↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンペな神様のお陰で悪役フラグが消滅しました  作者: 深沢心
はじまり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/22

3話.人ってキャパオーバーすると大体の事は受け入れる

何もない白い空間で一人騒いでいる女がいた。



「イタイ!頭も痛いし、死んだ理由も痛ーーい!バナナて!そんなバナナ!うわっ!しょうもないギャグ言ってしまった!あーきっとバナナで死んだってニュースで報道される!そして笑ってはいけないニュース番組になってアナウンサー達の腹筋を鍛えることになるんだ!お茶の間に不謹慎な笑いを届けることにもなる!何よりお葬式で家族や友人達が悲しめばいいのか、笑えばいいのか分からず微妙な顔をするに決まってるよー!何故こんな人生の終わり方なんだ……。あれか?前世で世界救ったとか天が味方したとか大口叩いてたから天罰がくだったのか!?申し訳ありませんでしたーー!!あの時はテンション上がってたっていうか、心身喪失状態だったんです!!……いや、もしかしたら私前世でとんでもなく業の深いことをしたのかもしれない。バナナ園を焼き滅ぼしたとか……だからバナナの呪いであんなマヌケな死に方だったんだ……。おぉ……私が悪かったです……しかし前世の事など全然これっぽちも記憶になくて……お許しください神様。……許して頂けるのなら来世はめちゃくちゃ好みの人からめちゃくちゃ愛されて幸せに暮らしたいです。そして美味しいものも沢山食べたいし可愛いものに囲まれて幸せに過ごしたいです。アーメン……」


___めちゃくちゃ情緒が不安定だ。なにより後半の煩悩にまみれた願いのせいで反省している感がゼロである。ちゃんと悔い改めて欲しい。



いや~言いたいこと言えてスッキリした。

報道されるのも恥ずかしいけどもう死んじゃったし関係ないか!

……でも、もう家族に会えないのは寂しいなぁ。

あーあ、親より先に死んじゃった……私めっちゃ親不孝者じゃん……もっと、親孝行しとくべきだったな……。

……ってあれ?私死んだよね?あれあれ?何で今話せてるんだ!?



死んで意識もないのに喋れている不自然さにやっと気付き慌てて辺りを見渡した。

そこは真っ白な空間が広がっていた。



「あれ?ここどこ?」


「やっと落ち着いたかな?」


「え……どちら様!?」


いきなり後ろから声をかけられた女は驚き振り返ると、そこには白銀の髪とアメジストの瞳を持ったとんでもない美形な男がいた。



ぎゃー美しすぎて目が潰れる!滅びの呪文系男子か貴様ー!すいませんがこの中にサングラスをお持ちの方はいらっしゃいませんか?



「私はエルピス。君達のところでいうとと神様だね」


「いい感じに薄めたらとても美味しい乳製飲料みたいな名前ですね!」


「カ〇ピスじゃないよ!?自己紹介の感想がそれ?普通『神様!?』って驚くところだよね!?」


「そんな人外的美形が人のはずありませんから」


「え、そんな納得の仕方なんだ……」


「あ、あの〜神様がなんのご用ですか?……もしや前世の罪をお許しになってくれないとか!?いやホント記憶になくてですね!!」


「落ち着いて!!まず最初から聞いてたけど君は前世で罪を犯してないよ」


「え、前世関係なくあんな死に方だったんですか?」


「うん、と言うより私のせいだね……」


「私に何らかの個人的な恨みでもあったんですか!?」


「違うよ!誤解しないで!むしろ……」


「むしろ?」


「……いや。それより私のせいってことを説明したいんだ」



あからさまに話題かえたよね?話したくないこととか?

