女王様たちはどっちもどっちでアレ
画面ごしじゃなく直接会談しようってことで開かれました、両国首脳会議。会場はいつぞやのファッションショーでも使った国境付近です。
思いっきり屋外だけど、そのほうが「開かれてる」感じで安全性アピールできるってことでね。
急きょ両方であれこれ持ち寄って即席会場セッティング。けっこうどうにかなるもんだ。
双方力をあわせて用意したのは友好関係をアピールするためと、うちだけでやって勘ぐられんのはやだから。何か仕込んでんじゃないかって、言いがかりつけられんのはごめんなんでね。
同じ理由でテレビカメラ入れ、全世界に同時中継してる。
まずは両国代表としてあたしと織女王の握手シーンから。こういう撮影大事。
それからさらに細かいとこまでつめた友好条約調印をして。
目立ちたくないってルキ兄さまの希望に沿ってしれっと紛れ込ませた式……っていうかお祝い会?をば。
「ルキ兄さま、輝夜ちゃん、結婚おめでとうっ!」
「おめでとっス~」
二人一緒に花束持って輝夜ちゃんに渡す。こうすればどっちも祝福してるのが分かるし、どっちの花束を先に受け取るのどうのってうるさい連中が口出ししてくることもない。
ほんとにさぁ、そんな順番とかどうでもいいじゃんねぇ? 祝福してる気持ちは同じでしょーが。でもこういうとこでグチグチ言う輩がいるんだな世の中にゃ。
結局それって祝福の気持ちよりも自分のほうが大事なんだなーと思う。自分の気持ちをないがしろにしろとは言わないけど、お祝い事なんだもん。出席する以上、こういう時は一旦脇に置いてまずは素直に主役を祝福しようよ。なんのための式なのさ。
結婚式っていうのは列席者の個人的な希望を通して満足するための場じゃなくて、新郎新婦をお祝いする場でしょ? 目的はき違えちゃいけないよ。
今回のスタイルは人前式。どっちの国のやり方でやっても文句出るなら、どっちでもないのにしようってことになった。ホームパーティーみたくのどかでほんわかしたムードで、みんなでお祝いする感じ。
輝夜ちゃんのドレスはがんばったよ。お針子部隊フルスロットルで。
技術と素材を結集した、王道中の王道な純白ドレスです。裾がふんわり広がったシンプルデザインに、光の角度によって見える透かし模様とか金糸の刺繍とかマジで職人の根性の結晶。
出来上がった瞬間、張りつめてた緊張切れてぶっ倒れたスタッフが何人も。ありがとう、お疲れ様……っ。ゆっくり休養取って! 休みあげるから!
とりあえずルガ兄さま特製栄養ドリンクを箱単位で差し入れしといた。
それにてもコラボ商品用に材料はいっぱいあったんで助かったわー。でなきゃ最高級品そんなすぐ集めらんないよ。
つーか、輝夜ちゃん自分のよりルキ兄さまの服のほうめっちゃ考えまくってた。
ティアラは『輝夜姫』のイメージにあわせて金細工。なるべく薄く軽いデザインにしたよ。
ネックレスやピアスも金にしようとしたら、輝夜ちゃんが重くて嫌そうだったんで変更。指輪と同じくレアメタルにしたの。
なにしろまぜこぜレアメタルは採掘場所によって材質が全然違うもんだから、急きょあちこちの集めまくった。その中で軽くて綺麗なのを選び、デザイン画をもとにして二人で作ってもらったわけ。
一回見ただけでデザイン画とまったく同じに作れるルキ兄さまもたいがい器用だよね。ていうか、完璧主義? キッチリ性格?
