□中篇
射的やヨーヨー釣りの店前を横切りつつ、この調子だと大袋が空になるのも時間の問題かなぁと思っていると、納札所の方から甚平姿の見慣れた男性が歩いていくのが見えた。
ただ、その隣には、ノースリーブのワンピースを着た見慣れない少女の姿もあり、二人は仲良さげに手を繋いでいる。
「ねぇ、ハルくん。アレ、部長さんやない?」
「やっぱり、うららさんも、そう思いますか?」
「だって、あのカマキリみたいな風貌の人物は、めったに居らへんよ」
せめて「特徴的な」と言おうよ、という言葉を飲み込み、僕は、残りのベビーカステラを一気に平らげ、勝手に尾行を始めたうららさんの後を追った。
「あの女の子、部長さんのことをキミと呼んでますね」
「かなり親しそうやね。どうやって手懐けたんやろか? ますます怪しいわ~」
それからしばらく、付かず離れずの距離を保って追いかけていたが、途中でうららさんが戦隊ヒーローのお面を被った少年とぶつかり、怪我は無いか案じているうちに、部長さんたちは人混みに紛れてしまった。
少年が保護者の元へ走り去って行くのを見守った後、今度はリクルートスーツ姿の女性と出合った。
「あっ、小野寺先輩」
「えっ? あぁ、ホンマや!」
「こんばんは。二人も、お祭りに来てたのね。浴衣、似合ってるわよ」
この蒸し暑い最中、ジャケットまで持参している小野寺先輩は、内定先から学務部へ書類を提出した帰りだった。
普段は下ろしている髪をアメリカピンでアップにしていると、ずいぶんと印象が変わって見えるものだ。もちろん、いい意味で。
「おおきに。あっ、せや。ここに来る途中、部長さん、居らんかった?」
「あら、東堂くんも来てるの? さぁ、私は見てないわ」
「なんや、小学生くらいの女の子と一緒やったんやけど、部長さんに、きょうだいは居るん?」
「聞いたこと無いわね。たしか、女のきょうだいは居ないはずだけど。気になるから、ちょっと探ってみましょうか」
オッと、いけない。僕としたことが、うっかり先輩のネープラインに大人の魅力を感じてしまっていた。
捜索を再開したうららさんと、それに呼応して協力体制になった小野寺先輩を見失わないようにしなければ。