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魔王のイトコ、続々誕生

 ある日の朝方、城で産声があがった。

「生まれましたよ。元気な女の子ですわな」

 共用のリビングで待ちわびてたあたしたちへ、モニターごしにおばあちゃん先生が教えてくれる。リモート的な。

「おめでとう!」

 レティ兄さまとスミレちゃんへ一斉に祝福の声がわき起こる。

 スミレちゃんの予知能力で大体の出産日と時刻は分かってたんで、みんな都合合わせて勢ぞろいしてたわけ。

 分娩室に入れるのは配偶者など身内一名のみ。つーか普通に考えて、それ以外やそれ以上の人間が入ったら邪魔で迷惑でしょ。だもんで、別室待機です。

 出産時にいたがる姑やその家族の話とか聞くけど、ないわぁ。それどころじゃないっつー時に。

 単純に無理! 見てて思った。あたしが生む時には悪いけど義父母には立ち会ってほしくない。余裕ないわ。

 ルシファーの両親は半ばあたしの親代わりで仲はいいんだけど、さすがに出産時はねぇ。限界超えてる状況だし、髪も顔もヤバイよ? そもそも出産シーンって人に見られたいもんじゃないでしょー。

 周りが自分の希望叶える場じゃないの。母子ともに健康で無事終わるのが本題で一番大切なこと。ここもはき違えちゃダメだよ。

 てわけでモニターつないでるとはいえ、映ってるのは医師が許可した範囲内かつスミレちゃん本人がOKした範囲内だよ。

 検査と処置が終わり、おくるみに包まれた赤ちゃんが映し出される。

「ほれ、フルーレティ坊ちゃん。抱っこしてみんさいな」

「え。お、オレが抱きかかえていいのか? 小さい壊れそう。本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですて。ほら、お父さん」

 めちゃくちゃキョドりながらも受け取るレティ兄さま。

「うおぉ……」

 スミレちゃんによく似た顔立ち、レティ兄さまそっくりな髪の色した赤ちゃんは安心したように大人しくしてる。

 あ。感極まったのか、レティ兄さまの目に涙。

 初めて見た。

 見なかったことにしよう、と一同うなずきあった。プライドがあるでしょ。

「お父さん……お父さんかぁ。そっか、オレ、父親になったんだなぁ。初めまして、ヒナ。パパだぞ~」

 姪っ子の名前はヒナゲシ、通称ヒナちゃん。

 スミレちゃんが紫の花の名前だから、赤い花にしたんだって。かわいいねぇ。

 てか、めっちゃデレデレやん。

 スミレちゃんの両親も許可を得て入ると、初孫に歓喜してる。

 すると、にわかに後ろが騒がしくなった。

 ん? おばあさん先生とルガ兄さまが何か慌ててる?

「レティ兄さま、後ろどしたの?」

「ん? スミレ、どうかし―――どうした?! 顔色悪いぞ!」

 大急ぎで娘を女官長に渡し、フレームアウトした。

「……レティ様、なんか、めまいが。寒い……」

 弱々しいスミレちゃんの声がする。

「何があったの? 先生! ルガ兄さま!」

「出血がちと多いね。もう止めたけど、輸血が必要だ」

「回復魔法じゃダメなのか?!」

「限界があるんだよ」

「……スミレさんは元々の体力が人よりない。いくら無痛分娩でも消耗してる」

 出産は命がけ。

 よく聞く言葉を思い出して青ざめた。

 何のトラブルもなく無事終わるのが当たり前じゃない。

「輸血が必要ならオレからいくらでもとってくれ!」

「……ムリだ。僕らの血は特殊なんだよ」

 どういうこと?

「……王家の血は常人には魔力が強すぎるんだ」

「坊ちゃんたちは王家の直系だろう。直系は最も魔力が強いんだよ。お互いなら輸血可能だが、それ以外の人間に輸血すれば下手すりゃ一発アウトだね」

 おばあさん先生がテキパキ準備しながら補足する。

「そ、そうなのか」

「あたしも知らなかった」

 ナキア兄さまだけはうなずいて、

「オレは知ってたよ。昔大怪我した時に聞いた」

 え、それって自殺未遂しかけた時だよね。

「……ナキ君」

「あ、ごめん! そういうつもりじゃなくて! 昔の話だし。もうとっくに治ってるって」

 ナキア兄さまは泣きそうなローレルさんを必死でなだめた。

「痕もねーし。確認する?」

「いや別にここで半裸にならなくていい」

 焦ったナキア兄さまがトップス脱ぎかけて、ローレルさんは逆に冷静になった。

 うん、ちょっとやめようか。

「先生!」

 スミレちゃんの父親がうでをまくって差し出す。

「私は娘と同じ血液型です。私のを!」

「うん、特殊能力の血統は同族同士が一番いいからね。もらうよ」

 老先生にはスミレちゃんの一族のことを言ってある。なにしろあたしもとりあげた医者だから信用してる。

「安心しな、きちんと処置すれば命に別状はないよ。数日は絶対安静だがね」

 すぐに輸血が開始された。

 見るからに真っ青な顔色ながらもスミレちゃんが目をあげる。

「レティ様……」

「しっかりしろ、スミレ。輸血はできなくても生命力なら分けてやれるから。いくらでもやる」

「……いいえ、私は大丈夫です」

 かざしたレティ兄さまの手をそっと外して、

「先生たちがついてますから、私のことはいいです。それより赤ちゃんを。私達の娘をみててあげてください」

 しっかりと母親の顔だった。

 スミレちゃん。

 ルガ兄さまが肩をたたく。

「……レティ兄さん。僕らが対処するから安心して」

「なぁーにオタオタしてるんだい。大丈夫だと言ったろう。年寄の言うことは信用しなっ。数日間は絶対安静っつーことは、坊ちゃんが赤ん坊の世話するってことだよ。分かってんのかい?」

