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ゴーゴーストーリー  作者: 女良息子
第一章 幽霊船と腕鳴らし
10/193

10「銃声」

 その後も何軒か買い物に回って分かったことだが、どうやらこの島全体に漂う陰鬱な空気の理由のひとつとして、海上憲兵の存在があるらしい。

 住民たちははっきりとした明言を避けていたが、話題が海上憲兵のことになると誰もが元から良くなかった顔色を更に曇らせていた。

 ようやく事情を話してくれたのは、保存食を買うために寄った店の主人だった。

 彼は周囲に声が漏れないようにこっそりと、いかにも『ここだけの話ですよ』といった感じで、


「あの基地は数年前に森の一部を切り拓いて作られたものなんですが、そこに着任した大佐が酷い人でしてね。我々に高い税を要求してきたんですよ」


「なんじゃそりゃ。海上憲兵ってのは、そんなめちゃくちゃな組織だったわけ?」


 呆れたような声で言うフォークロア。


「もちろん、最初は島民が総出で反対しましたよ。しかし、大佐の()を目にした途端、士気が弱まってしまいまして……。それからはもう、恐怖の毎日です。税を納められなかった者が、あるいは反逆を企てていたものが、あるいは何もしていなかったはずの者まで、ある日急にいなくなっているのですから。おそらく基地に連れ去られたのでしょう」


 びっくりするぐらいの独裁政治だ。横で話を聞いていたロータローは驚いた。

 店主は「それに」と話を続けた。


「最近は南の森でゴブリンが大量発生しているんです」


 ゴブリン。

 別世界出身のロータローでも知っている単語だ。たしか、ゲームの雑魚キャラでよく見かけるやつだっけ。

 人間の子どもくらいの身長をしたモンスターで、知能は低く、群れで行動するというのが、ロータローのファンタジー知識にあるゴブリンである。もっとも、この世界で言われるゴブリンが、ロータローの世界と同じものを示すかは分からないが。


「元々この季節は奴らの繁殖期なのですが、今年は例年より数が多く、突然変異でも起きたのか、新種のゴブリンまで目撃されています。先日、青年団が狩りに出ましたが、未だに戻っておりません。団には私の息子も所属していますので、心配で心配でなりませんよ。かと言って、ここで海上憲兵に助けを求めて借りを作れば、見返りとしてこれまで以上に理不尽な要求をされることは分かり切っています。……どうすれば良いことやら」


 ずっと誰かに愚痴りたくてたまらなかったのだろう。店主は一気に吐き出すようにして語ると、最後に重い溜息を吐いた。

 なるほど。海上憲兵の大佐に森のゴブリン。この島の人間の悩みの種は理解できた。どちらか片方だけでも厄介だろうに、ふたつが同時に問題になるとは、弱り目に祟り目である。


 店主の話を聞き、買い物を終えた帰り道。


「なあ、こういうのって助けるのがお約束の展開じゃないのか? 水戸黄門みたいな感じでさあ」


 荷物を抱えたロータローはポツリと呟いた。彼は決して正義感が強いタイプではないが、先ほどの店主の姿を見て心になにも感じるところが無いほど不能ではない。

 それに、困っている住民を外からやってきた自分たちが助けるというのは、いかにも異世界ファンタジーっぽくて心躍るではないか。……もっとも、今のところロータローに戦闘で役立ちそうな要素は全く見当たらないのだけど。

 ロータローの発言に最初に反応したのは、彼の七倍の荷物を軽々と運んでいたワンダーだった。


「ミトコーモンが何かは分からねえが、新入りがなに偉そうなこと言ってんだ。それに、俺たちが任された仕事はあくまで買い出しだ。島の悩みの解決役じゃあねえ」


「とはいえ、この島は『彷徨えるシットローズ号』のお気に入りだからね。新入り君が言う通り、このまま放っておくってわけにもいかない」


 そう口を挟んだのはツールだった。彼もワンダーほどではないが、ロータローより遥かに多くの荷物を運んでいる。骨だけの体には筋肉がついていないはずなのに、どこから力が湧いているのだろうか。不思議だ。


「海上憲兵の圧政やゴブリン害でこの島が滅んだら、僕たちだって困る。キャプテンだって、そんなことは望んじゃいないだろう。この仕事を終えて船に戻ったら、相談してみよう。きっといい返事がもらえるさ」


「元々ワタシたちは海上憲兵と仲がいいとは言えない幽霊船だもんね! 今更やつらと敵対するようなことをしても、きっと問題ないわ!」


 スリルが声を上げると、フォークロアも同意するように頷いた。


「それに、その大佐やゴブリンがどのくらい強いかは知らないけど、少なくともウチの戦闘班ほどではないでしょ。大丈夫大丈夫」


 つまりは『とりあえず今は買った荷物をさっさと船に届けろ』ということらしい。


 と、その時である。


 ロータローたちは、目の前に立ちふさがる存在に気が付いた。

 それは軍服を着た集団である。背に長銃を背負っている。町の往来を歩いていた民衆は、彼らを恐れているのか、道を開け、逃げるように身を潜めていた。

 集団の先頭にはひとりの美しい女が立っていた。だが、女の全身から放たれている悍ましい気配が、その印象を打ち消していた。

 例えるなら、触れるもの全てを傷つけるどす黒い刃。

 相対するだけで肌が粟立つ。ロータローの生物としての本能的な部分が『この女は危険だ』と告げていた。


「はぁ~い、どうもどうもオ。初めまして。私は海上憲兵所属のメェケン大佐だよん」


 メェケンは挨拶を告げると、にこやかな笑顔を作り、頭の横で両手をひらひらと横に振った。


「いやあ、不審な船を捕まえるべく、正義感を胸に港へと向かっていたら、途中で見慣れない集団を見つけて興味が湧いたんだよね。もしかしてオマエたちって、今日港に現れた船の船員だったりするぅ? 今は買い出しの途中だったりする感じ?」


「だとしたら、どうするってんだよ」


 ワンダーがズイ、とロータローの前に一歩踏み出しながら問うた。その口調に警戒心は微塵も隠されていない。


「いやア、別に大したことはないよ……ただ、ちょっとね」


 メェケンは片手を上げる。それを合図に、彼女の背後に控えていた憲兵たちが、一斉に銃を構えた。


「メインディッシュの前に、オマエたちを軽ぅ~く殺しておこうかなって思ってね」


 次の瞬間、銃声が鳴り響いた。


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