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7話.偉い人の頼み事は実質強制イベントなのでいっそ全て命令にして欲しい

―グラース聖教会―


創造神エルピスを信仰する教会である。

グラース聖教会の総本山は神教国にある。

神教国とは教皇が代表を務め、各国に派遣する聖職者達の育成をする宗教国家だ。


神教国はそれほど大きい国ではないが教会自体どの国にも絶対必要なので神教国の権力は絶大である。


他にも各国に教会が造った孤児院があり孤児を引き取り育て、学校に通えない平民の子供達に学問を教えたりと慈善事業も行っている。


宗教国家といっても教会だけがある訳ではない。

他国と変わらず街は栄え各ギルドや商業施設もあり一般市民も普通に暮らしている。



勿論、ローズが生まれたグリフィン大国にも大きさはそれぞれだが領地ごとに教会がある。その中でも王都にある教会が一番大きい。


グラース聖教会は白と紫を基調としたゴシック様式の建築物である。そしてその中でも特別美しい部分は神聖な空間の中で陽の光を浴びて優しく輝くステンドグラスだ。


その美しく厳かな空間の中、今は聖職者達が膝をつき祈るように手を組み合わせ誰かを待っていた。


その中に重要な人物が二人いた。


一人が40代後半の男性。

エバーグリーン(暗い灰みの緑)の髪とモスグリーン(暗い黄緑)の様な瞳をしているトマス・フィデールだ。

トマスはこの教会代表で大司教という職位に就いていた。


そしてもう一人が20代後半の男性。

漆黒の髪にエメラルドの様な瞳をしているオリヴァー・グリフィン・フォスター。驚くべき事にオリヴァーはグリフィン王国の国王であった。


なぜ聖職者の中に国王がいるのか?

その理由は神から〈神託〉が下った事から始まる。



それはローズが生まれる前日の出来事である。



◇◇◇◇



トマス・フィデールside。



トマスは自分に割り振られている私室で目が覚めた。


大司教という重要な職位に就きグリフィン王国の教会代表を務め絶大な権力を持ってはいるが、トマス自身は出世欲などなく質素な暮らしを好んでいた。だからなのか私室は広いが調度品や物が少なく殺風景であった。この広い私室も嫌でもっと狭い場所でいいといったが他の聖職者達から大反対され渋々ここに住んでいた。


トマスの朝は早い。

起きてまずする事は沐浴(もくよく)。朝の祈りをする前に身を清めるのだ。そして沐浴が終わり祭服に着替える。この身支度にも普通補佐がつくのだがトマスは着替え等一人でできると断っていた。準備が終わり祈りの為に礼拝堂に行こうと部屋を出ようとした。


その時……、


“チリーン、チリーン”と鈴の()が頭の中に響いた。

神託が下る前の合図()であった__。


【神託スキル】

神の声を聴くことができる。


トマスが出世欲がないにも関わらず大司教という職位に就いているはこの事が関係する。この神託スキルを持つ者は少なくレアスキルだった。


トマスは洗礼を受けた時に神託スキルを持っている事が分かりその事から神に仕えることを望んだ。


神託スキルを持っていることは聖職者にとっては最大の名誉であり神から選ばれているとされ叙階(じょかい)するに重要な要素になっている。


現に神託スキルを持つ者の殆どが重要な役職に就いている。いや、就かざるを得ないのだ。何せ神に選ばれ、望まれていると思われているのだ。そんな者が一神官でいられる訳がない。これこそが出世を望んでいないトマスが大司教に就いている理由だ。



____もしローズが知れば「いやえるたん適応に振り分けてるって言ってたけど!?」心の中で思いながらも「凄いですね~!」と笑顔で言い切るはずだ。もし「神様は適当に振り分けてるから貴方達が神に選ばれた訳ではありません」と本当のことを伝えて誰が喜ぶのか。誰も幸せになれない真実だ。

根本が揺らいでしまうかもしれない。真実(本当の事)がいつも正しい訳ではなく優しい嘘が幸せにしてくれる事もあるのだ。某メガネ探偵君にはめっちゃ嫌われるかもしれないが。



トマスは鈴の音が聞こえた瞬間その場に膝をつき目を閉じた。


鈴の音が終わると玉音(ぎょくいん)のような神の声が頭の中に響く。


声だけだが神の存在とは何と素晴らしいのか、今まで受けた神託は数えるほどしかないが毎回畏敬(いけい)の念を覚えずにはいられない。


トマスは神の言葉を逃すことのないよう声に意識を集中する。


《明日降りるから準備しといて》


___めちゃくちゃ軽かった。「明日実家帰るから美味し物用意しといて、あと何日か泊まるわ」と連絡してくる息子くらい軽く、そして迷惑であった。「部屋の掃除もしないといけないじゃない!前もって連絡してっていつも言ってるでしょう!!」と母親は大混乱である。


(え?明日降りられる?え、何処に?)


《その教会に決まってるだろ》


___そして理不尽だった。


(え!?もしや私の声が聞こえているのですか!?)


トマスは一言も声に出してはいない。頭の中で考え心の中で呟いただけだ。


《当たり前だろう。私を誰だと思っている》


___もちろん神様だと思ってます。


(し、失礼な口を聞いてしまい誠に申し訳ありません!)