「えっ? オレが?」

「他に誰がいるんだい。父親だろ」

 またアワアワして、女官長が抱っこしてる娘を見やるレティ兄さま。

「ど、どうやって。やったことねーよ」

「私もお手伝いしますよ」

 苦笑する女官長。

「こっちも教えるさ。あ、今日は状態チェックのため新生児室で預かるよ。看護師が24時間態勢でついてるから安心しな。でも明日からはがんばるんだよ」

「う……ハイ、がんばります」

 よかった、大事は至らなくて。

 みんなホッと胸をなでおろした。

 あたしは大きなお腹抱えたリリーちゃんを振りかえった。

「リリーちゃん平気? 心配になっちゃった?」

「あ、いいえ。私は下町の孤児院育ちですよ。出産は見慣れてます。何度も手伝ったことありますし」

 ネビロスのお母さんみたく困窮した妊婦が駆け込んだり、同じ孤児院にいる年頃の女の子が妊娠出産は何度かあったらしい。

 リリーちゃんは冷静沈着で頼りになるもんね、よく手伝ってたに違いない。

「にしてもお腹ずいぶん大きくなったねー」

 スミレちゃんとは一か月の差があるのに、もう臨月並みだ。

「二人入ってますから。物理的に大きくなりますよ」

「ほんと無理しないでね」

「リリーは頑張り屋さんだもんなぁ。僕も早く息子たちに会いたいけど、もうちょっとお腹にいたほうがいいし悩ましいねー」

 ネビロスとリリーちゃんの双子はどっちも男の子と判明してた。

 そう聞いた直後、リリーちゃんがうめいたのは仕方ない。

「……あんたがそう言ってるせいか、成長速度が平均よりはるかに速いらしいんだけど?」

 たいてい持ってる魔力量に応じて成長が早まる傾向にあるらしい。

「やだなぁ。さすがの僕も胎児とテレパシーは無理だよ」

「できてたら最悪だ」

 うん。いらんこと胎教しそう。

 にしてもリリーちゃん、双子だから母体への負担が想定より重いってルガ兄さまが言ってたんだよね。たぶん予定日より早く帝王切開で取り上げることになるだろうって。

 ちょっと心配だなぁ……。


   ☆


 別の意味で心配なレティ兄さまはっていうと。翌日、案の定テンパってた。

「助けてくれ!」って電話してくるから、兄妹弟ん中でもヒマなあたしとルシファー、一応保育士のネビロスで手伝いに行ったらオロオロしてた。

「どどどどうすりゃいいんだよ。なんで泣いてんの? オレ何すりゃいいの? なあ」

「落ち着いてくださいな、フルーレティ様。たぶんオムツですよ。交換しましょう」

 紙おむつ差し出す女官長。

 ネビロスがそれを横から受け取った。 

「レティ兄さん、僕が見本見せるよ。どれどれ。ああ、股のところに青い線が出てるね。これしてるってサイン」

「通常は黄色い線ですが、すると反応して青くなるんですよ」

 へー、分かりやすい。

「お知らせサインがないメーカーもありますが、これはあるやつです」

「服は汚れてないね? 新品のオムツを広げて、お尻の下に敷いてっと」

「先に汚れてるの外すんじゃなくて?」

「そ。理由は見てれば分かるよ。着けてるオムツのサイドとめてるテープはがして、おしりふきできれいにふく。汚れたオムツで使ったおしりふきも含めてくるっと丸めて、サッと引き抜く。するとホラ、お尻の下にちょうど新品のオムツが。万一ここでまたしちゃっても、吸い取れるってわけ」

「ああー、なるほど~」

 勉強になりますな。

「で、前部分をお腹のほうに上げて、サイドテープをぺたっと。はい、完成」

「すげぇ……手慣れてんな」

 拍手するレティ兄さま。

「さすがですねぇ、ネビロス様。ではミルクの見本もお願いできます?」

「おっけ。粉ミルクの缶に書いてある通りの分量を中に入ってる専用スプーンで計って哺乳瓶に入れて、お湯……あ、電気ポットあるね。同じく書いてある目盛まで入れて、振って溶かす。次にそのままじゃヤケドするんで、流水で冷やす。人肌程度」

「人肌ってどんくらい?」

「手首に一滴垂らしてみて、熱くない程度っていうよね。哺乳瓶は一度締めたらちょっとだけ緩めて。これ大事。そうやって空気の抜け道作らないと飲めないんだ」

 ミルクが外に出る代わりに空気が入るわけだもんね。空気が入ってこれなけりゃ、ミルクも外に出られないってわけか。

「横抱きに抱っこして。首すわってないからそこ注意。……ほーら、ミルクだよー」

 ヒナちゃんはこきゅこきゅ飲んだ。

「か……っ、かわいい……っ。天使……!」

 つい悶える。

「かわいいだろ? うちの娘は世界一かわいいよな!」

「親バカだと思うけど、うん、かわいい!」

 はああ、ちっちゃい、ぷくぷく。生まれたての赤ちゃんってなんでこうも無条件でかわいいの。

「手もちっちゃい、お目めもくりっくり。こっち見えてはいないのかな?」

「まだ無理ですね。はっきりとは見えてませんよ。それにしてもスミレが生まれた時を思い出しますねぇ」

 女官長も初孫がかわいくてしょうがないおばあちゃん状態。

 スミレちゃんの父親もこれまたデレデレで、写真撮りまくってる。

「あれ、でもあきらかにレティ兄さまのほう見てるよ?」

「ああ、気配でなんとなく分かるっぽい。昨日も生まれた当日だってのに、別室で検査とかしようと看護師が連れてこうとしたら泣きわめいてさー。恐かったみたいだ。泣き声に思念波のって、すごかった」

 スッとレティ兄さまは意図的に気配を消した。

 すると途端にヒナちゃんは哺乳瓶を口から離し、ギャン泣きした。

「あああああん!」

 同時にぶわっと広がる思念波。超音波的な。

 恐怖がダイレクトに伝わってくる。

「うわっ、ちょ、すご!」

「超音波攻撃並じゃん!」

「ほらな。オレかスミレがいないとこうなる。ヒーナ、おいで。ごめんな。パパはここにいるよ」

 気配を戻してヒナちゃんを抱っこする。ぴたっと泣き止んだ。

「はああ……。さすがレティ兄さまの娘っつーか。魔力の量的には平均以下だけどね」

 それくらいは見ただけで分かる。

 まぁそれでよかった。諸外国から危険視されてたレティ兄さまの子がこれまた強かったら、せっかく危険認定解除されたのに面倒なことになるとこだったもん。

 弱くて大人しい子で正解だったね。

「しかもコレ、オレらには通用しないけど相手を強制的に眠らせる効果があるっぽい。おかげで昨日何人か看護師が眠らされちまってさ。どうやら身の危険を感じると無意識に魔法使って自衛するらしい」

「おおう。攻撃的じゃなく無力化するっての、性格かな?」

「たぶんな。スミレと同じく、知らない人が恐いんだと思う。人見知りが激しい」

「でもあたしたちは平気だね」

「オレと魔力の質が似てるから身内だって分かるんだろ」

 ヒナちゃんは安心したように、でも心もとなげにレティ兄さま見上げてる。

「レティ兄さま、抱っこは上手くなったねー」

「何度もやったからな。でもオムツとミルクは看護師や女官長にやってもらってたんで」

「練習あるのみだね。飲み途中だし、あとはレティ兄さんがミルクあげなよ。はい」

「……おう」

 おそるおそる哺乳瓶近づけると、ネビロスがあげた時よりあきらかに食いついて飲んでる。

「パパが飲ませてくれたほうがうれしいんだー。かわいいっ」

「そ、そうか。よし、じゃあスミレの体調戻るまでは毎回パパがあげるからなー」

 メロメロですやん。チョロ。

 空になった哺乳瓶をネビロスが受け取り、

「飲んだらゲップ出させてね。向かい合わせで縦抱きにして……そうそう。自分の肩にヒナちゃんの頭のっけるといいよ。背中を下から上に優しくさすって」

「トントンたたくんじゃないの? よくそう聞くけど」

「力加減難しいと思うよ、特にレティ兄さんは。普通の人でもさするだけで十分」

「ゲップって出ないとまずいのか?」

「ミルクと一緒に飲んでる空気を排出させないと、まだ消化器官が未熟なもんで吐いちゃうよ」

 へえー。

「なるべく出たほうがいいけど、出なくてもパニクらなくて大丈夫。斜めって寝かせとけばいいんだよ。こうしてタオル丸めて体の下に入れ、微妙に横向き加減で寝かせる。こうすればもし吐いても口から下に落ちる。窒息しないんだ」

「窒息しちゃうの?」

 こわっ!

