① 老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます の感想(前)
媒体:アニメ&コミック(データ)。
なろう原作版はかなり長そうだったので九割読んでません(「読書」感想文なのにほぼ吹き出ししか読んでいない)。完結の暁に読もうかと。いつか。
尚、未完の作品は評価しきれない為(前)とします。
個人の評価としては――「高め」です。
有名作品につき、あらすじ不要ですね(※あらすじ毎回省きます)。
拙作の制作にあたって、最もインスピレーションを提供してくれた恩人いや恩作でもあります。
ツッコミどころ満載ですけど普通に面白いと感じました。
失礼ながら期待していなかった分ギャップがあったのですよ。恐らく私がこの手のなろうジャンルに免疫が足りていない為、一際フレッシュに感じられたのでしょう。(因みになろうと知らずにアニメ見ました)
世間の評価は色々あるようですが、個人的にはあちこちのネジがぶっ飛んでいて良かったと思います。
拙作『聖女~』のタブーを悉くやらかしている代表格のヒロインだというのに「面白いから良いか」とあまり気にせず楽しく見られました。
出だしのヒロインの身の上を考えればこの「何としても成功してやる!」という気概にも納得がいきます。元気で逞しく好感が持てるヒロインです。
ただ、既に多くの声がツッコミを入れている通り、突然の魔物襲来エピソードには目が点になりました。魔法は無いけど魔物はいる世界……んう。
しかしこの後、持ち込んだ現代兵器で城より巨大サイズと思われる竜を三体も殺傷する展開に笑います(いい意味で)。派手な展開が大好物なので「もっとやれ」と思ったくらいです。
そもそも作風ギャグですよね。ギャグなら滅茶苦茶はアリです。トムジェです。
『老後に~』はとにかくヒロインが力強くストーリーを引っ張っていくスタイル。それで躍動感とメリハリが生じていると思います。
物騒な現代兵器をそれ程葛藤も無くさくっと持ち出して、環境破壊だの汚染だの平然とやってのけてしまう無法っぷり。けれどその無法が話のテンポを生み、見ている者を飽きさせない展開にもなっている。
退屈しないです。こういう「デカい花火で盛り上げよう!」って精神好きですね。
更にこのヒロイン、人の陰に隠れずに自ら武器を手にしていますよね。
軍事施設で特訓するシーンがちゃんとあって驚きました。いかにも作り手が手抜きしがちなトレーニング風景を飛ばしていない。
クールですよ。
ヒロインがもし、人に口出しした後は安全圏から大人しく待つだけのプリンセスだったら絶対好きになれませんでした。
この弾丸ガールはもっと評価されても良いのではと思います。
あと、便利ツールになりがちな冒険者の存在が無い点も気に入りました。魔法が無い世界だから当然なんでしょうけど。まあ傭兵にリスペクトを持つこのヒロインに冒険者は不要ですね。
余談ですが、なろうで凄く苦手な要素の一つが冒険者でした。
乙女ゲームものでも重宝されてますけど出る度に「何者」って思います。長らくちゃんとした職業の人じゃないという感覚が払拭できませんでしたが、冒険者が主人公の作品を読んで以降かなり解消されました。
(冒険者、存在を覚えたからには拙作でも組み込もうかと考えて秒で止めました。世界の文明レベルをある程度抑えておく必要がありまして。日本の知識を持つ聖女が来る世界に、魔法使う兵隊と錬金術師がいて更に冒険者までいたらフルスロットルです)
そういえば医療を要するエピソードは興味深かったです。
患者も医者も異世界間を行き来する。転移の能力が炸裂ですね。
ちょっと勿体ないというか、敢えてケチを付けますが、作品全体に緊張感が欠けているように感じました。心理戦が無いというか。
ヒロインを取り巻く人間関係に複雑さが無く、出て来るキャラクターは素直で親切な善人ばかり。偶に小悪党が出てきても全く脅威にならない。
特にヒロインはお年頃の女の子なのに「ラブ」の要素が皆無ですから、途中うっかり「可愛い男の子」の主人公に見えてました。
ストーリーの進行を阻害するものを戦略的にざくざく削いだのでしょう。
ギャグ強めの作品ですし、生きるのに忙しくて日々充実してるヒロインには必要ないという判断もありそうです。
――と見せかけてこれから青春の展開が始まるかもしれないな、とかひっそり思っていたりします。
勿体ないといえば――軍艦が海を越えて来る胸躍る新展開で、まさかのビーチでのやり取りで終わり。艦砲射撃五発のみとは、実に勿体ない。
いやヒロイン側に艦が無いのに海戦を望める筈もないんですけどうっかり期待しました。このヒロインなら艦隊を連れて来るぞ! って。鉄の玉VSミサイルとかやってしまうのかなと。
もっとヒロインの国の文明レベルが進んでからご対面して欲しかったですね、自称総督。
そしてこのエピソードをコミックで読んだ後、転移の能力についてちょっとした違和感程度だったものが激しい疑問に変わってしまいました。
最大の難癖を付けます。
ヒロインの能力は不可視のものでも(視界内にあれば)転移出来るらしい。――そんなのアリ?
よく似た疑問というか感覚が、同一作者の『ポーション頼み~』でもありましたので、ついでに書いてしまいます。
ヒロインが望む形状の容器――。何でもありのポーションとやらもアレでしたけど、芸術価値の高い器を女神がさくっと作製して「はいどうぞ」と送ってくれている仕様。ポーション頼みより神頼みが相応しいのでは。
せめてデザインの感性だけはヒロインのものであって欲しかったですね。まあストーリー上大事な要素で無い事は分かるんですけど(作中ヒロインも「私が作った」とは言っていない)。
ドレスについても触れておきます。
(※筆者は「芸術」領域と「海軍」領域に過敏に反応する性質です)
度々ドレスを新調しているヒロイン。依頼先は明らかに日本のコスチューム屋さんです。
これは断じて批判ではないです。ヒロインの判断は正しい、と言い添えているだけです(ただ作者の意図的な判断か否かは分かりませんが)。
令嬢のデビュタントのドレスにしろヒロイン自身の正装にしろ、現代の地球人からすれば「コスチューム」です。最も上手く、喜んで仕事を引き受けてくれるのは勿論コスチュームデザイナーです。
本当はヒロイン、東京ガールズコレクションの格好とかで叙爵されたかったかもしれません(その心理描写は無かったですけど)。
作中のドレスは、アニメで見てもコミックで見ても普通に可愛いデザインでした(これ作者の能力とは言えませんね。原作の描写どんなでしたっけ……)。
作風とマッチしていましたから何も問題ありません。
問題が生じるとしたら『老後に~』が実写化される時でしょう。
衣装の話が出たついでに、漫画の実写化は本当にハードルが高いですね。
少年漫画のファンタジーとかほぼ「え?」です。何となく、元々コスプレ感が希薄な着物の世界観の漫画は上手くいってる印象があります。洋装はコケてる印象が拭えません。もしコケてない実写作品をご存じの方こっそり教えてください(勿論、邦画です。アメコミはもうレベルがね)。
それでは最後に、現時点の知識だけで『老後に~』の今後の展開を勝手に予想したいと思います。
ヒロインは自領のある異世界から離脱して更に別の異世界へと移住。その後、何十年か経て今の場所に戻り「ヒロインの子孫だ」と名乗る。
移住しないと困った事になりますもんね。老化しないそうですし。いつかは子爵領にも日本にもいられなくなる。自由なんだか不自由なんだか……。
しかしこのヒロインならどこでも逞しく生きていけるでしょう。