「ありがとう、二人とも……っ」
早速輝夜ちゃんてば感極まって涙ぐんでる。
「もー。姉さん、お化粧とれちゃうよ」
ハンカチでふいてあげる織女王。仲がいい姉妹だね。
ルキ兄さまはというと、ぶっきらぼうに「……ありがとう」って返しただけ。照れてるのモロバレんなんで生温かい雰囲気。
「オレからも諸国を代表しておめでとさんっ☆」
キッチリ一曲歌って花束渡すベルゼビュート王子。
さりげに自分のコンサートやっとる。
王族の衣装じゃなくてステージ衣装なことに、見てた父王から速攻で怒りの電話きてたけど無視してた。
まぁここは『諸国代表の仲裁役』って意味で、自国の衣装じゃないほうがいいんでしょーね。だとしてもそれがアイドルのステージ衣装ってのもどうなのかと思うけど。
作ったのうちなだけに何とも言えない。
そうそう、うちの兄弟ももちろん出席してます。目立たぬよう後ろで拍手してる。
織女王の後ろに控えた人々の中から姉妹の母、『正義の王』の妃が進み出た。
「輝夜」
「……お母様」
飛び出して以来会ってない親子。さらに母妃つまり皇太后も修正プログラムのせいでおかしくなってた。
夫ほどじゃないにしても敵国に娘が嫁ぐのには反対してたという。織女王から聞いたところ、回復後は冷静に考えられるようになったらしく、織女王の説得もあって賛成に傾き始めたっていうけど……。
心配そうに妹のほうを見る輝夜ちゃん。織女王はあっけらかんとして、
「大丈夫だって。言ったでしょ」
皇太后は気まずそうにしながらも花束を差し出した。
「ダメな親でごめんなさいね。おめでとう」
「お母様……っ」
多くの言葉はいらない。母子は泣きながら抱き合った。
よかったね、仲直りできて。
「ほらね。いくらなんでもこの期に及んで娘の願い聞かないほど薄情な親じゃないってば」
「説得してくれたんでしょ? ありがとう」
「これまでさんざん押しつけてきたぶんのお詫びよ」
肩をすくめる織女王は格好こそ女王然としてるけど、髪の毛は相変わらずボサボサではねまくってる。ダサ眼鏡もかけたままだ。
「織ちゃん、女王なんだからもうちょっと身なり気にしなきゃダメよ」
「服装はそれっぽいんだからいいじゃん。主役より脇役が目立っちゃいけないしねー」
列席者が花嫁より目立つのはマナー違反。つっても、ダサい変人のふりを続けなくてもいいんじゃ?
「次は織ちゃんの番でしょ。誰かいいなと思う人いないの?」
さりげなさをよそおって輝夜ちゃんがきいた。
あ、隅っこでベルゼビュート王子が全力で首横に振ってる。
まぁここで宣言されたら拒否できんわな。立場上。
織女王はそれに気づいた上でフフフと笑った。
「さぁね~」
確答は避ける……か。
本当にベルゼビュート王子のことは友達としか思ってないのか、それともこんな場で言ったら断れなくて悪いなとはぐらかしたのか。
読めないんだよね。実の姉の輝夜ちゃんにも教えないっていうし。
王配選びが公式に始まった以上、公平なレースにするために本人が言えないのは分かるけども。輝夜ちゃんにはこっそり教えてもいいんじゃないかなぁ?
「ところでリリス女王、お義兄さん。なんか姉が迷惑かけてません?」
「織ちゃん」
「あはは。ないですよー。織女王も元気そうで何よりです。王様って大変でしょ?」
一応経験者として言ったら、ものすごくうなずかれた。
「さっすがよくお分かりで! いやーもー、疲れるっスよ! 会議会議めんどくさい! ずーっと座ってサインし続けで腱鞘炎になるし!」
「だよね~。あ、ルガ兄さまに教わったマッサージ知りたい? 効くよ」
「ぜひ! 切実っす!」
他にも疲れに効くハーブティーとか椅子とクッションの関係性とか、経験者の知恵を伝授。
いやあのね、家具の高さや大きさって些細かもだけど大事なのよ。自分の体のサイズに合ってないと、変な姿勢になって負担がかかる。高すぎても低すぎてもいけない。
「なんならうちの兄がオーダーメイドで最適なの承りますよ。あたしのデスクもレティ兄さまお手製で。すっごく使いやすいの」
「おおっ。そっか、職人さんいましたね! マジでお願いできます? なにしろ父が使ってたやつだから、体格全然違うし、私には合わなくて」
「まいど~。どんな形がいいか、見本のカタログ載ってるURL送りますね」
ポチポチとな。
「さりげなく兄の仕事とってくるあたり、リリスもアガの妹だな……」
だってここんとこスミレちゃんが臨月なもんでレティ兄さまの過保護が加速してるじゃん。ちょっと物理的に離して仕事させないとさぁ。