いやそんな事よりなんでバナナで死んだか私は知りたいんだ。



「恨みじゃなかったらなんですか?」


「……不運な事故だね」


「事故……でもどうして事故が神様のせいになるんですか?」


「死ぬ前に助けた犬を覚えているかい?」


「もちろん!めっちゃきゃわゆい仔犬ちゃんですよね!あれ?そう言えば私が死んだ後あのわんちゃん大丈夫だったんですか!?」


「ごめんね……」


「ま、まさか死「あれ私だったんだ」


「は?」


「だからあの犬は私だったの」



何を言ってるんだコイツ。

あんな可愛い癒し系わんちゃんと視界の暴力美形が同じなわけがないでしょ。「わんちゃんとエロ本どっちに似てるか?」って聞かれたら間違いなく「エロ本の方に似ている」と私は自信満々に答えるよ。

……もしや、可愛いものに憧れがあるとか?

あーはいはい。人は自分に無いものに憧れるもんね?わかるわかる。


生温かい目で神様を見ながら頷く。


「そうなんですね。わんちゃんになりかったんですか。大丈夫です!何に憧れようがそれは個人の自由ですから!」


「ぜっんぜん分かってない事が今分かったよ」



溜め息を吐きながら神様が指をパチンと鳴らすと優しい光が溢れた。

そして目の前にはあの時助けた仔犬がいた。


「わ、わんちゃーん♡会いたかったよー!」


犬まっしぐらとばかりに駆け寄り仔犬を抱える。


「信じてくれたかい?」


「ひゃー!犬語がわかる!!」


「いや、あのね?私は犬ではなく神なんだよ?」


「うんうん!可愛いね~♡」


「……お願い会話しよ?」



これでは話にならないと思った神様は人の姿に戻る。



「これでちゃんと話ができるね。もう理解したよね?私があの時の犬だったと」


「あー……はい……」


あきらかにテンションが下がっていた。

若干目も死んでいる。


美形男性(人外美形)よりわんちゃんの方がいいよー。と、この世のイケメン好きが聞いたら袋叩きに遇いそうな事を考えながら頷く。


「何でそんなテンション低くなるの!?」


「いや~……神様は可愛くないんで」


「神様に可愛さ求めないで!」


「すんません。話を続けてください」


「……きちんと話を聞いてくれるなら犬になるよ」



あきらかに犬の時との態度が違うのがショックなのか拗ねてるのかムスッとしながら提案する。



「聞く聞く!ちゃんと神様のお話聞かせていただきます!」


やった!わんちゃんがいい!


神様が犬に変身をしたところをすかさずキャッチし腕に抱えたまま話を促す。


神様の説明によると、今の犬の姿は人間界にたまに遊びに行く時の仮の姿で普段は人間には見えていないらしい。あの時も普通に散歩していたみたいでまさか私に見えているとは思わなかったみたいだ。そしてトラックが近付いてきていたのも分かっていたが実体があるわけではないので轢かれても大丈夫だったがそこに私が助けに走ってきて驚いたと。そこで私が触れるように慌てて実体化したと。そして助けた私が離すでもなく家に連れて帰りそうになって焦っていたらバナナに滑って死んだと。



なるぼど、こ れ は ひ ど い。



「だから君が私を助けなければバナナに滑って死ぬこともなかったんだよ」


「つまり、私無駄死にといつやつでは?」


「……うん」


「……そうですか~」


「ご、ごめんね!私があんなとこにいたばっかりに!」


「……確かにもう一生家族や友人に会えないのは辛いですけどもう死んじゃってるんで仕方ありません!まあ、死ぬ前にこんな可愛いわんちゃんに会えましたしそれでチャラということにしましょう!」


唯一、家族のことが心残りだがそれでも神様を責めるなんてできないし、もう死んでるのでどうしようもないことは女が一番分かっていた。それに、いきなりのことで驚いたが不思議と怒りは湧いてこなかった。


……何故なら、神様の姿が最強に可愛い仔犬モードだったからである。これが人型だったら間違いなく頬骨陥没するほどぶん殴っていてたであろう女は可愛いものに死ぬほど弱かった。


「え、許してくれるの?」


可愛い仔犬の姿のうるうる上目遣いで言われたらそんなん許す以外の選択肢なんてない!

