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花姫恋奇譚~敵国皇帝の后になりたくない紅き鬼姫は、漆黒の魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

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第28話 一日隊長と一日お嬢様



 蒼迅(ツァンシュン)は、明鈴(ミンリン)とエリックとともにしぶしぶ馬車に乗り込んだ。馬車の中に座りながら外の様子を伺うと、妙に楽しそうなしゃべり声、笑い声が聞こえてくる。蒼迅は、その声を耳にして、疎外感を覚えていた。


 一方の蓮音(リェンイン)は、颯爽と馬に跨ると、隊員たちに次々と声をかけていった。


「ガク、さっきも言ったように、魔物の気配を感じたら、少し遠くても全部教えて! 倒しに行こう!」


「わかった、ガク、いっぱい、みつける!」


 ガクが耳をピクピクさせ、尻尾を振りながら嬉しそうに答える。


「偉い、偉い。あと、海遠(ハイユェン)、あなたもそこから戦闘に参加して。ちゃんと弓を用意しておくこと!」


「隊長、承知です」


 海遠も、弓をかざして、用意万端であることを知らせた。


「個別に戦うのもいいけれども、せっかくだから確実に大量に、だけど相手の特徴に合わせて最小限の力で仕留めていきましょう」


 蓮音の言葉を受けて、外にいた面々は力強く頷いた。


 しばらくすると、剣護(ジェンフー)が馬を横に付けて話しかけてきた。


「娘々、楽しそうだね。ところで、どうしてあいつに勝負を持ちかけたの?」


「ああ、それね。昨日、蒼迅のことをどうしたらいいのかみんなに相談したら、明鈴が『優しくしてあげて』って言うから。で、蒼迅が喜ぶことって何だろうと考えたらこれかなって」


 蓮音は大真面目に答えた。が、周りからは意外な反応が返ってくる。


 この会話を耳にしてしまった海遠が、蓮音の後方で思いっきり噴き出す。「まさか、あれは優しくしてあげた結果なのか!」と言わんばかりに。


 よく見ると香隠(シァンイン)も、顔を背けながら、笑いをこらえているように肩を震わせている。


「あはははっ、いや~、さすがは隊長です! 期待を遥かに超えた行動をとってくださるとは! 蒼迅お嬢様にもきっとお気持ち届いていますよ~。きゃははははっ」


 万梅(ワンメイ)も笑いながら、たぶん……褒めてくれた。


 ガクだけは何が起こっているのかわからないといった様子で、しばらくは首を傾げていたが、笑う仲間をみて、「あはははっ」と一緒になって笑い出した。


 蓮音は何がそんなにおかしいのかと疑問に思ったものの、みんなが笑ってくれて、なんだか自分も愉快になって一緒に声を出して笑った。


 こうして仲間たちとワイワイ話しながら馬に乗っていると、肌に感じる風がとても心地よかった。


 目の前に飛び込んでくる、神雲(シェンユン)国の幽玄でどこか神秘的な風景も相まって、蓮音は今日一日の冒険に胸を躍らせていた。


「あっち、うし4、むこう、いく」


 そんな和やかな会話をしていると、早くもガクが、平原を移動している一角牛を4頭みつける。


「ガク、そいつらは遠い、普通、近い?」


「ふつう」


「万梅、一角牛の攻撃方法と弱点は?」


「一角牛は、突撃力があって、額の角が最大の武器です。多くの者は最初の一撃で致命傷を受けます。逆に言うと、その攻撃さえかわして、接近しすぎずに戦えば、相手の攻撃は単調なのでそれほど怖くありません」


「うん、じゃあ、あなたならばこの面子でどう戦う?」


「そうですね、まずはできるだけ遠距離攻撃で相手の突撃力を弱めて、隙をついて左右、後ろから攻撃したいです」


「了解。じゃあ、わたしがまず一角牛の正面から、相手の速度を殺す呪文をかける。万梅と海遠は、側面から弓で攻撃して、四頭の集団を散らして。ガクとわたしで敵をかく乱するから、その隙に、李公子と香隠は敵の後ろに回り背後から攻撃して仕留める。これで行きましょう。みんな、いい?」


 一同はうなずき、それぞれ作戦の準備に入った。


 正直、この中で一角牛と互角以上に戦うことができないのは万梅ぐらいだった。


 だが、蓮音はわざわざ作戦を立てて、みんなにその指示通りに戦うように命令を出した。この先もっと強い敵に遭遇した際の備えと、さらにその先のことを考え、お互いの長所を生かして協力しあう戦い方を、もう一度みんなに叩き込んでおきたかったからだ。


