6話.授業中は死ぬほど眠いのに休み時間になると一瞬で目が覚める
……あれは生まれて半年ほど過ぎた時の事だった。
広い室内にセンスのいい大きなベッドが置かれている。そこで三人の親子がベットに横になり我が子へ子守唄を聞かせていた。
「~~~♪」
母親の歌声が終わりを迎える。その優しい声を聞いていたローズはもう夢の中だった。
「ふふ、可愛いな~。マーガレットの子守唄を聞くとローズはすぐ寝てくれるね。本当にお利口さんだな」
ローズは常々、母親の声には睡眠魔法がかかっているのでは?と思っていた。何故なら唄い出した瞬間にもう目蓋は閉じているからだ。今日もローズは子守唄を全て聞くことなく寝てしまった。
「ええ。お利口過ぎるくらいです。夜泣きやぐずる事が一切ないので少し心配だったのですが、成長の仕方は子供によって違うからあまり気にしないようにとお医者様が言っていたので安心しました。それに最近はおもちゃで遊んだり、一人で座れるようになったんです。日々ローズが成長していくを姿を見れて私はとても幸せです」
夜泣きしないのもぐずらないのも中身が大人だからだ。ローズはオムツを替えて欲しい時やお腹が空いた時など会話はできないが身ぶり手振りで伝えるようにしていた。
「ずるい!私も見たかった!ああ、一日中ローズと一緒にいたい!可愛いローズが笑ったり遊んだりする姿をずっと見てたい!」
「ふふふ、ロバート様はお仕事があるでしょう?」
「ぐっ……仕事行きたくない。明日は休んでいいかな?」
「いいわけありません。働いてください」
いつも笑顔が絶えない美しい顔から一切の感情が消えしかし目には確かな怒りのせたマーガレットが氷の様な声でロバートを一喝する。
もしローズがマーガレットのこの顔を見ていたら恐怖で少しお漏らしするかもしれない。優しいママは優しいママのままいて欲しい。
それに父親が毎日側にいたら「ま、まさかお仕事クビになった!?」と心配とストレスでローズの胃に穴があくかもしれない。是非とも母には父のケツを毎日叩いて欲しい。家庭は母親が強い方が上手く行く。
「ごめん、ちゃんと働きます……」
「分かって下さってよかったです」
マーガレットに笑顔が戻り安心したロバートは忙しなく動き続ける心臓を落ち着けながら話を続ける。
ちなみにロバートは冷たい美貌を裏切ることなく他人に対しては非情であったがマーガレットにはとことんヘタレである。もしここにロバートの部下がいたら自分の見たものは幻覚かもしれないと壁に頭を打ち付けている事だろう。
「ああ、でもローズは本当におっきくなったよね~どんどん可愛くなって私は今から心配だな」
「女の子はあっという間に大人になるって言いますからね。すぐにでも結婚相手を連れてくるかもしれませんよ」
「いやーーマーガレットやめて!聞きたくない!ローズはお嫁には行きません!ずっと私と過ごすんです!」
「ちょ、ロバート様声が大きいです!ローズが起きてしまいます!」
「あ、ごめん!あまりにも胸糞悪い想像させるからつい大きい声が出てしまったよ。ローズは大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。そろそろベットに寝かせてきますね」
マーガレットは寝ているローズを抱き、側に置いてあるベビーベッドに優しく寝かせる。両親のベッドの側にあるベビーベッドが生まれてから今まで寝ている場所だ。
ローズが夢の中にいるのを確認したマーガレットは我が子におやすみの挨拶をしベッドに戻る。
これからは夫婦の時間だ。二人は今日あった事や明日の予定を話してコミュニケーションをとっていた。
「ロバート様……明日大丈夫でしょうか?」
「ああ、心配いらないよ」
「でも、陛下と大司教様がいらっしゃるんですよね……」
「うん。でも本当に大丈夫だよ?少し話をしたいだけみたいだし気を楽にしてよ。余り不安がってるとローズも不安になるかもしれないよ?」
「そうですよね……。分かりました」
「それに私の家族に何かしようとするなら相手が陛下だろうと私は戦うよ?大丈夫負ける気はしないから!」
「まあ、ロバート様不敬ですよ。ふふ、でもありがとうございます。安心してきました」
「何があっても家族の事は私がちゃんと守るから」
「信じておりますロバート様。陛下達が聞きたい事とはやはり……?」
「うん、ローズの事だよ。神子様への挨拶と我々に対する感謝の言葉と生まれてからの様子を聞きたいらしい」
「ローズへの挨拶や様子を聞きたいのはローズが神子様だから分かりますが私達に感謝ですか?」
「あまり有名ではないが神子様が誕生する時期がまばらなのは、神子様を安心して預ける生家がないせいらしい。だから信頼できる家庭がないと神子様は誕生しない。ここ何百年も神子様が誕生しなかったのは神様がよしとする家がなかったせいみたいだよ。でも今回神子様の生家に私達の家が選ばれた。名誉なことに私達の家が信頼に値する家庭だと神様が思って下さったからだ。だから私達がいなかったら神子様は生まれてないだろうと仰っていたよ」