《はいよろこんでー!私はあなたの奴隷(シモベ)ですー!》


___この女、チョロい。チョロすぎる。


「か、可愛い~♡もちろん許すに決まってますよ!!あ、でも……その代わりといっては何ですが二つお願いがあるんですけど……」


「あ、えっと生き返らせることは申し訳ないけれどできないんだ……」


「ああ、違います!!生き返れるならそうしたいけど無理なのは分かってます」


「え?じゃあお願いって何?」


「あ、あの〜“えるたん”って呼んでいいですか!?」


「え、えるたん!?」


「はい~エルピスだからえるたんです!」


「……」


「やっぱ神様をあだ名で呼ぶなんて罰当たりですかね……」


「あだ名!?い、いいよ!君だけ特別!!あ、だったら敬語もやめて?」


「いや、ため口はさすがに失礼じゃないですか?」


「いや、えるたんの方が失礼だし、なんなら人型の時の興味なさげな態度の方がもっと失礼だからね?」


「あ、あはは……だってわんちゃんの方が可愛いんですもん!」


「まーそういうことでえるたん呼びと敬語もなしね?それでちゃんと許してね?」


「うん!わかった!」


もしこれが人の姿だったらまた態度が違っていただろうし、舌打ちの一つはしたかもしれない。

しかし腕の中にいるのはただただ可愛い仔犬だ。


ああ〜可愛いの塊♡キングオブ可愛い。愛らしさ2000%♡怒りや不満や不安そして肩凝り腰痛も鎮静されるような気がする。これぞまさしくアニマルセラピー!!えるたん最の高♡



___女はロミオトラップならぬアニマルトラップにかかっていた。もし今エルピスが「お金なくて困ってます」なんていったら間違いなく通帳も印鑑も渡していたはずである。



「そういえば普通は誰にも見えてなかったのに何で私には見えたのかな~?」


そう、神様は見えないようにしていたと言ってたし見付かったことがないと言っていたのに何であの時私には見えたのかな?

私べつに霊感が強いわけではないんだけどな~。


「……あー何でだろうね?」


目をそらしながら呟く神様はあきらかに理由を知っている。


「えるたん何か隠してるでしょ」


「ま、まさか~!知らないよー!」


ひゅーひゅーと口笛を吹きながら目がキョロキョロしている。

犬なのにめっちゃ表情豊かだ。


へたくそか!なんだその誤魔化しかた!今時の小学生の方がもっと嘘をうまくつくぞ!


「知ってるよね」


疑問符など付けず聞く。


「はい……」


しょぼーんとしながら頷く仔犬の姿に何も悪くないはずの私が悪者になった錯覚を起こす。良心にグサグサ刺さり罪悪感で胸が千切れそうになる。何なら今すぐ動物好き(愛護団体)が殴り込んできそうだ。


や、やめてー!悲しそうにしないで。いじめてるみたいでつらいよ!ごめんね?私が全部悪いね!私だけに見えてたのも、そこにトラックが突っ込んできたのも、そしてバナナが落ちてたのも、それで死んだのも、地球が温暖化なのも全部私のせい!私が悪かった!だから悲しまないで?許して!



「ご、ごめんえるたん!話したくないなら聞かないよ?お願い顔あげて可愛い顔を見せて?」



恐る恐る顔を上げうるっとした瞳で窺うようにこちらを見るえるたんの可愛さといったら、あざとさ100万点!無罪(ノットギルティ)!えるたんは何も悪くない!



「……見えた理由は分かるんだ。でも今は言えない、ごめん……」


「ふへへ~♡可愛いからいいよー!そこまで知りたかった訳じゃないし気にしないで?」


「うん、ありがとう……」


「でも今は(・・)って何時かは言うみたいなニュアンスだね?あのねえるたん、私この後成仏するんだよ!成仏したら話も聞けないよ~!それともな~に?今流行りの転生でもさせてくれるのかな~?」


