第43話 ホームタクティクス
「このわたくし、✝聖天使猫姫✝はあなたに宣戦布告しに参りましたのっ!」
「宣戦布告ですか?大会で?」
「そう!わたくしたちの【パーティ】があなたを叩き潰して差し上げますわ。せいぜい首を洗って待っていなさい!」
「わかりました。【ストレージ】の中にお風呂があるので、洗っておきますね」
「わかればよろしいですわ。ではごきげんよう」
そう言って去っていく猫姫さん。冗談だったのに納得されてしまった。
「【黄金の才】持ちの戦いは気になるな。後で試合はチェックしておこう」
「そうですね。現在の環境を担う【空神の加護】をフル活用できるプレイヤーです。間違いなく手強いですよ」
【加護】自体はあらゆるプレイヤーに出回ってしまっているが、結局のところ【『アイテール』】であらゆるプレイヤーの上を取れる以上、弱点にはなり得ない。
【メテオ】ならばさらにその上から攻撃を落とすこともできるだろうが、それでも現環境の頂点に立つプレイヤーであることに変わりはないだろう。他の【黄金の才】持ちでも出ない限りは順当に勝ち上がってくるはずだ。
そんな考察をしていると、試合開始5分前を告げるメッセージがボクの前に表示された。きっとゆうたさんの前にも現れていることだろう。
「ま、まずは自分たちが勝つことからですね」
5分後、ボクたちは競技エリアに自動的に転送された。その向かい側には対戦相手が立っている。
1人は短剣を携えた軽量型の前衛。職業としては【アサシン】といったところだろう。
そしてもう1人は素手だ。武器を持っていない職業といえば【モンク】だが、最近は、武器を持たない他職業のプレイヤーもわりといるので何とも言えないか。
他に特筆するべき点としては、推定【モンク】のプレイヤーは柔道着を着ており、拳のようなマークの刺繍が施されている。また、推定【アサシン】のプレイヤーの短剣には疑問符が刻印されているといったところか。
〈装備推察〉の視点から言えば、前者のプレイヤーは素手に関わる性能の装備を身に着けているということがわかる。
後者に関しては情報が秘匿されているが、それでもわかることはある。あの短剣には最低2つの能力が付与されているということだ。
それでも、ボクたちはあえて情報を考慮しない。
なぜなら自分たちのやりたいことを無理やり押し通して相手を圧殺する。それこそが勝利への道だから!
【START!!】
戦いの始まりがシステムによって告げられる。それと同時に対戦相手2人は勢いよくこちらへ向かって駆けてくる。
しかしボクは慌てず騒がず冷静に【ストレージ】を開く。アイテム一覧を見るといまだに漆黒の翼さんたちが入ってるのだけど、これを出したら失格なのだろうか?
とはいえ目的のアイテムは漆黒の翼さんではない。選択画面からあるアイテムを選択し、それを足元から引き抜く。
そして地面から、にょきにょきと家がせり上がる。正確には、それは【ストレージ】から取り出されていく。それによって地面の上にいたボクたちは瞬時に対戦相手の上を取った。
あまりの異常事態に呆然としている【モンク】へ、ゆうたさんが槍を投擲する。我に返った【モンク】は回避を試みるが、槍は追尾して軌道を変え、そのまま命中する。
槍が命中したプレイヤーは、不思議な力に引かれるようにうつ伏せへと倒れる。そこにボクの【ブレイズスロアー】が追撃を加えた。
一方、【アサシン】は相方の被害を意にも介さず、高く高く跳躍し、屋根に登ってくる。そしてゆうたさんには目もくれず、一目散にボクを狙う。
何があろうとも近接戦闘を不得手とする【メイジ】を狙うのは基本中の基本だ。たとえ盾役に防がれることが読めていたとしても、そこでリソースを1つ切らせることができる。当たり前の話だ。
——とはいえ、あくまでそれは基本の話。わざわざボクの得意な『近接対応』に合わせてくれるとは。後悔させてあげましょう!
襲われているボクのことなんか気にもせず、ゆうたさんは屋根から【エアジャンプ】で飛び出し、【モンク】に襲撃を仕掛ける。あちらはあちらでなんとかしてくれるでしょう。
「【デッドリーポイズン】!」
【アサシン】が短剣に毒を纏わせて鋭く刺突を行うが、ボクの柔肌はその短剣をいとも容易く弾き返してしまう。
まったく、炎で来るとは度胸ありますね?【ファイアエンチャント】で属性を付与したのはボクですけど!
予想外の衝撃に姿勢を崩す【アサシン】に杖を叩きつけ【ソウルフレア】をぶち込んで——。
その瞬間、【アサシン】がふっと視界から消滅し、代わりに【モンク】がボクの前に現れた。
そしてその【モンク】が身に着けている装備は試合開始前の柔道着ではなく、真っ赤な布製の服だった。
やられた!【シフトチェンジ】だ!【パーティ】メンバーと位置取りを交換したのか!
てっきりボクのことは知らないのかと思っていたけれど、ブラフだったのか。このまま【ソウルフレア】を撃つわけにはいかない。即座にゆうたさんにメッセージを送信する。
その間に【モンク】が鋭い【正拳突き】をボクに浴びせようとするが、ゆうたさんが瞬時にボクの隣に出現し、間に割り込んだ。
【ナイト】であるゆうたさんには本来ならば瞬間的な移動のスキルは存在しない。これは【自宅】システムに付随する基本機能【ホームリターン】だ。以前お店で説明してもらったときから便利そうだとは思っていたけど、ここまでハマってくれるとは!
「【アームズスイッチ】」
「【ソウルフレア】!」
そしてゆうたさんが装備を変更すると同時に背後から思い切り【ソウルフレア】をぶち当てる!
ボクが放った【ソウルフレア】は極太のレーザーに変換され、【モンク】を貫いた。
〈カウンターコンバージョン〉によって変換された魔法は、ただ威力が高いだけの無属性攻撃!いくら炎属性に対する対策を取っていようと無駄なこと!
HPをすべて失い、【モンク】は倒れる——。即座に【フラムブレッド】で追撃を加えておく。【パインサラダ】だったら困るしね。
こうして人数差の優位を得て、2対1の構図となったこの戦い。もはや負ける要素はなかった。
『ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍&ゆうた LOSE:メシアの殺し屋&メイ・ガス』
テクニックその33 『ホームタクティクス』
自宅を所有しているプレイヤーは【ホームリターン】というシステムによっていつでも自宅に帰還することができます。この機能に回数制限は無く、同棲設定をすれば誰でも利用可能。さらに家の高度差を利用して【空神の加護】を適用しやすくできるメリットまで。家を強力な戦術的拠点として利用できる神テクニックです。これから家が爆売れしますね(適当)