ネビロスもリリーちゃんべったりだし、あっちもどうにかしなきゃ。吐きづわりは一週間程度で治まったとはいえ衰えた体はそう簡単には回復しなくて、まだ安静にしてなきゃいけないんだよね。だもんでずーっとついてて、何でも代わりにやってる。……ずっとついてるのはいつものことだけど。
「あれ、ベルゼビュート王子、そんな離れてちゃだめっスよ。記念撮影もあるんだし」
静か~に遠ざかってたベルゼビュート王子がビクッと飛び上がった。
「ぎく。いやあの、オレはいらないじゃん。ご家族でドウゾ」
「調停役が認めた婚姻ってことで、ちゃんとフレームに入っててもらわなきゃ困りますってば。新聞に載せるんスから」
「カンベンしてくれよー。オレの味方って誰もいねーの? 親父も帰ってくんなって言うしさぁ」
ベルゼビュート王子のお国じゃ、織女王の王配になることに賛成ムードらしい。
「懸案のアホ息子が片付く! お願いします! むしろノシつけて差し上げますんで。返品はナシで!」って父王が菓子折り持って行こうとしたってさ。
そりゃーねー。フラフラしてた第八王子が大国の王配になれるとなっちゃ、国としては願ったりかなったりだもん。
「当然の反応だと思うけど」
「おいおい。家族そろって、帰ってくるなよかったなガンバレ!って帰国禁止にするんだぜ? ひどくね?」
いやまぁ妥当。
ベルゼビュート王子は当然というかルキ兄さまに助けを求めた。
「宰相サンっ。王配になる道から逃れる方法教えてー!」
「うげ……めんどくさい……」
ロコツに嫌そう。
「じゃあ何か方法考えてくれよ! 頭いんだから考えつくだろー?!」
「王配は公募で決めることにしたんだろうが。自分でどうにかしろ。俺を巻き込むな」
「ホント厄介ごとはゴメンなのな宰相サン。頼むよおぉぉ、友達じゃん――っ!」
友達だっけ?
「誰がいつお前の友達になった」
「もう十分友達って言っていいじゃん? 王配の道から逃れたい者同士だろー。ナカーマ。同志っ。へるぷみー」
「うっぜぇ……」
ルキ兄さま、珍しく口悪~い。
とりあえずフォロー。
「まあまあ。他にも候補者はいるじゃん。落ち着きなって」
「あ、そうそう。とりま候補者五名に絞りましたよ」
「しれっと最終選考まで終わったって発表した!」
おおい!
みんな二度見。
「え、ちょ、こんなどさくさまぎれじゃなくてさ。もうちょっとっ正式に発表しません?」
「いやぁ、姉さんにも見といてもらおうと思いまして。これリスト」
ぺらっと走り書きのメモを見せる。そんなんでいいのか。
輝夜ちゃんは見ただけで誰が誰か分かったっぽい。選考前の段階でルキ兄さまが全員調べた調査書見たって言ってたっけ。
よく覚えてるね。あたしじゃ無理だわー。
「あら。大体予想通り?」
「まぁね。フツーにマトモで妥当な結果」
ええ? 破天荒な彼女が珍しい。
あたしが言えたことかって? やだなぁ、ははは。
「どうしたの? 織ちゃんならもっと奇想天外な結果になると思ってたわ。まぁさすがにこの問題は微妙なバランスを考えなきゃならないものね」
「まーねー」
……それとも逆で、全員落とすつもりとか?
昔話『輝夜姫』を知ってるあたしはいぶかった。
ありうるね。すると、無理難題つきつけて不合格にするのかな。やるのは輝夜姫じゃなくて織姫だけどね。
織女王はあくまでも中継ぎのつもりでいる。いずれ退位する時に権力を手放したがらない王配だと困るって考えてるのは分かる。
つっても現状、他に後継者はいないわけで。彼女の子でも生まれない限り。
―――あっ!
はたと気づいた。
他にいるじゃん。
まさか、ルキ兄さまと輝夜ちゃんに子どもが生まれたらその子を後継者にってこと?
すばやくルキ兄さまをうかがうと目が合った。
どうやらとっくに推測済みだったらしい。
そりゃそーだ。頭いいもんね。あたしが推測することくらい、とっくに思いついてるでしょーよ。
ルキ兄さまと輝夜ちゃんの子か……。
うちの国での王位継承権はない。なぜならルキ兄さまが放棄してるから。だからこっちで王座に就くことはない。
その一方で向こうじゃ輝夜ちゃんが権利放棄したのは残念だと考えてる人が一定数いる。織女王に子どもがいない場合、姪か甥を跡継ぎとしてもらうのは妥当な線だ。
悪王の孫にあたるけど、一世代あけばね。父親のルキ兄さまが超のつく真面目で堅物のいい人なのは周知の事実だしさ。あんま反対意見出ないんじゃないかなぁ。両国の和平の象徴でもあるわけで。
ん? でもルキ兄さまの表情からすると、嫌っぽいね。
……ふーん?