まーそんなラノベみたいな事あるわけないかー。

今こうやってえるたんと話してるのも死なせてしまったお詫びと説明してるだけだしね~。



「うん、転生して!」


「え?」


「だから、私のもう一つ創ってる世界に転生してよ!」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


「そんなに驚く?」


「いや驚くよー!転生ってラノベじゃあるまいし!もしかして死んだらみんな異世界に転生するの?」



もしや地球で死んだ人達みんな異世界に転生してるのかも。だってえるたんのノリが「ちょっとコンビニ行ってきて」の感じだもん。そんな軽いノリで今時は転生できるのか、知らなかったわ〜。



「するわけないでしょ。他の人は輪廻巡ったら普通にまた地球に産まれるよ」


「え?じゃあ何で私は異世界に?もしやバナナのお詫びとか?」


「……うん。バナナのお詫びだね」


「なるほど~。バナナ転生か~。めっちゃ斬新だね!」


「そうだね……」


「も、もしや、その異世界は魔法とかあったりするの!?」


「するする~」


「冒険者がいたりなんかも?」


「するね~」


「ドラゴンとか魔物は精霊とか妖精は?」


「いるね~」


「めっちゃファンタジーじゃん!!」



すごーい!マジでラノベでよく見る異世界転生じゃん!


いや、でも待てよ?そんな世界に生まれたら私すぐ死ぬのでは?なんたってバナナで死ぬくらいだからな私。そもそも運動神経はバリバリいいけど戦うほど強いわけではないぞ?魔王とか倒してくれと言われても無理だよ?



「それで転生してくれるよね?」



そんな隣に回覧板届けてくれるよね?みたいに言われても流石に魔王は倒せないよ?いや、えるたんの頼みなら聞きたいけど転生して早々死ぬのいやだなーって。今回は長生きしたいなーってささやかな願いなんですけど。



「あのね、えるたん。私魔王とか倒せないよ?」


「え?魔王なんていないよ?」


「うっそ!ファンタジーのくせに魔王いないの!?そこは普通いるでしょ!そして世界を救ってくれパターンでしょ!いや、もし救ってくれって言われても私は無理だけど!でも魔王何でいないの?ファンタジーのくせに!」


「何で二回言ったの!?すっごい風評被害だよ!それに魔王がいるなんて一言も言ってないよね!?」


「いやそこはお約束と言うか~いるのが前提だったというか~いや別に?いてほしかった訳じゃないよ?いないならいないで平和だしね!じゃあ何か使命でもあるの?何かして欲しい事とかがあるとか?」


「いや、何もない」


「」


「特に何もないんだよ」


「ファンタジーのくせに!」


「ファンタジー関係ないよね!?」


「いや関係あるよ?普通は戦うべき相手やら特別な使命があるじゃん!それなのに何もないって!もしこれが物語ならナメてんのか!ってキレられてるよ!?」


「ご、ごめんね!今から魔王用意した方がいいかな?」


「やめて!私なんかが魔王倒せるわけないじゃん!えるたん私の事がそんなに嫌いなの!?」


「どっちだよ!いないと言われ責められて用意しようとしても責められる……私はどうすればいいの?」


「ご、ごめんえるたん!そんな怒んないで?そうだよね、私が知ってるファンタジーって人が作ったお話だからえるたんの世界と一緒じゃなくって当然だよね。私が悪かったよ。それに私からすれば魔王がいなくて特別な使命がない方が気楽で嬉しいよ!」


「ほんと?」


「ほんとほんと!これからもこのまま平和な世界にしといてください!」


「うん、わかった」


「でも、何も用事がないのに私は転生していいの?」


「うん、バナナお詫びだからね」



バナナのお詫びで転生できるならむしろバナナで死んでラッキーだったのでは?魔法もあるし、しかも魔王はいないし、変な使命もない!これって素晴らしいのでは?



