第83話:聖女の涙と、総帥の経営機密
晩餐会の狂乱が終わり、宮殿の一室。
先ほどまで衆目の中で四天王の玩具として啼き喚いていたアリアは、冷めた紅茶を啜りながら、いつもの冷徹な経営者の表情に戻っておりました。
しかし、部屋の空気は重苦しく、張り詰めております。
アリアの派閥メンバー、ミランダ、セレスティア、エレナたちは、先ほどの光景を思い出し、困惑と憤りで震えておりました。
「……アリア様。なぜ、あのような……あのような屈辱を受け入れたのですか?」
セレスティアが震える声で尋ねます。彼女の純白の衣装は、かつてアリアの支配下に堕ちたとはいえ、今でも高潔な聖女の矜持を残しております。他の側近たちも同じ気持ちでした。彼女たちにとってアリアは絶対の総帥であり、崇拝の対象。そのアリアが、隣国の女たちに嬲りものにされる光景は、耐え難い光景だったのです。
アリアは紅茶のカップを置き、静かに微笑みました。その瞳には、前世である佐藤健一の、狡猾で容赦のない営業マンの輝きが宿っておりました。
『ああ、なるほど。四神女たちには、今回の作戦の内容を共有していなかったな。……彼女たちの「信奉心」を利用して、女王の油断を誘うためには、彼女たちの純粋な怒りが必要だったんだ』
「……皆さん、落ち着きなさい」
アリアの声は静かで、しかし全員を沈黙させる重力を持っておりました。
「あれは、単なる蹂躙ではありません。あれは『先行投資』です」
アリアは立ち上がり、窓の外――セントリアの王都を見下ろしました。
「私はあえて、女王エレオノールに『自分は簡単に支配できる玩具だ』という誤った認識を売ったのです。あの方は、実利主義者ゆえに『力のないもの』には興味を示しません。今の私は、彼女にとって『最高に扱いやすく、かつ快楽を吸い上げるための便利な装置』としてインデックスされました」
アリアはミランダの顎を指先で持ち上げ、その潤んだ瞳を覗き込みます。
「ミランダ、貴女なら理解できるでしょう? 王国の国境を書き換えるために、一介の公爵令嬢がどれほどの『犠牲』を払う必要があるのかを」
ミランダはハッとして、アリアの瞳に宿る暗い情熱を悟りました。それは支配への渇望であり、徹底的な合理主義の結果でした。
「……アリア様は、ご自身を餌になさったのですね。この国と、私たちを……女王の懐から内側へ引きずり込むために」
「その通りです。四天王の指の感触、肌の感覚……すべて私の神経回路に記録しました。彼女たちの弱点、魔力の癖、そしてエレオノールがどこで快楽を感じ、どこで理性を失うのか。……そのすべてを、今夜の『デモンストレーション』で完全に把握いたしましたわ」
アリアが不敵に笑うと、背後のリリアがその足元に跪き、冷え切ったアリアの足を抱きしめました。
「流石はアリア様……。私たちは、貴女のその冷徹なまでの先見の明に、何度でも堕ちていけますわ」
『ふふ、単純な連中で助かる。こいつらの献身と信頼を燃料にすれば、どんな大きな案件でも動かせる。エレオノール女王、貴女の計算式は狂うことになる。私の会社は、貴女が思っている以上にタチの悪いブラック企業(愛の沼)なんですよ』
アリアは、メンバーたちの不安を完全な崇拝へと書き換え、次の商談、女王の寝室への「納品」に向けた準備を開始しました。




