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四男フルーレティのその後

「よし、ここまで」

 オレはイポスとラボラスに声をかけた。週に何回か家に泊めて早朝トレーニングして鍛えてやってんだ。

 家、隣だし。つっても間に森とかあるけどな。

「つかれたぁ」

「お疲れ。でも二人ともだいぶできるようになってきたぞ」

「だってヒナちゃん守るためだもん!」

「その心意気やよし!」

 グッと親指立てる。

「けどなぁ、やっぱイポスはネビロスの息子っつーか、やりすぎそうで心配だ」

「過剰防衛しそうになったら僕が羽交い絞めにしてでも止めるよ」

「ラボラス……リリーちゃんの子だな……。いい子……」

 涙が出そ。

「んでもそれじゃ根本的解決にならねー。ラボラスの負担もデカいしな。お前、リリーちゃんに似て無理しすぎなのに続けるとこあるだろ」

 集中しすぎも考えもんだぞ。

「イポス。ヒナを守るために害虫駆除しまくりたい気持ちは俺もよ―――――――――っく分かる。分かるけどな、やりすぎはダメだってスミレに釘刺されたんでオレはほどほどにしてる」

「ヒナちゃん守るためにやってやりすぎることはないと思うけどなぁ」

「それも分かるんだけどな、そこらへんの感覚が人とズレてるらしい。リリスに言われた。自分のほうがおかしいんなら、一般人のレベルに合わせるよう気を付けなきゃな」

「バレずにこっそりやれば?」

「オレも思った。が、結局それってダメだって言われたことやっちまってるよな? バレなきゃ何やってもいいってわけでもねーんだよ。相手が悲しむことは、バレなくてもやっちゃダメだ」

 いいか、とイポスに言い聞かせる。

「特に俺たちは有名な悪王クソ野郎の血を引いてる。認めたくねーし、抹消したいけどこれはどうしようもねー事実だ。そういう人間がバレなきゃいいよなって裏で法律違反しまくってたらどうだ?」

「やっぱ悪王の子孫だ、似てる、同じように悪人だって世間に認識されるね」

「ラボラス、その通り。下手すりゃ人から攻撃されたり迫害されるかもしれねー。それだけじゃなく、ヒナやスミレにだって確実に嫌われる」

「そんなのやだ!」

 イポスが青くなって叫んだ。

「だろ? たとえバレずに済んで実際そういう目には遭わなかったとしてもだ、やっちまった時点で自分がそういう人間に堕ちてるんだよ。ヒナが嫌がる人間になり下がったのに、堂々とヒナの前に立てるか?」

 そう考えたからこそ、オレは思いとどまった。あのクソ野郎と同レベルに堕ちたくはなかった。

「……むり」

 わしわしとイポスの頭をなでた。

「そーゆーことだ。人より強い力と手段を持ってるからこそ、使い方には気をつけろ。誰かを守るためなら何やってもいいわけじゃない。相手を悲しませることはするな。人の笑顔と幸せを守るってのはそういうことだ」

「分かったよ、レティおじさん」

 イポスは真剣にうなずいた。

 よしよし。

 イポスは根は素直ないい子だ。手遅れなネビロスと違ってまだまだ間に合う。

 ネビロスはなぁ……リリーちゃんホント……すまん。

そっと手を合わせた。

「さ、汗かいたろ。戻ろうな」

 双子をシャワー浴びせて汗流してやって、髪乾かしてやる。

 イポスとラボラスはもう我が子同然だよなぁ。双子のほうももう一人の父親って認識してるし。

「さ、朝飯食いにいくぞ」

 ダイニングに向かうって廊下を歩くと、向こうからヒナが駆け寄って来た。

「パパぁ!」

「ヒナ!」

 すかさず走り寄って抱き上げる。

 今日もうちの娘が最高にかわいい。

 小さい手でぎゅーっと抱きついてくるとことか、もう超かわいくね? なに、うちの子、天使?

「パパ、おはよー」

「おはよ、ヒナ。今日もかわいいなぁ。スミレもおはよ」

 ヒナを追いかけてきたスミレを片腕でしっかり抱きしめる。

「おはようございます、レティ様。イポス君とラボラス君もおはよう」

「いっくん、ラスくんもおはよー」

「おはよ、ヒナちゃん、スミレおばさん」×2

 みんなそろって食卓を囲む。イポスとラボラスはしょっちゅううちに泊まりに来てるんで、よくある光景だ。

 逆にヒナが双子んちに泊まりにいくこともよくある。これはヒナが人見知りで恐がりだから、あえて他の環境に慣れさせるためネビロスとリリーちゃんにお願いした。

 なにしろヒナは俺かスミレがいないと恐がって泣いちまって、人を眠らせる魔法暴走させてた子だ。いつまでもそれじゃマズいだろ。いずれ保育園入るし、そうでなくても子供はいつか大人の手離れてくもんだ。

 ……想像するだけで悲しいけど。娘が立派に育つのはうれしい。でも独り立ちするのは寂しいんだよおおおおおおおお。

 だってもし、大人になった娘が「パパ、この人と結婚するね」なんて彼氏連れてきたら……。……。……。……。

 いかん。この想像やめよう。

 脳内の箱にブチこみ、ぶっとい鎖でぐるぐる巻きにして「封印」てお札貼って厳重に鍵かける。

 脳みそが何かを察知して全力拒否したぜ。

 オレは今何も考えなかった。うん。何も想像してない!