「うん、赤ちゃんは自力で体の向き変えられないからさ」

「うわ、責任重大」

「それ聞いて恐くてこれまで逃げてたんだけど。ヒナ、ゲップ出るか?」

 優し~く何度かさすると、ケプッてかわいい音が出た。

「OK。できるじゃんレティ兄さん」

「よかったー。あ、リリス、抱っこしてみるか?」

「え、いいの?」

 さっきみたく泣いちゃうんじゃ。

「リリスなら大丈夫だと思う。ネビロスも平気だったろ。同じ王家の魔力持ちだから気配が似てるじゃん」

「そっか。うん、抱っこしてみたい!」

 させてもらうと、ヒナちゃんは泣かずにきょとんとしてた。

「ちっちゃ、軽い! でも意外と重い! はああ、柔らかくていいにおい~。かわいいねぇ。おばちゃんだよ~」

 あんま長いこと抱っこしてると不安になるだろうから、レティ兄さまに返した。

 ……あたしもいずれ母になるんだよなぁ。

 レティ兄さまとヒナちゃんを眺めて思った。

 こんな小さい存在が殺されるなんて嫌だ。絶対悪役になんかさせない。

「……レティ様、ヒナ?」

 後ろで寝てたはずのスミレちゃんの声がした。

 振り向くとベッドに横たわったまま、頭だけこっちを向けてる。

 点滴でつながれてて、まだ具合悪そう。

「悪い、起こしちまったか? 音は防音のバリア張っといたんだけど」

「……ヒナが今泣きませんでした?」

 音は遮断されてても、ヒナちゃんの思念波は感じ取れたんだ。お母さんだね。

「あ、ごめん。それオレのせい」

 レティ兄さまは娘を抱っこしたままベッドの隣の椅子に腰かけた。

「オレが近くにいないと泣くなら、気配消したらどうなるかなと思ってやってみたら泣いちまって。大丈夫、ミルク飲んで落ち着いてるよ」

 お、もう寝ちゃってる。

「スミレちゃん、具合どう?」

「……リリス様たちまで。すみません、こんなんで」

「ううん、いいの。そのまま寝てて」

 そこへおばあさん先生がやって来た。

「はいはい、どうですかいな? 熱は……まだちょっとあるねぇ」

 薬を出して飲ませる。

「熱あるの?」

「ゆうべからな」

「何か食べられそうかい? できるなら食べたほうがいい。ゼリーやスープならいけるかな?」

「……それならなんとか……」

 おばあさん先生はナキア兄さまに連絡して作ってもらうよう頼んだ。

「薬飲んでるから、引き続き母乳はあげないように。成分が母乳にも出ちゃうんだよ」

「へえ、そうなんですか」

「母乳は元々血液からできてるからねぇ。薬によっては飲んだら赤ん坊に母乳あげるのアウトなんだよ。何時間かして効き目が切れるまではね」

 はあー、そうやって気をつけなきゃいけなんだ。

「熱が下がっても数日は安静に。まずは自分の体の回復を優先しなさい。赤ん坊はちゃんと世話する人間が何人もいるから心配しないんだよ」

「……でも。産んでからほんとに何もできてなくて、私、母親失格です……っ」

 ぼろぼろ泣きだした。

「わわ。スミレちゃん、そんなことないよ! 具合悪いのはスミレちゃんのせいじゃないじゃん! ヒナちゃんだってそんなふうに思うわけない!」

「そうだぞ。大変なのにがんばって生んでくれたじゃないか。ありがとう」

 レティ兄さまはスミレちゃんの頭に大きな手を置いた。

「子供を持つつもりのなかったオレに娘ができたんだ。それで十分」

「……レティ様」

「頼りない父親だけど、オレもがんばるよ。さっきミルクあげられたんだ。進歩したろ。次はオムツも替える」

 えらい。オムツ替えは無理!って男親けっこういるよね。

「オレがダメダメだから思いつめさせちまったな、ごめん」

「そんな、ことないです。私なんか何もできてないのに……」

「スミレは自分の体を直すことが優先だろ。な?」

「けど、お乳もあげられてなくて」

「スミレ。母乳にこだわることないのよ」

 女官長が諭すように言った。

「今回みたいに薬を飲んだからNGなケースや、元々体質的に出ない人もいるでしょう? 私も後者。全然母乳が出ず、あなたもミルクで育ったのよ」

「え……そうだったの?」

 涙止まった。

「そうよ? ミルクでもあなたは大きくなったでしょ」

「……うん」

「どっちだってねぇ、子供が元気に育てばいいの! 母親が主義にこだわるあまり、赤ちゃんがずーっとお腹空かせたままのほうがかわいそうだと思わない?」

 確かに。

 自分の主義よりも赤ちゃんをお腹いっぱいにするほうが大事だわ。

 女官長はにっこり笑って娘の肩をぽんぽんとたたいた。

「私もあなたを生んだ直後はしばらく体調崩してね。色んな人のお世話になったものよ。けど今はこうしてピンピンしてるでしょう? 経験者だから言うけど、まずは食べて体を治すこと! 母親が元気でなきゃ始まらないわよ」

「……分かった、お母さん」

 お。ちょっと顔色よくなってきた。

 あたしは男性陣に目配せし、

「スミレちゃん、あたしは戦力外かもだけど、グチ聞くくらいはできるし。男性陣には席外してもらうから、不安なこととか吐き出しちゃいなよ」

 スミレちゃんがまだ体悪かった頃、よくそうやって聞き役やってたもん。慣れてる。

「そうだな。ヒナはオレがみてる」

「って、あれ? 別室って言えば、新生児室って別じゃなかった? 出産当日は母体の回復のためゆっくり寝られるよう、新生児室は別に作ったんじゃ」

 言い忘れたけどここは王族専用エリアに急きょ作った王族専用の産科病室だ。最初は城内に一般人も使える病院をって話だったんだけど、いくつか理由があってね。レティ兄さまがフルスピードでリフォームしてのけた。病院作っちゃえる職人な兄。

 理由の一つはセキュリティの問題。どうしても出産前後はみんなあたふたしてて、隙が生まれる可能性がある。修正プログラムを隔離したとはいえ、何があるか分からないでしょ。エリア内なら安全。

 二つ目は単純に移動が少なく、産気づいても病院に行くのが楽。体力の少ないスミレちゃんと危険信号灯ってる状態のリリーちゃんのことを考えたわけ。

 心配性のレティ兄さまが特に主張してた。

「どうせこれからオレら兄妹弟の出産で何度も使うだろ? 作っちまったほうがいい。特にホラ、リリスの番になったら跡継ぎじゃねーか。移動距離少なく安全に……。。…………。……ちょっと待て。それってつまり……。ルシファー、てめぇええええ!」

「まだ起きてないことでやめてもらえますか」

 そういやいきりたった兄弟がルシファーにつかみかかってたなぁ。

 で、完成した時に内見したけど母親の個室と新生児は別だったよね?

