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花姫恋奇譚~敵国皇帝の后になりたくない紅き鬼姫は、漆黒の魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

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第36話 新たな同盟の模索

 傭兵の多くが負傷してしまった商団を放っておくわけにもいかず、蓮音(リェンイン)たちは近くの町まで護衛をすることにした。ただの冒険者の集まりだと思っていたら、まさかの彩華(ツァイファ)国の姫と知って商人たちは相当恐縮していた。


 この先の旅の安全を考えると、蒼迅(ツァンシュン)は蓮音が正体を明かしてしまったことが不満だった。


 それにしても、剣護(ジェンフー)と三人の助っ人冒険者は、今までお嬢様だと思っていた人がかの有名な”鬼姫”と知っても、それほど驚いた様子がなかった。


 剣護に至っては、そのことには何も触れずに、


「ね、僕の言った通り、バカだっただろ?」


 などと今までと変わらず、普通に蓮音に話しかけている。


 蒼迅は、「お前が話している相手はお姫様なんだから敬語使えよ」と注意したくなったが、「そういえばこいつはあの魔王軍幹部の獅子将軍相手にもすっげー不遜な態度だったな……」と思い直す。


「バカっていうか、とっても愉快な人だったね。獅子将軍の髪の毛って、本当に鬣みたいにすごいフワフワだったなぁ。ガクのしっぽや耳のようにフワフワなのかなぁ。触ってみたかったなぁ」


 意図せず、豪毅(ハオイー)の命を危険にさらす蓮音。


「あいつの髪は、見た目以上にゴワゴワしていると思うけどな」


 剣護は笑顔で、蓮音の素敵な想像を否定しつつ、「あいつの髪は全部刈り取ろう」と心に誓っていた。


「どうして蓮音姫だってバラしちまったんですか? この先、狙われでもしたらどうするんっすか?」


 蒼迅は蓮音に対して、少し責めるような口調で不満を漏らした。護衛としては当然の言い分ではある。


「狙ってくるって誰が? 獅子将軍たちが? それとも盗賊が? この先はもう無法地帯なんだから、狙ってくる人はわたしが誰だろうと狙ってくる。だったら、盗賊退治に協力してくれている獅子将軍たちと協力しあった方がいいに決まっているでしょ」


「それに、こいつらだって……」


 蒼迅は剣護と助っ人三人組を横目で見る。


「彼らならば大丈夫」


「なんで断言できるんっすか?」


「戦い方をみればわかる。蒼迅はそんなことも分からなくなってしまったの?」


 確かに、助っ人三人組の戦い方は真摯だった。こちらの意図を理解し、それに合わせて懸命に戦っているのが伝わってきた。決して悪い奴らではない。


「じゃあ、あいつは?」


 蒼迅は剣護をチラッと見る。剣護は不敵な笑みを浮かべているものの、いつものように周りを丸め込むような言葉を弄さなかった。


「彼も大丈夫。だって、会った時からもうバレてたから」


 蓮音がサラッと爆弾発言をする。


「は? はああっ?? はぁー……」


 蒼迅は本気で驚いたあと、何かを諦めたようにため息をついた。さすがに、この男に騙され、驚かされることにも慣れてきた。


「わたし、嘘をつくのがド下手みたい」


 蓮音はぺろっと舌を出して軽く笑った。


「はははっ、そうかもね。でも、そのほうがあなたらしくていい」


 剣護もつられるように笑った。


「ところで、町に着いたら炎刃(イェンレン)隊のみんなに相談したいことがあるの」


 蓮音の相談が、盗賊退治に行きたいとかじゃなければいいが……と、蒼迅は強く祈った。


 商団を護衛しながら到着した町は、宿泊地として予定していた場所ではなかったが、このご時世、旅人が数多くいるわけでもないので、幸い宿はガラガラだった。


 蓮音たち炎刃隊は食堂を借りて集まり、念のため話が漏れないようにエリックが防音結界を張った。


 相談があると持ち掛けた蓮音が口火を切った。


「みんなは獅子将軍の話を聞いてどう思った?」


 これは、絶対に盗賊討伐に参加したいとかいう流れになる……と炎刃隊の面子は思った。


「確かに盗賊は放っておけねえ。だけどよ、俺達には帝国に行かなけりゃならねぇんだ。盗賊は獅子将軍たちに任せるしかねえだろう」


「もしや、帝国と盗賊団はグルなのでは? 帝国は兵士を増やしたいわけで、産めよ増やせよという政策を絶賛実施中なわけですが、人手には限りがありますからね。獅子将軍が手を焼くぐらいだから、どう考えてもただの盗賊団ではないでしょう。帝国の後ろ盾があって自由な活動ができているとみるのが妥当でしょう」


