第一章 誰かいますか?
外はまだ、人工的な青白い黎明の光――惑星セレスティア特有の、くすんだ二つの恒星が昇る前の重苦しい薄明かりに包まれている。
エリック・コール(34)の部屋は、惑星間通信観測局の職員に与えられた標準仕様の「居住カプセル(実質的なワンルーム)」だ。
壁や床はプレハブ感の残る無機質な防音チタンパネル。窓の外を見上げれば、空を切り裂くように飛ぶ大型貨物船のコンテナ軌道が、低く不気味な地響きを立てて通り過ぎていく。
そんな騒音と、枕元の端末が発する「起床強制」のけたたましい電子音が部屋に響き渡っていた。
三度目のアラーム。
エリックは布団から泥のように重い腕を一本だけ伸ばし、手探りで枕元を叩く。一度目は空振り、二度目でようやく端末を掴み、乱暴にスリープボタンを押した。
「……あと五分」
かすれた声が狭い部屋に吸い込まれる。
空気清浄機のフィルターが目詰まりしているのか、部屋の空気は常に澱んだ微量の埃と、合成保存食の乾いた匂いが混ざり合っている。
もちろん、返事をする人間はいない。
窓の外では、地下の採掘プラントへ向かう重機トレーラーのタイヤ音が、低く腹を揺らした。
十二分が経過し、ようやくエリックは起き上がった。足元のフローリングシートは冷え切っており、裸足に突き刺さるように冷たい。
キッチンへフラフラと歩く。
冷蔵庫のドアを開けると、冷気の代わりに、プラスチックが劣化したような特有の臭気が鼻をついた。
ドアポケットには、いつ買ったのかラベルのインクが剥がれかけた瓶が陣取っている。
取り出して裏返すと、製造年は一昨年のもの――賞味期限が半年以上前に切れた、合成ドレッシングの濁った液体が沈殿していた。
エリックは眉をひそめ、それを元の場所へ雑に戻す。
コンロの上には、昨夜作り置きしたきりの「人工大豆の煮込み」が、アルミの鍋底に冷え切ってこびりついていていた。
それを陶器の鉢によそい、旧式の電子レンジへ放り込む。加熱が終わるまでの数秒間、エリックは視線の先にある壁際の洗濯籠に目をやった。
そこには、三日分は優に超える作業着や下着が山のように積み上がり、重みに耐えかねて一番下のシャツが床にダラリと垂れ下がっている。空気の乾燥したこの惑星では、放置された衣類はすぐにパリパリに乾き、独特の匂いを放つ。
「……帰ったら、さすがにやるか」
チン と電子レンジが甲高い完了音を鳴らす。
エリックが熱々の鉢を取り出した瞬間、洗濯籠の存在は、彼の脳のメモリから綺麗さっぱり消え去っていた。
惑星セレスティア、惑星間通信観測局――居住区から少し離れた、荒涼とした赤茶けた大地にポツンと立つ、灰色のコンクリートと鉄骨で組まれた要塞めいた管制棟。
人類が銀河の複数の惑星系へと生活圏を広げた現代において、星間通信そのものは珍しくもない日常の一片だ。
しかし、どれほど科学が発達しようと、アインシュタインの呪縛――「光より速く情報を届けることはできない」という宇宙の絶対法則が変わることはない。
セレスティアから地球、あるいは他の主要コロニーへ情報を送るには、数年、あるいは数十年の圧倒的な時間がかかる。
通信の往復には人生の半分が費やされる。――それは、この局で働く技術者たちにとって、わざわざ口にするまでもない冷徹で、希望のない常識だった。
エリックは自分のコンソールデスクに愛用のボストンバッグを放り投げ、油の切れたギシギシ鳴る椅子にドスンと腰を下ろした。
端末の生体認証をクリアさせながら画面を見つめていると、隣の席から気だるげな声がかかる。同僚のダニエルだ。
彼の手には、昨日から放置されているのが一目でわかる、ふやけた紙カップのコーヒーが握られている。
「おっ、おはよう」
「……おはよう」
「休み、何してたんだよ」