「ああ。オレかスミレが近くにいないとヒナが泣くし、スミレも見えないと不安みたいだから、急きょ壁取っ払った」

「ちょ、おおい」

 妻子が大事なあまり、即日病室リフォームしてのたけたよ、うちの兄。

 おかしい。

「オレもヒナが見えないと心配なんだよ。つなげちまえばどっちも見えるだろ。音はバリア張れば、ゆっくり寝られるし」

「そ、そう」

「あ、リリーちゃんの時に見えたほうが気になって寝れないってならまた壁作るぞ」

「それはその時にリリーちゃんにきこうか」

「ほいほいーい。出前だよ~」

 ナキア兄さまがお盆持ってやって来た。

「ありがと、ナキア兄貴。じゃ、オレらはナースステーションのほうにいるわ」

 あたしと女官長だけ残り、しばしスミレちゃんの話を聞いてあげた。このために応援に呼ばれたんだもんね。

 不安全部ぶちまけてスッキリしたのか、食べ終わった時のスミレちゃんは少し元気になってた。

 

   ☆



 スミレちゃんが絶対安静解除になるまでには一週間くらいかかった。

 やっぱ人より体力がなくて、産後の肥立ちが悪くてねぇ。

 ようやく退院、っていうかレティ兄さまの部屋に戻れたものの、まだ無理は禁物。ヒナちゃんの世話は引き続きレティ兄さまと女官長がメインですることになった。

 最初はビクビクしてたレティ兄さまも、すっかり慣れてお手の物。むしろ完全に親バカと化してる。

 次の出産はリリーちゃんだね。

 リリーちゃんの仕事も後任に引き継ぎ、ネビロスがずっとついてる。つきまとうなって普段なら言うとこだけど、ちょっと心配だもんね。

 双子で母体への負担がかなり大きいらしい。リリーちゃんは体力はあるけど、小さい頃の栄養状態がよくなかった。それが今になって効いてきたっぽい。めまいや貧血が頻発して、これは予定より早く帝王切開になるかもって。

 あたしにできるのは不安とストレス解消のためグチ聞き役になることくらい。なるべく毎日話聞くことにした。

「リリーちゃん、具合どう? 何作ってるの? 無理しちゃダメだよ」

「あ、リリス様。いえ、何もしないのはどうも性に合わなくて……」

 横になりながらも機械いじってるリリーちゃんにきく。

「何の機械? もう、仕事しなくていいのに。産休中なんだから」

「これは個人的なものでして。……よし、できた」

 つないでたコードを引き抜く。

 あたしは首をかしげた。

「ねえ、これイヤリングに見えるんだけど」

 どう見ても花モチーフのイヤリング。

 コードついてなければただのオシャレなアクセだと思ったわ。

「はい。実はこれ……」

 話を聞いてびっくり。

「すごいじゃん!」

「だよねー。僕のリリーは天才っ」

「はいはい。ですがこれは試作品でして、どこまで使えるか分かりません。個別に調整が必要でしょうし。まずアイリスさんに試しで使って頂こうかと」

 ルシファーが答えた。

「アイリスさんなら今日は休みで在宅です。アガリアレプト様もいらっしゃいますよ。呼んできます」

 有能なうちのダンナ様は頼まずとも呼んできてくれた。

「お二人とも休日にすみません。こんな姿で失礼します」

「そんな、いいんですのよ。お体は大丈夫ですの?」

「ありがとうございます。それで、これを作ってみたんですが」

 イヤリングをアイリスさんの手のひらに載せる。

「あら? これは……イヤリングかしら?」

「はい、形状は。実はこれ視覚障碍者用の機械なんです。従来の魔法だといまひとつと伺いまして、機械と組み合わせればより高性能なものができるのではないかと。よりはっきりクリアに脳へ直接映像を送れるようになりました」

「まあ……!」

「つまり見えるようになるのか?!」

 アガ兄さまも食い気味にきく。

「完全にとはいかないかもしれません」

「つけてみても?」

「はい。普通のイヤリング同様につけてください。ちなみにその形状にしたのは女性が普段つけていても違和感がないからです。別に他の形でも可能ですので、ご希望があれば言ってください。ただし脳とつながりやすくするため頭部につけられるものがいいですね」

 アイリスさんは両耳につけた。目をぱちぱちさせる。

 アガ兄さまが期待と不安半々で、

「どうだ?」

「……まあ。アガリアレプト様の顔がはっきり見えますわ」

 おお!

「触った感触で大体の顔立ちは分かってましたけど……すごいですわ、リリーさん。はっきり見えます」

「そうですか……よかった」

 ホッと胸をなでおろすリリーちゃん。

「すごいすごい、リリーちゃんっ」

「驚きました。そういったものも作れるんですね」

 ルシファー、それができるならあれもこれも作れるんじゃないかって考えてる? 具体的にはきかないけど。絶対きかないほうがいいやつだから。

「ありがとうございます。まさか私が見えるようになるなんて……」

 アイリスさんの目に涙が浮かんだ。アガ兄さまの顔に手を伸ばし、うれしそうになぞる。

「ふふ。アガリアレプト様、なんて表情されてますの」

「うるさい。ああもう泣くな、うっとうしい」

 ぶっきらぼうにハンカチ押しつける。

 素直じゃないなー、もう。アガ兄さまってば。

「ちょっとコードつないで最終調整してもいいですか?」

「あら、ええ、もちろん」

 別のコードつないでパソコンをカチャカチャ。画面には送ってる映像が映し出される。実際目で見えるのとまったく同じだ。

「微調整を少し。こことここを……」

「前と後の違いが分かんない。プロすごい」

 肉眼じゃ分かんないレベルの色彩の調整とかかな。

「これでどうでしょうか。映像はクリアだと思うんですが、難しいのは遠近感ではないかと」

「そうですわね」

「遠近感? 普通にこの映像バッチリじゃん」

「いえ、私はこれまで気配やカンを頼りに周りの状況をつかんでいたもので。見たものから遠近感を読み取るといったことはしたことがないんです。例えばアガリアレプト様の腕に触ろうとしますよね?」