 珍しくエリックが、彼らしからぬほどまともな意見を述べた。


「だとしたら、帝国と魔王軍はまた激突しそうだよね。獅子将軍があれだけ大手を振って盗賊討伐をしていたら、盗賊たちの後ろ盾の帝国としても黙っていないのでは?」


 海遠(ハイユェン)もこの先に起きそうなことを分析してみる。


「そうなってくると、帝国に向かうわたくしたちも、両者の戦いに巻き込まれる可能性があるのではないでしょうか……?」


 明鈴(ミンリン)が心配そうにしている。


「うん、わたしもそう思っている。でね、今日獅子将軍に会って考えたんだけど、魔王軍と同盟というか、共闘というか、せめて不可侵条約を結べないかなって」


 一同は蓮音の一歩先を行った発想に驚いて言葉を失った。


「ですが、それうなってくるとさすがに我々だけでは判断できないかと」


 またしてもエリックがまともな反応をする。


「うん、だから、もし、皆が反対しないのであれば、わたしが本国に連絡を取って、伯栄(ブォロン)たちにこのことの可否を判断してもらおうかと。皆はどう思う?」


「俺は、獅子将軍は悪い奴じゃねえと思う」


 むしろ、泣く子も黙る魔王軍の将軍なのに、なぜか商人の李益(リーイー)ごときにいいようにやられているところあたり、すげーかわいいというのが蒼迅の偽らざる評価だ。


「しししょうぐん、わるいにおい、しない」


 ガクも本能で、豪毅(ハオイー)のことを気に入ったらしい。


香隠(シァンイン)はどう思う?」


 今日はあまり意見を述べていない香隠に蓮音が尋ねた。


「正直、わからない。あいつからは嫌な感じはしないが、ほかの魔王軍の実態が分からない以上、わたしにはうかつな判断はできない」


「絶対に反対だという意見はある? 万梅(ワンメイ)はどう?」


「絶対に反対というわけではないですが、香隠様の言うようにもう少し情報が欲しいですね。なんせ開王国が滅ぼされて以降の開国の実情を知っているものは我が国には誰もいないわけですから」


「李公子はどの程度、今の開国のことを知っているのかしら。獅子将軍との関係を考えると、ただの商人というよりは、開国でも実はかなり身分のある人のような気がするのだけど……」


「あいつは信用ならねえ」


 蒼迅が断言する。


「そう? でも、獅子将軍についての情報には嘘はなさそうだったけど」


 蓮音の言葉を聞いて、自らバカ宣言をして去っていった将軍の姿を思い出すと、なんというか苦笑いするしかなかった。


 蓮音はエリックに頼み、本国との魔法通話をつないでもらい、これまでの経緯を説明した。伯栄たちは驚きつつも、検討するとのことだった。


 夕食は炎刃隊だけでなく、剣護や助っ人三人組も一緒にとった。蓮音は思い切って剣護に尋ねてみる。


「李公子、あなたに聞いてもらいたい話があるのだけど」


「うん? どんな話?」


「実はわたしたち、開国と友好関係を結べないかと考えているの」


 その言葉を聞いて、剣護は明らかに驚いていた。


「あなたって人は本当に凄いな。魔王と友好関係を築きたいなんて、常人には思いつかない発想だよ」


 まさか、蓮音の方からこんなに早く開国に興味を持ってくれるなんて。そう思うと剣護はうれしかった。だからといって、自分がその魔王であると明かしていないこの状態で、「そういうことであれば、ぜひ!」と手を取るわけにもいかない。


「あなたは開国とも魔王軍とも関わりがあるでしょ。だから開国側から見て、この話に価値があるのか知りたくて。どう思う?」


「当然、価値はあるよ。開国としても、帝国と五か国同盟が手を組むのは見過ごせない。南や東からの敵の侵入にも備えないといけなくなるのは厄介だ」


 剣護の話しは一般論としてはもっともではある。ただ、開国はなんといっても魔王が治める国だ。大陸東側最強の国と言っても過言ではない。その国にとって、帝国に目を付けられている彩華国と組むメリットが本当にあるのだろうか。何を手土産にしたら、魔王を説得することができるのだろうか。


「魔王閣下に直接お会いすることはできないかしら?」


 蓮音が世にも恐ろしいことをつぶやくものだから、当然のように蒼迅が反対する。


「姫さん、何言ってるんっすか!? さすがに危なすぎだ!」


 蒼迅に言わせれば、魔王はただの冷酷で粗暴な男ではない、世間を揺るがすほどの女好きなのだから。


「娘々は魔王が怖くないの?」


「怖がらないとダメかな?」


 蓮音は笑っていた。きっと魔王が魔王であるという事実だけをもって恐れる気持ちが本当にないのだろう。


 本当の姿で蓮音に会うのが怖いのは、むしろ自分の方だ。だけど、いつまでも”李公子”でいるわけにもいかない。


(俺が惚れた姫君は、何とも肝の座った人だろうか)


「豪毅ともこんなところで偶然、遭遇したんだ。機会があれば、そのうちに会えるかもしれないね」


 今の剣護には、そう答えることが精一杯だった。

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