いやぁ、今日も朝日がきれいだなぁ。はっはっは。

 えー、で、ヒナの人見知りと魔法暴発が心配だって話に戻ろう。でもまだ城で兄弟妹そろって暮らしてた頃リリスが一日預かってくれた時は暴走しなかったから、安心できる人間を増やしてその人が傍にいれば大丈夫な場所が増えるんじゃと思って。だもんで次はネビロス一家に頼んだわけ。

アガ兄貴んとこに娘が生まれてからはそっちにも頼んだ。

 おかげで今じゃ双子やアヤメちゃんのうちだれか一人でも傍にいれば、初めての場所でオレやスミレがいなくても大丈夫になった。双子はなにしろオレが鍛えてるし、アヤメちゃんはアイリスさんに似て人付き合いが上手いからな。

 城内保育所も楽しそうに通ってる。よかったよかった。

 双子もまとめて保育所へ送る。

「ネビおじちゃま、おはよぉ」

「おはよ、みんな。レティ兄さん、ありがと」

「どうせ一緒だしな。ヒナも喜ぶし」

 ヒナはアガ兄貴の娘・アヤメちゃんを見つけて飛んでった。

「アヤメちゃん! おはよー」

「ヒナちゃん、おはようございます」

 仲のいいイトコ同士ぎゅーと抱きついてあいさつ。

 はあ、かわいい。なんて微笑ましい光景。

 激写、激写。

 生まれたのはヒナのほうが早いが、精神的にはアヤメちゃんのほうがはるかに大人だった。ヒナはすっかりお姉ちゃんのように慕ってる。

 よかったなぁ、ヒナ。ヒナには頼れる兄姉的存在が必要だ。

 イトコそろって四人で遊び始めた。

「よし、これで大丈夫だな。……で、何してんのアガ兄貴」

 近くの物陰にいるアガ兄貴にきく。

 同じタイミングでスマホのカメラ撮りまくってる音がしてたところが兄弟だなと思う。

 つか、身長でけぇから隠れられてねーぜ?

「心配だ。うちの娘はかわいいから、何かあったら……」

 ブツブツ言っとる。

 自分見てるみてーだわ。

 アイリスさんがあきれて、

「アガリアレプト様、平気ですってば。あの子はしっかりしてますでしょ。といいますか毎朝このやりとりやめません?」

「あんなにかわいいんだぞ、余計な虫が寄って来まくるに決まってるだろうが!」

「アガ兄貴、オレも同じようなこと言ったわ」

「アガリアレプト様ってレティ様に似てらしたんですね、意外です……」

「つかさぁ、アガ兄貴。ヒナについてそう言ったオレに心配性って言わなかったっけ?」

 綺麗にスルーされた。

 おーい。

「双子がついてますでしょ」

「そーだよ。なぁ、オレだって辛いけどさ、娘のために我慢してんだ。娘の将来を思うなら、親と離れて同年代の子たちと過ごす時間も必要だろ?」

「分かってる。だが」

「はいはい。お仕事行きましょうね。サボると大事な娘に嫌われますわよ?」

「うっ。それは嫌だ。だ、だが」

 アイリスさんは容赦なくアガ兄貴を引っ張っていった。

「あのアガ兄貴が……。文句言いつつ大人しく引かれてくって、マジすげえ」

 オレとネビロスはそっと凄腕トレーナーの義姉を拝んだ。

 マジ感謝しかねぇ。ありがとうございます。

「アイリスさんが前に、アガ兄さんは野生の狼みたいなもので、手なづける感じだって言ってたよ」

 ほえながらもリード引かれてご主人についてく黒犬をイメージする。

「ぴったりだな」

「まったくね。さて、レティ兄さんたちも仕事いってらっしゃい」

「ああ。頼んだぞ」

 末弟に娘を任せ、スミレを職場へ送ってく。つまりリリスんとこに。

 破天荒な妹は今日も元気ありまくりだった。

「レティ兄さま、スミレちゃん、おっはよー。今日は次のシーズンの新作アイテム会議なんだわ。いっそがし。後よろしくっ!」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 一度飛び出してったリリスはUターンしてくると頭だけ戸口からのぞかせて、

「言い忘れた。レティ兄さま、担当部門から正式に話いくと思うけど、お人形遊びの家具シリーズ。売れ行き好調で増産よろ! あと、他のタイプも出してほしいってさ」

「分かった。これから行くんで話しとくわ」

「お願いね~」

 妹は走ってった。資料抱えたルシファーが後に続く。

 完全にぶっとんだボスとできる秘書だな。

「じゃあスミレ、夕方迎えに来るからな」

「レティ様も行ってらっしゃいませ」

 メイド姿のスミレからの「行ってらっしゃいませ」。

 破壊力は抜群である。今日一日仕事やる気出ました。

 鼻歌歌って出かけようとしたオレに、すかさずメイド仲間たちがあれこれ押しつけてきた。

「あっ、フルーレティ様。あっちに行かれるならこれ差し入れです! 持ってってみなさんで分けてください」

「あ、私も。どうぞ」

「すみませんがこれうちのダンナに渡してもらえます? 忘れ物なんですよ。お弁当」

「おう」

 文句言わず受け取って、知り合いの建築会社に行った。傭兵時代の仲間が立ち上げたとこだ。

「よっ。注文の家具、納品に来たぜー」

「あっ、隊長。どーもー」

 あいさつ交わしつつ差し入れ配りながら奥の部屋へ。そこではいかつい男どもが小さな人形の家や家具を作ってた。

 強面でムキムキなおっさんがほんわかメルヘンなオモチャ作ってるって、シュールな光景。

 そしてよく見ると気づくことだが、みんなどこか体が不自由なヤツばっかりだった。戦闘で手足を失ったり、片目に眼帯してたり。

 ケガで働けなくなった元傭兵はたくさんいる。すると金を稼げなくなり、路頭に迷う。傭兵にとって体や健康を損なうことは収入に直結し、文字通り死活問題だ。

 オレはそんなヤツらを助けたかった。オレだってそうなってたかもしれないんだからな。だから彼らを集め、こうして仕事を紹介した。

 それぞれの状態に応じた仕事を割り振り、他にもルシファーに頼んで城の事務仕事やなんかを紹介したのもいる。「仕事にあぶれた傭兵が強盗にならずに済み、治安も保たれますしね」とルシファーは快諾してくれた。持つべきは有能な義弟だな。腹黒だけど。