「じゃあ、好きに生きていいの?」


「もちろんだよ!自由に生きて!」


「魔物とか倒して生きていかなきゃいけない?」


「いや、そこまで大量に魔物がいるわけではないし冒険者だけで事足りるから大丈夫だよ!勿論、冒険者になりたいなら別だけどね?」


「なりたくな~い!物語でみる分には好きだけど自分が戦いたいわけじゃないし。それに今回は長生きしたいから平和に過ごしたい!」


「うん分かったよ。その希望を考慮して転生させよう」


「えるたんありがとう!」


「他に希望はある?」


「美味しいごはんがたくさん食べれて長生きできるのがいいな~!あとはえるたんにまかせるよ!異世界って私行ったことないからよく分かんないしえるたんの方が詳しいでしょ?そこら辺よろしくお願いしまーす!」


「適当だねー。分かったよ!私に任せて!」


「さっすがえるたん頼りになるー!」


「そうでしょ!私は頼りになるんだよ!」



ひゅーひゅーと褒めると得意気な顔をして胸をはりながらそうに言う。余程嬉しかったのかブンブンとしっぽを振っている。


うわー!めっちゃ可愛い~♡しかもなにそのどや顔~!あー何で私の瞳は録画機能がついてないんだ。今の顔永久保存したかった!



「そーいえばその異世界って何てとこなの?地球みたいに名前ある?」


「……す」


「なんて?えるたん聞こえなかった。ごめんねもう一回言って?」


「エルピスです!!」


「うっわ。えるたん自己主張強いね。……自分の事大好きなんだね?」


「ち、違うよ!?名前考えるのが面倒くさかっただけだから!」


「そっかそっか。分かったよ~」



えるたん人型の時は物凄い美形だもんね~。自分大好きでもおかしくないしな。ナルシストでも許される美しさだし。それに神だから自分の星に自分の名前付けるのも変じゃないよね。



「絶対分かってないよね。ホントだからね?自分が好きで付けたわけじゃないからね?」


「うんうん、大丈夫~」


「本当に大丈夫かな。絶対まだ勘違いしてると思うけど……」


「それにえるたんの名前のが覚えやすいしね~!逆にありがとうだよ!」


「お礼言われて嬉しくないの初めて」


「まあまあ、転生先は〈エルピス〉だね!」


「はぁ……まあ楽しそうでよかったよ」



ひゃー楽しみだな!異世界ってどんな感じなんだろう。魔法も使えるんだもんね。頑張って練習しよう。



「あのさ、えるたん。小さい頃から魔法は練習した方が上達するかな?」


「あー説明してなかったね。あっちの世界には魔法があるけどね、それは5歳になって教会で洗礼を受けてからじゃないと魔法は使えないんだ」


「え?そうなの?赤ちゃんの頃から使えるんだと思ってた~」



えるたんの説明によると小さい頃は魔力が制御できないから5歳まで魔力自体にロックがかかって魔法が使えないらしい。だから最低限の制御できる5歳になってから教会で洗礼と言う名のロック解除をするみたい。そこで自分に使える魔法やスキルが分かるみたいだ。



