら、地獄である。
「だが、捨てられた石にも矜持ってものがある。こんなところで、無駄死にしてたまるか」
優は恥じていた。
自分が見てきたものがこの世の地獄であると思っていて、その中で生き残る自信を持っていた。
しかし、これはどうか。
今まで体験してきた戦闘の中でも、群を抜いて酷い有り様だ。
こんな中で生き残る自信は、優には無かった。
「行くぞ、伍長!」
「行くって、何処へ!?」
「先ずはあの機関銃座を制圧する! 死にたく無ければ付いてこい!」
そう言うや否や、的場少尉はクレーターから飛び出して行った。
優は『6.8mmMASADA』を握り締めると、「あぁ、クソ!」とヤケクソになって少尉の後ろを付いていった。