「よっ。リリスから伝言。人形の家具シリーズ売れ行き好調につき、増産アンド第二弾よろしくってさ」

「マジっすか! いやー、うれしいなぁ」

「ほんとほんと。子供たちが喜んでくれると思うと、作りがいがありますよね!」

「うんうん。子供たちの笑顔のために働けてうれしいっすよ。この前なんか、買った子から手紙が届いたんです!」

「コイツ泣いてたんですよ~。こんな恐いツラしてるくせに」

「うるさい、お前らだって泣いてただろ。そりゃ泣くわ。戦いばっかで辛い生活じゃなくて、無垢な子供にありがとうって礼言われるなんて……もう……」

「分かる、ぐすっ。心が浄化されるよな」

「ああ。ほんと平和が一番」

「子供たちが喜んでくれるのが何よりうれしいよ」

「こんないい仕事紹介してくれてありがとうございます隊長!」

「マジ感謝しかないっす!」

「だからもう隊長じゃねーって」

 思い出し泣きしてるおっさんたちにヒラヒラ手を振る。

 子供のオモチャ作るのは心のリハビリにもなってるんだよな。みんな精神やられてっから。

「で、第二弾のことよろしくな」

「了解です。人形部門と相談してデザイン決めます」

 人形部門てのはリリスの会社のほうのだ。第一弾も協力して出した。

「あ、これさっき城で奥さんたちから預かった差し入れ。みんなで分けてくれってさ」

 さらに奥の社長室へ向かった。

 元はオレの副官を務めてたもう一人、いかついガチムチ男がイスに座ってる。

 こいつの外見の恐ろしさから軍隊一つが開戦前に逃げ出したことすらあるっけ。オレが傭兵になった頃は当時の隊長の右腕で、隊長が引退した時オレを次に推した。自分が隊長にならないのかって聞いたら、

「そういうのは性に合わないなぁ。自分は上に立つ人間じゃない。この外見だし、最前線で敵ビビらせてこっちの損害減らす役目が合ってんだよ」って明るく笑ってた。見た目は恐いけど気のいい奴なんだよな。

「よう、プルソン。これ、奥さんから忘れ物だってさ」

「あ! ありがとうございます。いやー、すみませんね」

 歴戦の猛者と言われ恐れられた片目に傷跡のある男が、ピンクのフリフリ弁当袋にデレデレしてるってすげー状況だよな。

「新婚ボケまっさかりだな」

「そりゃそうっすよー。だって俺みたいないかつい・恐い・経歴ろくでもない男に嫁さんが来てくれるとか。奇跡です! 天使か女神か?! フルーレティ様とリリス様には足向けて寝られません」

 拝まれた。

 元傭兵仲間を定住させると決めた時、リリスが集団お見合いあっせんしたんだ。

 リリス専属の侍女や近くで働く者たちはワケありばっか。仲間内で結婚したケースも多いが、色んな事情で独身もけっこういた。

 一方で元傭兵側もなかなか結婚相手は見つからない。

「どっちにとってもいい話でしょ。女性側も夫が元傭兵ならいざって時に守ってくれて安心だし」とはリリスの言。

「集団お見合いパーティー、すごい成婚率だったな。お前もそん時カップル成立したんだっけ。その後も話聞きつけた不参加メンツが土下座して第二回やってください!って懇願に来たなぁ……」

 おかげでみんなめでたく既婚者だ。

 そこそこの年のもそれなりにいたが、女性側の年齢も幅広かった。同年代の女性と結婚し、孤児を養子にしたケースも。

「結婚っていいっすね~。うちの妻、マジで美人で気立てが良くて有能で優しくて。なによりこの俺と結婚してくれたんすよ。優しさがパねえ。料理も上手くって~。太っちまいそうですよ~」

 愛妻弁当にほおずりすんな。

 まぁオレもスミレのにはやるけど。

 オレは咳払いして、

「鼻の下伸ばしてるとこ悪いが、特別注文だ」

 元部下は瞬時に意味を察してサッと姿勢を正した。

「広範囲の防御ができるやつが一人、成長促進魔法使えんのが一人ほしい。場所は××村付近の山中で、毒グモ型魔物の群れだ。これからすぐ向かう」

 地図を見せながら説明する。

「了解。すぐ手配します」

 プルソンはすぐに二人選抜した。

 彼らも元傭兵、即戦闘は慣れてる。その足で現場へ向かった。

 大半の魔物はルガのおかげで友好的だが、そうでないのもいる。当然悪さしてたら退治しなきゃだが、軍じゃ対処できないレベルのもいるわけで。するとオレに話が回ってくるのさ。

 心配させるんでスミレには内緒だ。

 近場の村を防御魔法得意なやつに守らせ、成長促進魔法得意なやつは巣のある洞穴の入り口に待機させ、オレ一人で突入。

 秒で終わった。

 ま、本気出しゃこんなもんよ。元は傭兵仲間だから連携バッチリだしな。

 数が多くてちっこいのがちょっとめんどかったくらいだな。デカいの一体よりも小さいの大量のほうが厄介じゃね?