あたしは織女王に視線を戻した。
「実は今日連れてきてるんだ」
「連れて来たの?!」
「姉さんだって直接会ってみたいでしょ。はい、これ資料ね。リリス女王もどうぞ」
一部もらった。
五人の貴公子が並べられる。
えーと、左から順にいこう。写真がついてるんで分かりやすい。
一人目は石作皇子。役人で中堅貴族。32歳。
名前はまんま昔話と同じだね。
つか、しょっぱなから倍の年の人来た。
けっこうな年の差だけどいいの? 王族は政略結婚で年の差婚よくあるっつってもさ。
「仕事ぶりも真面目で高評価の役人を中堅どころから選んだんだろう。カタい人選だな。身分が下すぎても上すぎても文句言われるなら真ん中あたりからってことだ」
小声で教えてくれたのはルキ兄さまだ。
普通こういう時教えてくれるのはルシファーだけど、大勢の前じゃ「無害で無能な王配」のフリしてるもんね。察して注釈つけてくれたってわけ。
ふむ。容姿も並で、どこにっでもいそうなフツーの人。中継ぎ女王の王配としては目立たなくていいかもしれない。
「ウチの国からの難民への人道的支援を現場で指揮した男だな。NGOに顔がきく。センセーが言ってた」
補足するナキア兄さま。
二人目は阿部御主人。消防士、20歳。かなり危険な災害現場にも進んで出動し、多くの命を助けて表彰されたこともある。ついでにガチムチマッチョ。
「清廉な人柄で人助けが好き。無欲で無私。国民の人気も高い有名人だ」
レティ兄さまがうなずいて、
「あー、知ってる。手合わせしてみたいって仲間が頼んだら、この力は人を助けるためのもので戦うためのものではありませんって断られたってさ」
高潔なスポーツマンみたい。
一人目はオジサマ好き、二人目はマッチョ好きにはたまらんでしょうね。
三人目は大友御行。小国だけど地の利を生かして貿易で栄える国一番の豪商の次男坊。
アガ兄さまがボソッと、
「なんだ、あいつか」
「知り合い?」
「直接取引してるのは長男のほうだが、顔は知ってる。世界でも一、二を争う商会だ」
経済的な理由で選ばれたのね。
四人目は庫持皇子。伝統工芸士、26歳。
これまた珍しい職業の人もってきたもんだね。
「魔具のリメイクも得意で、うちが処分した中で再利用できるものはほとんど手がけたはずだ。王家ができるのは浄化までであって、その後の作業はこういう職人に任せてるんだよ。そういう意味で王室との結びつきが強い」
「……先生が昔ほしがってた特殊な医療器具を作れるのはわずかだって、名前あげてた」
元々小声なルガ兄さまが言う。
へぇー。
五人目は石上麿呂足。王家遠縁の研究者、18歳。
ある意味、織女王と合ってる。ワカメみたいな長髪と大きな眼鏡で顔がほとんど見えない。今にも帰りたそうに、本に顔うずめてブツブツ言ってる。
「魔術研究者として優秀だが、極度の人嫌いだ。引きこもり生活大好きでもう何年も研究室の外に出てこないと聞いたが、よく出てきたな」
「ああ、リリーが論文読んでた。メールですらも人と関わりたくないらしいよ」
五人全部いったね。
てことは六人目、帝ポジションがベルゼビュート王子かぁ。
本物の王子ではあるけど。アイドルやってる銀色まぶしいおちゃらけ男、その正体は『バグ』。
それが帝ポジってどうよ。
ツッコミが追いつきませんな。
「あれ、織ちゃん。最終選考通過した五人の中にベルゼビュート王子が入ってないわよ?」
最終選考って、アイドルオーディションか。
後ろでベルゼビュート王子が「ヨッシャ!」ってガッツポーズしてる。
でもすぐにその拳はへし折られた。
「ベルゼビュート王子は別枠じゃん」
