第525話 シェアワード
嵐のように吹き荒ぶ【ボウフウ】の矢を前にして、ボクは逡巡する。ボクだけなら避けきれるかもしれないが、メグさんとゴブ蔵が避けきれる保証はない。それなら――。
ボクは【帝神の加護】を起動し、即座にスキルをカスタマイズする。対象は【フルバーニング】。消費HPを増やし、詠唱時間を大幅に短縮した。代わりに【エレウテリア】のカスタマイズは解除されるが、今はこれが最適だ。
「【フルバーニング】!」
前へ強く踏み込み、自身を起点に爆発を起こす。それだけで【ボウフウ】の矢のほとんどは弾き飛ばされる。一部には相殺判定への抵抗力があったのか、無傷の矢も残った。だが、これでやりやすくなった。
向かい来る未鑑定の矢を紙一重で避けつつ、【《イグニッション》】を起動し、光の速度でアクエリアスさんに迫る。するとモモさんが歌いながらも立ち塞がるように割り込んできた。アクエリアスさんは巧みに矢を操ってモモさんを避けつつ、ボクへの攻撃に絞ってくる。
「【フリーコマンド:ファストコマンド】!」
その瞬間、後方のゴブ蔵から支援が飛んでくる。【パーティストレージ】に入っていた【将軍の旗槍】の効果だ。これにより瞬間的にAGIが底上げされ、モーションスピードが一気に跳ね上がる。
「当たりませんよ!」
ボクは立ち塞がるモモさんを無視し、むしろぶつかりにいく勢いで加速する。【『アイテール』】により空を連続で蹴り、さらに速度を引き上げ――〈トンネル避け〉でモモさんをすり抜ける。その勢いのままアクエリアスさんに杖を叩きつけた。
「【ソウルフレア】!」
次の瞬間、白銀の炎がアクエリアスさんを包み、彼女のHPを『1』まで削り落とす。同時に【アンプルアロー】を起爆させたが、全損には至らず。
もはや現環境では初撃に耐えるのも当然だ。反撃を受ける前に即座に«テレポート»でメグさんのもとへ帰還する。
改めて敵を見ると、瀕死のアクエリアスさんのHPが急速に回復していくのが見て取れる。継続回復系の受動を持っているのかもしれない。だが、それ以上にモモさんの【バード】スキルを疑うべきだろう。確か、詠唱中に継続回復を付与するスキルがあったはずだ。
【コン・アニマ】
[パッシブ][詠唱中]
効果:[詠唱中]、[聴覚]を[条件]として[キャラクター]の[HP]を[継続的]に[回復]する。
「やるじゃない。でも――うちのアクエリアスを甘く見るんじゃないわよ?」
アクエリアスさんは変わらず【ボウフウ】を射出し続ける。再びボクたちのもとに無数の矢が飛んでくるが――。
メグさんの展開した【〈パウダーホーム〉】がそのすべてを撃ち落としていく。
「そっちこそ舐めんじゃないのです。手数の暴力は二番煎じを通り越して、ただの出涸らしなのです!」
そう口火を切り、彼女は斧を振り下ろす。その瞬間、世界が割れるかと思うほどの衝撃が叩き出された。
「ひっ……」
「な、なによこれ!」
ボクたちにとっては、つい先ほど教わったばかりの技術――〈武器正拳〉だ。新しいフォルダさんのそれは世界全体に伝播する衝撃だったが、メグさんのそれは«五月雨飛ばし»を併用することで、前方へ指向性を持たせた攻撃になっている。
さすがにたまらず、アクエリアスさんは【ボウフウ】をキャンセルし、«テレポート»で大きく横へ避ける。モモさんも【追撃のカノン】を中断し、衝撃波をすり抜けるように«テレポート»で前へ出た――ところをゴブ蔵の【ショットダウン】に狙撃され、地面に叩きつけられる。
その隙を見逃すはずもない。【フェアリーストームワンド】から放たれた【ゲールウィンド】が刹那にも満たないうちにモモさんとの距離を詰め、【シルフストーム】となって広がり、炸裂する。
「くぅっ……!」
モモさんのHPが『1』になった。まだ隙を晒すなら、【アンプルアロー】でも叩き込んでやろうと思ったが、さすがにそこまでの猶予はなかった。モモさんは再び«テレポート»し、アクエリアスさんの横に移動する。同時に【オートユーザー】でHPを全回復させた。
「卍さん、モモさんは――」
「えぇ。衣装からして炎属性のELMが高そうですからね。風属性で攻めていきます」
短いやり取りの間にメグさんのステータスを確認したが、どうやら妨害はすべて解除されたようだ。これで安心ですね。
続けてボクは【フェアリールビーロッド】の妖精さんに指示を出し、相手のもとへ向かわせる。
「舐めんじゃないわよ!【《地底》のソナタ】!」
モモさんは詠唱を踏み倒し、スキルの発動を宣言する。その瞬間、二人の気配が一変した。
【地底のソナタ】
[アクティブ][聴覚][詠唱中][支援][魔法][演奏]
消費MP:6 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s 効果時間:30s
効果:
[詠唱中]:[詠唱中][パッシブ]の[出力]を[増加]させる。[接地]している[キャラクター]に対して[出力]をさらに[増加]させる。
[詠唱後]:[あらゆる][ステータス]を[大幅]に[増加]させる。
スキルが発動したその瞬間、アクエリアスさんの気弱な様子は完全に消え失せ、彼女は【アームズスイッチ】で武器を手元に呼び寄せる。
擬似的な意識の切り替え――彼女たちにとって、あのスキルは共通認識の〈魂の言葉〉なんだ。
次の瞬間にはアクエリアスさんが目の前に迫る。
テクニックその151『シェアワード』
強い意志の込められた〈魂の言葉〉を共有することで、複数人で同時に起動することができるようです。ある種の暗示的なワード、ルーティーンのようなものを他者に委ねるようなイメージですね。
魂の言葉その14 『地底』
【地底のソナタ】というスキル名の《地底》という部分が〈魂の言葉〉になっているようです。《運命変転》のような暗示系と〈ロールプレイング〉を複合させたような〈魂の言葉〉のようで、使用者に高揚感をもたらして積極的な行動をアシストするみたいですね。