 ポケットから植物の種を出し、待機させてたやつに頼む。

「魔物研究所でもらってきた植物系魔物の種だ。毒の土地を好み、吸い取る性質がある。これ使えば安全に浄化できるってさ」

「へえ、面白いですね。了解しました」

 洞穴の中と周辺にいくつか配置し、とりこぼしがないか念のため最後にも一度チェック。

 村にも一つ植え、村人たちにも説明した。

「こいつは友好的な魔物だ。一族をルガに治してもらって以来、恩返ししたいって働いてる。万一あのクモの残りがいてもこいつが守ってくれる。巣のあった洞穴あたりにも兄弟を植えといたから大丈夫だろ」

「あ、ありがとうございます……!」

 ついでにいつものごとく村のあちこちを直してから帰った。

 ルシファーには電話で報告しといた。

 昼はそれぞれ持参した弁当を食べる。

 一人がフタ開けながら、

「フルーレティ様んとこは奥様の愛妻弁当でしたっけ。うちは共働きで忙しいんで分担してて、今日は自分が担当なんです」

「マジ? すげーじゃん。色合いも栄養バランスも。素人が見ても分かるわ」

「いやぁ、傭兵時代はそ場にあるモン食うしかなかったから料理なんて考えもしなかったですけど、結婚してから始めたらおもしろくって。凝り性なもんで。あ、サタナキア様の男性限定料理講座でおもしろさに目覚めたんですよ」

 あー、そういやナキア兄貴そんなんやってたな。

 もう一人はウインナーに卵焼きというシンプルな弁当を見ながら、

「こっちは平凡ですが世界一です。私は13才の娘のいる女性と結婚したんですが、当然娘にしてみれば微妙な思いなわけで……。亡くなった実の父親のことを覚えているだけに余計。だから私のことはお父さんと呼んでくれなかったんですが……。その娘が朝、そっぽ向きながらもこれ渡してくれまして。お父さん、これって」

 彼は涙ぐんで、

「お父さんって。初めてお父さんって呼んでくれたんですよ。しかもこれ、作ってくれて……っ」

 その後は号泣して言葉になってない。

 オレたちは「よかったなぁ」と肩をたたいてやった。

 かつての仲間が幸せになってるのを見るのはうれしいよ。

 それぞれいろんな思いをかみしめながら弁当を味わう。オレはスミレが作っといてくれた愛妻弁当を堪能。

 はあ、幸せ。いいよなぁ、愛妻弁当。

 脳内で強面の元副官が「分かります!」と激しくうなずく。

 たぶんあっちも同じ感じで食ってんだろうな。

 ふともう一人の副官を思い出す。オレ自身が処断した、腹心だった男。

 あいつは……こういう未来は考えられなかったんだろうな。オレらのように愛する存在を見つけられていたらあんな真似はしなかったろうが、あいつはいらないと言っただろう。

 家庭やささやかな幸せよりも、自分の願望のほうが大事だった。

 かわいそうなやつだ。

 それでも悪霊に魅入られていなければ実行しなかったに違いない。根底にあった願望を増幅させられたからああなっちまったんだ。

 オレがもっと早く気づいて除霊してもらえばよかった。前、そうこぼしたオレにプルソンは言った。

「隊長のせいじゃないですよ。憑りつかれたあいつのほうも未熟なんです。憑かれても、そこで自分の醜い願望と向き合って昇華することだってできたでしょう」

「……それはそうかもだけどさ」

「ようするに精神攻撃と似たようなモンっすよね? だったら攻略法知ってるはずだ。精神攻撃使ってくる敵と戦ったことあるし、戦場で死んだやつの怨念に対応したこともあるじゃないすか。なのに乗っ取られるとか、鍛錬が足りねえ」

 精神攻撃か。言われてみりゃそうだな。

「……ありがとな。なんだかちょっと楽になったよ」

 ずっとオレのせいじゃないかって思ってたんだ。

「なんで隊長にせいになるんです? つか、悪霊だろうが精神攻撃だろうが自力で追っ払う! この筋肉で! 筋肉は嘘をつきません!」

 元部下はなぜか半裸になってムキムキポーズを取った。

 副官のうち一人は知略にたけた戦術家、もう一人は正反対の脳筋だった。

 悪霊にこいつが憑りつかれなかったのも納得だな。そもそも深いこと考えてねー上に、全て筋肉で解決できると思ってるポジティブ思考。

「……オレに筋肉見せつけんなよ。ムサい……」

「ムサいとはなんですか! 筋肉最高ですよ! 見てくださいこの前線を退いても維持できてるボディ! マイハニーはこの肉体美がステキって言ってくれるんですよ~」

「ノロケいらねぇよ。ああなるほど、奥さんは筋肉フェチなのな」

 元傭兵仲間と結婚した女性はたいていそうだと後で聞いた。

「とにかくすべて筋肉が解決します! てわけで一緒にレッツ筋トレ!」

「ああうん、もういいわ。なんかどうでもよくなった」

 確かに悩みを筋肉がふっ飛ばしてくれたぜ。視界がものすげぇムサいけど。

「ごちそーさま」

 マジメな考え事してたはずなのに、最後はムサイおっさんの筋肉で終わるってなんなんだ。

 決めポーズ取り続けるおっさんの記憶を頭から追い払い、いつものように村の修繕必要なとこを直して帰った。

 3時、スミレの勤務終わる時間に迎えに行く。体が弱いから時短勤務で週2~3なんだ。「それぞれの体力や事情に応じた勤務体系でいいよ」って言ってくれる優しい妹に感謝。働きやすさからリリス周りの仕事は国でもトップレベルのホワイト職場らしい。

