第521話 復活は負けフラグ
新しいフォルダさんを燃やし尽くし、猫ですさんへ視線を向けた瞬間、眼前に凍てつく鉛玉が迫っていた。
「おっと」
思わず床を蹴り、続けざまに空を蹴ってかわすと、猫ですさんが呟く。
「――【『アイテール』】、かなり厄介ですにゃん」
猫ですさんの見立て通り、ここまでボクがあらゆる攻撃を避け続けてこられたのは、【『アイテール』】のおかげだ。
このゲームの【モーションアシスト】は、無限の自由度を持つ【『アイテール』】の奇襲性に対応できない。能動スキルではなく受動スキルであるがゆえに発動の予兆が存在せず、ときにはシステムすら上回って行動を上書きする。その性質ゆえ、考慮に入れた時点で導き出される最適解自体が歪んでしまうのだ。
ボクが砲弾を躱したのと同時にメグさんが床を蹴って駆け出す。刹那のうちに猫ですさんを間合いに捉え、大斧を振り下ろす。
「«九字斬り»!」
一瞬で縦に4本、横に5本の斬撃が走り、猫ですさんを襲う。猫ですさんは大きくHPを削られながらもなお耐え、余裕をもってバックステッポで後方へ退く。
「ずいぶんと硬いのです。【アイテムマスター】/【ガンナー】じゃないのです?」
猫ですさんは【オートユーザー】でHPを回復しつつ答える。
「最新作の【タブレット】の力ですにゃん!」
そう言って【アームズスイッチ】で手元に銃を呼び出し、床を目がけて撃ち放つ。
「【ソウルリペア】!」
弾が床に命中した瞬間、粒子が収束し――新しいフォルダさんの身体が再形成された。
【ソウルリペア】
[アクティブ][投射][聖属性][蘇生][魔法][条件:命神の加護/取得]
消費MP:12 詠唱時間:20s 再詠唱待機時間:5m
効果:[キャラクター]を[蘇生]させる。
「……仕切り直しですか」
【シングル杯】とは違って、これがあるぶん【ダブル杯】は怖い。対戦で相手に蘇生を切られたのは初めてだが、単にボクの対戦経験が少ないだけだろう。隙を見て通せるなら極めて有効なカードだ。
本来なら20秒の詠唱時間を確保するのは難しいが、【ファストスペル】のような踏み倒しがあれば、単発で通すだけなら極めて容易だ。【アイテムマスター】の猫ですさんならそうした特殊なアイテムを持っていて当然だ。
【ファストスペル】
[アクティブ][自身][支援][奥義][魔法]
消費MP:0 詠唱時間:0s 再詠唱時間:6h
効果:[自身]が次に[発動]させる[詠唱時間][30s]以下の[魔法]の[詠唱時間]を[0s]にする。
「助かったよ、礼を言う」
「次は当てられますにゃん?」
「からくりは割れてる。やってやるさ」
そんな二人を見据えながら、ゴブ蔵が動く。
「【スロウアイ】!」
それは【メイジ】が持つ強力な『魔眼』。あらゆるアクションの詠唱時間を引き延ばす遅延の術だ。
妨害に対する対策を積んでいる新しいフォルダさんへの適用は期待できないが、猫ですさんの応用力を削ぐことはできる。
その発動に合わせ、ボクは【パーティストレージ】からアイテムを取り出す。メグさんは――斧を投げた。
「«メガトンスローイング»!」
圧倒的な膂力と再現されたAGIによって放たれた大質量の大斧は回転しながらも狙い違わず猫ですさんを目がけて宙を駆ける。
すかさず新しいフォルダさんが割って入り、その軌道上に立ちふさがる。瞬間的な耐久強化に長ける猫ですさんだが、詠唱時間が増加しているこの状況には対応できない。そう判断しての割り込み――。
だが、受け止めるべきではありませんでしたね。ボクは【ストレージ】から取り出した旗を振り、スキルを宣言する。
「【フリーコマンド:アタックコマンド】!」
【将軍の旗槍】の効果によって宙を飛ぶ大斧の火力が増加し、計算がすべて狂いだす。
【アタックコマンド】
[アクティブ][キャラクター][支援][コマンド]
消費MP:8 詠唱時間:0s 再詠唱時間:45s 効果時間:3s
効果:[自身][以外]の[キャラクター]の[STR]を[増加]させる。
「ガードジャス――うぉお!?」
【ガードジャスト】が発動するよりも早く、大斧は新しいフォルダさんに命中し、そのHPを大きく削り取る。さすがに全損には至らなかったが、かなりの痛手を負わせた。
投擲した武器の速度はSTRとAGIで決まる。手を離れた後でもその理屈は変わらない。〈アクティブスローイング〉による奇襲が完璧に決まり、新しいフォルダさんはたまらずたたらを踏んだ。
「生き返らせたばかりで落ちるのはやめてくださいにゃん!」
猫ですさんがポーションを取り出しかけるが、詠唱時間の遅延でわずかに一手が足りない。
「«ソーラーレイ»なのです!」
瞬時に放たれた光線が新しいフォルダさんの残ったHPを再び削り取った。
テクニックその150『空神避け』
【『アイテール』】はその性質が受動であるため、本質的には予備動作が存在しません。【エアジャンプ】と同じように空を蹴るという動作は存在しているように見えるかも知れませんが、その動作をありとあらゆる状況下で起動できるというのがポイントです。
通常なら【モーションアシスト】は「このタイミングではエアジャンプを起動できない」「【マクロ】の発動中だから移動できない」といった前提条件を暗黙のうちに読み込んで最適解を導き出すわけですが、【『アイテール』】はあらゆるタイミングで発動可能であるため、考慮に含めるのが著しく難しい。この対【モーションアシスト】の性質を利用して攻撃を回避するのが〈空神避け〉です。
マクロその21 『九字斬り』
一瞬のうちに格子状に9つの斬撃を生成する【マクロ】です。
«五月雨突き»よりも攻撃範囲が広く、汎用性が高い攻撃ですね。
マクロその22 『メガトンスローイング』
極められたAGIによって全速力で武器を投擲する【マクロ】です。〘リアルステーション〙特有の現象である関節の構造を無視した360度の回転により最高率のフォームで放たれます。