 作戦は見事に成功して、誰一人傷を負うこともなく、まさに各自の最小限の力によって魔物を倒すことができた。


 蓮音は、その後も魔物を見つけるたびに同じように万梅と作戦を考え、全員に指示をだした。昨日よりもずっと大量の魔物を相手にしたが、それでも誰一人傷つくことなく、体力も魔力も温存しながら効率よく戦うことができた。


 一方、馬車の中は、結構悲惨だった。大丈夫だろうと思いつつも、蓮音がケガでもしたらと思うととにかく蒼迅は落ち着かなかった。そのうえ、エリックは、その存在も話す内容もマニアック過ぎて会話にならない。


 明鈴は明鈴でお上品すぎて居心地が悪い。座っている姿勢を崩そうものなら、明鈴がまるで咎めるように咳ばらいをしたり、何か言いたそうにじーっと見つめたりしてくるのだ。


 馬車の壁には、蓮音が取り付けた花瓶が飾ってあって、そこには剣護が蓮音に贈った花が挿してあった。


(姫さんが外に出たがった理由も、わからなくねえな……)


 この味気ない空間で、あの男が毎日のように贈っている鮮やかな花の存在が、まぶしいぐらい際立っていた。


 しばらくすると、落ち着かなさそうな様子の蒼迅を見て、明鈴が話しかけてきた。


「隊長、ではなくてお嬢様。お嬢様は、このまま隊長のお心が李公子に向かってしまってもよろしいのですか?」


「……いいわけねえだろう」


「李公子は、人の心をつかむのがとてもお上手です。隊長が求めていること、喜ぶことを先読みして、叶えて差し上げています。ですので、まだ一緒に過ごした時間は少ないですが、隊長の信頼が厚いのですよ」


「んなことは俺でもわかってる」


「わかっていらっしゃるのであれば結構ですわ。わたくしたちは隊長のお気持ちが一番だと思っております。ですが、お嬢様のことも応援しているのですよ。どうか、負けないでくださいませ」


 エリックは、蒼迅も明鈴も魔道具の話にまるで乗ってきてくれないものだから、暇そうにしていたが、二人の会話を聞いて、急に、危なすぎる提案をしてきた。


「もしや、蒼迅殿は姫様に惚れているのですか!? では、惚れ薬を試してみませんか? これは数滴飲んだだけで、まるで恋をしているかのように体が熱くなって、そりゃあもう、冷静な判断なんてこれっぽっちもできなくなるという秘薬なのです! 多くの場合は目の前にいる相手に惚れて、溺れるように相手を求めてしまうのですよ!」


「な、な、な、なんですの、それはーっっ」


 明鈴は興味津々であったが、蒼迅はさすがに拒否する。


「バ、バカかっ! お前は! そんな危ねえもん、姫さんに使えるかよっ!!」


「まあまあそう言わずに。一度試してみたらどうでしょう? ワンナイトラブというか、体の相性が良好であったことから、一夜限りの関係が大恋愛に発展するという話も聞かなくはないですし。あっ、持続時間を長くする薬もご入用ですか!?」


「いらねえし!」


「では、使ってみたら是非とも感想を!」


「だから、使わねえし!」


 そんな問答をしていたら、明鈴が顔を真っ赤にして、何か言いたそうに口をパクパクさせている。


「あの、あの、あの、それ、隊長がいらないというのであれば、わたくしがいただいてもよろしいでしょうかーーー!?」


 いつ、どこで、誰に使うつもりなのか、この状況下で明鈴に惚れ薬を渡すのはあまりにも危険すぎる。


 というのも、明鈴は、ありがた迷惑なぐらい、やたら姫とくっつけようとしてくるのだから。それに、休憩中にお茶を用意するのは、ほとんど彼女なわけだ。自分に対しても姫さんに対しても、使おうと思えばいつでも使えてしまう。それはさすがにいけんだろうと、蒼迅は薬を受け取ると自らの収納袋に収めた。


 こういう危なっかしいモノは、他人に使用の可否をゆだねるのではなく、自分の手の中に置いておくのが一番安全なのだ。


 蓮音が提案した、隊長とお嬢様を一日交替する案は想定以上に当たりだった気がする。


 蓮音は気分転換ができたし、炎刃(イェンレン)隊の戦闘部隊も、久しぶりに戦術に沿って戦うことができた。


 心配ばかりだった蒼迅も、少しは蓮音の気持ちが理解できたからだ。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

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