「疲れたろ。お迎えまで昼寝してな。オレは仕事してる」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて」

 スミレが仮眠とってる間に家具作りを進める。

 夕方になるとお迎えだ。

 そろって行くと、娘が駆け寄って来た。

「パパ、ママ!」

 そのままスミレに抱きつく。

 あ、こういう時子供がいつも母親のほうばっかり行って寂しいっていうお父さんいるじゃん? オレはちっとも思わない。なぜならだ。

 妻ごと抱きしめる。

 うん、まさに両手に花。幸せの二乗。

 じーん。

「だらしない顔になってるぞ」

「なんだよアガ兄貴。幸せかみしめてんだからいーじゃん。ああ、兄貴もやればどう? いいぜー」

 からかってやったら仏頂面がひどくなった。

 アヤメちゃんとアイリスさんは顔を見合わせた。なんだか目線だけで相談ついたっぽい。

 ん?

「おとーうさん」

 アヤメちゃんがにっこりしてハグをせがんだ。娘に甘いアガ兄貴はすぐさましゃがんで抱きしめる。

 と、アイリスさんがオレみたいに娘ごとアガ兄貴を抱きしめた。

「っ」

 アガ兄貴が無言で固まった。

「アガリアレプト様は無理ですものね~。ですから私がやりますわ」

「お父さん恥ずかしがりだもんねー」

 わぁ、めっちゃ汗かきまくってるよ。

「ぶっふ!」

 オレとネビロスは爆笑した。

「ひー、うける! 笑っちゃいけねーんだろうけど笑うわ!」

「動画撮っといて兄姉に拡散しよ」

「ネビロス! やったら本気で殴るぞ!」

 固まってたの解けたっぽい。でもふりほどくとかしないのな。

「いやー、ここでこうできるアイリスさんすげぇよ。アガ兄貴を恥ずかしがりで片付けられるアヤメちゃんもさすが」

「あのアガ兄さんがこうも丸くなるとはねー。あ、姉さまから返信きた。ナイスってスタンプが」

「送るなっつたろうが!」

「ネビロス様、私のほうにも送ってくださいません? 記念に残しておきますわ」

「OK~」

「だからやめろと言ってるだろうが!」

 そんでも動かないアガ兄貴。いい父ちゃんやってんじゃん。

「じゃ、また明日なー」

「ばいばーい」

 妻と娘とのんびり帰宅。っつてもテレポートで一瞬だけど。

 玄関を執事頭が開ける。その後ろには侍女たち。

「お帰りなさいませ」

「ああ」

 独立するにあたり、うちをルシファーんとこの組織の支部にすることにした。つまり彼らは全員スパイ。元はリリスんとこで働いてた者も多い。スミレの不安を和らげるため、よく知ってる人間を引き抜かせてもらったんだ。

 ルシファーとすぐ連絡がつき、普段から状況把握できるようにしておけば、いざって時に最大戦力のオレがすぐ動ける。例えば午前中の魔物退治とかな。

 それにプロで固めとけばスミレとヒナを守りやすい。予知能力者だってことは隠しとおさないと。

「ヒナ、今日はどうだった?」

「えっとね、今日はねー」

 妻と娘がいるからオレは人間でいられる。でなけりゃ化け物になってたかもしれない。

 楽しそうに話す二人を眺めながら、オレはいつまでもこの平穏と幸福を守ろうと誓った。



 娘が生まれて早くももう一年。

 本当に早いものだわ、と私は独りごちた。

 ヒナの誕生日の少し前にリリス様が言った。

「ヒナちゃんの誕プレ、めっちゃ悩んでさー。かわゆい服でもいいんだけど、いつもあげてるじゃん。体験系もいいかなって思って、国一番の細工師に紹介&教えてもらえるよう手配したよっ」

 ヒナはアクセサリーのデザインに興味を持っていて、すでにデザイン画をリリス様がいくつも買い取ってくださっている。もちろんデザイナー名は仮名で詳細は非公表。知っているのはリリス様などごくわずかな人だけ。

「色とかデザインのことは城内保育所の講座で勉強できるし、実技系もあるけどやっぱ限界があるじゃん。かわゆい姪っ子には最高の教師をつけてあげたいのよ、甘いおばちゃんは」

「で、でもリリス様、畏れ多いです……」

「いい考えだリリス。娘には世界最高の師をつけるべきだとオレも思ってた」

 レティ様まで。

「それにだーいじょーぶ。頼んだのはウチのアクセ部門トップ職人。つまりヒナちゃんのデザイン画を実際に商品化してくれてる人だよ。全然知らない人じゃない」

 誕生日当日は家族水入らずで過ごしたいだろうからと、数日前に指定してくださった。

 場所は城の敷地内で、前王の時代までは使わないのに豪華な建物群があったところ。今ではリリス様がすっかりアパレル関連のアトリエや工房や工場に改造してしまった。アクセサリー部門やバッグ部門、靴部門も入っている。このエリアは私も初めて。