「ああ、シード枠てことなんですね」
「イヤあぁぁぁぁ。オレは不参加だよー! あの五人の中から決めてちょ! いっぱいいんだからいいじゃんよー!」
全員無視。
「ときに織女王、どうやって決めるんです?」
「てゆーかタメ語でいいっスよ。お互い兄姉の婚姻で親戚になったんスから」
「じゃ、織さん。この五人は前に言ってた、もし退位することになっても構わないって基準はクリアしてるんでしょ? お次の判定ポイントは? 公表しといたほうがいいと思うんだ」
選考基準の透明性ってやつ。
「そこなんスよね。どうしようか。相性は大事かなーとは思ってるんスよ。やっぱ一緒に仕事するうえでやりやすい人のほうがいいわけで」
「そこは大事だね。しょっちゅう意見対立する人や価値観違う人じゃやりにくいもん。人間、どうしても合う合わないはあるからねー」
しょうがないことだ。
ま、ほんとに一番大事なポイントは織さんの趣味を受け入れてくれる人ってとこなんだろうけど。わざと明言してないんでしょーね。はっきり言っちゃったら、本音は違くてもみんな表面上そのフリするじゃん。それじゃーダメだ。
明言しなくても察しがつくことだけど、もし察せなかったらそこで落選になるんでしょ。
「正直どうすればいいか私自身よく分かんなくて困ってるんスよ」
「織ちゃんが好きになった人を選ぶべきよ! 絶対!」
「私が誰も好きになったことないの知ってるでしょ姉さん。私が好きなのは二次元のBLだから」
「知ってるわよ。ただ、趣味と現実は別でしょう? 好みのタイプくらいあるんじゃない?」
「あるよ。もちろん相手役の好みもねっ」
それ違う。
妄想のカップリングのほうになっとる。
ううむ。織さんの場合、好みの男性がいても自分が付き合いたいとかじゃなく……そもそも二次元だし、理想の相手役男性キャラとの想像にいっちゃうのか。
「腐女子だからねっ☆ 私は明るくオープンなのさっ」
キュピーンと横向きピースサインを額にあてる妹に姉は、
「それはそれとして。自分の将来よ? 私だってぶっちゃけた話、元婚約者とはお互い恋愛感情抱いたことなくてそういうの全然分からなかったけど、ルキに会って分かったもの。理屈じゃなくてこうビビッと心にくるの」
ゴフッてルキ兄さまの喉から変な音出た。
眼鏡押さえて顔そむけながら、
「すみませんがこういう場でやめてもらえますか」
「なんで敬語に戻ってるの? ねえ」
不思議そうにのぞきこむ輝夜ちゃんからさらに首回して逃げようとするルキ兄さま。首痛そ。
ニブイあたしでも照れてるって分かるわー。
逆に分からない輝夜ちゃんって天然つーか。
あのー、ルキ兄さまはシャイで照れ屋なんでそこらへんで勘弁しといたげて。後で自己嫌悪に陥るクチだわ。
「輝夜ちゃん。後でにしてさ、今はそこらへんでやめといたげて」
「どうして? ねぇあなた、敬語だと心理的に距離間あって嫌だって言ったじゃない。ねえねえ」
ムリヤリ顔つかんで自分のほう向けさせる。
あ、事態が悪化した。
もはや色々一周して冷や汗ダラダラかいてるルキ兄さま。
あかん。
ここはあたしが注目集めてみんなの気をそらさねば。
「えっとね、好きな人と結婚したほうがいいよ! それは賛成。あたしもよーっく分かる。なにしろ家族になるわけじゃん? 一生共に過ごすんだし、好きな人とのほうがいいって」
織さんは首をかしげた。
「いや、一生はないかもよ? 離婚てのがありうるっしょ。私はもし退位する時に相手が離婚したいっていうなら、そこはすんなり判押すよ」
「ええええええ?!」
超ドライ。
王族ってそんな軽く離婚再婚OKだっけ?