 手を下げると行きすぎたり、左右も振りすぎたり逆に足らなかったり。

 何回かやってようやくちゃんと腕に行きついた。

 その間アガ兄さまは黙って動かずにいた。

 これまでなら触るなとか言ってふりほどいただろうにねー。なんだかんだでアイリスさん好きなんだよね~。

「この通りですわ」

「ははぁ、なるほど」

「でもアイリスさんはカンがいいですから、ちょっと訓練すればすぐできるようになりますよ」

「だといいんですけど。一番気をつけたほうがいいのは歩くときですわね。安全な場所で練習してからにしましょう」

「フン、仕方ない。付き合ってやる」

「ありがとうございます。やっぱり優しいですわよねぇ、アガリアレプト様」

「うるさい。そこらへんで転んでケガでもされたら面倒なだけだ」

「はいはい」

 つんとするアガ兄さまにアイリスさんはくすくす笑った。

 アガ兄さまもツンデレなんだからー。

「なお、動力は魔力です。一日一回充電すればもちますよ」

「リリーちゃん、ほんとすごい! あたしからもありがとう! ね、これ他にも作れるかな? 他にも目の見えない人はいるでしょ。費用は国で出すから、無償提供したい」

「量産は可能です。設計図をお渡ししますので……」

 言いかけて、途中でリリーちゃんはうめいた。

 お腹を押さえて前かがみになる。

「リリーちゃん?」

「リリー!」

 ネビロスが慌てて前にしゃがむ。

「どしたの、お腹痛いの?!」

「い……た……」

「出血してる!」

 床に落ちた赤い色にあたしは叫んだ。

「ど、どうすればっ」

「そんな、まだ早いよ!」

 みんなパニックだ。

 真っ先に我に返ったのはアイリスさんだった。

「急いで産科の先生かサルガタナス先生に連絡を! 助産師さんでも看護師さんでも構いません、呼んできてください!」

「分かりました!」

 ルシファーが飛び出すのと同時に、ネビロスが設置してたおばあさん先生へのホットラインボタン押す。危ないと言われてたんで準備しといたんだよ。

 すぐナースステーションから看護師、さらにジャスミンさん連れたルシファーが戻って来た。

「城内病院のほうで今ちょうど産気づいてる妊婦がいるそうで、最低でもあと十分は手が離せないそうです!」

「こんな時にカブった!」

「ルガ様は急いでこちらに向かってます! それまでは私が!」

 いつものドジぶりはどこへやら、魔物の出産介助慣れしてるジャスミンさんはテキパキ対処した。

「ストレッチャーの用意を! 毛布やタオルもお願いします!」

「分かりました!」

「分かった!」

 ルシファーとアガ兄さまが手分けして用意する。

 ネビロスは蒼白でうろたえるだけだ。

「リリー、リリー!」

「リリス様はすみませんがネビロス様取り押さえててください!」

「ラジャー!」

 羽交い絞めにして引き離した。

 邪魔しないのっ。

 ストレッチャーに移ったリリーちゃんが脂汗ういて苦しんでるとこへ、ルガ兄さまとおばあさん先生が到着。

 医学用語が飛び交う。何言ってるか全然分かんない。

 おばあさん先生は決断した。

「すぐ緊急手術だ。保育器の用意を。このままじゃ母子ともに危ない」

「そんな!」

「ネビロス、動かないの! まだ予定日まで一か月もあるのに大丈夫なんですか?!」

「生まれても大丈夫なだけの体重はあるさね。しばらくは保育器になるだろうが。ともかくこのままじゃどっちも助からないよ。急いで手術室へ!」

 すぐ近くに出産設備用意しといてこれほどよかったと思ったことはないわ。

 リリーちゃんは手術室に担ぎ込まれ、あたしたちは外で待つ。

 中へ飛び込もうとするネビロスをあたしは押さえ続けた。

 ジャスミンさんとアイリスさんがなだめる。

「大丈夫ですよ、ルガ様は世界一のお医者様です。絶対助けてくれますよ!」

「そうですわよ。ネビロス様がパニックを起こしていては、リリーさんも不安になりますわ」

 この二人いてよかったぁ。

「ジャスミンさん呼んできてくれてありがと、ルシファー」

「いえ。こうなるだろうと思いましてね」

「でも、でもリリーが。リリーがっ」

 あーもう、ちょっと落ち着け。

 あたしはスッと右手をチョップの形にしてネビロスの後頭部にもってった。

「ひぃっ!?」

 とたんにすくみ上って壁際に逃げるネビロス。めっちゃガクブルしてる。

 あ、察知した。

「なななななに姉さま」

「落ち着きなさいってチョップしようとしただけ」

「デコピンで額割れるかと思ったってレティ兄さん言ってたよ!? チョップだけじゃ済まないでしょ!」

 ええ? 魔力はこめてないのに大げさな。

「おかげで頭冷えたけどさ……ていうか芯から凍った……」

「冷静になれた? ならよかった。ドアぶち破って入ったりとかしたら迷惑でしょー。手術中にばい菌持ち込むつもり? 自分の兄と自分をとりあげてくれた医者が対処してくれてるんだから大人しく待ちなさい」

 腰に手あてて諭す。

「あたしだって不安だっての。みんな同じ。けど一番がんばってるのはリリーちゃんとお腹の子でしょ?」

「……うん」

 バンバンと肩をたたいた。

「だーいじょうぶっ。ネビロスの子だもん、しぶといよ」

「それはそうだけど」

 すると手術室から元気な産声がして、ルガ兄さまが出てきた。

「ルガ兄さん! 生まれた?!」

「……ああ。手術は成功だ」

 緊張の糸が切れたのか、ネビロスはその場にへたりこんだ。

 リリーちゃんが隣の病室に移されると慌てて飛び起き、ぐったりしてるリリーちゃんに飛びつく。

「リリー! よかったあぁぁ。うわああん」

「……うるさい。こっちは疲れてんのよ」

 とりあえずもっかい取り押さえよっか?

 おばあさん先生があきれた目で、

「まったくもう。父親になったってのに、情けない坊ちゃんだねぇ。で、赤ん坊はこっちだよ。保育器の中で抱っこできなくて悪いけどね」

 戸口からのぞくと、保育器の中にはおくるみにくるまれた双子。

「わぁ、一人はネビロス、もう一人はリリーちゃんにそっくり! ルガ兄さま、どっちがお兄ちゃん?」

「……ネビロス似のほうだ」

「へー。一番下だったネビロスに似たほうが今度はお兄ちゃんかぁ」

 リリーちゃんは黙って我が子を眺めた。

 メスを使わない手術でダメージ少ないっていっても、出産は大仕事だ。ちょっとぐったりしてる。

「リリー、ありがとう。大丈夫?」

「あんたがうるさいから大丈夫じゃない。……それにしても遺伝子こわ。見事に似てるって……中身も父親に似るんじゃないわよ」

 付け足した部分にうなずくあたしたち。

 せひ母親似でオナシャス! 真面目で優秀、クール系委員長タイプのイケメンだ。モテるよ。

 頼むから好きな子に対して犯罪行為はしないでえええ。

「ええー」

「さて、名前は。二つ決めてあって、どっちがどっちにするかだけだったから……あんた似のほうがイポス、私似のほうがラボラスでいいわね」

「うん、リリーがいいなら。息子たちー、お父さんだよー。お前たちもよくがんばったね。早くそこから出られるようになるんだよ。三人でしっかりリリーを守るんだから。害悪になりそうな輩を掃除するの」

「キラキラした笑顔で早速何を息子にふき込んでるんだこの野郎!」

 睨みつけるリリーちゃん。

 ひっぱたかなかったのは、単純に疲れてるのと点滴してるから。

「英才教育って必要だよね。早いうちからレティ兄さんに頼んでしごいてもらおうと思うんだ。裏工作とか手段は僕が教える。武力と知識と技術を身につけさせて、これからもリリーを守」

「ネビロス」

 そこらへんでおやめ。

 あたしはがしっと弟の頭つかんだ。

「眠れ」

 魔法で強制的に眠らせた。

「ぐう」

 そんじょそこらの睡眠魔法じゃ効かないけど、あたしがかけたのならさすがに効く。

 ばたっと倒れたネビロスをルシファーがそこらのソファーに寝かせた。

「ありがとルシファー。リリーちゃん、出産おめでとう。それとこれで一晩静かに休めるよ。このまま明日まで眠らせとく」

 え、ひどい姉? 何と言われようと、テンションマックスでアホな弟より緊急手術で出産直後な義妹の体のほうが大事!

 だから三行半つきつけないでやってくださいお願いします。

「ありがとうございます。本気で脳の血管切れるとこでした」

「急に具合悪くなって手術で出産だったんだもん、ほんとにゆっくり休んでね」

「……僕らが24時間態勢でついてる。安心するといい」

 ルガ兄さまが保証するんで、迷惑にならないようあたしたちは帰ることにした。

 ネビロスはそのままで。


  ☆


 翌日の朝、病室へ向かうあたしにルキ兄さまが言った。

「こんな時に大勢で押しかけたら迷惑だろうから俺たちは遠慮する。リリス、代表でおめでとうと言っておいてくれ。体を大事にともな」

「うん」

「あとネビロスは暴走しかけたら殴ってでも止めていい」

「昨日羽交い絞めにして止めた。で、なんでかチョップしようとしたら大人しくなったよ」

「……そりゃそうだろうよ……」

 ナキア兄さま、顔色青いよ?

