19.茶番はおしまい
いつもありがとうございます!
弓弦さん、(いろんな感情が)振り切れました。
――side 弓弦
あの後、ヘルシー女学園の警備員を呼び、白遠が連れて来た男達を連れていってもらった。
琴瀬先生のあのスマートなオトし方、どこぞで武術を習ってたんだろうか・・・。相手の体重を使って呆気なく男達を倒していく姿は、正直俺よりもカッコ良かった。
「これは、白遠家に厳重に抗議しなければなりませんねぇ」
警備員と共にやってきたヘルシー女学園の学園長・栗田紫子先生はおっとりとした調子で言う。
いつも穏やかで優しい学園長なのだが・・・その穏やかさが今は怖い。俺、暗黒の影響受け過ぎだろうか?裏の裏のまた裏を読みたくなってしまう。
「学園長・・・私のせいで、申し訳ございません」
文音さんが頭を下げる。・・・文音さんのせいではないのに。白遠め・・・他人の迷惑になるってことも考えて行動しろよ。頭空っぽかよ!医者なのに!!
「いいえ、宗島先生が悪いわけではないでしょう?ご自分を責めてはいけませんよ。悪いことをしたのは白遠家のご子息なのですから。
このように、学園内で好き勝手になさるようなら、理事長にもご許可を得て立ち入り禁止にしなければなりませんね」
穏やかに・・・あくまでも、穏やかに文音さんを諭す学園長。良かった・・・わかる人はちゃんとわかってくれる。
まぁ、ここで文音さんを責めるような人間はそもそもこの学校に勤務していないはずだ。なにせ、あの理事長が手ずから選んでいる教職員だもんな。
それにしても学園長は優しさ100%でできているという話は本当のことなのだろうか・・・なんて思ってしまう俺は、相当暗黒に毒されてきているな。
「学園長、元は自分が構内への立ち入りを許可して欲しいと願い出たことから始まったことです。理事長には自分から説明をします」
言い出しっぺは俺だ。学園長に全てお願いしてしまうわけにはいかないだろう。そう思って言えば、学園長は目を細めて笑った。――もちろん、黒くない。ものすごく優しそうな笑顔だ。
「最首先生も、ご自分を責めないで。・・・ですが、そうですね。ことこの件については私よりも最首先生からの方が良いのかもしれませんね。宗島先生も付いていってさしあげてはいかが?」
ニコニコと笑って視線を下の方に向ける学園長。
下の方・・・・・・はっ!まだ、手を握ったままだったっ!!!
でも、手を放してしまうのは嫌だから、その視線に耐えながら更に手に力を込める。ハッとして文音さんが俺を見上げて・・・ふわりと微笑んだ。
「はい、学園長・・・そうしますわ」
また俺と文音さんの距離が縮まった。そう思えた瞬間だった。こう言ってはなんだが白遠には感謝かもしれない。――ありがとう“当て馬”君。
***
「そう・・・意外とつまらない結果になったね。もう少し頑張るんじゃないかとも思ったんだけど・・・やっぱりただのボンボンか」
ふぅ、と溜息をついた理事長は、俺と文音さん。そして撃退も手伝ってくれた琴瀬先生を見つめる。
「鴻崎先生、とりあえずボーナス上乗せするから・・・暗黒同好会のOB動かしておいてね」
「ヨォッシ!!・・・あ、ごほんっ・・・わかりました」
・・・いや、そんな取り繕ってもダメですから。ちょーガッツポーズ決めてましたよね。琴瀬先生。暗黒OBって・・・何する気!?
「まずは白遠君は脱落だねぇ・・・で、他の2人はどうするの?最首先生」
「他の2人ですか。・・・白遠のことを反面教師にしてくれればいいですが、そうすると攻めにくいですね」
「そうだねぇ・・・まぁ、宗島さんはもうオチたようだから、正式に婚約発表してしまえば良いんじゃないのかな?」
ああ、その手があったか・・・って、ちょっと待てぇい!!
「ちょ、ちょっと待ってください・・・宗島さんがオチたとか、ど、どういうことですか!!」
琴瀬先生を見れば、ニヤリと笑ってピースサイン・・・って!ホントに何やったんですか!!アンタ等!!
「別に何もしてないってば。ただ、あのボンボン3人組を最首先生の当て馬にしたことについて延々と嫌味を言っただけだしぃ――主に正神が」
―――正神ィイイイ!!!
「いやぁ、我が甥ながら・・・なかなかだよねぇ」
なかなかって・・・なかなかって、ナニ!!
「・・・お父様も随分と反省したようでしたわ。調査不足は否めない、と」
「アイツ等、宗島家の財産狙いだからねー・・・まぁ、宗島先生自体にも興味はあるんだろうけど」
ひょい、と肩を竦めて琴瀬先生が言った内容に、俺は首を傾げた。
「白遠だけじゃなくて、ですか?」
「最首先生、人脈も財産の一つだからね?」
「―――あぁ、政治家も会社経営も人脈は必要ですよね・・・」
「そーいうコト。宗島家の親戚ってあらゆるトコに顔つないでるからねー」
欲望丸出しだな・・・文音さん本体はついでか。
「・・・白遠だけだと思ってたのに・・・これは徹底的に排除の方向でいきましょう」
もう、勘弁ならん。なんで俺と文音さんが奴等に気を使わにゃならんのだ。
俺は文音さんに向き直った。
「文音さん、この後予定はありますか?」
「いいえ、ありませんわ」
「じゃあ、指輪を買いに行きましょう。以前、お約束しましたよね?」
「えっ・・・あ、は、はぃ」
その時のことを思い出したのか、ボッと顔を真っ赤にする文音さん。・・・ああ、可愛い。癒される。この素直な反応。
「人前でいちゃつくとか・・・最首先生、開き直ってるー・・・」
「いわゆる“振り切った”状態だねぇ・・・うん」
生暖かい目で琴瀬先生と理事長に見られていることはわかってるが、もうどうだっていい。このままこんな茶番を続ける必要もない。
「指輪買ったら、“お義父さん”にご挨拶に伺いたいんですが」
「は、はい・・・つ、伝えておきますわ・・・」
「いつ行っても大丈夫なようにジュエリーショップには連絡済みなので、すぐ行きましょう」
あの約束をした後すぐに、俺はジュエリーショップに連絡していた。3ヶ月が待ち切れなかったというのもあるし、文音さんが俺からあの3人の誰かに乗り換えるなんてことは考えられなかったからな。
「そ、そうなのですか」
「ええ、そうなんです。遅くまでやっている店なので、今から行ってもゆっくり選べますよ」
「は、はい・・・」
よし。押せ押せ作戦はいまだに有効らしい。
「すご・・・宗島先生に流されてるだけと思ってたのに、意外と積極的じゃん・・・最首先生」
「ああ、本当に・・・」
琴瀬先生と理事長が俺の変わり様に驚いているようだが、こうでもしないと文音さんに流されっぱなしになるから、頑張ってるんだ!!
「―――理事長、琴瀬先生。とりあえず白遠のことは暗黒同好会にお任せします。で、指輪を買いに行かなければならないのでこれで失礼します」
「ああ、じゃあこちらのことは心配いらないから。・・・宗島先生を喜ばせてあげなさい」
頬杖をつきながらひらりひらりと手を振って理事長が事後処理を請け負ってくれる。
「ま、お幸せにー」
琴瀬先生も興味なさげにだがそう言って手を振ってくれた。俺は軽く頭を下げ、文音さんを連れて理事長室を出た。




