外法様 【プロローグ】
再開します。不定期更新になる見込みです。すいません。
ここは絶対に間違いないんだ。
俺は足を取られそうになった倒木を蹴飛ばした。
忌々しい。
せっかくの俺の努力の成果をあいつは横取りしただけでなく、ここはそういう場所じゃないなんて断じやがった。
人気の動画投稿者からのリンクが張られたので、俺の動画もバズるかと思ったが、逆に低評価が増える始末だった。ふざけるな。世の中間違っている。
すでに二回は調べた廃屋を前に、もう一度中に入って調べるか思案した。この廃村のどこかにお堂か、祠があるはずなのだ。ずいぶんと回ったつもりだが一向に見つからず、実際途方に暮れていた。
自分のやりたいことをやりたいと思って動画投稿を始めたが、お気に入り登録者は増えないし、評価も辛口ばかりだ。辛辣な批判に心が何度も折れたが、今更止めましたなんて言えない。もう意地になっているのは自分でも分かっていた。
「ふう」
さっき蹴飛ばした倒木の脇の岩に腰掛ける。不退転の決意でここに来るにあたって、水も携帯食料も多めに持ってきたつもりだったが、やはり水はどんどんなくなって行った。見込みが甘かったと言わざるを得ない。
井戸がまだ使えそうなので調べてみたが、くみ上げようと思った桶にナメクジがついていたので、止めた。
ペットボトルの水を一口だけ飲んだ。
これを飲み干したら、あと一本だけだ。少々重くてももっと持って来るんだった。
それにしてもお堂は本当にどこにあるのだろう。探していないのは、草深いところだ。分け入るには少々勇気が必要だ。
気持ちを奮い立たせて、立ち上がる。
心配してくれる妹の顔が浮かんだ。
世間知らずなところはあるが、俺には優しい妹だ。今回の件でも心配して声を掛けてくれていたが、なおのこと成果を持ち帰りたかった。
俺の動画を馬鹿にした連中を見返してやるのだ。
そう言えば、これは村の中に何のために立っているのだろう。
俺は廃村の中に建てられているそれを見て疑問に思った。どうして今まで気にならなかったのだろう。電気も水も通っていないこの村には、本来あるべきものではない。
それを見上げた時だった。
俺は何かの音を聞いたような気がして、思わず動きを止めた。
どこか遠くで?
どーん
今度こそ確かに聞こえた。地響きのような音がずいぶんと離れたどこかでしたのだ。
一体何の音だろう?
工事現場で何かを爆破したとか?こんな山奥で工事などしているはずもない。
どーん
さっきよりも近い気がする。まだまだ遠くだが、何となくはっきり聞こえたと思う。
方向を探ろうと首を巡らすが、そもそも山の斜面に反射していて方向は一向に分からない。
どーん
近い。
方向が分かった。俺はそちらを眺めた。朽ち果てた建物から少し離れれば、そこは深い森林だ。その向こうだろうが、もちろん何も見えない。煙のようなものも見えはしない。
「なんだよ」
思わず漏らした声が少し震えていて、自分で驚いた。
どーん
地響きのような音が森林のすぐ奥から響いたように思えた。
思わず一歩下がった。またあの倒木を踏んでしまい、足首がくにっとなってしまう。少し痛めたかもしれない。くそ。
どーん
近い。目の前の森林のほんの少し先だ。
俺は怖くなって、そこから離れるように村の奥へと足を向けた。
歩いていたはずが気がついたら小走りになっていた。
どーん
俺を追いかけるように地響きのような音がついて来る。
な、なんなんだよ。
振り返っても何も見えず、すっかり見慣れた廃村の光景が広がっているだけだ。
どーん
あまりの近さに思わず転んだ。
何だ?何の音だよ?
転んだときに手のひらが少し切れたが、そんなことに構っていられない。
俺は思うように動いてくれない足を必死に動かして、深い草むらに入って行った。
どーん
もはや地響きのような音は、すぐ後ろ。ほんの数メートルで響いたように思えた。
怖い。
いつもの習性でスマホのカメラを起動させて撮影を始めている。しかしよたよたと走りながらなので、また画面がぶれてしまっているだろう。辛辣な批判の中には、無責任に画面に酔うとか見にくい死ねとか書いてあった。だったら自分でやってみろと言いたい。
後ろは怖くて振り向けず、取り敢えずカメラだけ背後に向けた。
どーん
もう真後ろだ。
音に押される様に転げ出たところにお堂がひっそりと建っていた。
こんなところにあったのか。
俺はそのお堂に駆け込んだ。
廃村になり風雨にさらされたはずなのに、障子紙がまだ無事な戸を閉めて奥へへたり込んだ。
どーん
お堂が揺れた。
梁から埃が落ちて来た。
水を取り出した手が震えている。
どーん
地響きと共にお堂がさらに揺れて、飲もうとした水が零れた。
の、残り少ないのに。
一体何なんだ。
で、どうしよう。
これが誰の話なのかは、おいおい分かります。しばしお待ちください。