外法様 【「見える」彼女と「見えない」彼氏】
酒々井つゆりちゃん視点です。
「お疲れ様。シャワー浴びちゃって」
「ああ、そうするよ」
上梨が愛用している杖を拭いて袋にしまった。私が晩御飯の当番なので、支度をしている間、上梨は杖を振る鍛錬をしているのだ。料理に関しては不本意ながら上梨の方が上手なので、上梨がいないのは少々不安になるのだが。
上梨がシャツをもう脱いだ。元々合気道部に入ってしごかれているので、筋肉質だった身体が最近さらに引き締まってきている。腹筋はずっと撫でていたくなる感じで割れ目が出来ているくらいだ。
その上梨の背中を見つめて、手が止まってしまった。
「ん?どした?」
振り返って目が合った上梨が怪訝な顔で聞いて来る。
「いい身体してるな、おぬし」
「なんだそりゃ」
笑いながら上梨がお風呂場へ入って行った。あんまり上梨がレベルアップしていくと、置いて行かれる感を覚えるかと思っていたが、意外と平気だった。むしろ、彼氏が素敵になっていくことが嬉しくて仕方がない。
高校生からの付き合いだから、飽きることもあるのかなと思ったこともあったけど、結局私に関しては全くそんなことは無かった。特に同棲してからは、イチャコラするときは思い切りイチャコラしつつ、お互いを空気のように自然に受け入れているときもあった。自慢するわけじゃないが、いい関係だと思う。
「よしと」
上梨に仕込まれた味噌汁の味には、今では自信がある。味噌汁の鍋に蓋をして先におかずを皿に盛りつける。今日は冷凍の餃子だ。
時間がある時は種から手作りすることもあるが、最近の冷凍食品は侮れないと教えてもらったのだ。ちなみに教えてくれたのはおばあちゃんである。
テレビで特集を見て以来、おばあちゃんの中では冷凍食品ブームらしく、あれがいいとかあれはいまちとか写真付きでメッセージが送られてくる。スマホを完全に使いこなすのは頼もしいが、そう言う性格のせいかおばあちゃんには同年代の友達がいない。
女子会に参加して来るとのメッセージが来たので、お年寄りの集まりかと思ったら、どこで知り合ったのか若い女性たちに交じってタピオカドリンクを飲んでいる写真が添付してあってずっこけた。
「あ、羽根、出来てるじゃん」
「うん、いい感じでしょ」
上梨が部屋着に着替えて食卓に座った。羽根つき餃子を前にも買ったが、失敗してしまったのだ。でも、今日はバッチリだ。えへん。
「じゃあ、いただきます」
まず味噌汁から上梨が手に取る。そっと上梨の表情を伺う。大丈夫みたい。内心ほっとしながら、私も味噌汁を飲んだ。
「おお、ぱりぱりだ」
「ぱりぱりだねえ」
しかし上梨が微妙な顔をしている。あれ?
「美味しいけど」
「けど?」
「普通の餃子がいいかも」
「えー、そんな身もふたもない」
私の言葉に上梨が笑った。
「もう少しジューシーな、もっちりした皮の餃子がいいかもなあ」
「あ、それは少し分かるかも」
「もちもちっとした餃子だと、俺、羽根いらない気がする」
「もちもち優先だと、ぱりぱりの羽根は邪魔かあ」
「まあ、邪魔とまでは言わないけど。これはこれで美味しいし」
言葉の通り、なんだかんだとすごい勢いで餃子が消えていく。杖の修行をするようになってから、上梨は前よりもよく食べるようになっている。それにつれて二人の同棲生活においてエンゲル係数は上がっている。
幸いバイトを減らしていても、祓う仕事での報酬があったので、困ることは無いけれど。報酬については計画的に使おうと二人で話し合っている。今まで通り、二人で自炊生活が中心なのもそのためだ。
「そう言えば、またおばあさんから依頼があったんだよね?」
「うん、依頼って言うか、まずは調査かな」
おばあちゃんは例の若者との女子会で知り合った人から相談事を受けていた。その案件について、私と上梨に関わってほしいと言う連絡が来たのが今朝のことだった。
「出来るだけ早く話を聞きに来いって」
「断る選択肢は最初から無いんだ」
上梨が笑いながら最後の餃子を口に放り込んだ。
「明日、部活は?」
「明日は午前だけ」
「じゃあ昼に合流して行こうか」
「お昼ご飯ご馳走になっちゃおう」
「ナイスアイデア」
二人でご馳走様をして、上梨が洗い物を担当してくれている間に、私はお風呂に入った。
なんだか最近のおばあちゃんは、私達のエージェントみたいになっている気がする。しっかりと湯船に浸かりながらぶくぶくと息を吐いた。
土曜日の午前中の練習だと、少年の霊が体育館に見に来ることがある。びっくりしてけがをしないように気を付けないといけない。滅多にコートには入ってこないが、いつの間にかうろうろしていて思わずそれを避けてしまうことがある。
一度拍手をして祓ってみたことがあったが、結局また出てきた。と言うことは場所に執着しているわけではない霊と言うことだ。
特に悪さをする霊ではないので、結局その後は放置している。
髪を乾かしてから部屋に戻ると、上梨がスマホをいじっていた。
「どうしたの?」
「ん、加茂さんから」
加茂さんから?何の連絡だろう?
「加茂さんが何て?」
「手は空いてるかって?」
「空いてないって返事してよ」
「うん、今、したところ。でも何だろうな?気にはなるけど」
「せめておばあちゃんの話を聞いてからにして」
「分かってるって」
私は上梨の横に座って、上梨が持っているスマホを覗き込んだ。もう連絡は終わっているらしく、上梨はバイトのスケジュールを確認していた。
「そう言えば、おばあさんの依頼を受けるのはいいけど、講義は大丈夫?」
「えへへー。大丈夫なのだー」
「なんでよ?」
「先輩からノート借りちゃったのだあ」
まあ、ノートだけで大丈夫というのも大袈裟だが、テストがノートは持ち込み可なのだ。これは大きい。
「あまりノートを過信するなよ。意外と毎年講義の内容を少しだけ変える先生もいるって話だし」
「え?ほんとに?」
「ああ、確認しといた方がいいよ」
「分かった。明日聞いてみる。教えてくれてありがと」
上梨の肩に寄りかかりながらそこにキスをする。
「もうお風呂入っちゃったけど、しようか?」
「うん。しよう」
上梨は電気を消して、私を軽々とベッドへ運んだ。こう軽々と運んでくれると何だか嬉しい。
いちゃいちゃしただけの回になってしまいました。すいません。




