第9話 王国王都ギーレル
「これで何人やられた?」
「さあ、この乱戦ですからね4、5人はやられてるんじゃないですか」
「参ったな。こんな事ならこの任務受けなきゃ良かったぜ。冒険者やってた頃は
良かったな。ヤバくなったらトンズラすれば良かったからな」
「あきらめて下さい。親父殿に騎士団に復帰しろって言われたんですから」
「まあそう言うなよ。お、なんだ!?あいつら急に引いて行くぞ」
「どうしたんでしょうね」
「どうであろうが敵は撤退。兵達を集めて砦まで引くぞ」
ここは王国の北西にあるメントスの砦。彼らは不明の集団に砦を襲撃され撃退
した。
「サムソン、これから俺は王都に帰って団長に報告してくる。それで足りなくな
った兵の補充を頼んでくるつもりだ」
「デービッド様、お早いご帰還を。私如きじゃここは持たないです」
「何を言ってるんだ。栄えあるドラゴンバスター様がその調子じゃ困るぞ」
そう言って騎士デービッドは王都に向かって馬を走らせた。
◇ ◇ ◇
「あの門を潜れば王都よ」
「おお思ったより結構でかいな」
「キョーヤお腹すいた」
「ピッポ王都に着いたら何が食べたい?」
「ピッポ、お魚が食べたい」
「また魚かよ、他に食べたい物無いのかよ」
「キョーヤ、謁見の際はお願いするわよ。私じゃ何をやらかすか・・・」
「スレインよお前が大使の任を任せられたんだ。きちんとお役目を果たせ」
程なくして4人を乗せた馬車は王都ギーレルの門に着いた。門では入国の
審査を行っており身元の確認が行われていた。
「ピッポ、あなた身分を証明するもの持ってる?」
「身分?これで良いのかな」
ピッポはポケットから光り輝く宝石の着いたブローチみたいな物を出した。
それを見てカタリナとスレインが驚いた。
「ピッポそれって獣族の中でも高貴な生まれの証よね」
「そうなのか?私はあんまり気にした事ないけど」
「これはスターサファイアだ。売ればどれだけの金になるやら、えへへ」
スレインはよだれを垂らして羨ましがった。
「ピッポは大丈夫ね。後はキョーヤだけど・・・」
「キョーヤには私の装備を付けて顔を隠してもらうわ」
「成程、従者っていう事にするのね。キョーヤ検問所ではあなた一切喋らないで
ね」
「へいへい。仰せのままに」
スレインが緊急の用で来た事を話すと思いのほか易々と通して貰えた。身分照
会も無かったし、荷物も調べられなかった。
「ああ重かった。スレインの装備ってこんなに重かったんだな」
「私の装備は薄い軟鉄で出来た比較的軽い装備なんだぞ。その位は難なく扱って
貰わないとな勇者殿」
「まあ命が掛かってるから不満は言いたくは無いがなあ」
「そう言えばキョーヤの装備も揃えないとね。後で2人で行きましょ」
そう言ってカタリナはウィンクした。
「2人でってどういう意味だよ」
「そうよキョーヤはピッポと一心同体なのよ」
「いや一心同体じゃねえ」
「それでスレイン。まず王宮に行くの?」
「いやまず、騎士団に顔を出してくれって」
「そうなの。じゃあ私は先に行く所あるから、また後で合流しましょう」
そう言ってカタリナはそそくさと町の中に消えていった。
◇ ◇ ◇
王宮騎士団の応接室に京矢達は通されていた。暫く待っていると2人の騎士が
入ってきた。対照的な2人だ。先に入ってきた男は屈強そうだが気品も有る如何
にも騎士らしい感じだった。
続いて入ってきたのは小柄の育ちは良さそうだが幼い顔立ちの少女だった。
2人は京矢達の前に立って挨拶を始めた。
「どうもお待たせしました。私はアルフォードを申します。こちらが当王国騎士
団第31代団長シフォナ・エクレール様で御座います」
「えええ」
なんと騎士団団長は少女の方だった。京矢達は暫くその場に固まった。
「何じゃお主達、失礼な。私は第31代騎士団長なのだぞ」
「団長それは分かっていると思います」
「何を言うておる。私はな、この古い歴史を持つ王国騎士団の31代・・」
「分かりました。それでご用件は何で御座いましょうか?」
京矢はイラっとして大声で訊いた。シフォナはキョトンとして京矢を見ていた
が気を取り直し話し始めた。
「さてお主達はエルフ族の者であった筈じゃが、これまた随分とバラエティーに
富んだ組み合わせじゃな。それで具体的にどの様な内容で参られたのじゃ?」
「はい、実は・・・」
スレインは今回のリザードマンの襲撃についてと、その裏に連邦の影がある事
を説明をした。
「成程、そういう訳じゃったか。実はの、我らも最近西の辺りで、きな臭い情報
が入って来て不思議に思っておったんじゃ」
「長老からは出来れば騎士団の方に応援を願えないかと」
「ふむ。北でお主達が我が国の盾になってくれておるのは判っておる。応援を出
してやりたいのはやまやまなのだが、先程きな臭い情報と言ったであろう、それ
がな連邦の近くで謎の武装集団が出没してて今日も砦が襲われておるのじゃ」
「王国の砦がですか?」
「そちらにも人員を割かねばならないのでな、すぐには動かせぬのじゃ」
シフォナは申し訳なさそうに言うと同時に京矢の顔を見て言った
「ところでお主はヒューマンじゃな。何故エルフとつるんでおるのじゃ?」
「それはこういう事でして」
スレインはおもむろに京矢の頭のタオルを取った。
「な、やめろスレイン!」
京矢の露になった頭を見てシフォナは思わず叫んだ。
「なんじゃと!こ、これは勇者殿であったのか。何年振りかの勇者が転生する
のは」
「俺は転生したんじゃねえ。家のドアを開けたらこっちの世界にいたんだ」
「禿の転移者とは更に珍しい。まあ良い、お主王国に仕えぬか?待遇は思いの
ままじゃぞ」
「珍しいって、という事は他にも俺と同じような奴がいるのか?」
「キョーヤは私の物です。勧誘しないで下さい」
「待て待てスレイン。俺は何時お前の物になった?」
「いつでも良いだろ。いずれはそうなるのだから」
スレインは顔を赤らめながら言った。その側でピッポが心配そうに見ている。
「またこいつ可笑しな事言い始めたよ。でもまあそうだな、俺達はパーティーだ
からさあんたらの王には仕えないよ」
「分かったまあ良い強制はせぬ。それに王国は何時でもお主への扉は閉ざさぬ。
それではこれから一緒に国王に報告に行くとするか」
「かしこまりました。ご一緒させて頂きます」
シフォナの案内で京矢達は謁見の間に向かった。謁見の間は騎士団の建物から
程なくの場所に有った。
「謁見の間って意外と近くにあるんだな」
「これには理由があってな。謁見する者は必ず騎士団か魔導士団が目通りするん
じゃ。それが済んだらすぐ謁見の場に行けるようになっているのじゃ」
「なるほどねえ。長い歴史の中で効率的な造りに変わって行ったって感じかな」
「異世界人らしい考え方じゃな」
シフォナはニヤリと笑った。