ダニエルのその質問に、エリックは内心でわずかに顔をしかめた。
本当は、休日なのにベッドから一歩も動かず、天井のしみを数えながら半日を無駄にし、残りの半日は合成食品をかじりながら古い映像アーカイブをぼんやり眺めていただけだ。
そんなみじめで退屈な現実をまともに説明するのは億劫だった。
どうせ適当に「洗濯」とでも答えておけば、ダニエルはそれ以上突っ込んでこない――そう踏んでの嘘だった。
「洗濯」
端末の画面にパスワードを入力しながら、エリックはそっけなく答えた。
その一言で、会話をさっさと終わらせたかったのだ。しかし、ダニエルの手がピタリと止まった。
「……それだけ?」
「寝た」
「洗濯と睡眠?」
「あと飯の調達」
ダニエルはキャスター付きの椅子をクルリとこちらへ向け、信じられないものを見る目を向けた。
「おいおい、もう少し趣味とか人生の彩りを作れよ。お前まだ三十半ばだろ。
このままじゃこの惑星の乾燥した赤土と一緒に干からびるぞ」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ」
「同僚としての純粋な慈愛の心だよ」
「それより自分の仕事しろ。始業五分前だぞ」
「まだ始業五分前あるじゃねえか」
ダニエルは手元の紙カップを一口啜り、反射的に顔をしかめた。エリックはそのカップをジッと見つめる。
「それ、いつのコーヒーだ」
ダニエルもカップの底を覗き込み、一瞬だけ真剣に思案した。
「……たぶん、一昨日も入ってた気がする」
「捨てろよ、腹壊して局の医療ポッドを占拠するなよ」
「お前にだけは人生を心配されたくないね」
それ以上言葉を交わすことなく、二人の目の前の巨大なメインディスプレイに、朝の冷たい星間観測データが滝のように流れ始めた。
いつもの、代わり映えのしない退屈で平和な一日が、この何万光年の孤立した世界で始まっていた。
ところ変わって、別の空の下。
ケイト・ウォーカーは、細い通路を歩きながら黄色い包装のフィルムを器用に引き裂いていた。
中身は、行政配給の味気ない保存食用の固いパンだ。一思いにかじる。
隣を歩く同僚のミアが、あからさまに呆れた視線を送ってきた。
「またそれ? 今週それしか食べてなくない?」
「昨日は緑の袋だったよ」
「味気なさは同じでしょ。色じゃなくて中身の話をしてるの」
「重要でしょ、気分的な栄養補給として」
「何味なのよ、それ」
ケイトはパンをもう一口かじり、少し上を向いて真面目に考え込んでから答えた。
「黄色」
ミアが思わず足をとめかけた。
「色じゃなくて味を聞いてるの」
「だから、黄色味のある味」
「あなたねぇ……三十三にもなって、そういう食生活を真面目に貫くのやめなさいよ」
「三十三だからこそ、誰にも縛られずに黄色いパンをチョイスできるの」
口論しながら二人は、ケイトの職場である惑星環境観測部門の巨大なオフィスへと足を踏み入れた。
何千、何万という数字の奔流――気温、気圧、大気組成、地殻活動の微小な揺らぎ。
その膨大なログの中から「自然現象ではない、ほんの僅かな人工的ノイズ」を探し出すのが彼女の仕事だった。
ケイトは自分の席に座るやいなや、食べかけのパンを端末の横に雑に放り出し、手際良くモニターのウィンドウを開く。
ミアはまだ隣に立ったまま、呆れたように溜息をついた。
「ねえ、聞いてる?」
「ん、なに?」
ケイトは視線を画面の波形データから離さない。
「アーロンのこと、覚えてる?」
「誰だっけ」
「ほら、先月の合同プラント視察で一緒だった、資源管理局の……」
ケイトのキーボードを叩く指が、ぴたりと止まった。
「……あー、いたかも」
「写真も見せたでしょ。今度、三人でご飯行かないかって」
ケイトはようやく顔を上げ、ミアを真っ直ぐに見据えた。