「元女王の王配なんて厄介な立場が嫌っていうのに引き留めるのも悪いじゃないスか。そこまで迷惑かけるのはねぇ。それに私が一般人になれば配偶者はいなくてもいいんだし。だってその時は後継者が立派に王様業やっててくれてるはずだから」
「そりゃそうだけど……ルシファー、何か参考意見!」
とっさに援護射撃頼む。
権力放棄して名ばかり女王の王配であるルシファーは似たようなもんだ。
「そうですねぇ、微妙な立ち位置なのは否定しませんが、意外と悪くないものですよ? 僕も政治はやりたくないので、できる人がやってくれて感謝してます。おかげでリリス様お一人にお仕えするという望みが叶っているんですから」
胸に手をあてて優雅に礼。
「僕は愛するリリス様のために尽くすことが幸せなのです」
「あたしも大好きっ」
にこにこして抱きついた。
抱きしめ返すルシファーをナキア兄さま以下五人の殺気が射る。
ん、ルキ兄さまが入ってない? ああ、今手一杯だからでしょ。
「ね? 織さん、ラブラブ夫婦っていいもんじゃない?」
「うーん。こういう性質持ちなほうが王配は上手くいくんスかねぇ……」
「ままま待って織ちゃん、あなたが言うとシャレにならないわ」
確かに似合いそう。
「冗談だってば。これはリリスさんだから上手くいってるんでしょ。全然違う性格の私じゃ合わないよ」
視線がそれた今のうちにと逃げようとしたルキ兄さまは、がしっと輝夜ちゃんに腕つかまれて失敗した。
それを見たベルゼビュート王子が逃亡計画あきらめた。さりげな~く一歩ずつ遠ざかってたんだよね。
「好きなタイプも思いつかないんじゃ、どうするの?」
「少なくとも現時点で言えることが一つあるっスよ。本人が望んでないなら辞退可能ってこと」
え。
「自分の意に反して厄介な立場押しつけられんのは誰だってイヤっしょ」
「あれ、本人の希望で立候補したんじゃないの?」
「他薦もアリなんで。政治的な意味合いとかそういうので名前あがった人も入ってるんスよ。―――てわけで五人とも。降りたかったら辞退していいんスよ? 別に罰則とかないし、降りたことで何か不利益になるようなことには絶対させない。そこは女王としてお約束します」
織さんは女王の表情で五人にきいた。
「これが最後。やめたい気持ちが少しでもあるのなら、ここで降りて。生半可な思いで王配になるなんて迷惑なんでね」
手厳しく言って五人を見据える。
んー……。
ベルゼビュート王子がソロソロと手をあげた。
「ハーイ。オレは初めっからやだって言ってるし、帰りたいでーす……」
また全員スルーした。
すると石上磨呂足が叫んだ。
「降りていいなら喜んで。ていうか帰りたい! もう嫌だぁ!」
どっから出したのか、分厚い布団にくるまって隠れてしまった。
「明るいとこ恐い、人いっぱいで嫌だ。狭くて暗くて独りでいられる研究室に帰りたぃぃぃ」
ガタガタ震えてる様は怯えてるといってもいいくらいだった。
……えーと、彼も一種の対人恐怖症?
織さんは予想してたというように、
「まぁまずはそうなるだろうと思った」
「知り合いとか?」
「これでも研究者の端くれだったんで。彼とは面識あるんスよ」
なるほど、国にとって重要な研究者でしかも遠縁・知り合いだから担ぎ出されたけど、いかんせん本人が無理だったと。
布団の中からくぐもった声がする。
「そうですよ! 僕はそもそも人前に出るのが嫌いなんだっ。みんな僕をネクラ・キモイ・不細工って笑ってる。学問は最高だ、僕を嘲笑うことも裏切ることもない。帰りたいよううううう」
織さんがボソッと、
「あれ、あながち被害妄想でもないんで。才能あるだけに嫉妬もあって、小さい頃一時期ひどくいじめられてたんスよ。同じ陰口たたかれてた者同士ほっとけなくて、私が代わりにいじめっ子ども成敗しといたんだけど」