「その魔法とかスキルってどんな基準で決めてるの?」


「うーん。生まれる時にランダムに振り分けてる」


「え?この子にはこれがよさそうー!とかないの?」


「あのね、めっちゃ人がいるんだよ?いちいち選んでられないよ。私は忙しいの」


「そんな殺生な。でも、じゃあいいスキル持っててもその人が凄いわけではないのか~」


「そう、ただ運がいいだけだね」


「運がいいだけ。じゃあガチャ運がすっごいいい人って思っとこう。でも魔法は5歳までお預けか~。どんなスキル貰えるかそれまで楽しみに待っとくよ!」


「そうだね。でも魔法自体は使えなくても魔法の勉強はできるから転生先で教えてもらいな」


「そうなの?分かった~!」


「じゃあ説明はこれくらいにして、他の詳しい事はそっちで学んでいきなよ」


「うん。えるたんありがとね!」


「こちらこそごめんね……。それじゃあ今から新しい家族の所へ転生させるよ?」


「はい!よろしくお願いしま~す!」


「あ、ごめんちょっと待って!もう一つのお願い聞くのすっかり忘れてた」


「そうだった!!えっと……ホントにくだらないお願いだけどいいかな?」


「もちろん!!」


「ぁの……して」


「え?」


「スマホとパソコンのデータ消して」



___マジでくだらねぇ願いだな!?



「…………」


「できれば、家にある私物も全部捨てて欲しい」


「…………」


「その沈黙の意味すごく分かる!!他人からしたら本当にくだらない事かもしれないけど、私にとっては切実な願いなの!!」


「……はい」


「めっちゃ心抉られるからそんな目で見ないで!」


「……はい」



___※これから女が必死に言い訳をしますがただのお耳汚しになると思いますので聞き流して下さって結構です。



「だって、スマホとパソコンのデータなんて見られて気分のいいものでもないじゃん!特にブクマと履歴は性癖の塊だよ?そんなの見てしまった人にもダメージ与えるじゃん……普通知りたくないよ、他人の性癖なんて。それなら最初から無い方が幸せだと私は思います!」


「……はい」


「それに、家にある私物なんてキングオフ性癖だよ!?死んでる私の家を今後片付ける人なんて家族しかいなくない!?」


「……はい」


「ねえ、えるたん……想像してみてよ……[悲しみを堪えながら死んだ娘の家を整理しに行く家族、誰もいない静まり返る淋しい部屋、干したままの洗濯物、脱ぎっぱなしの洋服、あらゆるところに娘の面影があり涙する家族、泣くだけ泣いた家族は『こんなに泣いてちゃあの子に笑われちゃうわ』『そうだな』なんて会話をしたあと片付けを始める、くだらない思い出話をしながら手を動かしていると誰かがクローゼットを開けた。そこにあったのは、本、DVD、Blu-ray、見たことないグッズの数々。家族は側にあった本を手に取り軽い気持ちで捲り、そしてすぐにそっと閉じた。『……あの子こんなのが趣味だったのね』『……これどうする?』と気まずい空気が流れた……]なんてことが起こったらどうする!?私もう死んでるのにもう一度死にたくなるんだけど!これは心の殺人だよ!?」


「……はい」


「家族と私の心を守るために、どうか……スマホ、パソコン、私物の処理をお願いします!!」



必死に言い募る女は最終的に土下座で懇願しはじめた。先程まで輝いていた仔犬(エルピス)の美しいアメジストの瞳は今や完全に乾き、光を失っていた。しかしエルピスは辛うじて口を開きその願いを了承する。


「……ちゃんと消しとくから土下座をやめなさい」


「え、ホント!?うわーーー!!ありがとう!!えるたん大好き!!あーこれで心置きなく新しい人生を歩めます!!」


「……そ、そう、よかったね」



___ほら、よく見て。エルピス完全に笑顔が引き攣ってるから。途中どうしていいか分からずに完全に〈はいbot〉になってたし。しかもあれ何?あの途中の描写。絶対いらないよね?普通はこんなふざけた願い絶対叶えないよから。もっときちんとお礼を言いなさい。



エルピスは感謝を告げる女を土下座から立ち上がらせると今度こそ転生させるための準備をし始める。



「あの……それじゃあ、今度こそ新しい家族のところに転生させるよ?」


「うん、本当に色々ありがとうえるたん。こうして新しい人生を用意してくれるなんて、あの時えるたんを助けてよかった!……だからえるたん、ホントに気に病まなくていいからね!」


「……ありがとう。……それじゃあ今度こそ幸せになるんだよ……いってらっしゃい」


「えるたん、いってきます」

(今度こそ?バナナで死んだからかな?)


エルピスが女の額に肉球(手のひら)をあてると徐々に女の意識が薄れはじめる。そして、女の意識が落ちる寸前に見えたのは、眩しい光の中で少し悲しげに微笑むエルピスの姿だった。




「……あれ?喚んだ覚えのない魂があるな。あの子を喚ぶ時に間違って一緒に憑いてきたのか?まあ、いっか。仕方ないからあっちに適当に転生させとこう」


(ちょ、えるたん、今不吉な呟きが聞こえたんだけど!もしや私以外に転生者がいるってこと?そこんとこ詳しく教えてえるたーん!)


そこで私の意識は完全にフェードアウトした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。