「なんで三人?」
「途中で私がそれとなく消えるから、あとは二人でいい感じに――」
「最初から二人で行けばいいじゃん」
「じゃあ、あなたから連絡先聞いて二人で行く?」
「なんで私から? めんどくさい」
ミアは頭が痛そうにこめかみを押さえた。
「あなたねぇ、本当に自分のそういうところ……」
ケイトはニッと笑い、黄色いパンの欠片をひらめかせた。
「これ、食べる?」
ミアは顔をしかめた。
「もう自分でかじってるでしょうが!」
午後。
セレスティア観測局の、普段は誰も寄り付かない薄暗い地下の第3保守区画。
本日は年に一度の全区画・全機材の網羅的棚卸し(アセット・インベントリ)の期限日だった。
現場の技術者たちが嫌がるこの作業で、エリックは埃まみれの古い備品棚の奥に突っ込まれ、台帳と実物の照合を行っていた。
古いパーツのシリアルナンバーをハンディ端末で次々とスキャンしていく。
錆びたケーブル、液漏れしかけているバッテリー、用途不明の金属箱。
その一番奥に、すっかり忘れ去られたような灰色の筐体が、電源コードに絡まるようにしてひっそりと鎮座していた。
指先で分厚い埃を拭うと、かすれたプラスチックのラベルが現れる。
『量子同期通信実験機 UNIT-2』
資産管理番号:PRJ-0892-OLD
ステータス:放置(棚卸し対象外・要処分)
「おい、ダニエル」
少し離れた通路で別の棚を調べている同僚に声を飛ばす。返事はない。
エリックは棚から上半身を引き抜き、大声で呼んだ。
「ダニエル」
「んだよ、こっちはカビだらけなんだ、大声出すな」
「ここにある二号機ってさ、去年の棚卸し台帳に残ってるか?」
ダニエルは面倒臭そうにタブレットを操作しながら、足音を立てて歩いてきた。
そして筐体を覗き込み、鼻で笑う。
「あー……それ、十年以上前のボツ企画の残骸だろ。
中央の監査が入った時に、誰も処分し忘れてずっと放置されてるやつだ」
「マジかよ。これ今回のインベントリリストにしれっと『処分完了』で通していいか?」
「お、いいじゃん。どうせ生きてねえだろ、そんな骨董品」
ダニエルが筐体の横腹を軽く叩くと、周囲に乾いた埃がモワッと舞い上がった。
二人は同時に顔を背けて咳き込む。
エリックは手元のハンディ端末を操作した。
「じゃあ、一応マニュアル通りに通電試験のログだけ残して、システム上のステータスを『廃棄処理待ち』に書き換えておくか」
「勝手にしろ。早く終わらせて上の階に戻ろうぜ」
ダニエルは興味を失ったように、自分の作業エリアへトボトボと戻っていった。
這い回る古い電源コードをコンセントに繋ぎ、筐体背面のメインブレーカーを押し上げる。
一度目。
無音。
ファンの回る気配すらない。
エリックは小さく溜息をつき、接触の悪そうなプラグを一度引き抜いて、奥まで強く差し直した。
二度目。
重く低い起動音が地底から響くように唸り、埃まみれのモノクロディスプレイに青白い文字列がぶっきらぼうに浮かび上がった。
エリックは近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、ドスンと腰を下ろす。
「……お、一応システム自体は生きてるのか」
遠くからダニエルが声を飛ばす。
「おい、局のメイン回線に干渉するなよ!」
「大丈夫だ、独立したローカルのテストモードだよ」
画面には、何世代も前の古い診断プログラムが並んでいた。
システム系、同期系、そして見慣れない謎のステータス項目。
順番にエラーチェックのコマンドを実行していくが、意外にも致命的な異常は見当たらない。
最後に、画面の中央へぽつんとカーソルが点滅した。
『TEST MESSAGE 入力欄』
棚卸しの完了ログとして、適当なテスト文字列――「12345」でも「test」でも打ち込んで保存すれば、この古いマシンのデータ処理は終わりだ。