「子供といえばルキ兄さま。聞きたいことあるんだけど」

「何だ?」

「織さんが王配なかなか決めないのって時間稼ぎだよね? ルキ兄さまと輝夜ちゃんに子どもが生まれたら、男でも女でも跡継ぎに指名する気でしょ」

「……ああ、そのことか」

 ルキ兄さまはため息ついた。

「ルキ兄さまは反対なんだよね?」

「もちろん言われても断る」

 きっぱり。

「そもそも先に署名させた協定で輝夜は王位継承権を放棄してる。すでに権利のない者の子も当然権利を有さない。向こうの国には遠縁なら他に何人もいるんだ。現段階でもそっちが順位は上のはずだろ」

「輝夜ちゃんの意見は?」

「私? 私も反対よ。王位は織ちゃんの子が継ぐべきだわ。織ちゃんにもそう言ってるのに……」

「王配候補者レースはあれからどうなの?」

 あまりに進まないんで、最初は連日ニュースになってたのが今じゃ報道されもしない。

「ベルゼビュート王子を除き、残り二名の段階から変わってないわ。織ちゃんはどっちも落とさず、補佐にしたまま。実際仕事ぶりは甲乙つけがたいみたい」

「まぁ、彼らも下手なことしたら速攻落とされるんだもん。ヘマしないよう必死でしょーね」

「あっさり切られた候補者を見ればな。しかも残り二人はどっちも自国民だ。他国の人間より処分しやすい」

「おー、こわ。利権からむとやだね~」

 肩をすくめるナキア兄さま。

「本人たちはどっちも王配になりたいんだ?」

「みたい」

「織女王本人は中継ぎのつもりでも周囲はそうとは思ってないし、権力を欲する者にとっては魅力的な座だからな。大方、女王を上手く操って自分が実権を握る夢でも見てるんだろう」

 アホらしいと眉間にシワ寄せるアガ兄さま。

 アイリスさんがそれをつついた。

「アガリアレプト様。またシワ寄ってますわよ」

 たった一日で遠近感ばっちりつかんだんだね。もう外れない。

「……うるさい」

「はいはい」

 くすくす笑ってシワ伸ばすアイリスさん。アガ兄さまはされるがままだ。

「ありがとアイリスちゃん。マジ感謝。ほんでさぁ、そうは言うけど織女王って傀儡にできんの? 無理じゃね? か~なりしたたかだろ、あの子」

 ルキ兄さまはあっさりうなずいた。

「無理だろう。むしろ逆に待ってましたとばかり証拠押さえて落とすな」

「え、それ狙ってんの? 候補者同士争わせて自爆させるつもりかぁ。となると、残るのはベルゼビュート王子……?」

 うーん。

 全員うなる。

「最初から予定されてた結果ではあるが」

「織さん、ベルゼビュート王子がほんとに嫌なら辞退させてあげるつもりでしょ? さすがに国同士のバランスの問題ですぐには許可できなかっただけで、ある程度時間が経てば」

「ええ。人の気持ちを無視してまで強要する妹じゃないもの。時間稼ぎはその意味もあるんじゃないかしら」

「調停役として、また『正義の王』の経過観察のためにも今すぐベルゼビュート王子が辞退・帰国はできない。居る以上はどうしても王配最有力候補になってしまう。だが本人は嫌がってる。ならば『正義の王』が回復したらベルゼビュート王子が帰れるよう、他に候補者を複数集めて留めておいてるわけだろうな」

 ルキ兄さまが腕を組んで言った。

「大々的に公募したのも、いずれベルゼビュート王子が望む通りに帰国しやすくしてやるため。色々協力してもらった礼ということか」

「……織さん、ベルゼビュート王子に好意的なのになんかかわいそ……」

 あたしはぽつりとつぶやいた。

「恋愛感情かどうかはともかく、少なくとも人としては好きなわけでしょ。なのにあそこまではっきり嫌がられると。傷つくよね」

「うっ」

 ん? ルシファーなんでうめいたの?

 輝夜ちゃんは重々しくうなずき、

「そうそう。しかもあれだけ大勢の人前ではっきりきっぱり言われたら辛いわよ。お前には興味ない、ただの知人だって言われたも同然なわけで」

「うぐっ」

 今度はルキ兄さまがうめいた。

 二人して胃のあたり押さえてる。

「ひ、久々に来た……」

「大丈夫ですか、ルキフグス様。心中お察しします……」

「お前こそ大丈夫か。飲め」

 どっから出したのか、ルガ兄さま特製栄養ドリンクがぶ飲みしてる。

「?」×2

 キョトン顔のあたしと輝夜ちゃんに、ナキア兄さま・アガ兄さま・ルガ兄さま夫妻は「ああ……」って反応。

 一体何が。

 ……あ。

 ようやく理解した。

「あ」

 輝夜ちゃんも気付いたっぽい。

 二人して慌ててお互いのダンナさまにしがみつく。

「違うわよ、あのね、ルキを責めてるんじゃなくて」

「分かってる。分かってるけど、グサッときたというか。身につまされたというか」

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ」

「あああ、泣くな」

 泣きそうな輝夜ちゃんを慌ててなだめるルキ兄さま。

「ルシファーも。違うよ?」

「はい。分かってます。僕もちょっと過去の行いを反省しているだけです」

 ローレルさんが話題をそらそうと手をたたいた。

「あっ。もしかして織女王はベルゼビュート王子に先に拒絶されてしまったから、好意が恋愛感情に移行できなかった・しなかったのでは?」

「ああ、ありえますわ。友人としては好きでもそれ以上にはなりえないと明言されては、それ以上気持ちを進めても迷惑になる」

「そうやって自らシャッターを下ろしてしまったのかもしれませんね」

 アイリスさん・ジャスミンさんも加勢。

「なるほど! もしかしたら恋愛感情にシフトしたかもしんないのに、先に言われちゃえば。それか、趣味を受け入れてくれる人だから実はあの時すでに好きだったのかもしんない。でも言えなくなった!」

「姉の私の直後で同じように押しまくるのはまずいと思ったのかも。ベルゼビュート王子が相手では、国同士で申し込んだらあちらは大喜びする。いくらベルゼビュート王子本人が嫌がっても断れないわ」

