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20.婚約承諾

宗島父、お疲れです。

「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


 きっちり45度に腰を曲げて頭を下げた店員に見送られて、俺と文音さんは等間隔に並ぶ街路樹のある歩道を歩き始めた。


 もちろん、指輪は文音さんの左の薬指にはめてもらっている。1カラットのダイヤモンドの指輪。さほど高くもないけれど、安くもない。まぁ、カロリー学院の教職員の給与の1ヶ月半くらいの値段だ。


 普通は3ヶ月分が相場だけど、たぶん、すぐに結婚指輪に代わるし、文音さんが最も気に入ったデザインがこれだったから選んだわけだし。


「さて、じゃあ・・・お義父さんに会いに行きましょうか」


「・・・ひゃぃっ!」


 おかしな返事の後に、口元を手で押さえる文音さん。――さては、噛んだな。緊張すると噛むクセがあるっぽい。っていうか、可愛い。


「そういう、可愛らしいところも好きですよ、文音さん」


「~~~~~っ!!!」


 真っ赤に染まる顔に、俺は至極満足する。


 ああ、俺って意外とサドっ気があるんだろうか?・・・いや、主導権が取れたってのに満足してるだけだな。泣いた顔が見たいとか思わんし。できれば穏やかに笑っていてほしい。


「文音さん、お義父さんには知らせました?」


「・・・え、ええ。伝えましたわ・・・あの、弓弦さん・・・」


「はい、なんです?」


「・・・3ヶ月のお約束はもう良いのでしょうか?」


「良いんですよ、奴らがまともに文音さんを好きなのだったら我慢もできますが、そうでもないのに、なぜ俺達が我慢しなくちゃいけないんです?」


「それもそうですが・・・どうやってあちらを納得させるのですか?」


 まぁ、文音さんの疑問も当然か。


「そこは、お義父さんと話してからにしましょうか」


 対策はいろいろと考えられるが、まずは第一関門・・・お義父さんを納得させないとな。うん。



***



――side 文音


 確かにお父様に納得させるならば今は絶好の機会ですわ。弓弦さんもそれがわかっていらっしゃるから今すぐとおっしゃったのでしょう。


 ですが、あのお三方をどうやって納得させるおつもりなんでしょう。かなり執念深い方々ですのに。さすがの私も白遠さんに迫られた時はさすがに身の危険を感じましたわ。


 でも、間一髪で弓弦さんが助けに来てくださいましたし。・・・ああ、あの時の弓弦さん、かっこよかったですわ・・・(ぽっ)。


 はっ・・・そうではなくて!


 弓弦さんの行動が読めませんわ。でも、それが不快ではないのです。だって、弓弦さんはちゃんと私が不安にならないように言葉をくださっているから。可愛いとか、好きとか、キャ―――っ!!


「文音さん、ぼーっとしてますが、大丈夫ですか?」


「あ、は、はい。お父様の書斎、でしたわね」


「ええ、そうです。案内をお願いしますね」


「はい」


 そうでした。今、お父様に許可を貰うために書斎へ向かう最中でした・・・つい、考え込んでしまいましたわ。


 コンコン、と書斎のドアをノックするとお父様のお返事が。


「入りなさい」


 前回よりも落ち着いた調子で私達を出迎えたお父様は、弓弦さんを見て溜息をついた。


「最首、君。だったね」


「はい」


「私の目も曇ったものだ・・・彼等ならば良い対抗馬になると思ったのだが・・・」


「もしかしなくても、今回の3ヶ月のアピール期間というのは、私のためのものですか?」


 まぁ、お父様も素直じゃありませんからね。弓弦さんがあのお三方相手にどこまで出来るか見たいと思ったのでしょう。・・・だとしても、とても迷惑でしたわ。


「まぁ、それもあるが・・・一瞬でも、彼等の方が君よりも文音にはふさわしいと思ったんだ・・・その、君はあまりにも文音とはかけ離れているように思えてね」


「―――お義父さんは、文音さんを過小評価してらっしゃるんですか?」


「おとっ・・・ごほん、いや。文音を過小評価したわけではない。・・・君が、その・・・文音だけに構うようになって、文音が嫌な思いをしないかと心配でな・・・」


 あぁ、わかりますわ。よくある話ですわね。ファンクラブみたいなものに恋人が(いじ)められる、とか。


「あぁ・・・そんな心配ありえませんよ。ハーレク●ンじゃあるまいし」


「ないのかね、君には・・・その、女性からよく言い寄られたりとか・・・」


「ありませんね」


 弓弦さん、そんなバッサリ・・・。


「そ、そうかね」


「ええ。それに、文音さんがストーカーになる前に、私が面倒を見ると決めたので」


「すとっ・・・あ、文音!彼を追い掛け回していたのか!!」


「ええ。アレがストーカーと言われる行為だとは存じ上げませんでしたの」


 本当に、知りませんでしたのよ。護衛のようにこっそりと見ていたつもりでしたから。


「・・・最首くん・・・本当に、娘で良いのかね」


 む。お父様、それって酷くありません?再確認なんて、必要ありませんのよ!


「ええ、文音さんが良いです。・・・婚約指輪も贈りましたし、婚約を認めてもらえませんか?」


「はぁ・・・反対していた私がおろかだったな。いたずらに事態を混乱させてしまったようで申し訳ない・・・」


「いえ、こちらこそ。うちの暗黒共がすみませんでした。ずいぶんとお疲れのようです。私からもちゃんと言い聞かせておきますので」


「・・・すまんが、そうしてもらえるかね。さすがに、参ってしまっているんだ」


 あら、暗黒同好会が頑張ってくださったようですわね。ありがたいことですわ。


「わかりました。・・・では、あの3人にはお義父さんから伝えていただけますか?」


「構わないが・・・そう簡単にいくものかね?」


「まぁ、あちらが納得しないのなら、こちらにも考えがあるので」


 本当に、弓弦さんは頼もしいですわ。ますます好きになってしまいますの・・・。


「そ、そうか。・・・まぁ、君がそう言うならば、任せよう」


「はい。任せてください。お義父さん」


 にっこりと笑った弓弦さん。お綺麗な顔に(すご)みが加わって、なんだか背筋がぞくぞくしてしまいましたわ。


「あら、お父様、顔色が悪いですわ」


「ああ、本当だ。大丈夫ですか?お義父さん」


「・・・ぁ、だ、大丈夫だ!し、心配いらん!!」


 心配ですけれど、本人がこう言っていることですし、大丈夫ですわね。


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