だが、エリックはなぜか、キーボードの上に両手を置いた。
こんな誰も見ない古い端末に、ただの数字を入力するのが急に馬鹿らしく思えたのだ。ふと、彼はキーを叩いた。
《誰かいますか?》
送信ボタンを叩く。
画面には『送信完了:応答待機中』の文字。
数秒待つ。――当然、何も起きない。
エリックは「そりゃそうだな、局内のローカル網ですら繋がってない孤立した端末なんだから」と納得し、電源を落とそうとして手を止めた。一応、ステータスの「テスト中」のフラグを立てたままにしておくか。
そう思い直し、彼は椅子から立ち上がった。
夕暮れ時。誰もいなくなった静まり返った環境観測部門のオフィスで、ケイトは一人、自分の端末に向き合っていた。
ミアはとっくに退勤している。
デスクの横には、先ほど食べ終えた黄色いパンの空き袋が、くしゃりと丸められてポツンと取り残されていた。
今日の環境データ解析のウィンドウを閉じ、帰宅前の最後のログチェックをしようとした、その時。
ピピッ、と非常に短い、しかし普段の業務端末では聞いたことのない高めの電子音が鳴り響いた。
ケイトの手が止まる。
画面の隅に表示された見慣れない通信プロトコル。送信元の星系アドレスは「不明(未登録ルート)」。
「……なに、これ」
奇妙な引っかかりを感じながらファイルを開く。画面の中央に、ポツンと表示された一行のテキスト。
《誰かいますか?》
ケイトはスッと眉をそひそめた。
局内の内輪の悪ふざけか、あるいはどこかのシステムエラーによるスパムの残骸か。
無数のデータに囲まれている彼女にとって、こんな出所不明のノイズを相手にしている暇はない。
しかし、カーソルは奇妙なリズムで点滅し続けている。
《誰かいますか?》
ケイトは鼻で小さく笑い、丸めたパンの袋をゴミ箱へ放り投げようとして――なぜか、その場でピタリと手を止めた。
局内の誰かが、退勤間際に自分宛てに送ってきた悪ふざけのメッセージだろう。
そう思った。
彼女は吸い込まれるようにキーボードへ指を伸ばした。
《いる。》
叩きつけて送信ボタンを押す。
「……私、疲れてるのかな。何やってんだろ」
だだっ広い静かなオフィスで、自嘲まじりの苦笑いがぽつりと漏れた。
その頃、セレスティア観測局の地下保守区画。
帰り支度を整え、上着を手に持ったエリックの耳に、背後からかすかな電子音が届いた。
振り返る。
先ほど放置したはずの、あの古い通信機のディスプレイが、暗い部屋の中でぼんやりと青く光を放っていた。
「……嘘だろ」
足早に戻り、パイプ椅子に飛び乗るように腰かける。
『受信データあり』
画面を覗き込んだエリックは、表示された二文字を見た瞬間、心臓が跳ねるような感覚を覚えた。
《いる。》
しばしの静寂。ファンが微かに回る音だけが響く。
エリックは思わず眉をひそめた。
(……え? 返事が来た?)
彼はまず、これが「惑星間通信」だなんて微塵も考えていなかった。
アインシュタインの絶対法則がある以上、光速を超える通信など存在しない。
したがって、こんな一瞬で返事が返ってくるということは、この局内のどこかの端末、あるいは同じセレスティア惑星上の別の居住区画の誰かが、偶然この古い回線を拾って返信してきた――そう考えるのが、技術者としての真っ当な思考だった。
「おい、ダニエル……?」
背後を振り返る。しかし、ダニエルはとっくに上の階へ上がってしまっており、地下区画には誰もいない。
完全な静寂が戻っている。
エリックは怪訝な顔をしながら、再び画面に向き合った。
《いる。》
局内の誰かが、この古いボロ機材に気付いて悪ノリしているのか? それとも、配線ミスで別のセクションの制御室に繋がってしまったのか?