 初めての場所で大勢人がいるところは今でも恐い。

 でも、いつまでもそれじゃダメ。私はもうお母さんなんだから。

「スミレちゃん、周りに気づかれないようにする魔法張ってるっていっても、ムリそうならすぐ言ってね?」

 リリス様が心配そうに声をかけてくださる。

「大丈夫です。私はお母さんなんですから、しっかりしなきゃ。それにレティ様がいれば安心です」

 今日はほとんどの人がお休みらしく、人通りが少ないのもあります。

「それにしてもすごいですね、まるで美術館みたい。壁も天井もアートだらけ」

 上下左右それぞれ違ったアーティストが手掛けてるらしく、様々なテイストのアートが施されていた。

 ヒナにはとてもいい刺激のようで、目を輝かせている。

「ふわぁ、すごーい!」

「でしょー。元はこのあたりってムダに豪華で悪趣味な建物ばっかだったのよ。それほとんど財政立て直しのため取り外せるモンは全部外して売っ払ったの。したら略奪後の残骸みたいになっちゃってさー。んでも工房や会社として使えるようにするリフォームで予算ギチギチで、インテリアまでは厳しくて。そこでひらめいた。いっそ働く彼ら自身に自分たちのエリアは自由にリメイクしていいよ、材料費は一定までしか出せないけど、穴開けようが何か貼ろうがOKってね」

「それで絵柄とか全部バラバラなんだね、リリス伯母さん」

「そ。面白いっしょ? これが好評でさ、美術系の学生さんたちもやりたいって希望が出てね。エリア入り口の連絡通路とか提供したの。月替わりで色んな学生のグループがアレンジしてて見てて楽しいよ」

「ああ、いつだったか輝夜姫がテレビでレポートしてたな」

「入口付近にしたのはこのエリアで働く人の目に留まれるからです。実際スカウトされた例がいくつもありますよ。インターネットで世界中の人に自分の作品を見てもらうのもいいですが、こちらだと第一線で働く人に見てもらえるわけですから。毎月すごい倍率の抽選となっています」

 すごいですねぇ。

 さて、目的の工房に到着。そこには小柄な老夫婦二人がいた。

「紹介するねっ。アクセ部門チーフ職人のヴァプラさんアミ―さん夫妻。金銀細工、宝石、ガラス、彫金、とにかく装飾品ならなんでもお任せなんだよ。あのアホ親父も重宝がってたくらい腕は確か」

「初めまして」

「こちらこそ初めまして」

 頭を下げて挨拶しあう。

「ご覧の通り小柄なのでお気づきかもしれませんが、ドワーフ一族です」

 ドワーフ一族といえば、私の一族同様特殊能力というか技能を持つ点で有名。とても器用でものづくりを生業としており、各国の王がこぞってお抱えにしたがるほど。

 体が小さいため力が弱く、生き延びる術として器用さを磨いたという。

「あ、やっぱり。一族には傭兵時代武器作ってもらって世話になったぜ。ところでその、どっかのクソ野郎の時代からいたってことは……」

 レティ様の申し訳なさそうな視線がお二人に向けられた。

 旦那さんは右腕が、奥様は両足が明らかに義手・義足だった。

 旦那さんは慌てて手を振って、

「ああ、違います! この体はこの国に来る前の事故でなくしたんですよ。前王に切られたんじゃありません」

「そ、そりゃよかった」

 私もホッとした。

「当時はとある国の王様のお抱え職人チームにいたんですが、作業中に事故で。死者もいましたから、命が助かっただけでもありがたいと思ってます。ですがお払い箱になりましてね。そりゃ義肢はつけましたがそれまでと同じものはもう作れないので当然といえば当然ですね。チームからどころか国からも追い出されまして」

「ひでぇ話だな。だって事故だろ。他の連中も、例えばパーツだけとかできる班範囲内の仕事回すくらいして助け合えばいいのに」

 レティ様は体の一部を失った傭兵仲間を集めて、彼らができることを仕事にした会社を作った。仲間ならそうやって助け合えばいいと思う。

「職人の世界は厳しいのですよ。求めるレベルのものが作れなくなったらもうおしまい。特にドワーフ一族は器用さを誇りとしているだけにプライドも求める水準も高い。色んな国を渡り歩いて細々と暮らしながら技術を取り戻すよう必死でリハビリや訓練しました」

「どこの国にもたいてい一族がいるものだから、マトモな仕事からは締め出されましてね。どうにかありついた依頼でしのいでました。一番得意なのは装飾品ですが、とにかくものづくりなら何でもしましたよ。傭兵さんの依頼は多かったですね。特定の国や組織に属してないでしょう、一族の命令も無意味だったんです。実はフルーレティ様の副官が使っておられた剣はわしが作ったものです」

「えっ、マジで」

 なんと強面マッチョだけど中身は純情なブルソンさん愛用の剣だという。

「あれか! あいつ今でも使ってるぜ。すげぇ使いやすいって言ってた。そっか、あれ作ったのが。なーるほど、そりゃ腕いいや。あの武器のおかげで助かったことが何度もあったぜ。礼を言う」

「こちらこそ、長く使ってくださってるなんて職人冥利につきますよ」

 リリス様が推薦してくださった方なので信用はしてましたが、レティ様の副官の武器を作った人ならなおさら信用できます。

「そうやって食いつないでたんですが、いよいよ厳しくなってきましてね。この国に来たのは、ここなら一族が誰もいなかったからです」

「あの時代のこの国だけはやめといたほうがよかったんじゃね?」

「それほど切羽詰まっていたんです。それに、ドワーフ一族どころかどの優秀な職人も行きたがらないということは、わしらを殺したら職人の替えがいないじゃないですか。そう賭けたんです」