 もし好きだったとしても絶対言えなくなっちゃったんだ。

 かわいそすぎる。

「もし友人レベルの好きであれば、単に友達が帰れるようにしてあげたいのでしょう」

「どっちにしても織さんの本心を知らなきゃ……」

 やっぱなんとかして聞き出さなきゃなー。

「輝夜ちゃん。本格的に聞き出しお願い」

「うん。いくらきいても教えてくれないのをしゃべるかどうか分からないけど、でもやらなきゃ」

 ぐっと拳に握りしめる。

「妹の幸せのためだもの。電話じゃなく直接会って問い詰めたほうがいいかもしれないわ。場合によっては非公式にこっそり行くかも」

「分かった」

 その時はあたしも行こっかな。

 ベルゼビュート王子のほうに、彼は織さんをどう思ってるのか問いただしに。

 さて、今は先にリリーちゃんとこ行こっと。

 途中でレティ兄さまとスミレちゃん拾って一緒に行く。

 すぐそこなのにスミレちゃん抱きかかえて移動なレティ兄さまは過保護すぎる。まぁ体調悪かったから分からないでもないけどねぇ。

 ヒナちゃんはスミレちゃんの腕の中ですぴょすぴょ。

「おはよー、リリーちゃん。具合どう?」

「リリス様、昨日はありがとうございました。おかげでゆっくり休めました」

 ネビロスはっていうと、ソファーで丸太のまま。

「よかった、顔色もいいね。そろそろネビロス起こしても平気?」

「はい。……起こしたらうるさそうですが」

「うん、まぁねぇ。ネビロス、おーきーてー」

 あたしは睡眠魔法解除して揺さぶった。

「……ん? あれ……あっ、リリー!」

 起きたネビロスは真っ先にリリーちゃんに認識すると飛びついた。

 予想してたリリーちゃんにはたかれる。

「やかましい。こっちは手術の翌日だっつーの」

「あ、ごめん」

 腕の力緩めて、

「具合は? 痛みとか寒気とかない? それとも何か食べる? 読みたい本とかあったら取ってくるよ」

「静かにしてくれるのが一番うれしいわ」

「ネビロス、心配なのは分かるけどしつこいのもほどほどにしとけ」

「レティ兄さんに言われたくないなぁ」

 確かにどっちもどっち。

「って、僕の子は?!」

「そこの保育器」

 ベッドのすぐ横に移された保育器には双子が仲良く入ってた。ついてる看護師さんが常時容体チェックしてる。

 ヒナちゃんよりはるかに小さく、何本ものチューブでつながれてた。

「ちっちゃいねぇ……」

「はい……」

 看護師さんが励ますように報告する。

「今のところ容体は落ち着いております。特に異常は認められません。このぶんなら順調に体重も増えますよ」

「だといいんですけど……。私がもっとしっかりしてればこんな小さなうちに出てこなくて済んだのに。ごめんね」

 気丈なリリーちゃんはかなり我慢してたっぽい。限界で、ぼろぼろ泣きだした。

 後で聞いたら産後すぐはホルモンバランスもぐちゃぐちゃで精神的に不安定になりやすいそうだ。

 ネビロスは慌ててリリーちゃんを抱きしめた。

「誰のせいでもないよ! リリーは何も悪くない!」

「あわわ、そうだよ! てかホラ、ネビロスの子なんだからしぶといって。大丈夫!」

「……似てほしくないんですけど、そこだけは似てと思っちゃいました」

 うんまぁ、生命力はね。

「むしろリリーはすっごくがんばってくれたじゃん。僕なんか何もできなくてごめん」

 ここで一番安心させてくれることを言ってくれたのは、なんと看護師さんだった。やおら言い出す。

「実は私、三つ子の母なんですよ。やはり母体が耐えきれなくて、さらに早い段階で帝王切開になりました」

「え」

 みんな驚いて三十代くらいの落ち着いた看護師さんを見る。

 三つ子っすか。それは大変でしたね。

 って、あ。

 ピンときた。

 おばあさん先生とルガ兄さま、あえてこの人をリリーちゃんにつけたんだ。多胎児の先輩だから。

 孤児のリリーちゃんに親はいない。いざって時に頼れるアドバイスくれる人がいないんだ。

「大変でしたよ、本当に。お腹の中にいた時から一人が栄養いかなくて死にかけて、手術でどうにかもたせて。どうにかなったと思ったら、今度は私に問題発生ですもの。生まれてからも二週間小児集中治療室入りで……これくらい安定したのはだいぶ経ってからですわ」

「そ、それは……。苦労されましたね。気が気じゃなかったでしょう」

 そうとしか言えない。

「今は元気すぎるくらい元気で困ってますけども」

 看護師さんは笑って、

「ですから大丈夫ですよ。経験者として保証します」

「ありが……とうございます。ちょっと安心しました……」

 リリーちゃんはホッとしたように涙をぬぐった。

 よかった。

 経験者がいると心強いよね。

「……あう~?」

 話し声で起きたのか、ヒナちゃんがもぞもぞ動いた。

 早くも肩まで伸びた髪の毛とピンクのフリフリ産着がかわいい。

 おばちゃん渾身のきゃわゆいベビー服ですよ。そりゃあもうめいっぱいかわいいの作りましたとも!

 だって初めての姪っ子だし~。しかも美少女だし~。ゲキカワなラブリーぷりちーファンシーなお洋服、嬉々として作るに決まってんじゃん。

「お、ヒナ、起きたか。従兄弟に初めましてするか? ちょっと待ってな」

 まず自作のスミレちゃん専用椅子をテレポート。産後座りやすいようにって新しいの一日で作ったらしい。兄のスキルが変。

 そこにスミレちゃん座らせ、いそいそひざ掛けかけて。クッションの角度も調整したり、至れり尽くせり。

「これでどうだ?」

「大丈夫です。あの、でも、レティ様。いつもそんなにしてくださらなくても……」

「まだ病み上がりだろ」

「レティ兄さん、ほんっと人のこと言えなくない?」

「というかお二人とも、尽くしまくるところがサタナキア様そっくりです」

 ああ~、似てる似てる。

「オレとナキア兄貴の似てるとこあったのか。へえー、意外」

 レティ兄さまはヒナちゃんの抱っこ変わって、保育器に近付いた。

「ほーら、ヒナ。従兄弟だぞー。双子もさっさと大きくなれ。お前らにはオレの娘のボディガードやってもらうんだぞ」

「勝手に決めないでよ、レティ兄さん。まぁいいけど」

「……う~?」

 ヒナちゃんはきょとんとして双子を見下ろした。

 魔力は平均以下で成長速度遅めでも、はっきり見えてるし言われてることもほとんど理解できてるそうだ。でなきゃこの世界の人間は生き延びられないかったからね。

 双子のほうも見えてるらしい。あきらかにヒナちゃんと目が合った。

「きゃーあ」

 ヒナちゃんはにこにこして手を動かした。

 かわいいねぇ……って、ん?

 瞬間、双子の片方、ネビロス似のイポスくんのほうがくわっ!と目を見開いた。

 めっちゃ手振り返してる。ブンブンブン。

 ハチが飛ぶじゃないよ。

「え、何? どしたの?」

「お。さては世界一かわいいオレの娘に照れてるな? そうだろ~、ヒナはかわいいだろ~」

 うんそりゃかわいいけどね。

 そうじゃなくてなんつーかイポスくん、ものすごい必死。

 何か伝えたくてがんばってる。

 この発してる感情、なーにか似たようなものをどっかで見た……あ、そうだ、リリーちゃんに対するネビロスみたいな。

 ―――ってちょっと待って。それかなりヤバいやん。

「あれ、リリーちゃんどしたの?」

 めっちゃ顔に縦線入れてガクブルしてるよ?

「や……やばい……。今、本能的に危機を感じました……っ」

 恐ろしいもの見た、みたいに自分の両腕つかんで震えてる。

「……え、ちょ、マジで」

 カン、大当たり!?

 イポスくん、ヒナちゃんに一目ぼれした!?

 いやいやいやいや生後一日じゃん!

 あたしとリリーちゃん、顔合わせて無言。どっちも顔色悪~い。

 ありえないでしょ……とはお互い言わない。だってネビロスの子だよ。

 声落としてボソボソ。

「……いやいや、初めて会った同年代の女の子に興奮してるだけだよ。ていうかお願いそうだとだれか言って」

「私もものすごく必死に願ってますが違うと分かってます。どうしましょう。ネビロスの執着ぶり考えると、これはどんな手段使っても手に入れようとしますよ」

「……ダヨネ。分かってた」

 デスヨネー。

 あかんわ。

 ヒナちゃんはスミレちゃんに似て大人しい。ネビロス並みのにロックオンしたら撃退する力もなく、確実に捕まる。

 母親のスミレちゃんが小さい頃から刷り込みと囲い込みされてたんならヒナちゃんも効くって的確に判断、同じようなことするに違いない。

 血筋だねー。娘は父親に似た男性選ぶって言うよねー。あたしみたく例外もけっこういるけどー。

 しかし、そうなったら黙ってないのがレティ兄さま……。

 ちらっと二人で父親ズうかがう。

 レティ兄さまは妻子しか見てなくて全然気づいてないな。

 ネビロスは……。

「……ふぅん?」

 口角上げてニヤリ。

 あ、コレ気づいてるわ絶対。

「同じ穴のムジナ……」

「ダメだ……もう駄目だ……」

「ああっ、リリーちゃん、しっかり!」

 か、かける言葉が。

「死ぬ気でネビロスと同じことはするなって教育しますが! 矯正できる自信はないです……」

「待って、リリーちゃんの息子でもあるんだからリリーちゃんに似てくるかもよ?」

「ないと本能が警告してます。それよりヒナちゃんのほうにアホ息子倒せる術を教えたほうがいいかと。完膚なきまでに精神たたき折ればあるいは」

「お母さんがそんな壮絶な決意しないで! しっかりっ」

 あと、折るのは無理だと思う。

 ものすごいネバーギブアップ精神。

「と、とりあえずスミレちゃんには警告しとこ?」

 ちょいちょい手招きし、前に乗り出してもらう。

「どうかしたんですか、リリス様?」

「いやね」

「スミレさん、ごめんなさい。うちの息子がヒナちゃんに……っ」

 訳を説明。

 ヒソヒソ。

 話を聞いたスミレちゃんは首をかしげた。

「? いいんじゃないでしょうか」

「えっ、いいの?!」

 どの点が?!