___トマス、別にキミが謝らなくていいんだ。



トマスは神に自分の声は届いてないと思っていた。今までも一方的に神託が下されるだけだったからだ。そもそも神託スキルとは神の声を聴く(・・)事ができるスキルだ。会話をするという発想そのものがなかった。


《別にいいさ。それより話を続けるからよく聞いといて》


トマスの混乱した心をおいてけぼりにしてエルピスは話を続ける。神に人の心の機微(きび)は分からない。


《それからその国の長、国王かな?そいつも呼んどいてよ》


___そしてムチャぶりが過ぎる。


(……)


《かなり重要な話があるから頼んだよ》


そう言いこれで話は終わりだとばかりに神託を終了しそうになったところでトマスは失礼かとは思いつつも慌てて声を掛ける。


(お、恐れながらお聞きしたい事があります……。宜しいでしょうか……?)


《何?あまり長く時間はとれないから手短に頼むよ》


___聞きたいことも聞けないこんな世の中じゃ……。


(あ、有り難き幸せに御座います……)

(明日と仰りましたが時間は何時頃でしょうか……?)


《朝だね》


____それは時間ではない。朝とは人によってそれぞれ変わる。頼むから詳しい時間をトマスに教えてやれ。


(…(かしこ)まりました)

(次に国王陛下をお呼びする事ですが理由をお聞きしても宜しいでしょうか……?)


《それは明日言うよ》


___それを今トマスは聞きたいんだ。頼む、今言ってくれ。


(はい……)

(では、降臨なされる時に必要な人物は私と国王陛下のみで宜しいのですか……?)


《いや、この教会の者達は呼んで。あれ、役職だっけ?重要な者だけでいいから。国はどっちでもいいよ、好きにしなよ。でも人数は多くしないでね》


___そういう事は先に言ってあげろ。何より好きにしろが一番困るんだ。


(……畏まりました。)

(他に必要な物や事はありますでしょうか?)


《特にないよ。それじゃ明日頼んだよ》


___特にないの特に(・・)が一番怖い。特にじゃなかったら何かあるの?後からトマスに何で用意してないんだとか絶対言うなよ?嫌われる上司の典型だからな?



(はい。明日お待ち申し上げております)


トマスはその場で深々と頭を下げる。

“チリーン、チリーン”とまた鈴の音が聞こえたが今回のそれは神託終了の合図()だった。


神託が終わるとまるで夢から覚めたかのような心地になり、緊張で強張った体から力を抜く。


別に神託を受けるのが初めてではない。しかし毎回トマスは緊張する心を止められない。


それもそのはず、創造神エルピスとは己が信仰している神なのだ。簡単に声が聴ける相手ではない。幸福感は勿論あるが何より畏れ多いのだ。


しかも今回は有難い事に会話をして頂けた。先程の幸せな時間を思い返しそうになるがトマスに余韻を楽しむ時間は残されていない。トマスは神に与えられた使命(ムチャぶり)を全うしなければならない。


波打つ心臓を落ち着けながら急いでこれからするべき事を考える。


(まずは急ぎ国王陛下に謁見(えっけん)の申し込みをしなければ。それから他の神官達にこの事を伝え明日神が顕現なさる場所を今以上に整えないと。神は詳しい時間を教えて下さらなかったがきっと何か深い理由がおありなのだろう。何時になるか分からないから午前中の奉仕は他の者に振り分けなければいけないな。まずそもそも神が降臨なさるなんて一体何事なのだろうか‥。しかも国王陛下までお呼びとは…降臨の場に聖職者以外が立ち会うなど今までで一度もなかったはずだ。何あったのだろうか…?それともこの国に余程の危機が迫っているのか?)


エルピスが朝と言ったのに深い訳は1ミクロン(これっぽっち)もない。そして昼や夜でなく朝なのは“早めに伝えたいし朝でいいかな”と軽い理由であった。詳しい時間を伝えなかったのもただ考えていなかっただけ。エルピスが「今から行こうかな?」となった時が約束の時間となる。


まず神は時間に縛られる存在ではない。だからなのか待ち合わせする場合に何時何分と細かく決めることが理解出来ないでいた。


しかし後に時間にルーズ(フリーダム)な事をローズが知るところとなりエルピスはしこたま怒られる事になるが今は知るよしもない__。


そんな神様に振り回されてるとは知らないトマスは慌ただしくしていた。頭の中で色々考えながらも体を止める事なく動かしている。そして陛下に謁見申し込みの手紙を書き終わり部屋に訪れていた神官に手紙を託す。


「急ぎ国王陛下にお渡し頂くよう話を付けて下さい。とても重要な手紙なので頼みましたよ。渋られるようなら教会の権力使っても構いません。それから神官達にも重要な話があるので朝の祈りが終わったら皆に残るよう伝えておいて下さい」


「承知致しました」


いつも朝は余裕を持って行動していたので神託を受けてもまだ時間あった。しかし、いつも早めに部屋を出るトマスが来ない事に心配した神官が様子を伺いに来てくれたのだ。この神官はトマスの補佐をしていてとても仕事が早いのだ。安心して手紙を任せられる。


手紙渡した事で一段落したトーマスはこれからの事を考えながら朝の祈りのむかった。

建築様式について作者は詳しくありません。

何となくで読んで頂けると幸いです。

ちなみに、教会のイメージはイギリスのウェストミン◯ター寺院です。

より詳しく知りたい場合はネット等で調べていただくと分かりやすいと思います!

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