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漆黒の魔王は紅き花姫を愛でる~敵国皇帝の后になりたくない鬼姫は、魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

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第21話 開国幹部会議

 蓮音(リェンイン)と別れた剣護(ジェンフー)は開国に戻り、幹部たちを招集した。


 獅子将軍の名でも知られる軍事の長の豪毅(ハオイー)、諜報部員を束ねるの影月(インユェ)のほか、内政府の長の李誠正(リーチョンヂョン)、女官の管理役の張英姫(ヂャンインヂェン)、商業や交易担当のサイード、職人ギルド長で芳寿工房主のビルドの六名である。


 李誠正と張英姫はそれぞれ元開王国の官僚と女官だった。開王国の女官は、いわば王族や閣僚の秘書官的な立場で、才色兼備な女性しかなれないことで有名だった。当然、英姫もスラっと背の高い知的な正統派美人で、ここに集まった幹部の多くは、英姫を手に入れたいと密かに思っていた。ただ、英姫自身が魔王に好意を持っているのが一目瞭然なため、誰も手を出せずにいる。


 サイードは中央諸国出身の行商人で、ビルドも同じく中央諸国出身でドワーフ族だった。剣護が蓮音に最初に贈った(かんざし)はビルドの工房で作られたものだった。


 六人が待ち構えていると、転移術を使って剣護が自分の席の前に(かぐわ)しい花の芳香をまとい現れ、腰を掛けた。六名は一斉に立ち上がり、口々に挨拶する。


 英姫が香りに気が付き「まあ、主様、とても(うるわ)しい香りですこと」と褒めてきた。剣護はさきほど蓮音にもらったばかりの香嚢(こうのう)を帯にぶら下げていたのだが、英姫はすかさずその香りに気が付いたのだ。


 剣護は幹部たちの前で怒り以外の感情を見せることは稀だったが、香嚢(こうのう)を手に取って、匂いを嗅ぐと「ああ、そうだな」と言って満足そうに口元を緩ませ、じっと眺めていた。幹部たちは、「あの主殿が嬉しそうに笑っている!?」と驚いた。


 剣護に一番近い席に座っていた豪毅はその香嚢がはっきりと目に入ってしまった。


「なんですか、その不細工な袋は?」


 良く言うと実直、悪く言うと脳筋な彼は、思わず本音を漏らしてしまった。とたん、部屋には剣護の殺気が立ち込める。


 影月が「ああ、あいつ死んだな」と思う。


「子どもからの贈り物ですかな。主殿は子どもたちにも人気ですからな」


 フォローしようとしてビルドが更なる地雷を踏んでしまい、部屋の空気が息ができないほどに重たくなる。


「何を言っているのですか、みなさん。あれはどうみても女性からの贈り物でしょう! われらが主殿が女性からの贈り物を身につけるとは、なんともめでたいではないですか!」と、古今東西の文化に詳しく饒舌なサイードが商人の本領を発揮する。


 部屋中に満ちていた剣護の殺気が一気になくなるとともに、サイード以外の幹部は、「ええっ!?」と驚きの声を上げた。


 帝国軍を殲滅(せんめつ)した彼が開王国の女官たちを全員自分の城に連れ去ったことから、剣護の世間での評価は”女好きの絶倫魔王”だった。名だたる美女たちを独り占めしているとして多くの男たちの恨みを買っているが、実際にはその真逆で彼自身はどんな美人にも興味を示してこなかった。女官である英姫たちを帝国から助け出し、連れ帰ったのも彼女たちであれば蓮音の従姉のことを知っているかもしれないと思ったからである。


(相手は一体何処(どこ)の誰だ? というかいつの間に? 主殿は彩華の偵察に行っていたのではなかったのか?)


 剣護はサイードの言葉に否定も肯定もしなかったが、誰の目に見ても機嫌が直ったことだけはわかった。


「さて、彩華国と帝国の件だが、誠正」

「はっ、主殿。では、私から現時点で把握できている情報と今後の方針についてご説明させていただきます」


 剣護は誠正に予め事の次第を伝え、今後の方策とともに説明するように命じていたのだ。


「……といった具合で、我々としては、帝国に先んじて彩華国と共闘関係を築くべきかと。皆の意見は?」


 誠正の説明を聞いて、最初に口を開いたのは影月だった。


「すべて承知した。では、われわれの部隊は帝国に潜入して、人質に関する情報を集めるとしよう」

「俺も彩華国との連携は有効だと思う。練兵を強化しつつ、神雲国と旧南黄帝国の魔物や賊どもの監視をこのまま続けるってことでいいのか?」


 豪毅も自分の意見を述べた。次に続いたのは英姫だった。


「私も同意見でございます。先代の王妃様は彩華の出身でしたし、かの国と開王国は長年深いつながりがありましたから。私も姫君との交渉の際にお役に立てることがあると思いますので、主様、何なりとお申し付けください」

「これって英姫殿の手を煩わせるような問題か? 主殿がちょっと口説けば鬼姫()()()、簡単に落とせるだろ?」


 豪毅は、鬼姫とたおやかな英姫が同席しようものならば、英姫が恐ろしい目にあわされると心配しての発言だったが、この場においてはこれ以上にない地雷であった。


(さっき、主殿に想い人ができたのではという話をしたばかりなのに、ただでさえ女に興味のない主殿に不細工姫を口説けとは……こいつ、まじで死んだな)


 影月が思っている横で剣護が盛大にため息をつき、豪毅を見ることなく言い放った。


「豪毅よ。貴様、そんなに死にたいのか?」

「えっ、いえっ、死にたくありません!! 主殿、申し訳ございませんでした!!! 不肖(ふしょう)(しもべ)をどうかお許しくださいませ!!!」


 正直、豪毅は剣護が何に怒ったのか全くわからなかったが、こういうときはとにかく謝るに限るのだ。


 幸い、今剣護はかつてないほど機嫌がいいのだ。「仕方のない奴め」とだけ言って、それ以上豪毅を責めはしなかった。


 これは、本当に主殿に春が訪れたのでは……! と幹部たちは思った。


 剣護は、英姫、サイード、ビルドには引き続き女性用の服や装飾品などの贈り物を用意するように命じて部屋を後にした。主殿はこれらの進物を誰に贈っているのだろうか、彩華の鬼姫に? それとも彼が懸想(けそう)しているであろう香嚢(こうのう)の君に?

 

 皆、ものすごく知りたいとも思ったが、さすがに剣護に恐れをなしてそれを口にすることはなかった。

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