「おおー。ヒーロー。そういうのってよくそこで惚れるもんだけど、違ったんだ彼」
「強い女性は恐いっ、嫌だ! ずっと引きこもり生活してたい、独りがいい!」
き、気の毒。早く戻してあげようよ。
歩み寄り、彼の前にしゃがみこんだ織さんは布団の上から頭のある辺りをなでた。
「うん。無理しない。がんばったね。気をつけて帰って」
「ありがとおぉぉ……。ううう、恐いよ明るいよ……」
潜ったまま、ズルズルと布団ひきずって去っていった。命じられた兵が数名付き添っていく。
「……ちょっと気の毒だね。無理にひきずりださなくても」
「彼が推薦された思惑は分かってましたけど、これを機にちょっとでも外に出られるようになればと思ったんだけどなぁ……。逆効果だったか。悪いことしちゃったな」
うーん。こういう問題ってデリケートだからね。何が正解なのか分からない。
織さんは心療内科医とカウンセラーを派遣しておくと決めた。
「……あのー、陛下。よろしいですか?」
今度は阿部御主人が手を挙げた。
「申し訳ありませんが、家事が発生し救助を求める通報があったとのことで、出動いたします」
救助任務の話だった。
ああ、消防士だっけ。
他のメンバーが驚いて、
「え、上司は少なくともこの場にいるの知ってるんじゃ? なのに出動要請がかかったんですか?」
「いえ。しかし助けを求める人がいるのに向かわないなどありえません!」
「素朴な疑問だけど、現場って遠いですよね……? 間に合うんですか?」
「間に合わせてみせます!」
熱く燃える純真なヒーローのごとき若者は言い切った。
うん、いい人だな、この人。
「選考よりそっちのほうが大事なわけ?」
「当然です! 人の命のほうが大切です。そもそも上司に命じられてここに来ただけであって、僕自身は申し訳ありませんが任務のほうが大事だと思っています。困っている人を助けるこの仕事に僕は誇りを持っています!」
すっごい純粋で人助けが好きな、根っからの善人だわー。
パチパチ。思わず拍手。
「そういうわけで女王陛下。僕は助けを求める人々のもとへかけつけたいと思います。お許しください」
ひざまずく真面目な消防士に織さんは許可した。
「もちろん。人の命は何にも代えられないわ。すぐに向かいなさい」
「はっ! 待っててください、今すぐ助けに行きますー!」
マッチョな消防士は猛ダッシュで走って行った。
お仕事頑張ってください! ええ人や。
「わぁ、めっちゃ速い。もう見えなくなった」
「あれ筋力だけで走ってるっスね」
「あ、ほんとだ。魔法ナシだ。どういう脚力」
「いい人だけど、だからこそ困ってる人がいればどこでも駆けつけちゃうんで、王配には向かないなぁ。ああいう人はぜひ現場で働き続けてほしい」
「確かに。逆に現場から奪っちゃいけない人材だね」
「そうね。でも織ちゃん、これで早くも二人消えちゃったわよ?」
そうじゃん。
おおい!
ついツッコミたくなる。
おいおい。考えに考え抜いたはずの人選なのに、あっという間に候補者二人もいなくなったよ!?
「三人だよ、姉さん」
「え?」
織さんは大友御行を見た。
「さっき選考より人命救助のほうが大事なのかって言ってたでしょ。そんな考えの人間は王配の座に座ってほしくない。お引き取り願いましょう」
ぴしりと言い放つ。
もっともだ。
王族ってのは国民を守る義務がある。そうでなくとも、誰かが助けを求めてたら助けようとするのは人として当然のこと。人を見殺しにしてでも自分が権力を得る方が大事だと考える人間をトップに据えていいものか。
「なっ……なんだと!? ふざけるな!」
あ、逆ギレした。
「そんなこと言っていいのか? パパに言いつけてやる! お前んとことの交易なんか破棄だ破棄!」
うーわー。浅はか。
金持ちのドラ息子か。
よくこんなん最終選考まで残したね。経済の問題で仕方なく?