「狙いは当たり、さすがの前王もそこは理解していてこうして生き延びることができたわけです」

「手に職って大事だよな」

 うんうんとうなずくレティ様。

「もう一つ理由がありまして、この国の義肢製作者はとても腕が良かったんです。ここでならわしらが欲しい義肢が手に入るんじゃないかと」

「ああ、手足ない人が多くて義肢の技術が発達したからな。そもそもどっかのバカ野郎がろくでもねーことやらなきゃよかったことだが」

「ね」

 レティ様とリリス様のトゲが鋭い。

「優れた義肢のおかげで元通りのレベルの作品が作れるようになりました。あ、もちろん普通の義手でしたよ。今つけてるこれは最近完成したばかりで」

「それ? さっきから気になってたんだけど、それってさ……」

 みんなの視線が旦那さんの義手に集まる。

 というのもメジャーな本物の手そっくりに作られたタイプや機能性重視であきらかに義手と変わるものではなく、どこからどう見てもロボットアニメに出てくるロボットの腕そっくりだったから。

 レティ様がキャラ名を言うと、旦那さんは瞳を輝かせた。

「お分かりですか! そうなんですよ! あれカッコいいでしょう? そっくりに作ってもらったんですよ!」

「やっぱり!」

「もちろん怪力設定は無理ですが、飛ばせます。ロボットパーンチ!」

 どこからか効果音がして腕が数m飛んだ。

「おおおおおおお!」

 歓喜するレティ様・イポスくん。

「すげぇ! マジでアニメ通りのロボットパンチだ! しかも効果音までばっちり!」

「万一人に当たってしまってもスピードはゆっくりで、このくらいしか飛びませんが。それと付け根のボタン押せば戻ってきて自動装着します」

「おおー」

「外見はこだわって作ってもらいましたよ。さすがに義肢は専門外なんで、専門家に頼みましてね。彼もすごくやる気で。著作権の関係でアニメ会社に許可取りに行ったらあちらも快諾してくれて、いつの間にやら一大プロジェクトに」

「こちらはそうしてできた公式認定の品です。ですから本物の音声使ってあるんですよ」

 ルシファー様、さては一枚かんでますね。

「まだできたばかりでお試し中なんですが、いやぁ、テンション上がりますわ~」

「分かる。いいな。このモデル売り出したら注文殺到すんじゃね?」

「かっこいい! もいっかいロボットパンチ見せて!」

 盛り上がる男性陣。

 一方の奥さんはスンッとして、

「さすがにちょっとやめなさいって言ったんですけどね。製作プロジェクトチームの皆さんとこだわりとやる気がすごくて、正直……ええ……」

「ロボアニメのデザイン忠実に再現した腕でよく作業できるよね。あれはアニメ用に作ってあるわけで、実用性と使い勝手はいいのかどうか」

「そこはオタクの気合いだと言ってました。女王様」

「……うんまぁ、オタクの執念は分かるけど。めっちゃ意気投合してるなぁ。あ、ついに呼び方が『ロボットパンチ師匠』になった」

「ヒナのお師匠様がレティ様と気が合う方でよかったです」

「……ツッコむべきとこあるような気がするな? スミレちゃん」

 そうですか?

「レティ様が楽しそうですからよいのではないでしょうか」

「そ。そう。ヒナちゃんは?」

「パパといっくんが楽しそうにおしゃべりしてる人が先生だからうれしいー」

「……親子だね」

 リリス様が何とも言えない表情でコメントした。

「と、とにかく相性よさそうでよかったってことにしとこ」

 というわけでヒナはご夫婦に教わることになった。

「まず初めに知っておきたいのですが、ヒナギクちゃんはどのくらい細かい魔法や作業ができるのか。すでにいくつか作ったものは拝見しましたが……まだ一歳なのにあれほどとは。正直かなり驚きました」

 事前にリリス様に頼まれてヒナが作ったアクセサリーを見せている。

「そうなのか? 装飾品はオレ専門家じゃねーから、どのくらいの腕かとかわかんねーんだ」

「あたしが絶賛したじゃん」

「いや、叔母の欲目かなと。ナキア兄貴だってあんくらいさくっと作ってるし。あ、一応ナキア兄貴に細かい魔力操作とか簡単なアクセ作りは事前に教えてもらったんだけどさ」

「……………………。それはサタナキア様のことですか?」

 ものすごい間が。

「はいっ。ナキアおじちゃま器用だから色々教えてもらったのー」

「グフゥッ」

 ご夫婦ともに血を吐くような音を出した。

「?」

「ああ……理解しました」

 ルシファー様が説明してくださる。

「サタナキア様が奥様の手伝いをしようと出土品のレプリカ作製をしているのはご存じですよね? いくつか博物館に飾ってあります」

「ああ、知ってる。そっち本職にしてもいんじゃねって言われてるよな」

「はい。で、レプリカといえど基本的に同じ製法で作ります。となるとさすがに独力では無理で、技術を持つ職人に教わる必要がありますよね。例えば……」

 ルシファー様はスマホに鮮やかに着色された壺の画像を出してみせ、

「こちら約600年前のもので、絵の美しさと緻密さから第一級国宝と認定された壺のレプリカです。現在このレベルを作れるのは国内でも一人という人間国宝に教わりに行ったサタナキア様は、三日後にこれを作ってました」

「マジかよ」

「あたしも初耳」

 器用ですねぇ。

「次はこちらの、約1000年前のネックレス。金や宝石は使っていないので金銭的価値は低いですが、ガラスや貝を使ってここまで繊細な細工を作るのは現代では困難と言われています。サタナキア様はこちらのご夫婦や他数名の職人のところでそれぞれ数日教わると、この通り再現しました」