相手は誰なのか。
この局の別の部署の奴なのか。
それとも、別の居住区の誰かなのか。
冷たい機械の向こうに、生身の「誰か」がいる。
その驚きと少しの苛立ちが混ざり合いながら、エリックはキーボードに指を走らせた。
《誰?》
ケイトの端末が、再び跳ねるように甲高い音を立てた。
すでに肩にバッグを掛け、帰ろうと立ち上がっていた彼女は、その音に足を止める。画面を覗き込む。
《誰?》
ケイトは首をかしげた。
(局内の内輪ノリかと思ったけど……誰よこれ。もしかして隣のセクションの同期か?)
ケイトの唇の端が、わずかに、しかし確実にほころんだ。
肩にかけたバッグをそっと机に戻す。
椅子に座り直すこともせず、立ったままの姿勢で、彼女は素早くキーを叩いた。
《そっちが聞いたんでしょ。》
セレスティア観測局の古いモニターが切り替わる。
《エリック》
少しの間のあと、さらに画面が更新される。
《ケイト》
《どこにいる?》
そこで、返事がピタリと止まった。
画面の端で、『入力中……』のアイコンが消えかけては、また点灯することを繰り返す。
エリックはディスプレイから目を離さず、じっと待った。
(おいおい、どこの部署の端末だよ。まさか、この局のなかなのか……?)
どれくらい時間が経っただろうか。
ようやく、画面に新しい文字が滑り込んできた。
《それ、こっちが聞きたい。》
エリックは深く、大きく椅子にもたれかかった。背もたれがギリと音を立てる。
壁の時計を見る。
退勤時間はとうに過ぎていた。
(……まあ、もう一通くらい、いいか)
局内の誰のイタズラなのか突き止めてやろう。心の中でそう言い訳をつぶやきながら、彼は再びキーボードに手を伸ばした。
その夜。
エリックは自分のワンルームの部屋へと帰ってきた。
ドアを開け、肩の荷を下ろし、上着をベッドに放り投げる。
冷蔵庫からいつもの賞味期限切れのドレッシングをよけ、作り置きの冷え切った豆の煮込みを取り出してレンジに放り込む。
チン、と乾いた音が鳴り響く。
温まった鉢を両手で持ち、自室へ向かう途中の廊下。
朝と全く変わらない景色――廊下の壁際に、行き場を失って山のように積み上がった、あの洗濯物の山。
エリックはそのまま通り過ぎようとして、数歩歩いたところでピタリと足を止めた。
振り返る。
(あ……)
今朝、家を出る時に「帰ったらやる」と心に誓ったはずの記憶が、ぼんやりと蘇る。
洗濯の山と、壁の時計を交互に見上げる。エリックは少しだけ悩み、そして小さく息をついた。
「……まあ、明日でいっか」
開き直るように踵を返し、自分の部屋へと戻る。
机の上に豆の煮込みの鉢を置き、私用の端末を開く。仕事の連絡を除けば、特別な通知など何もない、いつもの日常の画面。
それでも彼は、なぜか画面の端で、あの古い通信プロトコルのログファイルアイコンを一度だけ、じっと見つめてしまった。
(さっきのやり取り……あれはいったい、局内のどの端末だったんだ?)
当然、そこには何も届いていない。
暗い無機質な画面が広がっているだけだ。
エリックは小さく苦笑いを浮かべ、スプーンで豆をすくって口に運んだ。
――「47.2光年」という、あまりにも絶望的で、あまりにも壮大な距離を、二人はまだ知らない。
この時はまだ、同じ惑星のどこかにいる誰かの悪ふざけか何かだと思っていた。
それだけの、ほんの少しだけ退屈な日常が色づいた、ありふれた夜だった。
(第一章 完)
『47光年の手紙』オリジナル音楽公開中!
YouTubeチャンネル「たびしずく」にて、イメージソング『47光年の手紙』とオリジナルサウンドトラックを公開しています。
47.2光年離れた二人の物語を、音楽とともにお楽しみください。
YouTube:[https://youtube.com/playlist?list=PLCQ6b6Dm073o&si=4bgRkIJ8QfiZUP4D]
恋愛と科学、そして宇宙の謎が交差する長編SF。
第二章 どこにいる?に続く




