21.たまには強引に
弓弦さん、ツッコミまくりです。
――side 弓弦
勢い込んで宗島家にやって来たは良いが、どうも文音さんの様子がおかしい。少し強引過ぎたか?
「文音さん、ぼーっとしてますが、大丈夫ですか?」
「あ、は、はい。お父様の書斎、でしたわね」
一応、話は聞こえているらしいが・・・目がとろんとしていて、やっぱりおかしい。まぁ、具合が悪いわけでもなさそうだから、大丈夫だとは思うが。
「ええ、そうです。案内をお願いしますね」
「はい」
コンコン、と文音さんが書斎のドアをノックするとお義父さんの返事があった。
「入りなさい」
今回は冷静さを保ったままだったが、お義父さんは俺の顔を見た瞬間溜息をついた。う。そういう態度は、傷つく・・・。
「最首、君。だったね」
「はい」
「私の目も曇ったものだ・・・彼等ならば良い対抗馬になると思ったのだが・・・」
んん?何だか、お義父さんの口ぶりからすると、元々彼等を婚約者にする予定はなかったような印象を受ける。・・・そう、俺が彼等相手にどこまでできるか試す、的な?
「もしかしなくても、今回の3ヶ月のアピール期間というのは、私のためのものですか?」
「まぁ、それもあるが・・・一瞬でも、彼等の方が君よりも文音にはふさわしいと思ったんだ・・・その、君はあまりにも文音とはかけ離れているように思えてね」
あー・・・まぁ、そうだよな。対抗馬って言ってるわけだし、俺がダメなら彼等っていう腹積もりだったんだろう。
っていうか、俺と文音さんがかけ離れてるって・・・。
「―――お義父さんは、文音さんを過小評価してらっしゃるんですか?」
「おとっ・・・ごほん、いや。文音を過小評価したわけではない。・・・君が、その・・・文音だけに構うようになって、文音が嫌な思いをしないかと心配でな・・・」
あ、さり気なくお義父さん呼びしたのに反応したけど、OKらしい。おっしゃぁ!
でもなー、文音さんが嫌な思いって・・・お義父さん、ドラマの見すぎじゃないですかね?
「あぁ・・・そんな心配ありえませんよ。ハーレク●ンじゃあるまいし」
「ないのかね、君には・・・その、女性からよく言い寄られたりとか・・・」
「ありませんね」
まぁ、学生の頃はたまに告白とかされてたけど、前にも言った通り、自信を無くすなんて言われてフられるんだから・・・。
「そ、そうかね」
「ええ。それに、文音さんがストーカーになる前に、私が面倒を見ると決めたので」
これだけは言っておかないとな。お義父さんが俺達が付き合うきっかけになったコレを知らないから、話がこじれた気もするし。
「すとっ・・・あ、文音!彼を追い掛け回していたのか!!」
「ええ。アレがストーカーと言われる行為だとは存じ上げませんでしたの」
でーすーよーねぇ・・・っていうか、護衛感覚で見られてもさー、俺一般人だから・・・どう考えてもストーカーにしか見えないって。
「・・・最首くん・・・本当に、娘で良いのかね」
はっはっは!今更ですね。もう文音さんごと引き受ける覚悟はできてます。
「ええ、文音さんが良いです。・・・婚約指輪も贈りましたし、婚約を認めてもらえませんか?」
「はぁ・・・反対していた私がおろかだったな。いたずらに事態を混乱させてしまったようで申し訳ない・・・」
ガックリと肩を落とすお義父さんは、最初に会った時よりも老けたように思える。暗黒共、ちょっとは手加減しろっつったろーが・・・。
「いえ、こちらこそ。うちの暗黒共がすみませんでした。ずいぶんとお疲れのようです。私からもちゃんと言い聞かせておきますので」
「・・・すまんが、そうしてもらえるかね。さすがに、参ってしまっているんだ」
「わかりました。・・・では、あの3人にはお義父さんから伝えていただけますか?」
「構わないが・・・そう簡単にいくものかね?」
いきませんよ。絶対。・・・まぁ、白遠の方はすぐに片付くでしょうけど。他の2人はくってかかってくるでしょうねェ。・・・でも。
「まぁ、あちらが納得しないのなら、こちらにも考えがあるので」
「そ、そうか。・・・まぁ、君がそう言うならば、任せよう」
「はい。任せてください。お義父さん」
にっこり。
いやぁ、腹が立ってても笑えるもんなんだなぁって実感。っていうか、カロリー学院で鍛えられた。本当に。
それになぜか怒鳴るより笑って静かに注意した方が生徒達が言うことを聞くんだよなー、こっちの方が説得力あるんだろうか?
「あら、お父様、顔色が悪いですわ」
あ、生徒と同じ反応じゃないか。顔が真っ青だ。
「ああ、本当だ。大丈夫ですか?お義父さん」
「・・・ぁ、だ、大丈夫だ!し、心配いらん!!」
あ、今度は赤くなった。忙しい人だな。体調管理は大丈夫なんだろうか?
この後、夕食も一緒にとお義母さんに誘われて、終始?和やかムードで宗島家訪問を終えることができた。
さて、後は東横院と新瓜の排除だな。頑張るぞー。
***
「というわけで、また構内で騒がしくなったら申し訳ありません」
朝、出勤するなり理事長室に行って、事情を説明した。理事長は黙ってそれを聞き、アッサリと頷いた。
「ああ、イイよ別に。君達のことはこの学院の娯楽になっているようでねェ・・・生徒達は最首先生を誰が一番キレさせるかって、食堂のSランチを賭けてるみたいだよ」
「・・・理事長、それは止めましょうよ。学内で掛け事はいけません・・・」
「えー・・・良いじゃん。Sランチを賭けるくらい、可愛いもんだろう」
じゃんって・・・いい大人がじゃんって!!!
「可愛くないですよ!!Sランチって言ったら、5000円もする教職員ですら注文をためらう超豪華なランチセットじゃないですか!!」
「まぁそうだけど・・・賭け事で5000円のランチなら安いだろう?」
まぁ、生徒の中には株で大儲けしてる奴らもいるしな。5000円のランチを賭けるくらいなら・・・って、俺、いつの間にかこの学院の金持ち共に毒されてないか!?
いかん、金銭感覚がおかしくなってる・・・。世の中ワンコイン―500円―ランチがもてはやされているというのに、その10倍だぞ、10倍!!
ディナーならわかるが、ランチだぞ!・・・確かに金額にみあうセット内容ではあるけどな!俺も給料日のお昼には自分にご褒美として食べてるけどな!!
「・・・胴元は安定の暗黒同好会ですか・・・」
「あはは。わかるかね」
―――わからいでか!!
「理事長・・・」
「それくらい大目に見てやんなさい。君達が騒がせている元凶なんだし」
うっ、それを言われると・・・。
「―――わかりました。もうそちらは理事長に任せます・・・」
「ま、これくらいの楽しみはないとね。暗黒が全部潰しちゃいそうだったから」
相っ変わらず、あっぶねぇな!暗黒同好会!
「ご配慮、感謝します・・・理事長。では、全部片付いたら、またお知らせに伺います」
「うん、いい知らせを待ってるよ」
にっこりと笑って手を振る理事長。
この人、本当にどこまで見えてるんだろうな、と少しだけ理事長を敬う気持ちが湧いた。・・・普段が普段――愉快犯というか思いつきでイベント起こしたりする――だからあくまでも、少しだけ、だけどな。