「ウソだろ」

「なんでよ」

「次の画像の絨毯は熟練の職人でも一年はかかるというものですが、一日で完成させてました」

「もう器用とかいう次元じゃねぇ」

「おかしいでしょもはや」

「……という具合にサタナキア様は職人業界では有名なんですよ。数日でその道数十年の職人技を身につけ、下手すれば自分以上のものをさらっと、しかもすさまじいスピードで作ってしまう。プライドをバキバキに折られた職人が何人もいますよ」

「まったくその通りで……」

 震えてるご夫婦。大丈夫ですか。

 サタナキア様って器用だとは思ってたけど、そこまですごい人だったんですねぇ。料理以外も、作ることならなんでもできるんですね。

「なあ、リリス。オレもお前も器用なほうだからこそ、異常だと思わねえ?」

「思う。なにその三日坊主」

「ナキア兄貴って自分のこと何の才能もねーっつってるけど、これヤベェ才能じゃね? なんでもいけんのか」

「兵器とかあかん魔法とかそーゆー方面に行かなくてよかったね」

 まったくもってその通り、と全員同意した。

「本当に『作る』ことならなんでもいけるんですよねぇ。発掘する場所は田舎も多いもんですから何もなく、宿舎などを一から作る必要があります。すると他にも必要だろうと温泉作ったり店を誘致したりが段々エスカレートしまして、ついに村レベルを作りかけ、さすがにやりすぎたと気づいて中止されてました」

「尽くすのが度を越してね? 村て」

「奥さん好きなあまり、なんもない僻地に快適な街作るって……引くわさすがに」

「ネビロス様が結婚前リリーさんのために店誘致やらなんやらやってたのを思い出して、『ネビロスと同じことやろうとしてたとか! オレはあそこまでヤバくない!』と悲鳴あげてましたよ」

「ああ、自覚してやめたんだからネビロスほどヤバくはないな。そこがナキア兄貴のいいところだよ。ちゃんとあぶねぇって気づけて自分止められるのが」

「やっぱ兄弟、似てるなぁ……。うん、自覚あって止められるって大事よ」

 リリス様が微妙な目でレティ様を見た。何でしょうか。

 イポスくんは「なるほどネビロスおじさんいい考えだ……」ってうなずいてるけど、私もさすがにやりすぎだと思うの。

「つか、温泉作ったってなに。温泉出たんかい」

「魔法で地中探索したらあったそうで、掘ったとか。最初は作業員用の公衆浴場でしたが、そのうち改造して立派なスパになりました。さすがに改築はフルーレティ様の元副官がやっている建築会社にやってもらいましたが。もう近くに一般用の宿泊施設を作って観光地にしようという計画になってます」

「観光スポットまで作っとる」

「『作る』ってそこまで入んの? もうなんでもありかよ」

 すごいですねぇ。

「ナキアおじちゃますごーい」

「うん、あれはおかしいからね。そこまでいかなくていいから。ヒナちゃんはアクセサリーだけで十分よー。それだけでもすごい才能あるし。一つのことに優れてるだけで十分すぎるんだよ~。だから見習わないようにね」

 さて、ご夫婦が事前に見せたものから適切なレベルのアクセサリー作りから教えてくれた。

「ちょ、あのフルーレティ様!? お嬢様、しれっと十年修行した職人レベルのもの作れたんですけど!」

「天才ですか! さすがサタナキア様の姪!」

「そりゃオレの娘は天才だからな」

「そうだよ、ヒナちゃんはすごいんだよ!」

「レティ兄さま、親バカ。イポスくんも、うん……」

「ナキアおじちゃまが教えてくれたの応用すればいいだけだもん、簡単だよー?」

 ルシファー様だけがさもありなんと、

「こうなるだろうと思ってました。サタナキア様が教えた『基礎』って基礎じゃないですよ。できるもんだから基礎レベルをはるかに超えてできるとこまで教え込んじゃった、と言ってました」

「ナキア兄貴、そういうことは先に言え」

「つーか、それを習得しちゃうヒナちゃんも超絶器用なんじゃ」

「そうですね、さすがにサタナキア様のように三日あれば世界最高レベルをマスターするのは無理ですが、大人になれば一週間で同程度のことができるようになるんじゃないでしょうか」

「一週間でもおかしいよ?!」

「さすがヒナは天才だな!」

 頭なでなでしてもらってヒナはうれしそう。

 よかったわね。でも才能の使い方は慎重にしなきゃ。サタナキア様のように「作る」ならなんでもいけるだったら大変。

 注意して見守る必要がありますね。お母さんだもん、しっかり娘を守らなきゃ。

 その後もヒナはご夫婦を仰天させ、リリス様がいくつか「新商品開発会議に出す!」と言って買い取っていった。

「ぜひ定期的に来てください、持てる技術のすべてをお教えします!」

「これだけの才能、将来が楽しみすぎます!」

 こうしてがぜんやる気で大喜びのご夫婦から毎週教わることになった。

 ご夫婦や他の職人さんが作った作品もたくさん見てヒナも触発されたのか、帰ってからもデザイン画を描いていた。

 イポスくんは隣に座って一緒に考えている。

「ヒナが楽しそうでよかったです」

「ああ、リリスもいい師匠を紹介してくれたよ」

 レティ様の膝にいる私は安心してもたれかかった。

 優しくて強い旦那様がいて、娘も楽しそうに笑ってて、娘の未来の夫も頼れる子で、とっても安心。

 貴重な予知能力を持つ一族ということで、私はいつもどこか不安だった。一度誘拐されてるし。

 けれどもうそんな心配もない。

 満ち足りた思いでヒナとイポスくんを眺めた。





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