織さんは平然として足を組んだ。
「どうぞご自由に」
「へっ?」
「そっちが言い出してくれてありがたい。そんな対応する人間が副社長じゃ、将来性がないわ。こっちからお断りしたいとこだった」
ははあ。
さては織さん、こうなることを予想してわざとこいつ残してたな。こことの取引やめたかったけど自分の側から言い出すのもまずい、だったら相手が自ら行動を起こすよう仕向けた。
「こっちは新しいツテがあるんで、何の問題もないんでね。アガリアレプトさん、今後はおたくのとこで引き受けてもらえません?」
アガ兄さまがニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、
「喜んで。もちろん引き受けよう。新しい販路も紹介するし、大幅な売り上げ増を約束する」
「いやぁ、助かるっス! ヨロシク~」
握手してニヤニヤ笑う二人。
こわ。
お坊ちゃんは慌てた。
「待っ、待て! 冗談だってば冗談! そうだな、手数料をもう少し上げるなら考え直してやってもいい」
「誰がそんな提案に乗ると? それに全世界に中継されてる公式の場で宣言したんでしょ? 発言に責任持たないとねぇ。あ、そっちから事前通告なしで契約破棄してきたんだから、もちろん違約金も発生しませんよね」
ちゃっかりしてるぅ。
「そんな、ふざけるな! 能無しダサ女のくせに、偉そうに! この……」
怒鳴り散らそうとしたところで電話が鳴った。
どうやら兄の社長と父の会長からだったらしく、めちゃくちゃ怒られてる。
「ふざけてるのはお前だ! そんな場で何をやってる!」
「バカなことを言い出しおって! 面汚しめ! 勘当する! クビだクビ、出ていけ!」
「そ、そんなぁ!」
「女王陛下に土下座して謝るんだ! この大口取引がなくなったらどうなるか。評判も落ちる。下手したらうちは倒産だぞ!」
織女王は艶やかに微笑んだ。
「ああ、謝罪とかいらないっスよ。ただし二度とそちらと取引はしないし、入国禁止の措置を取るんで。連れて行きなさい」
兵士によって泣きわめく金持ちドラ息子は退場させられた。
「フン、愚か者が」
鼻を鳴らすアガ兄さま。
「ねえ。アガ兄さま、取引なくなったらあの商会ヤバイの?」
「一番メインの大口だからな。しかもこの模様を見て契約を打ち切る国や企業も出てくるだろう。なにしろ世界で最も信用度の高いとされた『正義の王の国』との仕事が破棄されたんだ。当然信用度はガタ落ち。遠からず倒産だな」
あたしはアガ兄さまの袖を引っ張った。
「ダメだよ。そんなことしたらたくさんの失業者が出ちゃう。一般の社員に罪はないよ」
「……」
ぽんと頭に手が置かれた。
「リリスは優しいな。分かった、何とかしておいてやる」
「ほんと? ありがと、アガ兄さまっ」
「かわいい妹の頼みだからな」
アガ兄さまはすぐ長男社長と連絡を取り、次男を経営から外すのと何人かの引き抜きを条件に代わりの仕事を回してあげてた。
「これで父さんの危機は回避するだろ。大幅に事業縮小とリストラはせざるをえないだろうが、それくらいは仕方がない。リストラされる従業員はうちで引き受ける。ちょうど人手不足の部署があってな」
「よかったぁ」
「兄妹仲良しっスねー」
織さんは自分の姉に向き直り
「さて。それじゃ、私はそろそろ帰るわ」
「え? もう?」
残念そうに引き留める輝夜ちゃん。
そういえば姉妹が直接会って話せたのは、輝夜ちゃんが国を出てからこれが初めてだ。家出する時はこんなに長くなるとは思ってなかったろうし、そのまま帰国しないのも予想外だったろう。
「こっちもやることいっぱいるじゃん。この場ですぐ王配決めるわけにもいかないし。しばらくは補佐やってもらって、それで最終判断するよ」
「せっかく久しぶりに会えたのに……」
「電話はしょっちゅうしてるじゃん」
「それはそうだけど、二人きりの姉妹だもの」
―――あ……。
そうだ。仲良し兄妹弟でも、結婚すればそれぞれの家庭ができ、別々の道を歩むことになる。
いつまでも一緒にはいられない。
ずっと一緒だった朝食も最近じゃバラバラなことが多くなってきた。スミレちゃんやリリーちゃんが妊娠中だってだけじゃなく、それぞれ生活リズムも変わって来たんだ。
選挙が終わったら公職に就いてる兄たちも辞め、いなくなる。兄弟みんな別々に自分の家へ引っ越していく。その予定だと知っていたけど、あたしはちゃんと分かってなかった。
この時ようやく実感した。
ああ……一人になっちゃうんだ……。
もちろんルシファーは残る。みんな引っ越しちゃっても仕事が別になっても、ちょこちょこ会うとは思う。でも今まで通りじゃない。
『リリス』になってから独りぼっちで、ようやく家族ができて。それからずっと、それが当たり前で、にぎやかで幸せだった。
孤独を知ってるだけにすっごく幸せだったんだ。
だけど。
……ううん。
小さく首を振る。
寂しくたって、引き留めちゃダメだ。それがみんなの幸せだもん。そしてそれはあたしが願ったこと。
愛する人がいて大切な家族がいれば、悪役にはならないと考えたから。
過去がつらかった分、これからは幸せな家庭を築いてほしい。
―――だからその時が来たら、笑顔で送り出さなきゃね。
今、織さんが寂しくても姉に向けてるみたいに。
もうあとほんのわずか二か月でやって来るその時を思い、あたしは決心した。