「だって、私の血を引いてヒナも予知能力があります。悪い人に知られたらどんなふうに利用されるか。ネビロス様とリリーさんの子なら初めから能力のことも知ってるわけですし、いい子ですし、強くてヒナのことも守ってくれるでしょう?」

「あ……ああ……そういう観点……」

 いい子ってのはどうだろ。

「保育園に入ればレティ様がいつも守っているわけにはいきません。でもイポスくんとラボラスくんなら一緒にいられますもん。とっても安心です」

 まぁ確かに相手の両親もよく知ってる人なら安心ではある。父親同士が兄弟だし。

 従兄弟なら血の上でも問題ない。さらに母親も違うしね。

「レティ兄さまにめっちゃしごかれたのが護衛なら、ヒナちゃんの身は安全ではあるね」

「ネビロス並みのストーカー野郎がついてて安全でしょうか」

 ん、ん~。別の意味ではそのー。

 ノーコメントで。

「よかったぁ、安心しました。ヒナは私の能力引き継いじゃったから、ひどい目に遭わないか心配だったんです」

「スミレちゃん」

 誘拐・拷問されてたこと思うと言葉がない。

「まぁ悪意持って近づこうもんなら、速攻&全力で排除するだろうね」

「どう排除したのかとか、その後については決して考えてはいけません。思考にフタをしましょう。経験者の知恵です」

 あたしは男性陣眺めてコメントした。

「つか、この場にいる男性全員そのクチじゃん……。あ、でも弟のラボラスくんのほうはそうでもない? よく見てみたら、自分がコイツ止めなきゃみたいな決意感じるよ」

 真面目で真っ当な気配が。

「よ、よかった、一人は私似で……っ」

 感激するリリーちゃん。

 うんうん、よかったね。おばちゃんも泣きそう。

 そりゃ二人ともネビロスに似てたら心労で倒れるわ。

 がんばれ弟くん。おばちゃんは応援してるよ!

 グッと親指立てた。

 どうやら伝わったっぽい。了解した、みたいなテレパシー的なのを感じた。

「……えと、私は大歓迎なんですけど、レティ様には黙っておいたほうがいいですよね?」

「うんやめよう。血の雨が降る」

 生まれたばっかの甥っ子に本気で斬りかかるのは阻止せねば。

「そうですよね、大きくなった時には他の子を好きになってる可能性も大ですし」

 それはない。

 ナイナイ。

「大人になったイポスくんがヒナちゃんと結婚するって言いだして、レティ兄さまがマジギレする未来が見えるよ」

「私も同じこと予想して青ざめてます」

「その時はあたしが立ち会うようにして二人止めるわ」

「ありがとうございます……」

 力ずくで止められんのはあたししかいないわー。

「お? 双子ずいぶん元気そうじゃんか」

「早くヒナちゃんと遊びたいんだと思うよ」

「よかったなぁ、ヒナ。友達ができて。甥ならオレも安心だ。ヒナは知らない人恐がるけど、双子は平気なんだな。やっぱ小さくても魔力が似てて身内って分かるのか」

「息子気に入ってくれてよかったよ。末永くよろしくね~」

 二重の意味で言ってるなネビロス。

 まぁ確かに実力の点じゃ、絶対ヒナちゃん守ってくれるって信用できる。舞台裏はともかく。

 将来的にヒナちゃんの夫選びは下手すりゃレティ兄さまが怒り狂って魔王と化すか~なりヤバイ案件だった。早々に片付いてなによりだよ。

 イポスくんでももちろん怒るだろうけど、最後はしぶしぶ納得するでしょ。

「よかったよかった」

 リリーちゃんはよくないですって言いたげに虚ろな目してた。


   ☆


 イポスくんがヒナちゃんにマジ惚れしたってあたしたちのカンは当たってた。

 翌日、リリーちゃんから半泣きの電話があって。

 かけつけてみたら、なんと双子、素人が見ても分かるくらい大きくなってた。しかも保育器もういらないとかで、普通のベビーベッドだし。

 ついでにこのベビーベッドもレティ兄さま作。ネビロスが嬉々として注文してたん。双子が一緒に寝られるベビーベッドってあんまないもんね。

「え? 一回りか二回りくらい大きいじゃん」

「うん。一晩で急成長しちゃった~」

 あははと笑うネビロス。

 原因が!

 理由が分かりすぎる!

「色んな数値も正常で、超のつく健康優良児です……」

「よ、よかったじゃん」

「そうなんですが、素直に喜べない……」

「えー? 好きな子のためにがんばるって、ごく当たり前で真っ当な動機だよ。僕だってリリーのためならなんでもするもん」

「黙れ諸悪の根源がっ! 誰のDNAのせいだと!」

 胸倉つかんで揺さぶるリリーちゃん。

 ネビロスはなんでうれしそうなの。

「さすが僕の子だよ。なかなか優秀、素質がある。色々教えてあげるね~」

「やめんか阿呆! 犯罪者の英才教育するな!」

「ネビロス……お姉ちゃん一応きくけど、具体的にはどんなの」

「んー? バレない盗聴器監視カメラの仕込み方、尾行の仕方、好みとかの調査方法、周囲の人間をたらしこんで無自覚の情提供者兼協力者にする人心操作のやり口と、それから」

 それ以上はリリーちゃんのアッパーカットが顎に華麗に決まったんで終了した。

「盗聴器とか仕込んでたんだ……。え、まさか今もまだ?」

 レティ兄さまの後任に頼んで逮捕してもらったほうがいいかなマジで。

「いたた。もうやってないよ。だってそんなことしなくてもリリーが傍にいるもん。本物が一緒にいるならその必要ないでしょ?」

 ねー、と言いつつ抱きつく。

「ウザい、離れろ。とにかく息子にろくでもないこと教えたら怒るわよ!」

「うん、怒っていい。ところでラボラスくんまで急成長したのって、双子の兄を止めなきゃって使命感だよね? リリーちゃんに似て、なんていい子……っ」

 くっ。

「こっちは危ないことしなさそうでよかった」

「それが救いです」

「リリーに似て真面目でクールなイケメンに育ちそうだよね。ふふ、将来どっちも楽しみだなぁ」

「断固、絶対、意地でもマトモな子に育ててやる……っ!」

 うん。お願いします。

 あたしはベビーベッドにかがみこんだ。

「いい? 甥っ子たち。見習っちゃダメなとこは反面教師にして、真っ当な大人になってね」

 生後二日目の甥たちを真剣に諭す『魔王の母』だった。


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