ちなみに神様は一度神子が傷付けられた事で我が子を守る母猫並み神経質になった。そして口煩い姑の如く粗を探すのが非常に上手くなった。厳しい条件をクリアした家庭が偶々あった為この時代にローズを転生させたが、もし条件に合う家庭がなかったら見つかるまで暫く魂を預かったままだっただろう。何度も言うが神様は神子愛なのだ。
「そうなのですね……そんな事初めて知りました。神様は私達を信頼して下さっているのですね」
「うん。私達がとても愛し合ってる証みたいで嬉しいよね」
「はい、とても嬉しいです。でもローズは神子様の前に私達の大事な子供です。神子様や神様関係なく大切に愛していきましょう」
「勿論だよ。もしローズが神子様として生まれてなくたって大事な子には違いないよ。それに、これからローズの周りは神子様として接してくる人が多くなるだろう。でも私達は我が子として愛していこうね」
「はい、ロバート様」
「それじゃ明日に備えてもう寝ようか?」
「そうですね、寝ましょうか」
「おやすみマーガレット愛してるよ」
「おやすみなさいませロバート様。私も愛しております」
二人はおやすみのキスをしサイドテーブルの明かりを消して眠った。
ローズは爆睡していた為、自分にとって重要な話がされているなんて知らないまま朝起きてから怒濤の一日を迎える事となる。
◇◇◇◇
おはようございます!
今日も1日赤ちゃん生活頑張りますよ。
しかし、やっぱり昨日も子守唄を聞いた瞬間寝落ちしてたよ。ママって絶対古典の先生と同じ性質持った声だわ~。あの眠気を誘うような、さっきまで全然眠くなかったのに話始めた瞬間意識を奪っていくようなあの声と。頑張って目を開けようとするけど上まぶたと下まぶたがキスさせろと言わんばかりにくっついていくあの感覚。古典に限った事ではないけど授業中殆ど私の目蓋はキスシーンかましてたなあ。
いや、しみじみ昔を思い出してる場合ではない。なんだか今日は周りがとても忙しくしているような気がする。いつもご飯の後は子供部屋に移動してママと過ごすのに今日はいないぞ?何故なんだ!?
しかもいつものベビー服よりなんか豪華じゃない?いや、いつも着ているやつも肌触りがかなりいいから高級品だと分かるんだけど。でも今着させられているベビー服はキラキラフリフリしてるね。いや可愛いよ?可愛いんだけど1日中部屋にいるのにこの服必要かな?私いつものがいいな~。ゴテゴテしすぎて動きにくいんだよ。こんな見た目から高級品です!と主張してくる服はいやだな~。
「あ~、や~!!」
(いつもの服にして!!)
「どうなさいましたか?いつも大人しく着替えて下さるのに…。今日の服はお気に召しませんでしたか?」
「あ~!!」
(その通りです!よく分かってくれました!)
この赤子と真面目に会話をしているメイドこそが後にローズの専属メイドとなるアメリアであった。
アメリアは驚く事にローズの言いたい事がなんとなく分かるようだった。
他の人は赤ちゃんだから絶対通じないと思い一方的に話し掛けることはあっても会話をしようとはしない。しかしアメリアは赤子であっても一人の人として対話していた。こういう所を気に入ったローズはアメリアに懐いた。それがマーガレットの目に留まり後に専属メイドに選ばれる事になる。
「申し訳ありませんローズお嬢様。今日は重要なお客様がいらっしゃるので少し豪奢な服となっております。奥様も御客人を迎える為の準備をしておりますので此方にはまだいらっしゃらないのです」
申し訳なさそうな顔をしながらアメリアは告げてくるがローズにとっては初耳だ。
「あーーー!?」
(はあ?誰かくるの?しかもこの感じ偉い人が来るんじゃないの!?)
「今からいらっしゃるのはこの国の国王陛下と教会の大司教様でございます。ローズ様にも御会いになさるそうなのでこの服装はその為ものです。拝謁が終わればすぐに着替えましょう」
今このメイドさんとんでもない事言わなかった?うっそでしょう!?陛下って最高権力者じゃん!
まず現代社会で生きてきて陛下に会う機会なんてなかったんですけど!ど、どうすればいいの?マナーとか全然分かんないんですけど!これ大丈夫?私不敬罪とかで打ち首になったりしないよね?まだ死にたくないんですけど!……ああほら、恐怖でちょっとオムツが湿ってきましたよ?
「大丈夫ですよローズお嬢様。旦那様も奥様もご一緒ですからね」
オムツを替えながらメイドが告げるがそれどころではない!
私ちょっと人見知りなんですよ!初対面の人には素直にお話できないの!!
そんな重要な事もっと早めに教えて下さい!




